出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語44-1-41922/12舎身活躍未 滝の下王仁三郎参照文献検索
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第四章 滝の下〔一一七三〕

 初冬の空に輝く月の光は、河鹿川の谷間を落つる屏風のやうな滝に懸つて、玉の如き飛沫をとばし、その飛沫には一々月が宿つて、星の飛ぶやうに見えて居る、ここは祠の森から三町ばかり下手である。滝の音を圧して、大声に笑ひさざめいてゐる三人の男ありける。
『オイ、イクにサール、今晩は怪体な晩ぢやないか。松公さまが兄貴に会ひ、根本の根本から三五教に帰順してしまひ、俺と一緒に巻込まれてしまつたが、しかし考へてみれば危ないものだぞ。何程三五教が、神力が強いと云つても、玉国別、治国別の一行〆て十人以内だ。ランチ将軍の率ゆる、数多の軍勢に進路を遮られ、何時までも袋の鼠のやうに祠の森近辺に退嬰して居つた所で、さう兵糧は続くまいし、今度は計画をかへて、捲土重来と、ランチ将軍が指揮の下に登つて来ようものならそれこそ大変だよ。俺達ア敵に帰順したと云つて、キツと槍玉にあげられるに違ない。三五教に帰順すればバラモン教から睨まれる。バラモン教の方へ行けば三五教から攻められるだらうし、イクにも行かれず、逃げるにも逃げられず、エライ、ヂレンマに係つたものだ。お前達はどうする考へだ』
『このイクさまの肚の中にはイクラも妙案奇策が包蔵してあるのだから、さう悲観したものぢやない。キツと三五教に帰順して居れば活路は開けるよ。この河鹿峠は敵味方勝敗の分るる所だ、がしかしながら、この喉首を三五教に扼されてしまつたのだから、仮令百万の兵士を引つれて、ランチ将軍が登つて来た所で、さう一度に戦へるものでなし、小口から将棋倒しにやられてしまふのは当然だ。それだから身の安全、霊の健全を保つために三五教にスーツパリと帰順したのだ。貴様はまだ迷うてイルのか、信仰心の足らない奴だなア。風呂の蓋でイル時にイラン、入らぬ時に入る代物だよ』
『それだと云つてヤツパリ人は先の事も考へておかねば、サア今となつて周章狼狽した所が、後の祭で仕方がないからのう』
『ともかくも吾々三人をお疑もなく、そこらを遊ンで来いと云つて解放してくだサールような寛大な度量のひろい宣伝使だから、キツと確信があるのだ。モウそンな馬鹿な事はいはずに神様に任しておく方が何程安心だか知れないなア。この滝水を見い、実に綺麗ぢやないか。この真白に光つた清らかな水で心の垢をサールと洗ひきよめ、月の光に照されて、自然の境に逍遥し、三人の親友が仮令半時でも、かうしてゐられるのは全く貴き神様の御恵だよ。あゝ有難い有難い。バラモン教であつたならば、どうして今に帰順した者に対し、自由行動をとらしてくれるものか、これを見ても教の大小が分るぢやないか。第一世の中を刃物を以て治めようなぞとは実に危険千万だ。おりや最う、バラモンのバの字を聞いても厭になつたよ。バのついたものに碌なものはありやしないよ。ババアにババにバケモノ、バクチにバンタ、バリにバカと云ふよなもので、穢い物ばかりだ。皆穴(欠点)のある奴ばかりがかたまつて居るのだからなア、俺だつてバラモン教へ這入つてから、世間の奴や友達に大変に擯斥されたよ。今ぢやバラモン教以外の奴ア サール神に祟りありとか云つて、交際つてくれないのだからなア』
『バラモン教へ入信つてから人が附合はぬようになつたのぢやない、貴様は呑んだくれのバクチ打のババせせりのバカ者だから、世間の奴から排斥され、行く所がなくなつてバラモンへ入信つたのだろ。どうせ、バラモンへ入信るやうな奴ア、皆行詰り者だ。行詰つて約らぬようになつてから、つまらぬとは知りながら入信るのだからなア』
