出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語44-2-101922/12舎身活躍未 奇遇王仁三郎参照文献検索
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第一〇章 奇遇〔一一七九〕

 万公、晴公、竜公はやつと胸撫で卸し、瘧の落ちたやうな顔をして女の顔を不思議さうに見守つて居る。松彦は何呉となく親切に女を労り、いろいろと慰安の言葉を与へて居る。治国別は気の毒さに頭を垂れ、目を瞬き涙をそつと拭ひながら、
『承はれば貴女の家庭には悲惨の幕が下りたものですなア。そして黄金姫様に神様の話を聞かして頂き三五教の祝詞を奏上して居たために、バラモンに捕へられなさつたとは実に気の毒な事だ。しかしながら御安心なさいませ。キツと貴女の両親は命に別条ありませぬよ。これから私が何とかして救ひ出して貴女にお渡し致しませう』
 女は、嬉し涙を拭ひながら、
『ハイ御親切によう云つて下さいました、あり難うございます。神様に遇ふたやうに存じます。どうぞ憐れな私の境遇、お助け下さいませ。両親はキツと助かりませうかなア』
『キツと助けてみせませう。御心配なさいますな。さうして貴女の両親の名は何と云ひますかな』
『ハイ父の名は珍彦、母は静子と申します。そして私の名は楓と申します』
『さうしてお前の尋ぬる兄の名は何と云ふのかなア』
『ハイ、兄の名は俊と申しました。その兄に廻り会ひたいばかりに、親子三人が広いフサの国を彷徨ひ、漸くライオン河の辺まで参つて……両親は老い、足の歩みも、はかばかしくないので、つひそこへ住居を定めて居たのでございます』
 晴公はこの女の物語を聞き、太き息をつき、口をへの字に結び、目を閉いで、頻りにウンウンと溜息を吐きながら、何か深き考へに沈ンで居る。
 万公は勢ひよく、
『オイ晴公、何だい、こくめいな顔をしよつて、貴様が生ンだナイスぢやないか。仕様もない言霊を出して鬼女を生ンだと思へば何の事はない、天下無双のナイスだ。ちつと噪がぬかい、こンな時こそ貴様の威張る時だよ。

