出口王仁三郎 文献検索

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物語45-1-41922/12舎身活躍申 霊の淫念王仁三郎参照文献検索
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第四章 霊の淫念〔一一九四〕

 朝から晩まで酒盛の  蠑螈別の神司
 数多の神の出入に  酒を祀ると云ひながら
 頬べたまでも赤くして  臭い息をば吹まくり
 侍者の鼻をばゆがませつ  腋臭のかほり紛々と
 あたりの空気を改悪し  天津祝詞の言霊を
 呂律もまはらぬ舌の根に  ころばせながら朝の中
 ウラナイ教の神言を  汗をタラタラ絞りつつ
 唱へてまたもや神様に  うましき酒を献り
 づぶ六サンになつた上  真昼が来れば神前に
 足許怪しく進みより  天にまします吾父よ
 御国を来らせ玉へかし  天になりますその如く
 地にも天国建てさせよ  アーメン、ソーメン、トコロテン
 ウドンに蕎麦に焼芋の  肴をドツサリ前に据ゑ
 曲津の神の御光来  いと叮嚀に歓迎し
 絶対的に博愛の  趣旨を貫徹させながら
 夕べになれば正宗の  酒にはあらぬ肉の宮
 蠑螈別は数珠をもみ  南無阿弥陀仏南無阿弥陀
 般若心経波羅蜜経  節面白く唱へ上げ
 三教合同の御本尊  床次さまの後をつぎ
 天晴れ教主と成りすまし  酒の機嫌でドラ声を
 張上げ唸るお寅さま  小皺のよつた手を出して
 燗徳利をひん握り  朝顔型の盃を
 前につき出し目を細うし  お酒の功徳も大広木
 正宗さまよコレちよいと  お過ごしあれと差出せば
 酒のタンクの正宗は  御機嫌斜ならずして
 お寅よお前は偉い奴  年はとつても姥桜
 まだどこやらに花の香が  プンプン残つて居るやうだ
 お前の優しいその目許  オツトヽヽヽヽヽこぼれます
 あまり勢が強い故  情が余つて迸り
 一張羅のお小袖が  サツパリわやになりました
 さは去りながらこれもまた  正宗さまの御酒に
 よごされたりと見直せば  却て私は有難い
 可愛いお方が好き好む  霊の籠つた露ぢやもの
 どうして不足に思ひませう  一献あがれと徳利を
 またもや前に突出せば  正宗さまは悦に入り
 あゝ世の中に酒と云ふ  奴ほど可愛いものはない
 お酒が俺の生命だ  酒さへあらば如何やうな
 ナイスも嬶も要るものか  お寅のさした盃は
 高姫さまの口元に  どことはなしによく似とる
 この盃を唇に  あててキツスをする時は
 何ともいへぬ味がする  あゝ有難い有難い
 これ高姫よ高姫よ  大けな口を開けながら
 ここに居ますと一言の  なぜ言問ひをしてくれぬ
 口ばつかりがあつたとて  肝腎要の肉の宮
 お目にかからな気がゆかぬ  ホンに思へば情ない
 夢の浮世といふことは  こんなことをば言ふのだろ
 夢の蠑螈別さまと  播陽さまが言ひよつた
 コレコレ丑寅婆アさまよ  お前ぢや根つから気がゆかぬ
 大奥に居る上義姫  肉の宮をば呼ん出来て
 酒の相手をさしてくれ  何とはなしに淋しうて
 そこらが冷たくなつて来た  そも人間といふ奴は
 異性がなくては面白く  可笑しうこの世が渡れない
 サアサア早う上義姫  呼んでお出でとタダこねる
 丑寅婆さまはキツとなり  口角泡をとばしつつ
 団栗眼をむきいだし  蠑螈別の旦那さま
 私の前でそんな事  どこを押へたら言へますか
 過ぎし逢瀬の睦言を  最早お忘れなさつたか
 ホンに薄情なお前さま  私は今は年老つて
 皺苦茶婆アになつたれど  浮木の村の侠客で
 丑寅さまと仇名をば  取つたる女侠客だ
 バカになさるもほどがある  何程神が沢山に
 お出入りなさるか知らね共  さうクレクレと猫の目の
 お変り易い恋衣  破つて貰つちやたまらない
