出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語45-3-111922/12舎身活躍申 仲裁王仁三郎参照文献検索
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第一一章 仲裁〔一二〇一〕

 教主の間には蠑螈別、魔我彦、お寅、熊公の四人は胡坐をかき、無礼講の体でグビリグビリと酒汲み交はして居る。無性矢鱈にお寅は熊公にきつい酒をすすめる。下地は好きなり御意はよし、何条以て断るべき、喉の虫がクウクウと催促して堪らない。猫が鰹節に飛びついたやう、初めの権幕何処へやら、俄に恵比須顔となつてグイグイと、会うた時に笠脱げ式でやり初めた。熊公が群集の中で大声を出し蠑螈別の酒を攻撃したのも、心の底は何とか云つて甘酒にありつかうと云ふ算段だつたから渡りに舟、得手に帆と云ふ好都合だ。熊公はソロソロ舌が縺れ出し銅羅声を出して唄ひ出した。

『飲めよ騒げよ一寸先や暗よ  暗の後には月は出る
 つきはつきぢやが酒づきぢや  チヨビチヨビ飲むのは邪魔臭い
 土瓶の口からデツカンシヨ  胃の腑のタンクへ直輸入
 直に雪隠へ卸売  面白うなつておいでたな
 酒は酒屋に、よい茶は茶屋に  若いナイスはこの館
 お寅婆さまぢや一寸古い  それでも蠑螈別さまが
 細い目をして抱きつき  吸ひつき泣きつき獅噛みつき
 笑壺に入つてござるのだ  ドツコイシヨ、デツカンシヨ
 応対づくなら仕様がない  酒を飲むなと神さまが
 野暮の事をばおつしやるまいぞ  御神酒上らぬ神はない
 この熊公もこれからは  蠑螈別のお側づき
 お酒の御用なら何時までも  天地の神は云ふも更
 八岐大蛇や醜狐  鬼でも狐でも狸でも
 何でも構はぬやつて来い  お前の代りに俺が飲む
 仮令狐が飲んだとて  矢張俺が喉通る
 その時や俺も甘いぞや  デツカンシヨ デツカンシヨ』

魔我『こりやこりや熊さま、そんな大きな声で唄ふものぢやない。大広前へ聞えるぢやないか。チツと気を利かしたらどうだ』
熊公『折角機嫌よう飲んだ酒を何ゴテゴテ云ふんでえ、黙つて盗んで酒を呑むやうにチヨビリチヨビリと飲んだつて何が面白い。酒を飲めば酔ふにきまつてる。酔うたら騒ぐにきまつてる。お前は結構な酒を殺して飲めと云ふのか。エーン、なア蠑螈別さま、熊公の云ふ事が違ひますかな』
蠑螈『アハヽヽヽチツとも違ひはせぬ』
熊公(大声)『それ見たか魔我彦、教祖様が違はぬとおつしやつたぢやないか』
 魔我彦は青くなり、
魔我『これ、熊さま、何ぼどうでも体裁と云ふ事を考へてくれなくちやこの城がもてぬぢやないか』
熊公『酒に酔うたものに体裁も糞もあるものかい。体裁を作らうものなら酒を飲まれぬぢやないか、さうすりやウラナイ教には裏がないと云つたが矢張裏があるのだなア。表には鹿爪らしい事を吐きながら何でい。奥へ這入れば朝から晩まで甘酒に酔ひつぶれ、神の教は其方除けにして肝腎の教祖さまからお寅婆アさまと意茶つき喧嘩をしたり、抓つたり叩いたりするのだからな、呆れたものだ』
お寅『これ熊さま、お前は悪酒だから本当に困つてしまふよ。チツとは教祖様の御心中も察し俺の心も酌んでくれたらどうだい。結構な酒を頂きながら、ここの迷惑になるやうの事を云つてもよろしいのか。チツとは義理と云ふ事も考へて下さいな』
