出口王仁三郎 文献検索

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物語45-4-151922/12舎身活躍申 曲角狸止王仁三郎参照文献検索
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第一五章 曲角狸止〔一二〇五〕

 五三公は観物三昧経説明のおかげで、四人の連中からたうとう先生といふ仇名をつけられてしまつた。五三公も先生と言はれてよい気になり、ウンウンと返詞をすることになつてしまつた。そしてアク公を中上先生と仇名し、万公を中下先生と称へ、タクは番外先生、テクはチヨボチヨボ先生と互に呼びなすやうになつた。
タク『モシ先生、小北山の神の因縁に付いては最前お寅婆アさまの前でお歌ひになりましたが、どうしてまたこんなバカなことが出来たものでせうかな』
五三『これに就ては随分面白い秘密があるのだ。所謂一輪の秘密だ。常世の国から渡つて来た大変古い斑狐が白い狐を二匹、古狸を三疋、それから野狐を幾疋ともなく引率して、波斯の国北山村の本山に現はれ、バラモン教に一寸首を突出してゐた精神上に欠陥のあるヒポコンデル患者高姫といふ女に憑依して、この世を紊し、国治立の大神様を看板にして、自分の世界にせうと考へたのが起りだ。そした所、この高姫も若い時は随分情交が好きで、その斑狐サンが思ふやうに肉体を使ふことが出来なかつたものだから、やむを得ず、ネタ熊といふ若い男の体をかり、上谷といふ所で、謀反を企みかけたのだ。そした所、変性男子の御霊と、変性女子の御霊が現はれて審神を遊ばしたものだから、斑狐サンたまりかね、部下の狐狸共を引つれ、小北の山へ一目散に逃帰つてしまつたのだ。さうすると、ネタ熊の肉体は小北山へ来なくなり、二三日逗留する内に、神罰を蒙つて国替をしてしまつた。それから今度は斑狐サン、またもや坂熊といふ男の肉体に巣ぐひ、金勝要神の肉宮を手に入れ、変性女子を却け、一芝居やらうと思うた所、またもや女子の御霊に看破され、ゐたたまらなくなつて、アーメニヤへ逃出し、ウラル教に沈没してしまつた。そこで今度執念深い斑狐サンは、石高といふ男の肉体に巣をくみ、変性女子の向うを張り、日出神と名乗つて、三五教を蹂躙せむとした所、今度は変性男子、女子に看破され、これまたキツイ神罰で肉体が国替したので、今度はミソ久といふ山子男の肉体をかつた、そしてまた女子に大反対をやつてみたが、目的達せず、此奴もアーメニヤの方面へ逃失せてしまつた。それからまた種熊の肉体を使ひ、大奮闘をやつて女子を手古づらせ、たうとう此奴も神罰で国替をしてしまつた。それから今度憑つたのが蠑螈別さまだ、蠑螈別には斑狐サンが籠城遊ばし、左右のお脇立の白狐サンは、伴鬼世、角鬼世、味噌勘、石黒彦、坂虫、などに眷族をうつして、四方八方から三五教を打こわさむと、今や計画の真最中なのだ、しかしながら悪神のすることはいつも尻が結べないから賽の河原で子供が石をつむ話のやうなものだよ』
万公『さうするとこの小北山は容易ならない所だ。根本的に改革して世界の災をたたねばダメだなア、先生』
五三『さうだから、松彦様がお出でになつたのだ。神様は偉いものだ、チヤンと松姫を先へ派遣しておかれたのだからなア、悪神といふ者は、自分より上の方は見る事が出来ないので、松姫さまの肚の中を知らず、本当に唯一の神柱が出来たと喜んで奉つてゐるのだよ』
万公『アハヽヽヽ、其奴ア面白い、さうすると、松姫さまを真から上義姫だと思つてゐるのだなア』
五三『松姫様は、上義姫様の誠生粋の肉の宮様と確信してるから面白いのだ、そして松彦さまをユラリ彦命だと確く信じてゐる所がこちらの附目だ、最早落城したも同様だよ』
万公『益々愉快でたまらなくなつた、なア中上先生、番外先生、チヨボチヨボ先生、怪体ぢやないか、エヽー』