『さういへば、幾分かの真理がないでもないでごサールワイ。しかしながらイルだつて、さうだろ、世の中からゲジゲジのやうに厭がられ、相手がなくて、バラモンへ沈没したのだから、余り大きな声で人の批評はせぬがよからうぞ。この世に用のない人間はバラモンへでも入信つて、日を送らねば仕方がないからなア』
『俺だつて、まだ世の中に必要があるのだ。イル代物だ。それだからイルと名がついてるのだよ。弓もイル、風呂にもイル、人のためには肝もイル。足の裏に豆をイル。……といふ重宝な哥兄さまだ。余りバカにして貰うまいか、こンな事を嬶が聞いたら一遍にお暇を頂戴しなくちやならないワ、なア、イク公』
『貴様偉相に言つてるが、女房がそれでもあるのか、サール事実ありとは根つから噂にも聞いた事がないぢやないか』
『女房が内に要るからイルと言ふのだ。嫁がイル婿がイルといつて、一軒の内にはなくてならぬのだ。しかしながら俺はまだ年が若いから、女房の候補者はザツと二打ばかりあるのだが、まだ金勝要の神とやらが決定を与へてくれないので待命中だ』
『待命中なら月給の三分の二はくれるだらう。チツとサールにも分配したらどうだい』
『イヅレ金勝要神さまだから、金は沢山に持つてござるよ。俺のは一遍にチヨビ チヨビ貰ふのは邪魔臭いから、一時金として頂くように、天国の倉庫に預けてあるのだ。欲しければ貴様勝手に働いて力一杯取つたがよからう、イルだけ取らしてやらう』
 かく話す所へ覆面の男二人、手槍を杖につきながら木蔭よりノソリノソリ現はれ来たり、黒頭巾は大喝一声「コラツ」と叫ぶを、三人は思はず声の方に視線を注げば二人の大男が立つてゐる。
『コレヤどこの奴か知らぬが、イル様が機嫌よく夜遊びをしてるのに、コラとは何だ、一体貴様は誰だい。大方三五教の目付だろ、俺は勿体なくも大自在天様の子分だ。清春山の番をしてゐる、イル、イク、サールのお三体様だぞ。サアこれから貴様等両人をふン縛り、ランチ将軍の前へ連れて行くから、覚悟を致せ』
『今木蔭において汝等三人の話を聞けば、最早三五教に帰順しよつた反逆人、そンな言訳を致して、あべこべにこの方を三五教の捕手呼ばはり致すとは、中々以て世智に丈けた代物だ、サアかうならば最早了見は致さぬ。この方はランチ将軍の目付役アリス、サムの両人だ。俺の武勇は天下に聞えて居るだろ。一騎当千の英傑はアリス、サムの事だ。サア覚悟をせい』
『アハヽヽヽ吐したりな吐したりな。アリス、サムの野郎、グヅグヅぬかすと、生言霊の発射をしてやらうか、モウかうなつてイル以上は隠すに及ばぬ、吾々三人は三五教宣伝使治国別の三羽烏だ。グヅグヅぬかすと手は見せぬぞ』
『何と俄に噪ぎ出したものだのう。そして貴様等三人ばかりここにゐるのか。何か後押する者がなくては、貴様の口からそンな強い事が言へる筈がない。サアその事情を、ハツキリと申上げるのだぞ』
『大に後援者がアリスだ。イルだけイクらでも加勢をして下サールのだから、大丈夫だ。貴様のやうな弱将の下に仕へてゐるイルさまぢやない、サア美事生捕れるなら生捕つてみよ。今俺が呼子の笛を一つ吹いたが最後、数百万の獅子は唸りを立ててこの場に現はれ、汝等が如き弱武者を木端微塵に噛み砕き、谷川を紅に染なすまでの事だ。サア吾々三人に指一本でもさへられるものならさへてみよ』
と捻鉢巻をしながら大の字に立はだかり、槍の切先も恐れず頬桁を叩いてゐる。
 谷道の遥下方より坂を上り来る人声聞え来たるにぞ、アリス、サムを始め、イル、イク、サールの彼我一行は期せずして、その声に耳をすましける。