熊公『ワツハヽヽヽそらア、何を吐しやがるんだい。不義理の天上、日出神様の御入来だ。エーン、こりやお寅、貴様も大分に老耄たねえ、浮木の森の女侠客、丑寅と云つたら一時は飛つ鳥も落すやうな豪勢な勢だつたが、何時の間にやらウラナイ教に沈没してフニヤフニヤになつてしまつたぢやないか。こりやお寅、昔の事をまだ忘れては居めえな。エーン、この熊公はお前に対しては十分駄々を捏ねるだけの権利が具備してるのだ。蠑螈別の前だから素破抜くのは廃とくが、ここまで云つたら蠑螈別だつて馬鹿でない限りは大抵合点が行くだらう。この熊公が信者の中へ紛れ込み、お寅の行衛をつきとめむと腕に撚をかけ待つて居るのも知らずに聖人面を列ねて、よくもまア演壇に立ちやがつたな。虎狼野干は化して卿相雲客となるとは、よく云つたものだ。世の中は比較的に馬鹿者の多いものだなア。アツハヽヽヽ』
お寅『これこれ熊さま、あまりぢやありませぬか。云ひたい事があるなら後でしつぽり聞かして下さんせ。蠑螈別の前ぢやございませぬか』
熊公『アハヽヽヽ、チツと都合が悪いかの。其方に都合が悪けりや此方に都合がよい。其方に都合が好けりや此方の面工が悪い。何でも彼でも世の中の事は上つたり下がつたり唐臼拍子に行くものだ。二世を契つたこの熊公が、それだけ煩さいのか。うんよし、大方貴様は蠑螈別と太え事をやつてゐやがるのだらう。サア有態に白状せいこのままには帰らないぞ、エーン』
蠑螈『熊さま、どうぞお寅さまを貴方の御自由に連れて帰つて下さい。決して私には未練はありませぬからナア』
お寅『これ蠑螈別さま、貴方は何と云ふ水臭い事をおつしやるのだ。私にも量見がありますぞや。また鼻を捻て上げませうか』
と立ち上り強力に任せて蠑螈別の鼻を捻やうとする。蠑螈別はお寅の鼻抓みには懲々してゐるから両手で顔を隠し俯向いて畳にかぶりついたまま、
蠑螈『熊さま助けてくれえ助けてくれえ』
と恥も外聞も忘れて叫んでゐる。熊公はお寅の首筋をグツと握り後へ引いた。途端にお寅はドスンと尻餅を搗く。
お寅『アイタヽヽヽ何とひどい事をする男だ事、これ、熊さま、お前ここを何と心得て居る。ここは神様のお集まり遊ばす聖場でござんすぞえ、斯様な処で呶鳴つたり、人を転したり、そんな乱暴をなすつちや済みますまい。チツと心得て下さんせえな。これ魔我彦、何をグヅグヅして居るのだ。早く末代様にこの事を申し上げ熊さまの乱暴を喰ひ止め追つ帰して下さいな』
熊公『アハヽヽヽお寅の奴、到頭弱りよつたな。蠑螈別と朝から晩まで意茶つき喧嘩をして居る癖に、こんな聖場で喧嘩する事アやめてくれえなんて、ケヽヽヽヽ尻が呆れるわい。いや、チヤンチヤラ可笑しいわい。ワツハヽヽヽ』
お寅『これ熊さま、頼みだから機嫌ようお酒を飲んで、今日は帰つて下さいな。そしてまたお酒が飲みたくなつたら来て下さい。さうしておとなしう飲んで下さつたら酒位は何程でも振舞つてあげますから』
熊公『振舞つてくれるとは、そりや怪しからぬ、夫が女房の処へ来て振舞ふも、振舞はぬもあつたものかい。貴様は俺を置去りにして浮木の森まで逃げ失せ、柄にもない女侠客となり沢山な野郎共を飼ひやがつて、虚勢を張つてゐよつただないか。俺は貴様に宅を飛び出され、浮木の村に間誤ついてゐる時、幾度門口へ行つたか分らない。その時も腐つたやうな親爺を持ち、この熊さまを多勢の力を借つて袋叩きに致した事が幾度もあるぢやないか。貴様の亭主としてゐた田子公の奴、俺の当身を喰つて、それが病み付となり脆くも国替をしたと、噂に聞いた時の嬉しさ、いや愉快さ、溜飲が三斗ばかり下りたやうにあつたわい。ウワツハヽヽヽ、もう今日となつては貴様も世の末だ。婆嬶や子供を相手に致し、お寅婆サンと威張つてゐるやうではこの熊公に指一本触える事も出来やしめえ。俺も男だ。女房に肱鉄を喰らはされて再び女房になれとは云はねえ。いや頼まれても此方からお断りだ。しかしながら魚心あらば水心だ。何とか挨拶をして貰ひ度えものだなア』
お寅『挨拶をせえと云ふのはお金でも強請らうと云ふのかい。お金なんか、神様の道にありやせないわ』