 私も了見あるほどに  覚えてゐろよと言ひながら
 松彦さまを受付に  待たしたことを打忘れ
 蠑螈別の胸倉を  力に任せてグツと取り
 コリヤコリヤ正宗大広木  蠑螈別よバカにすな
 お寅の腕には骨がある  モウこのままですまさぬぞ
 どうぢやどうぢやと胸板を  力に任してもみつぶす
 蠑螈別は泡を吹き  顔を蒼青にサツと変へ
 アイタタタツタ待つてくれ  どうやら息が切れさうだ
 もうこれからはスツパリと  松姫さまの上義姫
 肉の宮をば思ひ切り  お前を大事にするほどに
 放せよ放せ胸倉を  アイタタタツタ ウンウンウン
 苦しいわいの、コラヤお寅  許してくれよと手を合はし
 剛情我慢の正宗も  命惜さに詫入れば
 呆れてこける燗徳利  盃までがメチヤメチヤに
 砕けて笑ふ面白さ  ガチヤン ガチヤンと拍子取り
 土瓶は躍る徳利舞ふ  朝顔型の盃は
 落花微塵となりはてて  姿小さく数多く
 変化したるぞ可笑しけれ  お寅は尚も承知せず
 コリヤコリヤ正宗大広木  口先ばかりでツベコベと
 ゴマかしよるか、そんな事  聞くよな婆ぢやないほどに
 以後のみせしめ今一つ  あの世この世の境まで
 やつてやらねばおかないと  鬼の蕨をふり立てて
 悋気の勢凄じく  ポカンポカンと打たたく
 目を白黒とさせながら  アイタタ タツタ コリヤ許せ
 金輪奈落天が地と  なる世が来ても正宗は
 決してお前を捨てはせぬ  疑はらしてその手をば
 早く放してくれぬかい  折角呑んだ酒までが
 早遠国へ出奔し  ゾツと身に沁む秋の風
 冬の薄衣ブルブルと  身体一面慄ひ出した
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ
 涙と共に手を合せ  願へばお寅はつけ上り
 今日はどしても許しやせぬ  松姫さまに涎くり
 怪体な細目をむきやがつて  私を盲目にしたぢやないか
 今日はドツサリ身のあぶら  絞つてやらねば虫がいえぬ
 たかが男の一人位  殺した所で何惜い
 観念せよと言ひながら  怒りの面色凄じく
 何時果つべしとも見えざりし  所へスタスタやつて来る
 魔我彦さまの義理天上  日の出神の肉宮が
 見るより忽ち仰天し  アツとばかりに尻餅を
 ついたる様の可笑しさよ  魔我彦漸く口をあけ
 コリヤコリヤお寅婆アさまよ  正宗さまの肉宮を
 なぜそのやうに失礼な  無体なことを致すのか
 痩てもこけてもウラナイの  神の教の教祖様
 神の出入の生宮を  打擲するとは何の事
 覿面に罰が当るぞや  早くその手を放さんせ
 言へばお寅は目をすえて  コリヤコリヤ魔我彦義理天上
 訳も知らずにツベコベと  仲裁だてが気にくはぬ
 唐変木のお前さまに  このいきさつが分らうか
 モウかくなれば何もかも  一切曝露してしまふ
 実の所はこのお寅  正宗さまに思はれて
 夜は暖き敷蒲団  恩も知らずにこの色魔
 人もあらうに神様の  御用を遊ばす松姫に
 秋波を送り二世三世  百生までも夫婦ぞと
 約束したるこのわしを  邪魔者扱にさらす故
 お寅の顔が立たないと  今折檻をするとこぢや
 子供の出て来る幕でない  グヅグヅしてると飛ばしづく
 どこへかかるか知れないぞ  お前の足元明い内
 どこなと勝手に逃げなされ  サアこれからが荒料理
 腹わたまでもゑぐり出し  大洗濯をしてやらな
 中々改心致すまい  ここらが百尋胃袋と
 無性矢鱈にひつつかみ  鷲のやうなる爪たてて
 引かきむしるぞ恐ろしき  蠑螈別は顔しかめ
 半死半生の為体  アイタタ タツタ ウンウンウン
 苦しい苦しい魔我彦よ  どうぞ助けてくれぬかい
 アイタタ タツタ アイタタタ  お寅といふ奴アこれほどに
 悋気の強い女だと  思はなかつたあゝ苦しい
 助けてくれえと声限り  呼ばはり居たる折もあれ
