出口王仁三郎 文献検索

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物語43-5-171922/11舎身活躍午 反歌王仁三郎参照文献検索
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第一七章 反歌〔一一六八〕

 イルの案内で松公、竜公両人は岩窟の奥の間に行つて見ると伊太公、サール、イクの三人が一生懸命に組み付き合ひを始めて居る。サール、イクは伊太公を牢獄へ打ち込まうとする、伊太公は這入らうまいと抵抗する、揉み合ひの最中であつた。松公はこれを見て、
『コラコラ、待て』
と呶鳴りつけた。イク、サール二人はこの声に驚いて、パツと手を放した。
松公『コリヤ両人、大切な客人を掴へて何を打擲致すのか』
イク『へえ、イクイクイクら這入れと云つても此奴頑固で這入らぬものですから一寸イクサールをやつて居りました』
サール『なかなか剛情な奴でございます。この伊太公はチツとイタい目に合はしてやらねば懲りませぬからなア。イクとサールと両人が伊太公に向ひ臨時イクサールをやつて居つた処でございます。牢の中へ行けと云ふのにイクとか行かぬとか云ふものですから、いや、もう偉い骨を折りました』
松公『大変に酩酊してるぢやないか。その足許は何だい』
 両人一度に頭を掻きながら、
『ハイ』
と云つて蹲まる。
 松公は言葉を改め、
『貴方は伊太公さま、玉国別様のお供のお方、えらい昨夜は御無礼致しました。今日はお迎へに参りましたからどうぞ私について祠の森まで帰つて下さいませ』
伊太公『ヤアお前は昨夜俺をフン縛つた奴だな、またしてもひどい目に会はす心算だらう。俺やもう此処へ来た以上は動くのは嫌だ。そんなむつかしい顔せずに一杯やつたらどうだ。伊太公はこの岩窟の主人公だ。遠慮はいらぬから、サアサア飲んだり飲んだり、世の中はさう七六つかしくやつた処で同じ事だ。人に憎まれてこの世を送るよりも四海同胞主義を発揮して互に人間同志睦み親しみ手を引きあうて渡つたらどうだ。ちつぽけな人間同志が戦をしたり喧嘩をしたりしたつて、はづまぬぢやないか』
松公『イヤどうも恐れ入りました。先づ先づ御壮健なお顔を拝しこの松公もやつと胸を撫で下ろしました。此処に居るのは竜公と申しまして私の義弟です。つまり女房の兄弟ですからな、何分よろしく可愛がつてやつて下さいませ』
伊太公『何が何だか、チツとも訳が分らなくなつて来た。一体松公とやら、お前は何処の人だ』
松公『ハイ、私の生れはアーメニヤです』
伊太公『何、アーメニヤですと、そら妙だ。三五教にはアーメニヤ出の立派な宣伝使が沢山居られますよ。私の先生の玉国別さまもアーメニヤ生れなり、まだ外にも沢山にアーメニヤの方が居られますよ』
松公『私は三五教の宣伝使治国別の弟でございます。何とぞ御入魂に今後は願ひたいものです』
伊太公『成るほど、さう聞けば治国別様に生写しだ。何と妙な処でお目にかかつたものだな』
松公『その治国別は今祠の森に玉国別さまと休んで居ります。しかしながら私がバラモン教に仕へて斎苑の館へ攻め寄せる軍の中へ加はつてゐたものですから、どうしても兄貴は名乗つてくれないのです。「お前の誠が現はれたら」と申しますので、こりやどうしても伊太公さまをここに隠した罪を詫び玉国別さまに貴方をお渡しせねば許してくれないと合点して二人が取る物も取り敢ず、お迎へに参つた次第です』
伊太公『ヤア、それは奇縁ですな。さうして治国別、玉国別の両宣伝使は機嫌はいいでせうかな』
松公『どちらも機嫌がよろしい。しかしながら玉国別さまは少しお怪我を遊ばしたさうで気分が悪さうにして居られました』
伊太公『ア、それは心配な事だ。そんならお供をしようかな』
 此処に松公、竜公、伊太公を始め外三人は岩窟を後にし、清春山の峻坂を下り行く。伊太公は先に立ち歌ひ始めた。

