出口王仁三郎 文献検索

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物語43-4-141922/11舎身活躍午 忍び涙王仁三郎参照文献検索
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第一四章 忍び涙〔一一六五〕

 祠の前には四人の敵味方頤の紐を解いて他愛もなく笑ひ興じてゐる。
五三公『ヤア随分バラモン教にも面白い男が混入してゐるね。俺も今日は本当に睾丸の皺伸しをしたよ。旅と云ふものは愉快なものだなア』
マツ公『俺だつてこんな面白い動物に出会つたのは今日が初めてだ。チツトも戦争気分がせないわ。まるで喜劇をロハで見てゐるやうだつた。一層の事、俺も秘書役を止めて喜劇師となりハルナの都の大劇場で一つ腕を揮つて見度くなつた』
五三公『そりや貴様のスタイルと云ひ、饒舌と云ひ、気転の利く点から滑稽諧謔を、のべつ幕なしに吹き立てる点は随分見上げたものだ。屹度千両役者になれるかも知れぬよ』
マツ公『ナーニ駄目だ。斎苑の館を千両(占領)役者と出掛けた処、こんな嵐に吹き散らされ、惨めな敗軍をやつたのだからな』
五三公『さうだから貴様は軍人には適しないのだ。どうしても役者代物だよ』
マツ公『さうかな、何だか俺もさう聞くと役者を志願したくなつた。こんな殺風景な、何時首が飛ぶかも知れぬやうな危険千万な商売は嫌になつてしまつたよ』
五三公『そんなら俺と此処で会うたのも何かの因縁だらうから、一つ奮発して改心とでかけ三五教の宣伝使のお供となつたらどうだ。修業が出来た上はまた宣伝使となれぬとも限らぬからな』
マツ公『ヤ、三五教の宣伝使のお供も駄目だ。猿に目を引かかれたり、捕虜にせられて岩窟の中へ打ち込まれるやうな事になると、さつぱり詮らぬからな、アハヽヽヽ』
 純公は膝をにじり寄り、グツとマツ公の右手を握り声を慄はして、
『何、貴様、誰にそんな事を聞いたのだ。チと可笑しいぢやないか。何もかも此処で白状しろ』
マツ公『誰にも聞きやせぬわい。宣伝使のお供して居た伊太公を捕虜にして訊問した所、俺の先生の玉国別さまは猿に目を引掻かれたと白状したのだよ』
純公『その伊太公は一体何処に居るのだ。貴様知つてるだらう。サア早く白状せぬかい』
マツ公『そりや知つてる。しかしながら片彦将軍から秘密を守れと云はれてゐるのだからどうしても所在は云ふ事は出来ないわい。しかしながら生命には別条ないから安心するがよからう。彼奴は何でも尋ねされすればベラベラ喋るから大変重宝だと云つてバラモン教の連中が岩窟に入れ毎日酒を飲まして酔はして斎苑館の秘密を皆して聞く事にしてゐるのだ。あんなに口の軽い奴は本当に困つたものだね。尋ねもせぬのに猿に掻かれた事もベラベラ喋つてしまつたのだ。さうだから片彦将軍も久米彦将軍も玉国別が負傷したと聞いて大安心の体で河鹿峠を登つて行つたのだ。さうした処が前門の狼は弱りよつたが後門の虎に出会し昨日のあの敗軍だ』
純公『何と貴様も尋ねもせぬ事に秘密をベラベラ喋るぢやないか。伊太公以上だぞ』
マツ公『ナニ、かうして貴様等と兄弟同様になつたのだから、それ位の秘密は喋つたつていいぢやないか。怪我もしとらぬ足を癒してくれた親切なお前だからな、アハヽヽヽ』
五三公『そこまで打解けた以上は伊太公の所在を知らしてもいいぢやないか。どつと奮発して祠の神様へ寄附すると思つて伊太公の所在を奏上せぬかい。御神殿に……エーン』
マツ公『オイ、タツ公、どうしようかな。何だか片彦将軍に済まないやうな気がするぢやないか』
タツ公『ウン何だか不徳義のやうで言はれないな。秘密の守れぬやうな男は男子でないからな』