 目かいの見えぬ文助が  コレコレ申し教祖さま
 あなたがお呼びなさつたる  末代日の王天の神
 生宮さまが受付に  しびれ切らして待つてござる
 早くお出会なされませ  何だか知らぬがガヤガヤと
 いと騒がしい音がする  痛い痛いとおつしやるが
 頭痛がするのか但しまた  お肩がこるのか知らね共
 余り人を待たしては  御無礼になるかも知れませぬ
 目かいの見えぬ文助は  この場の様子を露知らず
 平気な事を言うてゐる  お寅はハツと気がついて
 オウオウさうぢやオウさうぢや  末代日の王天の神
 この門口に待つてござる  コリヤコリヤ正宗大広木
 末代様のお出で故  今日は許しておくほどに
 モウこれからは馬鹿なこと  したり言うたり致したら
 お前の首はないほどに  覚悟はよいかと云ひながら
 パツと放せば正宗は  ハツと一息鼻汁をかみ
 涙を拭ふ可笑しさよ  お寅は尻目にかけながら
 素知らぬ顔をよそほひつ  襟をば直しソロソロと
 受付さして出でて行く。  

 お寅婆アさまの受付へ出た後で、魔我彦は松彦にこんな所を見られては大変だと思ひ、蠑螈別の手を引いて奥の一間へ寝かせてしまつた。蠑螈別は夢現になつて、訳の分らぬ事を呶鳴つてゐる。その間にお寅は松彦一行を叮嚀に導き、奥の間へ伴れて来た。
お寅『あゝあ、油断のならぬ悪い猫奴が徳利をこかす、盃をふみわる、なんのこつちやいな、エーエ気のつかぬ、魔我彦は何しとるのぢやいな。その間に座敷を片付けてくれるかと思ひ、ワザと暇を入れて居つたのに……私がしたのだないから知らぬ……といふやうな他人行儀の魔我彦の仕方、エーエ仕方のないものだ』
と小声で呟いてゐる。
松彦『お寅さま、大変大きな猫がゐると見えますなア。盃を踏みわるなんて、随分立派な物でせう』
 魔我彦は次の間からヌツと顔を出した。お寅は目に角を立て、
お寅『コレ、天上さま、気のつかぬ方ぢやなア。これほど猫があばれてるのに、なぜ片付けないのだい。お客さまがお出でになつたのに、みつともないぢやないか』
魔我『ハイ実の所は牡猫と牝猫が二疋やつて来やがつて、噛み合ひをやつたのですよ。牡の方は酒の好きな猫で、ヘベレケになり、一方はドテライ牝猫でしかも寅猫でした。滅多矢鱈に咬合ふものだから、火箸でなぐらうと思うたトタンに、猫はなぐれず盃をなぐつて、この通りメチヤメチヤにしてしまうたのですよ』
お寅『エーエ、何をさしても気の利かぬ方だな、サア、早く片付けなさい、人様にザマが悪いぢやないかい』
 魔我彦は苦笑ひしながら、
魔我『ザマの悪い事は誰がしたのだ。ヘン馬鹿らしい』
と口の中で呟きながら、不精無精に座敷を片づける。松彦一党は居間の入口に手持無沙汰な風をして立待ちをして居る。魔我彦はあわただしく一間の掃除をなし、火鉢、鉄瓶、徳利、膳などの置場所を直し、座蒲団を七枚布き終り、
魔我『サアえらうお待たせしました。末代日の王天の大神の生宮様、どうぞ正座にお直り下さいませ』
松彦『天の大神も随分落ちぶれて居りました』
と言ひながら、差図するままに正座に坐つた。
お寅『これはこれはよくマアお出で下さいました。上義姫様の肉の宮が大変にお待受でございますよ。神様だつて夫婦がなければ、誠の御神業は出来ませぬからなア』
松彦『吾々にはそんな粋事はありませぬ。お見かけ通りの木石漢ですからなア』
 お寅はツツと傍へ寄り、松彦の手の甲をソツと押へて細目をしながら、
お寅『ヘヽヽ、うまい事をおつしやいますな。流石姫殺だ。恋の上手はやつれてかかるとか言ひましてな。本当に至れり尽せりだ。蠑螈別オツトドツコイ……大分に違ひますわい。この婆アだつて貴方のやうな男らしい生神様だつたら、モウ二十年も若かつたら一苦労して見ますがなア。ホツホヽヽヽ』
 松彦は渋をかんだやうな面付で、
松彦『どうぞ揶揄はやめて下さい。吾々は大切な御用のある身体、その寸暇を伺つてあなたのお勧めに任せ参つたのですから、下らぬ話をなさるのならば、最早お暇を致します』
