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物語44-2-121922/12舎身活躍未 大歓喜王仁三郎参照文献検索
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第一二章 大歓喜〔一一八一〕

 治国別の言霊に一同は驚き目を覚まし、万公は目をこすりながら、
『先生貴方は俄に言霊を発射なさいましたが、何か変つた者が現はれたのですか』
『ウン』
『オイ晴公、楓さまの姿が見えぬぢやないか。大蛇に呑まれてしまつたのぢやあるまいかな。オイ五三公、竜公、何をグヅグヅしてゐるのぢやい。サア探した探した』
と慌まはる。五三公、竜公、松彦も目をキヨロキヨロさせながら四辺を見まはし、二人の姿の無きに驚いて居る。
『御苦労だが四人共、森の外へ出て、ここへ駕籠をかついで来てくれ』
万公『駕籠を舁げとは、ソリヤまた妙なことをおつしやいますなア』
治国『行つて見たら判るのだ。晴公と楓さまが、待つてゐるよ。サア四人共早く行つたり行つたり』
万公『オイ、何はともあれ先生の御命令だ。行つて見ようかな』
三人は「ヨーシ合点だ」と万公の後につき、森の外へと走り行く。後に治国別は合掌しながら、独言、
『あゝ有難い、神様の御引合せ、どうやら親子兄妹の対面が許されたやうだ。これから一骨折らなくてはなるまいと、昨夜も思案にくれて眠られなかつたが、何とマアよい都合に神様はして下さつたものだ。これと云ふのも昨夜言霊の宣伝歌を歌つた神力の御蔭だらう。道は神と共にあり、万物これによつて造らる、との聖言は今更の如く思はれて実に有難い、あゝ偉大なる哉神の御神力、言霊の効用』
と感歎しながら、東に向つて天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ上げ、神言まで恭しく詔上げてしまつた。そこへ二挺の駕籠を舁いで、一行六人は帰り来たる。
 治国別は、
『ヤアお目出度う。晴公さま、楓さま、神様の御神徳は偉いものですなア』
『先生、晴公は、おかげで両親にタヽ対面が出来ました』
と早くも声を曇らしてゐる。楓は紅葉のやうな愛らしき手を合せ、治国別に向ひ、覚束なげに泣声交りに惟神霊幸倍坐世を幾度となく繰返して居る。
『先生、イヤもうどうもかうもありませぬワイ。偉いものですなア、大したものですなア、エヽー、こンな結構なことは万々ありませぬワ。本当に嬉しいですワ、何と云つて御挨拶を申上げたらよいやら、万公は言葉も早速に出て来ませぬワ』
『ヤア結構だ、万公サア早くお二人をここへ出して上げてくれ』
『万々々承知致しました。コレコレ晴公さま、楓さま、何を狼狽へて居るのだい。お前さまも手伝はぬかい、コラ五三公、松彦、竜、何をグヅグヅしてゐるのだい。千騎一騎のこの場合安閑としてる時ぢやないぞ。サア対面ぢや対面ぢや、言霊だ言霊だ、言霊の幸はふ国だ』
と万公は駕籠のぐるりを幾度ともなく、お百度参りのやうに廻転してゐる。老夫婦は悠々として駕籠より立出で、治国別の前に両手を合せ、
『三五教の活神様、有難うございます。私は珍彦と申す者でござります』
『妾は妻の静子でござります。お礼はこの通りでございます』
と両手を合せ、嬉し涙を滝の如くに流してゐる。晴公も楓も茫然として、余りの嬉しさに言葉もなく、両親の顔を横から見守りゐるのみ。
『何とマア偉いこつちやないか、エヽー。本当に誠に欣喜雀躍、手の舞ひ足の踏む所を知らずとはこの事だ。余り嬉しくてキリキリ舞を致すものと、怖うてキリキリ舞致す者と出来るぞよ、信神なされ、信神はマサカの時の杖になるぞよ……との御聖言はマアこんな事だらう、万々々万公の満足だよ。