純公『そんな出し惜みをせずに打たぬ博奕に負けたと思つてどうだ、アツサリと云つてくれたら。俺だつて友達の難儀をジツとして見逃す訳にも行かぬからな』
マツ公『ウン、云つてくれと云ふのなら言つてやつてもいいが、最前のやうに頭抑へに白状せいなどと呶鳴りつけると、俺だつて少し腹に虫があるから、云ひたくても云へぬぢやないか』
純公『いや済まなかつた。そら、さうぢや、人間は感情の動物だからな、矢張穏かに下から出て掛合ふのが利益だな』
マツ公『ハヽヽヽヽ、到頭兜を脱いでマツ公さまの軍門に降ると云ふ場面だな。ヨシヨシお前がさう出りや俺だつてまんざら悪人でもない事はないから人情に絆されて、チツと位は知らしてやつてもいいわ。しかしながらこのマツ公は云はない。俺の肉体に憑依してゐる邪霊が云ふのだからな。今後屹度マツ公に聞いたなんて云つちや不可いよ。悪神の守護神に聞いたと云つて貰はぬと困るからな』
五三公『アハヽヽヽ、中々うまくやりをるわい。流石は片彦将軍の秘書役だけあるわい。何につけても巧妙なものだ。いやこの五三公も大に感服仕つた』
マツ公『オイ、俺はバラモン教の片彦将軍の、やつぱり部下だから三五教のお前達に云ふ訳にや行かない。何程邪神だつて俺の体に憑いてゐるのだから直接三五教には明されない。ともかくこの祠の神様に御祈願するからその祝詞を拝聴する方がよからう。一寸待つてくれ、谷川へ下りて口を濺ぎ手を洗つて来るから』
と云ひながらただ一人谷川へ下り立ち、口や手を清め再びこの祠の前に帰つて来た。マツ公は二拍手再拝終つて祝詞を奏上し始めた。
『掛巻も畏き祠の森に宮柱太敷建て高天原に千木高知りて堅磐常磐に鎮まり給ふ大自在天大国彦の大前にバラモン教の軍の司、千歳の緑栄えに栄ゆマツ公矣慎み敬ひ畏み畏みも白す。抑秋の紅葉は色づき初め小男鹿の妻恋ふ河鹿山の水清き谷川の辺、十月十六日の朝日の豊栄昇りに願ぎまつる。大黒主の神の大御言を蒙りて斎苑の館に鎮まり給ふ神素盞嗚尊を言向和し糺めむとランチ将軍を初めとし片彦、久米彦将軍、征討に百の軍を従へて上りましき。先鋒隊として両将軍は十五日の夕間暮、月の輝き渡る祠の前に進みまし、しばし息を休らひ兵士の数を調べ進軍の御歌を歌ふ折しも、森の木蔭より現はれ出でたる、三五教の伊太公伊、物をも言はず軍の群に打ち入り縦横無尽に荒れ狂ひ、恨めしくも片彦将軍を打ち奉りたれば馬は驚きて跳ね廻り飛び上り将軍は佐久奈多里に道の辺に落ち給ひぬ。スワ強者現はれたりと、おのれマツ公はその強者に組みつき高手小手に縛め三人の軍人に護らせて、教も清晴の山の岩窟に隠しおきぬ。掛巻も畏き皇大神、厳の御魂を照らさせ給ひて吾捕へたる伊太公を何処までも敵の手に帰らざるやう守り幸へ給へ。また大黒主の軍人共は一人も過ちなく平けく安らけく守らせ給ひて、大黒主の御前に復言申させ給へと鹿児自物膝折伏鵜自物頸根突抜天畏み畏みも祈願奉らくと白す。かなはぬからたまちはへませ、ポンポン』
純公『イヤ斎主御苦労でございました。あゝ貴方の熱誠な御祈願に感じ純公大明神もその願事を隅から隅までお聞きなさつたでせう、アハヽヽヽ』
マツ公『エー、時にお前等の先生はどうなつたのだ。根つから其処辺にお姿が見えぬぢやないか』
純公『この森のチツと向ふに治国別の宣伝使、玉国別の宣伝使と共に三人の俺達の友達と休息して居られるのだ。何なら面会したらどうだ』
マツ公『イヤ、そりや願うてもない事だ、おいタツ公、どうだ。一つ拝顔の栄を賜つたら』
タツ公『そいつア有難いなア。何程神力の強い恐しい宣伝使だつて、よもや吾々を頭から噛りもなさるまいからな』
五三公『何、頭から直にかぶりなさるぞ』
タツ公『ヤアそりや大変だ。まるで狼のやうな宣伝使だな』
五三公『きまつた事だよ。大神の教を伝ふる宣伝使だもの。頭からかぶらいでどうして役が勤まろかい』