と箱さしたやうなスタイルでキチンとすわつてゐる。
お寅『これはしたり、誠に失礼なことを申上げました。しかしねえ、さうおつしやつても、ヤツパリ人間には裏表がありますからなア』
松彦『ハヽヽヽ』
魔我『末代日の王様の生宮様、よくマア御入来下さいました。神政成就の太柱様、どうぞあなたも身魂の因縁だから、他所へは行かずに、神政成就の暁まで、どうぞここに御逗留を願ひます』
松彦『それは聊か迷惑、半時ばかり御邪魔を致し、今度は是非共お暇を頂きませう』
魔我『何とおつしやつても、身魂の因縁で引寄せられ遊ばしたのだから、そりや駄目でせう。マアゆつくりとして下さいませ』
松彦『ハイ有難う』
万公『モシ義理天上さま、このブラリ彦は何時帰つたらよろしいかな』
魔我『どうぞ貴方の御随意になさつて下さいませ。御都合が悪ければ、今直に御帰りになりましても構ひませぬ』
万公『山竹姫の口から生れた生宮ぢやないが、マンマンマン ウマーと呆れざるを得ませぬわい。ヘン』
魔我『お前はウラナイ教を研究しましたか。ようそんな細かいことまで御存じですな』
万公『ハイこの中でウラナイ教通と云つたら、マア私位な者でせう。私はお寅さまの内の入婿でしたからなア。何か因縁があるので、神様が知らして下さいますわ。山竹姫さまは馬が出来たので、ビツクリして今度目にまた、天の大神様にお祈り遊ばし、猪を生まれたでせう。それからまた次に口から玉を生み出し、その玉がヘグれて孔雀が生れたでせうがなア。その位なことはチヤーンとこの万公は知つてゐるのですからなア』
魔我『成程コリヤ感心だ』
万公『私の随意にこれから御暇を致しませうか』
お寅『コレコレ万さま、お前、何時の間にそんなおかげを頂いたのだい。それを聞くからは、帰のうといつたとて帰なしはせぬぞや。それではヤツパリお前の霊はブラリ彦ではなかつた。耕し大神の霊かも知れぬぞえ。なア魔我彦さま、どうも耕し大神のやうですなア』
魔我『メツタにタガヤ……シませぬぢやらうかな。私や疑やしませぬけれどなア。耕し大神にしてはチツと軽いやうな気がしますがなア』
 万公は両手を組み、目を閉ぎ『ウン』と飛上り、
万公『コリヤ、魔我彦、その方は耕し大神の霊を何と心得て居る、そんなことで義理天上日出神の生宮と言へるかア。三千世界の事なら、隅から隅まで、何もかも知つて知つて知りぬいたこの方だぞウ』
魔我『ハイ恐れ入りました』
お寅『これはこれは万公、イヤイヤ耕し大神の生宮様、誠にすまぬことを致しました。コレコレお菊、教祖様がいつも言うてござつただらう、お前の霊は地上姫だ、地上姫の夫は耕し大神の生宮とおつしやつたぢやないか。サア早うこちらへ来て御挨拶を申上げないか』
と大きな声で呼ばはつた。お菊は驚いてこの場に走り来り、
お菊『お母アさま、耕し大神の生宮さまて、どなた? このお方ですか』
と松彦を指さす。万公は包みきれぬ嬉しさと可笑しさを無理に笑ふまいと気張つてゐる。成るべくコクメンな素知らぬ体を装うとしたが、どうしても堪へ切れなくなり、
万公『パーハツハヽヽヽ』
と吹出した。
お寅『マアマア耕し大神様の御機嫌のよいこと、ソラさうだろ、永らく地の底へ落ぶれてござつたのだもの、ここで肉の宮と肉の宮の御対面を、天晴と現はれてなさつたのだから嘸御満足でございませう。コレお菊、耕し大神の肉の宮はあの万公さまだよ』
お菊『エーエ好かンたらしい、あたしイヤだわ。あんな黒い褌しとつた男、それお母アさま、にえ茶を呑ンでこけた時、あれ思ひ出すと、何ぼ耕し大神さまだつて、愛想がつきますワ』
五三『ウツフヽヽヽ』
 アク、タク、テク一度に『ワアハツハヽヽヽ』
アク『何とマア都合のよい教だなア。俺も今日からスツパリとウラナイ教へ入れて貰はうか知らぬてなア。サア何と言つたらよからうかな。アクビ直し彦でもつまらぬし……ウンさうだ、同じアのつく天若彦になつてやらう。ウンウンウン』