アク『アクまでアクの根を断ち切り、万公末代五三々々せぬやうに誠の道を開拓し、テクテク歩を進めるとするのだなア、ハツハヽヽヽ』
 五人はこんな話に現をぬかし、蠑螈別の居室の窓外に自分の立つてゐる事を忘れ大声で喋つてしまつた。蠑螈別はお経をすませ、またもやグイグイと酒を呑み始めたらしい。ケチン、ケンケラケンと燗徳利や盃のかち合ふ音が聞えてゐる。お寅は五人の立話を一伍一什聞いてしまつた。
 お寅は蠑螈別に酒の用意をなし、何くはぬ顔で、
お寅『サア蠑螈別さま、ドツサリおあがりなさいませ。一寸私はお広前まで御礼にいつて参ります、コレお菊、教祖様のお酒の相手をするのだよ』
お菊『あたえ、厭だワ、お酒のお給仕はお母アさまの役だよ。あたえはお広間へ参つて来ますから、お母アさまは教祖さまのお給仕をして上げて下さいな、そして抓つたり鼻をねぢたりせぬやうにして下さい、あたえ心配でならないワ』
お寅『私がお給仕をしてゐるとまたあんなランチキ騒ぎが起つちや大変だから、それでお前にお給仕をしてくれと云つたのだよ』
お菊『さうだつて、あたえ、嫌なのよ。教祖さまは腋臭だから、お母アさまにねぢられなくても、私の鼻が独りでねぢ曲るのよ』
お寅『エヽ口の悪い娘だな、そんな失礼なことを云つちやすまないよ、蠑螈別さま、どうぞ子供の云ふことだから気にかけないやうにして下さいよ』
 蠑螈別は細い目をつり上げ、口を尖らして鼻と背比べさせながら、
蠑螈『ウフヽヽヽ、これお菊、マア良いぢやないか、おれの腋臭でも喜ぶ人があるのだもの、そうムゲにこきおろすものだない』
お菊『さうよ、教祖さまの腋臭の好きな人は高姫さまかお母アさまだよ、オホヽヽヽ』
お寅『コレコレ何を言ふのだ。しかしながらお前の云ふ通り、蠑螈別さまは高姫さまの腋臭が好きなのだからねえ、私もどうかして腋臭になりたいのだけれど、不器用な生れつきだから、チツとも持合せがないのよ。ホツホヽヽヽ』
蠑螈『お寅さまは腋臭の代りにトベラだから、マアそれでバランスが取れるといふものだ』
お菊『ホヽヽヽヽ、腋臭にトベラ、何とマアいいコントラストだこと、神さまも随分皮肉だね、イヒヽヽヽ』
お寅『蠑螈別さま、一寸これから御神前へ参つて来ます、ぢきに帰りますから』
蠑螈『ウン、独酌の方が却て興味がある、トベラの匂ひが酒に混合すると余りうまくないからなア』
お寅『わいがの匂ひが混合するといいんだけれど、ヘン』
と云ひながら、ツンとして立上り、畳を踵でポンと一つ威喝させながら表へ飛出した。蠑螈別はお菊を相手にグヅグヅと口の奥で分らぬことを喋りつつお菊につがせては八百万の神にお供へしてゐる。
お菊『ホツホヽヽヽ、何とマア青白い顔だこと、丸で文助さまの何時も書いてゐらつしやる蕪に目鼻つけたよな顔だワ。それでも大根のやうな形した白い燗徳利がお好きだからねえ。ホヽヽヽヽ、そしてこの朝顔型の盃は高姫さまの口元に似とるんだから面白いワ、教祖さま、サア、この盃で一つキツスなさいませ。随分よい味が致しますよ』
蠑螈『ヤア朝顔型の盃は、危険視されるから止めておこう』
お菊『さうですねえ、よう祟る盃ですなア。あたえもこの盃みるとゾツとするワ、またつねられたり、鼻を捻られたり、息の根をとめられたりするよなことを突発させるのだから、本当に憎らしい猪口才な猪口ですねえ、この猪口のおかげでチヨコチヨコと腋臭とトベラの直接行動が始まるのだから、本当にこの盃こそ過激思想を包蔵してゐるのだワ』
蠑螈『お前もお寅の娘だけあつて、随分口の良い女だ、困つた者だのう』
お菊『何も貴方が困る筈はないワ、犬もくはない喧嘩の煽動するのはこの猪口だから、困るのは側に見てゐるこのお菊だワ』
蠑螈『そんなら此処にある菊型の盃で一杯やつたら安全だろ、なアお菊』
お菊『イヤですよ、私の名に似た盃を口に当てて貰うこた、真平御免だ』
と云ひながら、薄い平たい陶器の盃をグツとひん握り矢庭に袂へかくしてしまつた。
 蠑螈別はソロソロ酔がまはり出した。