熊公『アハヽヽヽ惚けな惚けな、これだけ太え屋台骨をしやがつて何程ないと云つても金の千両や万両は目を剥いて居る筈だ。手切れに綺麗薩張と出して貰ひませうかい。蠑螈別だつて俺の女房を自由にしたかせぬか知らぬが断りなく使つて居るのだから、否応は云えまい』
と両肌を脱ぎ入墨だらけの腕を振りまはし、生地を現はして白浪言葉を頻りに連発しだした。
魔我『お寅さま、かうなつちや容易に片づきますまいぜ。吝な事云はずに、それ、あの一万両の金を渡したらどうです。常時こんな事云つて来て貰うては煩いぢやありませぬか』
お寅『これこれ魔我彦、お前夢でも見たのか。何処にそんな大した金がありますか。万両と云つたら庭先に赤い実のなつてる植木位なもんだよ。しやうもない事云つて困るぢやないか。慎みなさい。仮令あつた処でここは蠑螈別のお館だ。私の自由になりますか』
熊公『アハヽヽヽ到頭一万両の所在を見つけ出したやうなものだ。サアもうかうなる上は、一万両だ、非が邪でも一万両だ。この熊さまを追払ふのもヤツパリ一万両だ。煩さい因縁を切つて貰ふのもヤツパリ一万両だ』
お寅『これこれ熊さま、一つ云ふては一万両、一つ云ふては一万両とそりや何を云ふのだい。あんまり馬鹿にしなさんな、最前からお前の云ふ事を聞いて居りや五万両も要るぢやないか。お前に一万両でも一銭でもあげる金があれや、八幡さまに奉納致しますわいな。そんな欲な事を考へてをると八万地獄に落ちますぞや』
熊公『八万地獄所か十万億土の旅立を楽んで居るこの熊公だ。熊公と思や正真正銘の悪魔公だよ。悪魔払ひに一万両は安いものだ。サアサアキリキリ払うたり払うたり払ひ給へ、清め給へだ』
お寅『そんなヤンチヤを云はずにトツとと帰つて下さい。お頼みだから』
熊公『そんなら五万両は割引して一万両にまけておく。一万両は安いものだらう』
お寅『好かぬたらしい。これ熊さま、何を云ふのだい。俺がこのウラナイ教へ入信した時、貯めて置いた一万両の金でこの通り立派なお宮を建てたのだ。その一万両が欲しければ、あの石の宮さまを懐へ入れてなつと、担いでなつと勝手に帰んで下さい。お金なんぞ、ありやせないよ』
 蠑螈別は、小さい声で舌をもつらせながら、
蠑螈『おいお寅、煩いから有るだけ持つて帰なしたらどうだ。そして今後は文句は云はないと書付けをとつておくのだな』
お寅『これ蠑螈別さま、何と云ふ気の弱い事をおつしやるのだ。生命と懸替の、あの一万両を渡す位なら死んだがましぢやないか。どうしてお前さまと私とこの先やつて行くのだい。黙つて居なさい。溝壺へ捨てる金が有つても熊さまなんかへ渡す金はありませぬぞ。こんな処へヌツケリコとやつて来て思はぬ苦労をかけやがつて、これ熊公、このお寅さまを何と心得てる。浮木の森の女侠客丑寅サンと云つたら、ヘン、憚りながらこの姐さまだ。お前達のやうな一羽鶏に脅かされて屁古垂れるやうな姐さまぢやありませぬぞや』
と棄鉢気分になり、入墨のした腕をグツと捲り、一方の足を立膝しながら泡を吹き飛ばし呶鳴りつけた。熊公は猛り狂うてお寅婆の髻を引つ掴み力限り引張りまはす。蠑螈別、魔我彦はこの権幕に肝を潰し、奥の間の長持の中へ身を隠し、慄ひ戦いてゐる。この声を聞きつけて万公、五三公、アク、タク、テクの五人はドヤドヤと走り来り、
万公『待つた待つた、待てと申せば待つたがよからうぞ』
五三『何事の縺れか知らねえが、この場の仲裁はこの五三公が預かりやせう』
と故意とに白浪言葉を使つて嚇しにかかる。
熊公『アハヽヽヽ小童子野郎がこんな処へ飛び出し、俺達の喧嘩を仲裁するとは片腹痛え、弥之助人形の空威張り、そんな事に屁古垂れて、酔泥の熊公のお顔が立つと思ふかエーン、小童子武者の出る幕ぢやない。すつこんでござれ』
アク『あいや酔泥の熊公とやら、しばらく待つたがよからうぞ。吾こそはバラモン教の大目付片彦将軍でござるぞ。何を血迷うて斯様な処へ乱暴にやつてうせたか、怪しからぬ代物だ。おい家来共、大自在天より授かりし金縛りの妙法を以てこの乱暴者を手痛くふン縛れ』