 ドスン……
『この方は悪にみせて善を働く天若彦であるぞよ』
お寅『オホヽヽヽ』
魔我『アハヽヽヽ』
お寅『おきやんせいなア。そんな受売をしたつて誰が買ふものか。よいかげんに冗談もなさるがよい。悪垂彦命奴が』
アク『あゝあ、たうとう尻尾を見られてしまつた』
お寅『心得なされや、私の前だからよいが、よそへ行つて、そんな山子をなさると、ドテライ恥をかきますぞや』
五三『ウツフヽヽヽ、たうとう悪の企みの現はれ口だ。口は災の門とはよく云つたものだな、無茶苦茶に口をアクとアカンことになるのだ、のうテク、タク、俺達の面よごしだ』
アク『万公だつて、さうぢやないか、万公の言ふことが通用して、俺のいふことが通用せぬといふ理屈がどこにあるかい』
五三『アリヤ万が良いのだ。アハヽヽヽ』
松彦『肝腎の大広木正宗さまは何処にゐられますか。私は正宗様に会うてくれとおつしやつたので参つたのですが、御本人が居られぬとすれば仕方がありませぬ。帰りませうかな』
お寅『ヤ、居られます。しかし今御神懸の最中ですから、どうぞしばらく御待ち下さいませ。奥の間にお伺ひの最中でございます』
松彦『私も何となく気がせきますから、そんなら私の方から伺ひませう』
とツツと立ち、行かうとする、お寅は酔ひつぶれた蠑螈別を見られては大変と、両手を拡げ、
お寅『マアマアマア、待つて下さい。今貴方に行かれては、一寸都合の悪いことがございます』
五三『松彦さま、酒に酔うてござるのですよ。受付へ聞えとつたでせう、このお寅さまと酒に酔ひ、イチヤ付喧嘩をして、胸倉をとられたり、頭をコツかれたり、助けてくれ……と叫んでゐられたでせう。盃を破つたのも猫ぢやありませぬよ、皆二人の意茶付喧嘩の産物です、シツカリせぬとゴマかされてしまひますで』
松彦『アハヽヽヽ、人さまの内のことは言ふものぢやない。沈黙しなさい』
と云ひながら再び元の座に着いた。隣の間には蠑螈別が酒に酔ひつぶれ、うつつになつて囈語を言ひ出した。その声は次の間へ筒抜けに聞えて来る。
蠑螈『あゝあ、エライことになつたものだ。つひ酒の勢で南瓜みたやうなお寅婆アをなぶつたのが病み付で、こんな目に会はされたのだ。あゝあこれを思へば高姫は親切だ。あゝあ高姫はどうして居るだらうなア。高姫ー々々、会ひたいわいのう。ウニヤ ウニヤ ウニヤ ウーン』
 お寅の顔色は俄に変つて来た。
魔我『エヘヽヽヽお寅さま、お気のもめる事でせうなア』
お寅『アリヤ信者の病人があんなこと言つてるのだよ。ここへ時々気のふれた者が参つて来るから……厄介な事だ』
魔我『それでも教祖さまの声にソツクリぢやありませぬか』
お寅『サアそこが気違だ。悪神が憑つて教祖様の声色を使つてるのだ。そんなことが分らいで、仮令看板だけでも、副教祖が勤まりますか。すまないがこのお寅は教祖様の……ウンではない……エヽ二世の○○だよ。お寅さまを差おいてヅケヅケと言ふものでない。スツ込んでゐなされや』
魔我『義理天上日出神もお寅さまにかかつては駄目ですわい』
 万公は長らく手を組んでゐたが、足はしびれ、手はだるくなつて堪え切れなくなり、ワザとにドスンと飛上り、空呆けた顔をしながら、
万公『あゝ、あゝ大変な夢を見て居つた。綺麗な別嬪さまと祝言の盃をしたと思へば……何だ夢だつたかいな。オヽそれそれそのお菊とソツクリの女だつた。何とマア妙なことがあるものだなア』
お寅『ナアニ、お菊と同じ美人と結婚をしたことが霊眼にうつつたのかな。オヽさうだろさうだろ、それで益々確実になつて来た。神様のおつしやつたことは違はぬワイ……神様、有難うございます、惟神霊幸倍坐世』
と蠑螈別の腹立を忘れてお菊のために祈つてゐる。

(大正一一・一二・一一 旧一〇・二三 松村真澄録)



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