『高姫山から谷底見れば  お寅の奴めがウロウロと
 お菊の小虎を引つれて  犬も喰はない餅を焼く
 ホンに浮世はこしたものか  思へば思へば自烈たい。
 世界に女は沢山あれど  トベラの女に比ぶれば
 腋臭の強い高チヤンは  蠑螈別の命の親だ。
 好きは出て来ず厭は来る  ホンに浮世はままならぬ。
 わしと高ちやんはお倉の米よ  いつか世に出てママとなる。
 ままになるならトベラの婆さま  どつかへ嫁入りさして見たい。
 八木と云ふ字は米国の米よ  日の出といふ字は日本の日の字
 蠑螈別さまは日出神の  光を身に受けママとなる。

 デツカンシヨウ デツカンシヨウ……だ。オイお菊、お前は随分口八釜しい女だから、お寅に直様密告するだらうなア』
お菊『今の内に十分悪口をついておきなさい。私や決して言ひませぬ。しかし貴方がお酒に酔ふと後先見ずに、お母アさまの前でそんなことおつしやるからホンにオロオロするワ、末代日の王天の大神様がおこし遊ばしてるに、みつともない、イチヤ付喧嘩をおつぱじめるなんて、見くびつた人ですねえ』
蠑螈『お前さへ言はなきやそれで良い、俺も成るべく言はぬ積りだ。しかしあのお寅といふ奴ア、お前のお母アだから、エヽこんなこといつたら悪からうが、顔にも似合はぬ助平だよ、おりやモウ、スーツカリと厭になつちやつたのだ。