『高天原の大空に  常磐堅磐に輝ける
 天王星の御国より  下りましたる神柱
 梵天帝釈自在天  大国彦の大神を
 いつき祭つたバラモンの  神の司の此処彼処
 ハルナの都の神柱  大黒主の御言もて
 逍ひ巡る軍人  斎苑の館に現れませる
 神素盞嗚尊をば  屠らむものとハルナ城
 都を後に鬼春別の  大将軍を始めとし
 ランチ将軍その外の  表面ばかりは錚々と
 強さうに見える軍師らが  猛虎の如き勢で
 河鹿峠の急坂を  上りてウブスナ山脈の
 大高原の斎苑館  占領せむと思ひ立ち
 片彦久米彦二柱  先鋒隊の将軍と
 選まれイソイソ進み行く  モウ一息といふ所で
 治国別の言霊に  打たれて脆くも潰走し
 今は是非なく山口の  浮木ケ原の真中に
 俄作りの陣営を  構へて敵を捉へむと
 手具脛引いて待ち居れり  吾れは片彦将軍の
 部下に仕へしテル、ハルよ  負た戦の門番を
 任され酒に酔ひ狂ひ  思はず知らず脱線し
 大黒主の身の上を  口を極めて誹謗する
 その場へヌツと現はれた  大監督のヨル司
 団栗眼を怒らして  片彦下へわれわれを
 引立て行かむと威しよる  此奴ア鰌ぢやなけれ共
 酒でいためてくれむぞと  仁王の如く立つてゐる
 ヨルの左右に葡萄酒の  瓶を見せつけつめよれば
 流石のヨルも辟易し  コローツと参つてしまふたり
 二打ばかりの葡萄酒を  瞬く内に平らげて
 足もよろよろヨルさまは  ヨル辺渚の捨小舟
 殺そと生かそとテル、ハルの  瞬く内に掌中に
 その運命を握られて  くたばり返つた面白さ
 流石のヨルもそろそろと  酒に誘はれ本音をば
 吹出し心の奥底を  物語りたるその時の
 吾等二人の驚きは  譬ふる物もなかりけり
 いよいよこれから急坂だ  テルさまシツカリしておくれ
 オイオイ、ヨルさま気をつけて  紐にしつかり取縋り
 身の安定を保てよや  づぶ六さまに酔ひつぶれ
 二人に舁れて山坂を  登つて行くとはこれはまた
 開闢以来の大珍事  アイタタタツタ躓いた
 オイオイ、テルさまモウここで  ヨルをおろしたらどうだろう
 これから先は馬だとて  容易に登るこた出来ぬ
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ
 旭は照る共曇る共  月は盈つ共虧くる共
 大黒主は強く共  三五教の御道に
 進みし上は千万の  艱難苦労が迫る共
 などや恐れむ敷島の  清き涼しき神心
 滝の流れに身を洗ひ  霊を浄めて休息し
 祠の森に隠れます  神の司の御前に
 進みて行かむ面白や  祠の森に祀りたる
 梵天帝釈自在天  許させ玉へ吾々の
 清き願を一言も  おとさず洩らさず諾ひて
 誠の道に進むべく  守らせ玉へ惟神
 世の大元の皇神の  御前に感謝し奉る
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ』

 ヨル、テル、ハルの三人はランチ将軍の陣営を脱け出し、治国別一行に会ひ、バラモン教の策戦計画を密告し、自分もまた三五教のために尽さむと、酒に酔ひつぶれた監督のヨルを山駕籠にて舁つぎながらやうやう滝の下まで登つて来た。この歌を聞くや否や、アリス、サムの両人は道なき山を駆け上り、何処ともなく姿を隠した。ここに彼我六人はしばし休息の上、祠の森を指して登り行く。

(大正一一・一二・七 旧一〇・一九 松村真澄録)
(昭和九・一二・二二 王仁校正)



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