出口王仁三郎 文献検索

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物語44-1-31922/12舎身活躍未 守衛の囁王仁三郎参照文献検索
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第三章 守衛の囁〔一一七二〕

 浮木が原の陣営にはランチ将軍、片彦、久米彦将軍が、数多の軍勢を集め、幔幕を張り廻し、治国別の進路を要して、手具脛引いて待つて居る。俄作りの陣営の表門にはテル、ハル両人が守衛の役を務めて居る。夜はだんだんと更け渡り雨嵐の声烈しく、立番も漸く飽きが来て、パノラマ式の門側の一間に入り、ポートワインの詰を抜きながら雑談を始めた。
『オイ、ハル公、思へば思へば人生が厭になつたぢやないか、僅三百年の寿命を保つために、こンなしやつちもない人殺の乾児に使はれ、死ンで地獄の成敗を受ける準備ばかりして居るやうな事では困つたものぢや、些は考へねばなるまいぞ』
『何、吾々は、天の八衢に迷うて居るようなものだよ。この通り嵐に雨の激しい事、人生の行路を暗示して居る。ハルも何とか身の振り方を考へたらよからう。しかしながら死後の世界は吾々の目に入らないのだから、有るとも無いとも分らないワ、そンな頼りない事を思つて宗教心を出すと、一日もこの世が恐ろしうて居る事が出来ないわ。まあワインでも呑ンで、空元気でもつけるのぢやなア』
『それでも、バラモン教の大黒主様は、死後の世界が恐ろしいから現在において難行苦行を積み、未来の楽園を楽しめとおつしやるぢやないか、大黒主様がおつしやるのだから決して間違ひはあるまい。吾々は仮令この肉体は現在の此処に置くとも、霊魂の故郷なる天国浄土に復活し、永遠無窮の生命を保ち、無限の歓喜を味はひたいからバラモン教のためだと思うて、テルもこんな人殺の軍人に使はれて居るのだが、こンな事やつて居ても天国へ行けるだらうか、テルはその点が気にかかつてならないのぢや、大雲山に現はれたまふ、大自在天大国彦命様の御気勘に叶うだらうかなあ』
『世の中には裏もあれば表もあるよ。打ち割つて言へば大雲山は荘厳無比の神聖なる神様の霊場だが、しかし内実は恐るべき地獄のやうな所で、いろいろと難行苦行を強られ骨を砕き身を破り、荒行の結果中途に死ンだやつは皆骨堂に骨を祀られて居るぢやないか。あの骨堂を有り難がつて拝みに行くやつの気が知れないぢやないか。バラモン教の骨堂と修業場とお札は実に印度人のために大恐怖の源泉だよ。力の弱い無知識の人間に、死と云ふ恐怖心をもたせて生の自由を束縛して居るのだ、大雲山またはハルナの都の大黒主に所謂神権の存在するのは、これあるがためだよ。かかる虚偽的な空漠な権威をもつて、無知識なる人間の心をとらへ、さうして、宗閥、宣伝使の一統は、多数人民の膏血を絞る手段として居るのだ。バラモンのお札は宗教界の不換紙幣とも云ふべきものだ。バラモン教は恐怖をもつて人類の膏血をしぼる恐るべき社会の地獄と云ふものだ。印度の国民は一人も残らず、この地獄に陥落して居るのだ。それだから三五教と云ふやうな誠の救世教が興つて来たのだ。大黒主は大雲山の骨堂に等しい牢獄とお札に等しい不換紙幣をもつて絶対権威の維持につとめて居るのだから、矢張八岐大蛇の再来と云はれても仕方がないわい。そこを三五教が看破して居るのだから偉いものだよ。河鹿峠の言霊戦に遇つた時には僅か三人の敵に対して三四百の騎馬隊が潰散した事を思へば、到底バラモン教等は三五教の敵で無い事は明白だ、俺等はこンな吹き放しの野営の門番をさせられて居るが、もしや治国別の一行が攻めて来たら一番に正面衝突をするのは、貴様と俺だ。オイここは一つ相談だが大将は皆気楽に寝て居るだらうから、今の中に脱営して治国別の宣伝使に帰順し命を助けて貰ふ方が余程当世流だよ。一つしかない命を捨てた所が、大黒主様の国妾養成所の国妾学校を立派にするやうなものだ。実に馬鹿らしいぢやないか、エーン』
『オイ ハル公、国妾学校と云ふ事があるかい、あれは国立女学校と云ふのだ、立と女と貴様は一つに読むから国妾なぞと読めるのだよ。余程文盲の代物だなア』