 いやで幸ひ好かれてなろか  愛想づかしをまつわいな。
 いやぢや いやぢやと口では言へど  縁を切るとなりやまたいやだ』

お菊『ホヽヽヽヽ、いいかげんに若後家をつかまへて、てらしておきなさい』
蠑螈『ハヽヽヽヽ、ちつと妬いてゐやがるなア、若後家だといの、男も持つた覚えもないのに、若後家とはふるつてる、さうするとお菊お前は純粋な処女ではないなア、誰にハナヅルを入れて貰つたのだ』
お菊『牛か何ぞのやうに鼻づるなんて、バカにして下さいますな、油断のならぬは娘ですよ。かげ裏の豆もハヂける時が来れば、自然にハヂけますわ。ホツホヽヽヽ』
 かくの如くお菊を相手に水色のうす汚れた昼夜着替なしの木綿着物を着たまま、クビリクビリと時の移るも知らず、盃の数を重ねて居る。一方お寅は門口に立つてゐる五人の男を認め、
お寅『コレ皆さま、そんな所に何してゐらつしやるの、何か立聞でもしてゐなさつたのだありませぬかい』
五三『ハイ立聞をさして頂きました。あの教祖様がお上げになつて居つたのは観物三昧経でしたね。声音といひ節まはしと言ひ、本当に調子がよく合つて、知らず知らず吾々の身体が躍動し、その言霊の徳に吸引されて、何時の間にやら窓の外まで引よせられてしまつたのですよ、何とマア偉い先生ですね』
とうまく五三公はさばいた。お寅は怪訝の目を見はつて、聊か不機嫌の態であつたが、蠑螈別の声がよいとか、節が上手だとか言つて褒めた詞に嬉しさの余り、何もかも打忘れ、ニコニコしながら、
お寅『さう聞えましたかなア、本当によい声でせうがな、サアお広間へ参りませう』
万公『ハイ、有難う、お伴致しませう』
 お寅は得意の鼻うごめかしながら、機嫌よげに先に立つ。アクは小声で、
アク『成程あの濁つた言霊でああやられちや、誠の神は嫌つて寄り付き玉はず、せうもないガラクタ神が密集するのは当然だ、言霊といふものは謹まねばならぬものだなア』
とウツカリ後の方を大きく云つてしまつた。お寅は目を丸くし、後ふり返り、
お寅『エヽ何とおつしやります、蠑螈別さまの言霊が濁つてゐるのですか』
アク『イエイエ濁つた所もあり澄切つた所もあります、それだから偉いお方と云つたのですよ。大海は濁川を入れてその色を変ぜずとかいひましてなア、清濁合せ呑む蠑螈別様の度量には随分感服致しましたよ』
 お寅はまた機嫌を直して、
お寅『本当にさうですね』
テク『オイ、アク、否中上先生、清濁併せ呑むといふのは何か、清酒と濁酒と一所に蠑螈別さまはおあがりなさるかい』
アク『バカツ、スツ込んで居れ』
テク『へン、偉相におつしやるワイ、イヒヽヽヽだア』
お寅『サア、皆さま、一同揃うて御礼を致しませう』
と神殿の前に仔細らしくすわる。お寅は四拍手しながら声高らかに曲津祝詞を、
『かかまの腹に餓鬼つまります。かん徳利燗ざましのみこともちて、雀の親方、かんたか姫の命、嘘をつくしの日の出の、高姫のおいどのクサギが原に、味噌すり払ひ玉ふ時に、泣きませる、金払戸の狼達、モサクサの間男、罪汚れを払ひ玉へ清め玉へと魔の申すことの由を、曲津神、クダケ神、山子万の狼虎共に、馬鹿の耳ふるひ立てて、おみききこしめせと、カチコメ カチコメ申す。ウラナイの雀大御神、曲り玉へ逆らへ玉へ、ポンポン』
万公『アハヽヽヽ』
お寅『コレ何方か知らぬが、曲津祝詞を上げてる時に笑ふとは何事ですか、チツと謹んで下さい、ここは狼の前ですよ、狼さまにお寅が祝詞を上げて居るのだ』
万公『寅に狼、何とよい対照だなア、ここがウラナイ教のウラナイ教たる所以だ』
 お寅は一生懸命に祈り出した。
『嘘つきの狼様、ヤク日の狼様、曲津日の玉、イタチ天の狼様、落滝津速川の狼様、てん手古舞の狼さま、リントウ鉢巻ビテングの狼様、木曽義仲姫の狼様、上杉謙信姫の狼様、生羽ぬかれ彦神社の狼様、岩テコ姫の狼様、五六七成就お邪魔の狼様、夕日の豊栄下りの狼様、不義理天上内から火の出の狼様、軽業師玉のり姫の狼様、バカの大将軍様、蠑螈別のおね間を守り玉ふお床代姫の狼様、種物神社御夫婦様、悪魔の根本地の十六柱の狼様、堺の神政松の御神木様、何卒々々朝な夕なの御神徳を蒙りまして、蠑螈別がヨクの熊高姫を思ひ切りますやうに、そしてこの丑寅婆サン姫命を此上なきものとめでいつくしみくれますやうに、その次にはお菊姫命、万公と因縁がござりまするならば、どうぞ一時も早く添はしておやり下さいませ、ハン狐さんの、どこまでも正体が現はれませぬやう、御注意下さいますやう、これが第一の御願でございます。そして末代火の王天の大神様の肉宮、不情誼姫様の肉宮が、どこまでもこの小北山に鎮まり遊ばして、吾々の心性不浄自由の目的が達しますやうに、再び素盞嗚尊があばれ出しませぬやうに、天の岩戸が開けますやうに、色の黒き尉殿と白き尉殿が、天の屋敷にお直り候ふやうに、誤醜護御願申上げます、ポンポンポンポン。
 皆さま、御苦労でございました。サアこれで今晩は御自由にお休み下さいませ。御広間に夜具を並べさせますから』
万公『イヤどうぞ心配して下さいますな、自分のことは自分にせなくてはなりませぬ。夜具の在処さへ聞かして貰へば、自分で床をのべて休まして貰ひます』
お寅『あゝそんならこの押入の襖をあけると、チツと痛いけれど、木の枕もある也、蒲団も沢山にあるから、万公、お前が皆さまに床を布いて寝て貰うやうに世話をやいて下さい』
万公『ハイ何もかも呑み込みました。どうぞ早くお帰り下さいませ。教祖様が淋しがつてゐられますからなア』
お寅『ホヽヽヽヽ、何から何まで、よう気のつく男だこと。ヤア五三公さま、その外の御一同さま、どうぞ御ゆるりと明日の朝までお休み下さいませ』
と云ひながら、慌ただしく蠑螈別の居間を指して帰り行く。

(大正一一・一二・一三 旧一〇・二五 松村真澄録)



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