 あゝ有難い有難い  神の力が現はれて
 常夜の暗の如くなる  この山口の森蔭で
 親子四人の巡り合ひ  おれの親でもなけれ共
 矢張嬉しうて万公は  手の舞ひ足の踏む所
 知らぬばかりになつて来た  三五教の神様は
 本当に偉いお方ぢやなア  バラモン教の曲神は
 バカの骨頂だガラクタの  力の足らぬ厄雑神
 折角ここまでやつて来て  肝腎要の品物を
 途上に放り出し逸早く  治国別の言霊に
 恐れて逃げ出す可笑しさよ  あゝ面白い面白い
 オツトドツコイ有難い  それだによつて万公は
 何時も喧しう言うてゐる  三五教ぢやないことにや
 誠の救ひは得られない  生言霊の神力は
 本当に偉い勇ましい  斎苑の館に沢山の
 神の司はあるけれど  一番偉い杢助の
 あとに続いた亀彦は  治国別と云ふだけで
 天下無双の宣伝使  俺の肩まで広うなつた
 オイオイ五三公竜公よ  お前のやうな仕合せな
 奴が世界にあらうかい  サアこれからはこれからは
 ハルナの都を蹂躙し  大黒主の素つ首を
 言霊隊の神力で  捻切り引切り月の海
 ドブンとばかり投込ンで  天が下にはバラモンの
 曲津の神の影もなく  伊吹払ひに吹き払ひ
 天地を浄め神界の  お褒めをドツサリ被りて
 至喜と至楽の天国を  地上に建設せうぢやないか
 治国別の先生よ  本当に貴方は偉い方
 始めて感じ入りました  どうぞ私を末永う
 お弟子に使うて下さンせ  コレコレ晴さま楓さま
 お前も一つ喜ンで  歌でも歌うたらどうだいナ
 地異天変もこれだけに  突発したら面白い
 オツトドツコイ有難い  三五教の神様に
 早く御礼を申しやいのう  何をグズグズしてござる
 側から見てもジレツたい  あゝ惟神々々
 神の御前に万公が  今日の恵を謹みて
 感謝し仕へ奉る  朝日は照る共曇る共
 月は盈つ共虧くる共  仮令大地は沈む共
 星は天よりおつる共  三五教はやめられぬ
 ホンに結構な御教だ  不言実行といふことは
 三五教の神様が  手本を出して下さつた
 これから心を改めて  口を謹み行ひに
 誠の限りを現はして  神の御子たる本職を
 尽そぢやないか皆の者  あゝ有難い有難い
 有難涙がこぼれます  ヤツトコドツコイ ドツコイシヨ
 ドツコイドツコイ コレワイシヨ  ヨイトサア ヨイトサア
 ヨイヨイヨイのヨイトサア  ドツコイドツコイ ドツコイシヨー』