 思ひきや鬼女と思ひしその影は
  譬へ方なきナイスなりとは

だ。本当に貴様は今夜の言霊戦の殊勲者だ。この女を発見して一つ手がかりを得、ランチ将軍の陣営を根底より覆へし神力を現はす機運が向いたのだ。何をウンウンと溜息をつくのだ。ちつと確りせぬかい、エーン』
 晴公は力なげに、
『アヽ済まぬ。どうしたらよからうかなア』
と云ひながら豆のやうな涙をパラパラと降らして居る。折から十八夜の月は、河鹿山をかすめて上り初めた。森の中とは云へ全体的にホンノリと四辺は明くなつて来た。蝋燭の火はつぎ換へられた。
 万公は元気よく、
『何だ晴公、貴様は泣いて居るのだな。三五教の宣伝使の卵が何だ、メソメソと吠面をかわくと云ふ事があるかい。俺が一つ活を入れてやらう確りせい』
と云ひながら拳を固めて二つ三つ晴公の背をつづけ打ちにした。
『今あの楓の云つた兄と云ふのは俺だよ、この晴公だよ』
『何、お前があのナイスの兄貴か、ヨウさう聞くと、どこともなしに似よつた処があるやうだ。もし先生妙な事があるものですな。これもやつぱり神様のお引き合せでせう。晴公がしやうもない言霊を寝もせずに上げて居つたのを見て怪体な男だと怪しみながら寝て居ましたが、矢張り虫が知らしたので寝られなかつたのですな。兄妹の霊魂が交通したのでせうかな。ヤア晴公さまお目出度う。楓さまお目出度う。お祝ひ申します。私の先生もこの松彦さまと久し振りで兄弟の御対面なさつたのだ、何と人間の運命は分らぬものだなア、先生、本当に不思議ぢやございませぬか』
『さうだなア、不思議な事もあればあるものだ。何れ宣伝使になるものは親兄弟に生き別れたり、再び世に立つべからざる運命に陥つた者ばかりが神の恵に救はれて御用をして居るのだから、誰だつてその来歴を洗ひ曝せば、皆悲惨な者ばかりだよ。人間心に立ち帰つて考へ出した位なら一時も心を安むずる事は出来ないのだが、愛と信と神様の光明に照らされて地上の憂さを忘れて居るのだからなア』
と悄然として首垂れる。万公は涙声を態と元気らしく、
『先生貴方からそう悄気て貰つては、吾々はどうするのです。人の心霊は歓喜のために存在すると何時もおつしやつたぢやありませぬか。どうやら貴方は歓喜去つて悲哀来ると云ふ状態ですよ。ちつと確りして下さいな』
『イヤわしは歓喜余つての悲哀だ。つまり有難涙に暮れて居るのだ。神様の御恵を今更の如く感謝して居る随喜の涙だからさう心配をしてくれるな』
『私も歓喜の涙がアンアンアン溢れますわい。オンオンオンオイ晴公、いや俊さま、お前も嬉し涙が溢れるだらう。歓喜の涙なら堤防が崩れる処まで流したらよからう。アンアンアン余り嬉しくて泣き堪能が仕度いわい』
 晴公はまた涙声にて、
『治国別の先生様有り難うございます。どうぞ妹の身の上をよろしくお願ひ致します』
『ウン私も満足だが、お前も嘸満足だらう』
『あなたは兄上でございましたか、妾は楓でござります。ようまあ無事で居て下さいました。どうぞお父さまやお母さまの命を救うて下さいませ。貴兄にこの事さへ知らして置けば楓はこのまま死すともこの世に思ひは残りませぬ、あゝ惟神霊幸倍坐世』
『妹随分苦労をしたであらうなア、俺だとて親兄妹の事を一時も忘れた事はない。雨の晨風の夕アーメニヤの空を眺め、両親は如何に、妹は如何にと、涙の種がつきるほどどれだけ泣き暮らしたか知れない。治国別の宣伝使に拾はれて神様のお道に入り、歓喜の雨に浴し、「かへらぬ事を思ふまい」といつも心を紛らし、馬鹿口ばかりたたいて浮世三分五厘で表面は暮らして居るものの、恩愛の覊はどうしても切る事は出来ぬ。妹、俺も会ひたかつた』
と人目も構はず楓の体を抱きかかへ、一言も発し得ず泣き崩れて居る。勇みをつけむと治国別は立ち上り声も涼しく歌ひ出しぬ。

『朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  曲津の神は荒ぶとも
 誠一つの三五の  教の道は世を救ふ
 神が表に現はれて  善神邪神を立て分ける
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直せ聞き直せ
 身の禍は宣り直せ  天地を造りたまひたる
 誠の神のます限り  信と愛との備はりし
 誠の氏子の身の上を  守りたまはぬ事やある
 晴公楓の両人よ  心安けく平らけく
 神に任せよ千早振る  尊き神の御恵に
 親子兄妹廻り会ひ  天国浄土の楽しみを
 摂受し得るは目のあたり  治国別は三五の
 神の力を頼りつつ  汝等二人の望みをば
 必ず叶へ与ふべし  神は汝と共にあり
 吾等も神の子神の宮  神に任せし身の上は
 如何に悪魔の荒ぶとも  如何でか恐れむ敷島の
 大和心を振り興し  四方の醜草薙払ひ
 天地に塞がる叢雲を  生言霊の神力に
 吹き払ひつつ天つたふ  月の光の清きごと
 天津日かげの照る如く  吾が神力を輝かし
 バラモン教の曲神を  言向け和し歓楽の
 海に真如の日月を  浮べて歓喜の小波に
 この世を渡す法の船  心安けくおぼされよ
 いざこれよりは曲神の  軍の砦に立ち向ひ
 天津御神の給ひてし  生言霊を打ち出して
 天地清浄山川も  木草の端に至るまで
 歓喜の雨に浴せしめ  救ひて往かむ惟神
 神の御前に亀彦が  治国別と現はれて
 偏に願ひ奉る  あゝ惟神々々
 御霊幸はへましませよ。  