『それだから文盲省の許可を受けて立てて居るのぢやないか、妾もない事を云ふない。大黒主の大将は幾十人とも知れぬほどの沢山の女をかかへ、朝から晩まで糸竹管弦の響に心腸を蕩かし酒池肉林の楽しみに耽り利己主義を発揮して居るぢやないかい、テル公』
『そりや仕方がないさ、カビライ国の浄飯王の悉達太子でさへも美姫三千人を侍らしたと云ふぢやないか、大黒主が五十人や六十人の女房もつたつて何がそれほど不思議なのだい。今頃の女は一人前の女房にする女が無いから、数十人を集めて初めて一人の仕事をさすのだ。第一に寝間の伽をする奴、炊事を司る奴、裁縫を司る奴、機を織る奴、会計を司る奴、下僕を追ひ廻す奴と云ふやうに、今の女は、専門的だから到底一人で女房の本職が尽せぬからだ。現代の博士だつてさうぢやないか、部分的の専門学より知らないのだからなア、理学なら理学、文学なら文学、法学なら法学、ただそれ一つを掴へて朝から晩まで頭を痛め、書物と首つ引きで居るものだから遂に頭脳の変調を来し、やつと博士か馬鹿士になるのぢやないか、総て世の中はこンなものだよ、ハル公』
『オイ貴様の名はテルなり、俺の名はハルなり照国別、治国別の三五教の宣伝使の頭字を取つて居るのだから、何か因縁があるのに違ひない。キツと此処を飛び出して行けば許してくれるに相違ないから行かうぢやないか、行くなら今の中だからなア』
『ハル公、貴様余程御幣舁ぎになつたと見えるな、大雲山が余程こたへたと見えるわい、あゝ何だかタンクが破裂しさうだ、売買契約の破棄をやつて来うかなア』
『テル、貴様は軍人で居ながら、内職をやつて居るのか、そんな事が聞えたら大変だぞ』
『貴様の薄野呂には俺も感心した、売買契約の破棄と云ふ事は小便すると云ふ事だよ、ハル公』
『アハヽヽ、それなら大ウン山と、キツパリ断つて来い、その方が大便利かも知れないぞ、屁のやうな理屈をブツブツたれて居た処でつまらぬぢやないか、何程偉相に云つたところが、暗黒無明の世界に湧いた人間よ、余程、智者ぢや学者ぢやと云つた所が俺達の百万倍の智慧のある人間でもやつぱり人間は人間だ、人間の暗い知識では一匹の蝗に一瞬間の生命を与へる事すら出来ないのだ、放屁一つでさへ、自分の放らうと思ふ時に註文通り放る事の出来ない不都合極まる人間だからなア、アハヽヽヽ』
『ウフヽヽヽ』
 かく両人が、他愛もなく笑つて居る。そこへやつて来たのは片彦将軍のお近侍のヨルである。ヨルは雨嵐の音を圧するやうな蛮声で、
『これやこれや両人、守衛も致さず勝手気儘に酒を喰ひ何を喋つて居たのだ。これから片彦様のお耳に入れるから覚悟を致せ』
と声高に罵るにぞ、テル公は頭を掻きながら、
『ハイ、一寸小便の話をやつて居つたところです。序に大便も放屁も話頭に上りましたが、別にそれ以外に六ケしい話もございませぬ、なあハル公、さうぢやつたぢやないか』
『ウンその通りその通り、いやもう、糞食時に飯の話をしられて、いやどつこい小便呑み時に酒の話をしられて、イヤもう気分の悪い事ぢやわい、エヘヽヽヽ』
『これやこれや両人、俺を何と心得て居るか、全軍の監督ぢやぞ』
『監督はよく分つて居りますわい、燗徳利ぢやとよろしいが、こいつはポートワインだから、冷徳利だ。しかしそンな六ケ敷い顔をせずに一つ召上がつてはどうですか、テルが酌をしませう、いや呑みやがつたらどうですか、御神酒上らぬ神はないと云ひますぜ』
 ヨルは呑みたくて堪らぬのを耐へて、態と声高に、
『その方は酒をもつてこの方をたぶらかし、悪事の露顕を防がうと致す、憎くき門番、そンな話ぢやなからう。国妾学校について大変な、酷評をして居たぢやないか、事にヨルと貴様の首が危ないぞ』
『それだからテルとハルの首のある中に一杯でも呑ンで置かねば損ですからなア、まあ一つ聞召せ、随分気がはんなりと致しますよ』
と云ひながら鼻の先につきつくれば、ヨルは腹の虫がクウクウと催促をする。
『これやこれや些心得ぬか、戦陣で酒は禁物だぞ。さうして貴様達は、照国別、治国別に帰順しようと話して居たではないか。その方は隠謀未遂罪だから、これから片彦将軍の前に引き立てる、神妙に手を廻せ』
『承知致しました。何時でも手も足も廻しませう。今晩はどうせテルの笠の台が飛ぶのだから、冥土の土産に、も一杯呑まして下さい。そして貴方も生別死別の盃をして下さいな』