と夢中になつて、広場を飛廻る。治国別は言も静に、
『珍彦さま、大変な苦しい目に会はれたでせうな。お察し申します。静子さまも嘸御心配をなされたでせう』
 珍彦は涙を拭ひながら、
『ハイ有難うございます。アーメニヤの大騒動によつて親子思ひ思ひに離散し、漸くにして娘の所在を尋ね、三人手に手を取つて、兄俊彦の行衛を尋ねむものと、いろいろ艱難辛苦を嘗め、テームス山の麓を流るるライオン川の畔まで参りました所、老の疲れが来たものか、不思議にも夫婦の者が身体の自由を失ひ、一人の娘に二人の親は介抱をされ、あるにあられぬ困難を致して居りました所へ、黄金姫様が美しい娘さまと共に通り合はされ、いろいろと結構なお話を聞かして下さいまして、お蔭で夫婦の者は気分も爽快になり体の悩みも段々と癒つて参りました。小さい草小屋を造り、川端の一軒家で親子三人が暮して居りました所へ、ランチ将軍の手下がやつて来て、夫婦の者の祝詞の声を聞き……貴様は三五教の間者だろ……と云つて、無理にも高手小手に縛められ駒に乗せられ、ランチ将軍の陣営まで送られました。吾々夫婦はどうなつても構ひませぬ。惜くない命なれど、娘や兄の事が案じられ、寝ても起きても、夫婦の者が霜寒き陣営に捉へられて、無念の涙を絞つて居りました』
と言ひさして、ワツとばかりに男泣に泣く。
 治国別は憮然として慰めるやうに、
『それは御老体の身を以て、エライ御艱難をなさいましたな。しかしながら最早御安心をなさいませ。吾々のついてゐる限りは最早大丈夫ですから』
 珍彦は「ハイ」と云つたきり、またもや泣きじやくる。静子はまたもや涙片手に、
『お話申すも涙の種ながら、ランチ将軍の陣営へ夫婦は連れ行かれ、鬼のやうな番卒に朝から晩まで、身に覚えもないことを詰問され、身体所構はず鞭たれ、実に苦しうございました。そしてランチ将軍の前に時々引出され……その方は三五教の杢助であらう。汝は黒姫であらう、白状致せ。そしてその方の同居してゐた娘は初稚姫に違ひなからう。サアどこへ隠した、所在を知らせ……とエライ拷問、到底命はなきものと覚悟致して居りましたが、死ぬるこの身は厭はねど、どうぞして吾子二人に廻り合はねば死ぬにも死ねないと思ひまして、嘘を言つては済まないと存じながら、向うの尋ぬるままに、夫は杢助でございました、……と答へ、私はまがふ方なき黒姫だ、そして娘は初稚姫に相違ございませぬ……と言つてのけました。そした所がますます詮議が厳しくなり、三五教の宣伝使はハルナの都へ向つて、何人ばかり出張したかとか、いろいろと存じもよらぬことを詰問され、苦しさまぎれに口から出任せの返答を致しました所、斎苑の館へ送つてやらうと云つて、吾々夫婦を後手に縛り山駕籠に投込み、家来に舁がせてここまでつれて来ました。吾々夫婦はどうなることかと胸を痛めて居りましたが、思ひもよらぬ貴方様のお助けに預かり、その上焦れ慕うた二人の子に会はして貰ひ、斯様な嬉しいことは、天にも地にもござりませぬ。命の親の活神様』
とまたもや手を合はしてワツとばかりに泣伏しにける。
 晴公は珍彦の側に寄り、
『父上様、お久しうございます。よくマア生きてゐて下さいました。私は俊彦でございます、若い時はいろいろと御心配をかけましたが、三五教の教を聞くにつけて、親の御恩を思ひ出し、どうぞ両親に会はして下さいませと、朝夕祈らぬ間とてはございませなかつたのでござります』
とまたもや涙を絞る。珍彦は鼻を啜りながら、皺手を伸ばして、晴公の頭を撫でまはし、
『あゝ俊彦、よう言うてくれた。その言葉を聞く以上はこのまま国替をしても、この世に残ることはない。あゝ有難い。持つべきものは吾子だ。コレ俊彦、安心してくれ、私は年はよつてゐても体は達者だから、ここ二年や三年にどうかうはあるまいから』
『ハイ有難うございます、これから力限り孝行を励みます。今迄の罪は許して下さいませ』
といふ言葉さへも涙交りである。楓は静子の手をシツカと握り、
『お母アさま、随分お困りでしたらうねえ。私、どれだけ泣いたか知れませぬよ。ウブスナ山の斎苑館へ参拝して、御両親の所在を知らして貰はうと、身をやつして、河鹿峠の山口まで参りました所、道行く人の話に聞けば、バラモン教の軍勢が谷道を扼してゐるといふことを聞きましたので、あゝ是非がない、モウこの上は両親の無事を祈り、かたきの滅亡を祈るより、私としての尽すべき途はないと思ひ、この恐ろしい魔の森の奥に大蛇の岩窟のあることを聞き、ここに忍びて居ればバラモンの捕手も滅多に尋ねては来まいと思ひ、恐ろしい岩窟に身を忍び、三七廿一日の夜参りを、鬼に化けて致して居りました。心願が通つたと見えて、三七日の上りに兄さまに巡り会ひ、またお父さまお母アさまに会はして頂きました。どうぞ御安心下さいませ、斯様な偉い宣伝使様の懐に抱かれた以上は最早大丈夫でございます』
と涙交りに慰める。静子は楓の背に喰ひつき、嬉し涙にかきくれる。これより治国別の命によつて、珍彦、静子、楓、晴公の四人を玉国別のこもつてゐる祠の森へ手紙を持たせてやることとした。そして山口まで宣伝使一行は送り届けた。親子四人は玉国別に面会し、神殿造営の手伝ひをなし、夫婦は遂に宮のお給仕役となり、楓は五十子姫の侍女となつて、神殿落成の後斎苑館に帰り、神の教を研究し、遂には立派なる宣伝使となつて神の御恩に報ずる身とはなりにける。

(大正一一・一二・八 旧一〇・二〇 松村真澄録)
(昭和九・一二・二八 王仁校正)



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