 今のぼる月の御光親と子の
  身の行末を守らせたまへ。

 今しばし時をまたせよ楓姫
  珍彦静子の親に遇はさむ。

 たらちねの親の恵は日月の
  空に輝く光なるかも。

 七里を照らすと云へる垂乳根の
  親の光ぞめでたかりけり。

 治国別神の命は村肝の
  心の限り汝をたすけむ』

 楓は唄ふ。

『たまちはふ救ひの神に遇ひしごと
  吾は心も勇み来にけり。

 有難き神の恵に照らされて
  吾父母に遇ふ日待たるる。

 吾兄に思はぬ処で廻り会ひ
  嬉し涙のとめどなきかな。

 三五の神を恨みし吾こそは
  身の愚さを今ぞ悔いぬる。

 垂乳根の親は如何にと朝夕に
  胸迫りつつ神詣でせし。

 父母を奪ひ去りたる曲神を
  憎みしあまり醜業せしかな。

 大空を照らして登る月影を
  見るにつけてもうら恥かしきかな』

晴公『三五の恵の露に浴しつつ
  浮世の夢を覚しけるかな。

 妹と聞くより心飛び立ちて
  抱きつきたくぞ思ひけるかな。

 バラモンに捕へられたる父母の
  身の行末を果かなくぞ思ふ。

 さりながら神の恵は垂乳根の
  身を隅もなく守りたまはむ。

 垂乳根の父珍彦よ母の君よ
  今兄妹が救ひまつらむ。

 さは云へどか弱きわれの力ならず
  産土山の神の恵みに。

 治国別神の司に助けられ
  吾垂乳根を救ふ嬉しさ。

 曲神の如何ほどせまり来るとも
  神の力におひ退けやらむ。

 妹よ心安かれ三五の
  神は吾等を見捨てたまはじ』

楓『有難し兄の命の言の葉を
  胸にたたみて守りとやせむ。

 アーメニヤ恋しき家をふり捨てて
  逍ひし親子の身の果なさよ。

 黄金姫神の司に助けられ
  またもやここに救はれにけり。

 何事も皆神様の御経綸
  見直し見れば憂き事もなし。

 憂き事のなほこの上に積るとも
  何か恐れむ神のまにまに』

松彦『月も日も大空に照る世の中は
  曲のかくらふ隙はあらまし。

 ランチてふ軍の司の前に出て
  生言霊をたむけてや見む。

 愛信の誠の剣振りかざし
  曲のとりでを切りはふりなむ。

 面白しあゝ勇ましき門出かな
  神に仕へし軍司の』

万公『世の中に吾子に勝る宝なし
  珍彦静子の心しのばゆ。

 珍彦よ静子の姫よ待てしばし
  救の神と現はれゆかむ。

 ゆくりなく廻り会ひたる山口の
  森は結びの神にますらむ』

竜公『常暗の森を照らして進み来る
  怪しき影に驚きしかな。

 さりながら世にも稀なるナイスぞと
  悟りし時の心安けさ。

 今となり身の愚かさを顧みて
  顔の色さへ赤くなりぬる。

 吾胸に醜の曲津の潜むらむ
  正しき人をおぢ怖れけり。

 村肝の心に潜む曲神を
  払はせたまへ三五の神。

 治国別神の司に従ひて
  言霊戦に向ふ嬉しさ』

治国別『山口の森に休らひ兄妹の
  名乗りあげたる事の床しさ。

 片彦やランチ将軍何者ぞ
  彼は人の子人の身なれば。

 吾こそは神の御子なり神の宮
  いかで恐れむ人の御子らに。

 さりながら心高ぶる事勿れ
  言霊戦に向ふ人々。

 たらちねの親子兄妹廻り会ひ
  抱き喜ぶ時の待たるる。

 夜や更けぬ月は御空に上りましぬ
  いざいねませよ百の人達』

晴公『神司宣らせたまへる言の葉も
  守るよしなき今日の嬉しさ。

 村肝の心勇みて森の夜の
  明けゆく空を待ちあぐむなり』

楓『なつかしき兄の命よ治国別の
  神の司の御言守りませ

 さりながら妾も心勇み立ち
  ねるに寝られぬ今宵ばかりは』

治国別『兄妹の心はさもやあるべしと
  直日に見直し聞き直しおく

 いざさらば万公五三公竜公よ
  松彦共に一ねむりせよ』

松彦『吾兄の言葉にならひ人々よ
  よくねむりませ寅の刻まで』

 かく歌ひて治国別一行は、やすやすと眠りについた。晴公、楓の兄妹は嬉しさの余り一睡もせず辺りを憚り、ひそびそと長物語を涙とともに語り明かさむとこの場を立出で兄妹は月光を浴びて森の外を逍遥する真夜中、初冬の月は皎々として満天に輝き、この森の外面は白く光つて居る。

(大正一一・一二・八 旧一〇・二〇 加藤明子録)
(昭和九・一二・二七 王仁校正)



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