出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語45-4-171922/12舎身活躍申 万公月王仁三郎参照文献検索
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第一七章 万公月〔一二〇七〕

 暗の中から、
女の声『万公さま、あなた其処に何して居らつしやるの。あたい最前から大広前の周囲をクルクル廻つてゐたのよ』
万公『さう云ふ声はお菊さまぢやないか。あられもない女の身として連れもなく、ただ一人夜歩きなさるとはチツと大胆ぢやありませぬか、女は夜分になれば決して一人出るものぢやありませぬよ』
と故意とに嬉しさを隠して力んで見せる。
お菊『ホヽヽヽヽあたい、一人出たつて構はないよ。男のつれでもあつて見なさい、それこそお母さまに大いお目玉を頂戴せなくてはならないわ。万公さま、お前だつてこの暗がりに一人何してゐるの。早く夜分は寝るものですよ』
万公『今俄に神懸になつたものだから種物神社に詣つてここまで帰つて来た所だ。一寸息を休めてこれから寝ようと思つてるのだ』
お菊『ホヽヽヽヽ種物神社なんて、よう云へたものだ。種物が違ふのでせう』
万公『さう素破抜かれちや隠しても駄目だ。実の所はどうしても寝られないので、外をぶらついて居つたら天然棒の星あたり、犬も歩けば棒に当ると云ふから、あたつて砕けて見ようと思つてブラリブラリとやつて来たのだ。何と暗い夜だないか。お菊さまの美しい白い顔が満足に見えないのだからなあ』
お菊『あたいの顔を見てどうするの。あたいは見せ物ぢやありませぬよ。これ万公さま、お前さまの目的は一体何だい。皆さまが寝てござるのに暗がりで一人うろつくのは何か野心がなくちやなりますまい』
万公『別に野心もないが耕し大神の本守護神が地上姫を尋ねてお出御になつたのだよ』
お菊『ホヽヽヽヽこれ万公さま、お前はそんな慢心をしてゐるのかい。耕し大神だなんて思つてるのだな。随分お目出度いね』
万公『耕し大神と云つたら万公さまぢやないか。それが違ふならお寅さまに聞いて見ろよ』
お菊『ホヽヽヽヽお寅さまに聞いたつて何が分るものか。みんな此処の神さまは嘘だよ。お母さまは迷信家だから、あんな事云つて喜んで居るのよ、本当に嫌になつてしまふわ。お菊は地上姫だなんて、何時でも云つてるの。好かんたらしい。地上を耕すと云ふので耕し大神と地上姫が夫婦だなんて、こんな妙な理屈をつけるのだから、本当に馬鹿らしくて仕方がないのよ。お前も、もちとらしい人かと思つたら、そんな事を聞いて本当にしてるのかい。天下泰平だね』
万公『さうするとお菊さま、お前は地上姫だないと思つてるのかい』
お菊『痴情の結果、家を飛び出るものが痴情姫だよ。こんな箱入娘に痴情姫なんて仇名をつけられちや大変な迷惑だ。しかし万公さまは耕し大神が性に合ふとるよ。人と約束した事でも直に、たがやし大神だからね。ホヽヽヽヽ』
万公『これや怪しからぬ、さうするとこの万公を何神さまだと思つて居るのだ』
お菊『さうだね、まんまん たわけ大神位なものでせうよ』
万公『こりや怪しからぬ、さうすると蠑螈別教祖は大広木正宗ではないのか』
お菊『阿呆らしい、あんな酒喰ひが大広木正宗なんて、呆れつちまふわ。あの人は蠑螈のやうな人だよ。井戸の底にすつ込んで、のたくつて居るのだからな。松姫さまだつて決して上義姫でも何でもありやせない。松彦さまだつてユラリ彦でも何でもないのだよ。蠑螈別さまやお母さまが迷信して居るのだから始末におへないのよ。よくもかう惚け人足ばかりが寄つて居るものだと呆れてゐるの。それでもお母さまが可哀相だからかうして付いて居るのだが、仲々容易に夢は覚めないのだよ。この目を覚ましてくれる立派な男さへあれば、その男を夫に持ちたいのだけど、そんな立派な人は一人もありやせないわ。万公さまだつてさうだもの』