タツ公『ヤアそいつア大変だ。おいマツ公、御免蒙つて退却しようぢやないか』
五三公『アハヽヽヽ頭からかぶると云ふのは宣伝使の必要な古代冠だよ』
タツ公『なんだ。吃驚させやがつた。俺だつて口からかぶるよ、無花果や林檎位なら、アハヽヽヽ』
純公『オイ、お前達二人は何処ともなしに親しみのある男だ。何れバラモン教へ這入つた位だから一通りではあるまい。一つ経歴談でも聞かしてくれないか』
マツ公『ウン、俺の生れはな、実はアーメニヤだ』
五三公『何、アーメニヤ?』
マツ公『ウン、そのアーメニヤが不思議なのか』
五三公『実の所は俺の先生も純公の先生も生れはアーメニヤだからな』
マツ公『アーメニヤの生れならウラル教ぢやないか。それがまた三五教の宣伝使になつてゐるのか。俺もアーメニヤの生れだが三五教は今におき、一人も居やせぬ。チツと可怪しいな』
五三公『俺の先生はな、今迄は亀彦さまと云つてウラル教の宣伝使だつたのだ。さうしてウラル彦の神様の命令で竜宮の一つ島へ三年も宣伝に行つてござつた所、さつぱり駄目になつて帰る途中フサの海で難風に会ひ三五教の宣伝使日の出別に助けられ、それから国許へも帰らず三五教になつてしまはれたのだ。そりや何とも神徳の高い先生だぞ』
マツ公『何、ウラル教の宣伝使で竜宮の一つ島へ宣伝に行つて居つた? はてな、そしてその名が亀彦と云ふのか』
五三公『ウンさうだ。随分以前は面白い人だつたさうだ。今こそ真面目臭つて偉い人だがな』
マツ公『そのお連れの名は聞いてゐるのか』
五三公『ウン、聞いてゐる。梅彦に岩彦、鷹彦、音彦、駒彦、そこへ俺の先生の亀彦様と六人連れだ。半ダース宣伝使と云つて随分名高いものだつたらしいぞ』
マツ公『その亀彦宣伝使はこの森の中に休んでゐられるのか』
五三公『ウン、居られる』
マツ公『一遍会ひたいものだな』
五三公『お前はまた先生の事云ふと顔色まで変へて熱心に尋ねるが何か縁由があるのか』
マツ公『有るの無いのつて、その亀彦さまなら俺の永らく尋ねてゐる兄さまだよ。今はこうしてバラモン教に這入つてゐるが、もしや兄さまの所在が、何かの機に分りはせぬかと、そればつかり苦にしてゐるのだ。アヽ有難い、その亀彦は俺の兄さまに違ひない。アヽ惟神霊幸倍坐世』
と声まで曇らせて感謝の意を表するのであつた。五三公は忽ち声を張り上げて歌ひ出した。

『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 それのみならず三五の  吾等を守る神様は
 親兄弟の所在をば  いと審に知らします
 森の木蔭に憩ひたる  吾師の君よ亀彦よ
 地異天変も啻ならぬ  突発事件が出来ました
 さあさあ早く腰上げて  祠の前に出でませよ
 思ひもよらぬ松さまが  トボトボ此処に現はれて
 亀彦さまに会ひたいと  両手を合して待つてゐる
 あゝ惟神々々  神の恵は目のあたり
 バラモン教の片彦が  一方の腕と仕へたる
 神の司のマツさまは  吾師の君の弟に
 間違ひないと知れました  治国別の宣伝使
 何はともあれ逸早く  祠の前に下り来て
 別れて程経し兄弟の  目出度き対面なされませ
 この五三公も嬉しうて  手の舞足の踏む所
 知らぬばかりになりました  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 兄弟二人のその縁由  なかなか尽きは致すまい
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直し宣り直す
 三五教の神の道  仮令マツ公バラモンの
 神のお道にあればとて  改心したれば天地の
 清き氏子に違ひない  吾師の君よ逸早く
 此処までお出で下さんせ  歓天喜地の花開く