五三『もしもし片彦将軍様、お腹立ちは御尤もながら様子も聞かず、ふン縛るとは無慈悲と申すもの、何卒イルナの侠客五三公サンにこの場はお任し下さる訳には行きますめえか』
アク『飽迄憎き奴なれど、当時売出しの侠客のその方が申す事、無下に断る訳にも行くまい。そんならその方にこの場の解決を一任する。万一ゴテゴテ吐すに就いては容赦はならぬぞ』
五三『ハイ、委細承知仕りやした。私も当時売出しの侠客、命に代へてもこの場の落着をつけて御覧に入れやせう。万々一行かねばこの場で割腹致して見せやせう。さすれば貴方の御自由に御成敗遊ばしやせえ』
アク『しからばしばらく別間に控へて居る。万公、タク、テク、余が後に従つて来い。五三公親分、さらばでござる』
と肱を張り悠々として笑ひを忍びながら大広間さして立つて行く。
お寅『これはこれは片彦将軍様、尊き御身を以て入らせられました。これと申すも神様の御神徳、いやもう有り難うございます』
五三『ハルナの国に時めき給ふ大黒主の右守の司と聞えたる鬼春別将軍の部下、片彦将軍は、今や数万の軍勢を引き率れ斎苑の館へ進軍の途中、小北山の神徳、いやちこなりと聞き戦勝祈願のため、浮木の森に軍隊を留め、少しの部下を伴ひ参詣致したもの、神のお示しによればアバ摺れ男の熊公なるもの、神の司の蠑螈別殿、その他お寅殿に向つて無体の脅迫を試みしと聞き、取るものも取り敢ず、此処に来て見れば、不都合千万なこの始末、と片彦将軍様が霊を以てこの五三公が霊に伝へ給うた。片彦将軍の御身魂が宿つたこの五三公様が仲裁に立つても、よもや不足ぢやあるめえ、のう、熊公とやら』
熊公『ハイ、貴方の如き尊きお方に仲裁の労を煩はし、誠に光栄に存じます。いやもう今日限りスツパリ心を改め、今後は決してこの館へ足踏みを致しませぬ。どうぞ御安心下さいませ』
五三『早速の納得、いや片彦将軍の神霊も五三公の哥兄もズンと満足いたした。就いてはお寅殿、蠑螈別殿、わつちも侠客だ。片手落ちの事はやられねえ。当座の草鞋銭だと思つてこの熊サンに一千両の金をスツパリとお渡しなせえ。蠑螈別さまもこれで解決つくならば安いものだらう。ほんの抓み銭だ。アハヽヽヽ』
お寅『親方さまの御仲裁、何しに背きませう。私も、もとは女侠客、侠客の意地はよく呑み込んで居ります。そんなら貴方のお顔に免じて千両の金を渡しますから、今後は熊さまが何にも云つて来ないやうにして下さいませ』
五三『いや承知致しやした。流石は姐貴だ。スツパリしたものだ。おい熊公、どうだ。これで文句はあるめえな』
熊公『いやもう有難うござります。千両の金さへあれば五年や十年の甘え酒が頂けます。いやもう有難うござりやした』
 お寅は次の間から小判を千両とり出し、
お寅『さあ五三公の親分さま、これを引替へに証文を取つて置いて下さいませ』
五三『アハヽヽヽ証文をとるのは未来の人間のする事だ。男が一旦約束をした事は万古末代磐石の如く決して動くものぢやねえ。熊公どうだ』
熊公『はいはい、私も男です、どうしてゴテゴテ申しませう。おい、お寅、安心してくれ。有難え、お前が、ありや、こりや無けりや、こりや、うまいお酒が飲めるのだ。チヨイ チヨイ チヨイの頂戴だ』
と両手を合せ掌を仰向けにして上下へ揺つて居る。
五三『それ、千両だ。確に受取れ』
熊公『ハイ、有難う。万古末代、あんたの御恩は忘れませぬ。そしてお寅の事は只今限り忘れます』
と云ふより早く懐に捻込み長居は恐れと言はぬばかりトントントンと坂道を矢を射る如く帰り行く。

(大正一一・一二・一二 旧一〇・二四 北村隆光録)



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