万公『やあ、此奴あ感心だ。実の所は俺も、それや知つてるのだ。ただお寅さまの前で、一寸テンゴに神懸の真似をして耕し大神と云つて見た所が大変に信用してくれたもんだから俺もその気になつて、一寸化けて見たのだ。要するにお前と結婚をして誠の道の御用をしさへすればいいのだ。耕し大神や地上姫なんか、眼中にないのだ』
お菊『エーエ、阿呆らしい。たれが万公さまのやうなお方に身を任す馬鹿がありますか。あたい、もう姉さまの事で懲り懲りしてるのだもの。お前さまの顔を見ると嘔吐が出るやうだわ。夜分だから顔が見えぬので、かうして、しつぽりと辛抱して話をしてあげるが、昼だつたら気分が悪うて一目見てもゾツとするのだよ。そんな馬鹿な夢を見て居らずに、さあチヤツとお寝み。ホヽヽヽヽ男と云ふものは気の利かないものだな』
 此方の木の茂みから、
『尤も尤も、しかりしかり、左様々々、お菊さま、万歳』
と叫ぶ声がする。
万公『なんだ。如何にも小北山は怪体な魔窟だな。女とも男とも得体の知れぬ声を出しやがつて、何を吐すのだ。ヤツパリ斑狐サンの御眷族だな。アハヽヽヽヽ』
お菊『ホヽヽヽヽ狐ばつかりの寄り合うた世の中だもの、無理もないわ。ましてこの小北山は狐狗狸さんの巣窟だからね』
 暗がりから細い声で、
『お菊さま、頼みまつせ。しつかりおやりやす。この万公はなあ、高慢人だから逆様に慢高と云ふのよ。慢の字のついたものには碌な奴はありやせないわ。自慢高慢我慢慢心に万引に満鉄、マント、まんまんこんな者だよ。まんの悪い処へ小狐がやつて来て済みませぬね』
万公『はあて、益々合点の行かぬ処だ。此奴あ夢でも見てるのぢやなからうかな。夢の蠑螈別の館へ来てるのだから、大方夢かも知れないぞ。アイタヽヽヽヽヤツパリ頬を抓つてみれば痛いわい』
お菊『オホヽヽヽヽ』
万公『こりやお菊、いやらしい声出しやがるない。そんな笑ひ声出しやがると首筋元がゾクゾクするぢやないか』
お菊(声色)『一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚、九枚、エー残念やなあ、怨めしやなあ』
万公『これやこれやお菊、戯けた真似をさらすと承知せないぞ』
お菊『播州の皿屋敷だよ、ホヽヽヽヽ』
 暗がりから、
『オヽヽ一枚、オヽヽ二枚、オヽヽ三枚、オヽヽ四枚、オヽヽ五枚、オヽヽ六枚、オヽヽ七枚、オヽヽ八枚、オヽヽ九枚、さあ後の一枚を今宵の中に出さぬ事には不憫ながらその方の生命はないぞや。その一枚の皿はお菊の股にある筈、万公がその皿を狙つて隠して居るのだ。万に皿だから万皿嘘でもあるまい。ウツフヽヽヽヽ』
万公『これや、誰ぢやい。馬鹿な真似さらすと承知せないぞ、俺を誰様と心得てるのだ。エーン』
お菊『ホヽヽヽヽ幽霊が出る、化物が出る、何とまあ小気味の悪い小北山だこと。ドレドレまたお母さまが蠑螈別さまの大広木正宗を苛めてゐると可哀相だ。どれ仲裁に行かうかな。万引満鉄の万さま、左様なら、アバよ、ホヽヽヽヽ』
と笑ひながら足早に教祖の館をさして帰つて行く。万公は双手を組み合点の行かぬ怪しの声と考へ込んでゐる。闇がりから、
『ワツハヽヽヽヽヽウツフヽヽヽヽプツプヽヽヽヽ』
 万公はその笑ひ声に聞き覚えがあつた。万公は恥かしさと腹立たしさとに自棄になり、
万公『チヨツ、これや、アクの奴、要らぬ悪戯をやりやがるない。本当に人の肝玉を冷やしやがつて仕方のない奴だ。タク、テク、貴様もチツと心得ないと痛い目をさしてやるぞ』
アク『偉い失恋な事を致しました。ウツフヽヽヽ』
万公『エーエ、馬鹿らしい夢を見たものだ。あゝ夢になれなれ(口上句調)夢の蠑螈別の神館、万公が失恋の幕、首尾克うお目にとまりますれば先客様はこれでお代り』
一同『アツハヽヽヽヽ』

(大正一一・一二・一三 旧一〇・二五 北村隆光録)



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