『雲の帯をば引きしめて  中空高く聳えたる
 清春山に来て見れば  景色は四方に展開し
 広袤千里の彼方には  大山脈がうすうすと
 幻の如横たはり  見渡す限り黄金の
 錦の野辺となりにけり  祠の森に息休め
 吾師の君と諸共に  一夜を明かす折もあれ
 人馬の物音かしましく  谷道さして登り来る
 スワ一大事バラモンの  枉神なりと耳すませ
 月に透して眺むれば  祠の前に人の影
 駒の嘶き騒がしく  人員点呼の声までも
 高く聞えて何となく  腕は呻り肉踊り
 この伊太公は忽ちに  吾身を忘れ杖を揮り
 群がる軍に突進し  足踏み外し谷川へ
 落ちたる隙を無残にも  高手や小手に縛られて
 名も恐ろしき岩窟に  連れ来られしぞ果敢なけれ
 悪鬼羅刹の集まりて  吾を虐待するものと
 心を定め来て見れば  豈図らむや三人の
 男は忽ち打ち解けて  酒倉開き胡床かき
 四人一所に向ひ合ひ  秋の夜長をヱラヱラと
 歓ぎ楽しむ面白さ  案に相違の伊太公は
 心の腹帯ゆるみ出し  三五教やバラモンの
 教の蘊奥を談りつつ  漸く一夜を明したり
 かかる所へ入口に  突然聞ゆる人の声
 イルの司は驚いて  松公大将がやつて来た
 しばらくお前は牢獄へ  這入つてくれえと頼めども
 神の使の吾々が  汚れ果てたる牢獄に
 どうして忍び入られうか  イクとサールの両人が
 力限りに伊太公を  投げ込みやらむとする故に
 伊太公は是非なく逆らひて  揉みつ揉まれつする折に
 松公さまが入り来り  万事の事情判明し
 こんな嬉しき事はない  これもやつぱり三五の
 尊き神の御恵み  ウントコドツコイ ドツコイシヨ
 河鹿峠の急坂も  ここほどきつい事はない
 何故またこんな難所をば  バラモン教はドツコイシヨ
 選んでゐるのか気が知れぬ  馬も通はぬ高山に
 砦を構へて何にする  あゝ惟神々々
 神の御稜威の現はれて  敵と思ひし松公に
 会ひたい見たいと恋慕ふ  玉国別の御前に
 連れて行かれる事となり  手の舞ひ足の踏む所
 知らぬばかりになつて来た  あゝ勇ましし勇ましし
 神は確に天地の  中に居ますと云ふ事は
 これでも確に分るだらう  これこれ松公竜公さま
 その外三人の番卒よ  これから心を改めて
 誠の道に立ち帰り  救ひの神と現れませる
 神素盞嗚大神の  御前に誠を捧げつつ
 神の御子と生れたる  その本分を務めあげ
 ヤツトコ ドツコイ ドツコイシヨ  この世を去りしその後は
 千代万代の花開く  無上天国浄土へと
 上り行くべきその準備  やつておかねばならないぞ
 物言ふ暇も死の影は  吾等の周囲につきまとふ
 口ある内に神を称め  手足の働くその中に
 誠の行ひ励みつつ  天と地との経綸に
 任ずる身魂となりませよ  あゝ惟神々々
 神の御前に伊太公が  誓ひて汝に宣べ伝ふ
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 ウントコ ドツコイ ドツコイシヨ  仮令大地は沈むとも
 この世を救ふ生神は  国治立の大御神
 豊国主の大御神  神素盞嗚の三柱ぞ
 この大神を差措いて  吾等を助くる神はない
 天教山や地教山  コーカス山やウブスナの
 山に建ちたる斎苑館  霊鷲山や四尾山
 所々に神柱  配りて世人を救ひ行く
 三五教は天下一  世界に目出度き教なり
 祈れよ祈れ皆祈れ  朝な夕なに慎みて
 信仰怠る事勿れ  あゝ惟神々々
 御霊幸ひましませよ』  

と歌ひながら時雨のまぜつた晩秋の風に面をさらしつつ、さしもに嶮しき清春山を下り行く。

(大正一一・一一・二八 旧一〇・一〇 北村隆光録)



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