 前代未聞の御慶事が  今目の前に展開し
 面白う嬉しうなりまする  貴方に仕へし五三公が
 真心籠めて願ひます  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』  

と歌つてゐる。
 森の木蔭に息を休めてゐた五人の男、五三公の高らかに歌ふ声に耳を澄ませてゐる。
晴公『モシ先生、あの歌の声は五三公でせう。何だか妙な事を云ふぢやありませぬか』
治国別『ウン、何だか合点の行かぬ事を云つてゐるやうだ』
晴公『先生貴方は兄弟がおありなさるのですか』
治国別『ウン、あると云へばある、ないと云へばないやうなものだ』
晴公『それでも今五三公の歌に先生の弟が来たから会つてやつてくれえと云つてるぢやありませぬか』
治国別『さう云つたやうだな。どうしても合点のゆかぬ話だ。しかしながら日頃念ずる神様のお蔭で兄弟の対面をさして下さるのかも知れない』
と言葉も静かに落着き払つてゐる。
玉国別『治国別さま、どうも私は御兄弟が見えたやうな気がしますがね。しかしながら御兄弟とすればどうしてこんなバラモン教の軍隊の中を潜つて来られたのでせうか』
治国別『大方バラモン教へでも落ち込んでゐたのでせう。何だか最前から純公や五三公の笑ひ声が聞え、また外に二人ばかりも笑ひ声が聞えてゐたやうです。どうもあの声に何だか聞き覚えがあるやうに思ひましたよ』
 かく話し居る所へスタスタとやつて来たのは狼狽者の五三公であつた。五三公は上り坂で苦しかつた息を喘ませながら、
『セヽヽ先生、最前から……私があの通り大きな声で……歌つて知らしてゐるのに、何を愚図々々して居られるのだ。サア早く来て下さいな。偉い事になりましたぞ。それはそれは吃驚虫が洋行するやうな突発事件ですわ。サア早う下りて下さい。そしてまた伊太公の所在が分りました』
 玉国別は慌てて、
『何? 伊太公の所在が分りましたか。ヤアそれは有難い』
治国別『俺の弟が分つたと云ふのか』
五三公『分つたも分らぬもあつたものですかい。最前からあれほど八釜しう騒いでゐるのに貴方は何を愚図々々してゐるのですか。サア早く来てマツ公さまに喜ばしてやつて下さい』
 治国別は平然として少しも騒がず、笑ひもせず、別に喜びもせずと云ふ態度で、
『ウン、弟が分つたら、それでいい。やつぱりこの世に生きて居つたかな』
五三公『何と先生は兄弟に水臭い人ですな。兄弟は他人の初まりとか聞きますが如何にも古人は嘘は云ひませぬな。あれだけ焦れ慕うて久し振りに兄さまの所在が分り飛びつき武者振りつきしたいやうに思つてござるのに、旃陀羅が榎で鼻を擦つたやうな事をおつしやつちやマツ公さまの折角の期待を裏切ると云ふものだ。も少し優しく云つて下さいな。エー私までが悲しくなつて来た』
治国別『何はともあれ祠の前まで下る事としよう。ヤア玉国別さま、三人の者共ボツボツこの天然別荘を出立する事にしようかなア、アハヽヽヽ』
 玉国別、治国別は悠々として四人と共に森の坂道を下り祠の前に着いた。
純公『ヤア、治国別様、お目出度うございます。貴方の御兄弟が分りました。サアどうぞお名乗りをなさいませ』
 治国別は以前の如く冷然として、
『アヽ左様か、大変な御看病に預かつたさうだな。マツ公さまの仮病も全快しただらう。白十字病院も余程繁昌してゐたさうですな』
純公『モシ先生、そんな洒落はどうでもよろしい、弟さまですよ。早くお名乗なさらぬか』
治国別『左様、弟に間違ひはあるまい。別に名乗る必要もないから』
玉国別『ウフヽヽヽ』
道公『此奴ア、妙なコントラストだ、アハヽヽヽ』

(大正一一・一一・二八 旧一〇・一〇 北村隆光録)



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