『その方が、この世の別れとあれば役目とは云ひながら呑ンでやるのも一つの情ぢや。よし差支ない、いや苦しうない、注がして遣はす』
 ヨルの喉はクウクウと二人の耳に聞えるほど催促をして居る。二人は瓶のキルクを態とに暇を入れて抜いて居る。ヨルは呑みたくて耐らず、人が居らねば飛びつきたいほどになつて居る。
『これやこれや、何をグヅグヅ致して居るか、早く詰を取らないか』
『そんな殺生な事を云つて下さるな、たつた今首の飛ぶ人間ぢやありませぬか。素盞嗚尊様かなんぞのやうに爪を取るなぞとそんな二重成敗をするものぢやありませぬよ』
『つめを取ると云ふ事は早くキルクを抜けと申す事ぢや』
『たうとう時節到来、酒瓶の首がキルクと抜けよつた。サアサアお上り遊ばせ、随分いい味がしますよ』
『早く注がないか、ヨル監督に対しては、別に礼式も何もいつたものぢやない、こんな戦陣にあつては上下の障壁を取り、何事も簡単に手取り早くやるものぢや』
『そんなら、このままラツパ呑とお出かけになつたらどうですか』
『戦陣にあつてラツパのみとはこいつは面白い、ラツパの一声で三軍を自由自在に動かすのだからなア、武道の達人が葡萄酒を呑むのは合つたり叶つたりだ』
と云ひながら、ハルがキルクを抜いた酒瓶を一ダースばかりつづけざまに呑み干してしまつた。忽ちヨルは足を失ひヨロヨロとしながら二人の前にドスンと倒れ、
『あゝ、そこらがなンとはなしにポーとして来た。これだからポーとワインと云ふのだなア、何と酒と云ふものは怪体な代物だナ、俺はもう軍人が嫌になつた。オイ、テル、ハル、このヨルさま等がヨルに紛れてこの場をテル、そしてハルバルと、斎苑の館へ帰順と参らうぢやないか、エーン何だかこの頃は俺も実の処はバラモン教がいやになつた。三五教の三人や四人の宣伝使に言霊を打ち出され人馬諸共逃げ散るとは実に情なくなつて来た。これを思へば、実に三五教の神様は天のミロク様、バラモン教の神様は大蛇の乾児様位に違ひないよ、こンな事をして居ると終には地獄の釜炙ぢや。テル、ハル貴様も同意見だらう』
『そいつは何とも明言し兼ねますわい、人の心は分りませぬからな、ウツカリした事は言へませぬぜ、ヨルさまお前さまは俺達二人をとつ捕まへて片彦将軍の前につき出し手柄をする心算だらう、しかし賤しい酒に喰ひよつて身体が自由にならないものだからそンな事をいつて俺達の機嫌を取つて居るのだらう。そンな事にチヨロまかされるやうなテル、ハルさまぢやありませぬぞえ』
『さう貴様が疑へば仕方がない、しかしながら俺は決して、酔うては居るが酒呑み本性違はずと云うて嘘は云はない、貴様達二人をとらまへようと思へば何でもない事ぢや、己が懐にもつて居る合図の笛さへ吹けば、何十人でもこの場へ出て来るのだから』
『さうすると、矢張り本音を吹きよつたのだな、ヨシヨシ ヨルも矢張り吾がテル党の士だ。これで三人揃うた。天地人、日地月、霊力体だ、御三体の神様だ。三人世の元、結構々々こンな結構が世にあらうか、どうだ三角同盟の成立した祝に土堤切り発動して見ようぢやないか』
『そいつは一寸待つてくれ。こンな所で噪いで居ては見つかつては大変だ。オイ今の中に此処にあるだけの酒を背に負ひ、夜に紛れて祠の森まで行つて見ようぢやないか。グヅグヅして居ると大変だからのう』
『テルの目からは、ヨルさま、お前その足許であの山路が行けるかい、危ないものだぞ』
『俺は動けなくても構はないぢやないか、貴様達二人の足さへ達者であれば、山駕籠に乗せて舁ついで行けばよいのだ。幸ここに山駕籠が四五挺ある、これを一挺何々して俺を乗せるのだなア』
『何と甘い事をおつしやるわい、しかしながら逃げ出すのは今晩に限る、仕方がない、オイ、テルさま ヨルさまを舁ついで夜の山道を上つて行かうぢやないか、河鹿峠に往けば最早安全地帯だからなア』
 ここに三人は一挺の駕籠を盗み出し、ヨルを乗せテル、ハルの両人は面白可笑しき歌を小声に喋りながら、ソツと浮木が原の陣営を脱出し、河鹿峠の祠の森をさして進み往く。月は黒雲の帳を破つて三人の頭上をニコニコ笑ひながら覗かせたまふ。

(大正一一・一二・七 旧一〇・一九 加藤明子録)
(昭和九・一二・二一 王仁校正)



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