出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語43-2-91922/11舎身活躍午 輸入品王仁三郎参照文献検索
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第九章 輸入品〔一一六〇〕

 月照り渡る森の木蔭に小声で話し合つて居る二人があつた。これは玉国別、純公の二人なる事は云ふまでもない。今迄銅色の雲の衣をかぶつて居た円満具足の望の月は心ありげに二人の対話を窺くものの如くであつた。数十間隔たつた祠の森の辺りには二三人の男の笑ひ声が聞えて来た。
純公『先生、この殺風景な魔軍の通つた後に、何とも知れぬ砕けたやうなあの笑ひ声、修羅道の後へ歓楽郷が開けたやうな光景ぢやありませぬか。極端と極端ですなア』
玉国別『ウン、窮すれば達す、悲しみの極は喜びだ。喜びの極みはまた悲しみだ。祠を中心に何か喜劇が演ぜられて居ると見える。あの笑ひ声を聞くと私の頭痛も拭ふが如く消え散つてしまつたやうだ。凡て病に悩む時は笑ふのが一番ぢや。大口をあけて他愛もなく笑ひ興ずるその瞬間こそ無上天国の境涯ぢや。ヤア私も何となく面白くなつて来た。アハヽヽヽ』
純公『ヤア初めて麗しき月の大神様のお顔を拝したかと思へばまたもや先生の玲瓏玉の如き温顔に笑ひを湛へられた所を拝みました。何だか私も嬉しく勇んで参りました。アハヽヽヽ』
玉国別『あの大きな笑ひ声は、どうやら道公の声のやうだつたなア』
純公『似たやうな声でしたな。あの男があれだけ大きな声で笑つたのは今が聞初めです。しかし、なぜ貴方の御命令通り手を拍たないのでせうか。察する処バラモン教の奴、酒にでも酔つぱらつて凱旋気分になり哄笑して居るのぢやありますまいかな』
玉国別『さうではあるまい。道公も矢張笑ひの渦中に投じて居るのだらう』
純公『かう平和の風が祠の近辺に吹いて居るのに、いつまで此処に楽隠居して居た処で仕方がありますまい。バラモン教の軍隊が治国別様の言霊に打たれて遁走して来るのにもう間もありますまい。ともかくもあの祠を指して参りませうか。ヤア手が鳴りました。あれはキツと道公の合図でせう。サア参りませう』
玉国別『そんなら行かう』
と立ち上り、二つの笠は空中に二本の杖は白く月に照りながら地を叩いて下つて往く。
 祠の前には、ニコニコした顔を月光に曝し、道公がただ一人踞んで居る。
純公『オイ道公さま、お前一人だつたか』
道公『ウン合計〆て一人だ。何も居ないよ。あいさに木の葉がそよ風に吹かれて何だか訳の分らぬ事を、舌を出してペラペラと喋つて居よるが、俺の耳には植物の声はトンと聞えないわ』
純公『お前一人で二人も三人もの声を一時に出したのか、余程器用な男だねえ、先生様のお越しだ。挨拶をせぬか』
道公『今其処で別れたばかりぢやないか。師弟の間柄、十間や二十間分れたつて七六ケ敷う挨拶が要るものか。そんな繁文縟礼の事をやつて居ると埒は明かないぞ。先生、貴師は私の心を御存じでせうね』
玉国別『ウンよく分つて居る。時に道公誰も居なかつたか、二人ばかり居つただらう』
道公『ハイ、猿の子孫が〆て二人ばかり祠の前に犬踞ひになつて唸り合つて居りましたよ。私の神力で、とうとう笑ひ散らしてやりました。アハヽヽヽ』
玉国別『アヽ月の光を浴びながらこの祠の御前を借用して敵軍の帰り来るのを待つ事にしよう』
と云ひながら祠前の恰好の石に腰打ちかけた。
道公『オイ、今二人の奴の話を聞けば伊太公はどうやら敵の捕虜になつたらしいよ。しかしながら、今となつては悔んでも及ばぬ事だ。この後吾々は伊太公を救ふため、友人の義務を尽さうではないか』
純公『さうだなア、仕方がないなア。神様が伊太公にも御守護を遊ばすからさう悲観するにも及ぶまい』
道公『これから半時以上も、こんな所でチヨコナンとして狛犬然と待つて居るのも気が利かぬぢやないか。月の光を浴びながら、谷川へ下りて水でもいぢつて来るか、さうでなければ昔話でもして時の到るを待つたらどうだ』
純公『それでも先生様が沈黙を守れと堅くおつしやつたぢやないか』
道公『モシ先生、あんまり黙言て居ますと、口の中で蜘蛛の巣が張ります。また耳の穴にも棚蜘蛛が巣をかけますから蜘蛛払ひのために少し昔話でもさして下さいな。手なと足なと、口なつと赤坊のやうに始終動かして居らねば虫の納まらない厄介の奴だから、どうか広き心に見直し聞直し、ここは一つ宣り直しを願ひます』
玉国別『ウンそれも差支へはない。しかし言霊戦の準備は整うて居るかな』
道公『プロペラーも、余り長らく使用しないと錆がついて思ふやうに円滑に回転しませぬから、言霊戦の予行演習だと思つてチツと発声機関を使用さして下さい』
玉国別『ウンよしよし、もうしばらくすれば実戦期に入るのだからそれまで何なりと話したがよからうぞ』
道公『オイ純公、忽ち願ひ済みだ。サア最早誰人に遠慮も要らぬ、天下唯一の雄弁家道公さまが布婁那の弁を縦横無尽にまくし立てるから、聞き役になつてくれ。そして間さには、ウンとか、なるほどとか、その次はどうなつたとか云うてくれなくては旨く話の結末がつかないから頼むよ。先づ俺の若い時のローマンスでも陳列してお慰みにお耳に入れることにしよう』
純公『オイ、道公、お前のやうな青瓢箪に目鼻をつけたやうな男でも矢つ張りローマンスはあるのか、妙だねえ』
道公『余り馬鹿にして貰ふまいか、蛇の道は蛇の道の道公様だ。種々の素晴しい歯の浮くやうな道行話が胸中に満ち溢れて居るのだ。俺ばかり宝の持ち腐りをして居ても天下国家のためにならないから、一つ此処で祠の森の神様に奉納の積りで余興に昔語りをやつて見るから謹んで拝聴せよ。エヘン抑この道公さまの御年十八才の頃、俺の生れ在所にホールと云ふ素的滅法界の美人があつたのだ。そした所が、そのホールさまが、乳母と一緒にオペラパツクを細い腕にプリンと提げ、シヨールに蝙蝠傘を携へ裾模様に梅の花を散らした素晴しい衣装をお召しになり桜見物にお出なさつたのだ。その時俺はまだ十八の色盛り顔の艶も好く、ブラリブラリと公休日を幸ひ片手を懐に入れ握り睾丸をしながら桜のステツキの乙に曲つたやつを小脇に挟みやつて行つたと思ひ給へ。さうすると彼方にも此方にも、瓢箪酒を呑んで居る三人五人七人の団隊があつたと思ひ給へ。ウラル教の奴も、バラモン教の奴も沢山居たと見えて「飲めよ騒げよ一寸先は闇よ、闇の後には月が出る。月は月でも縁のつき」だなんてぬかしやがつて、ヘベレケに酔つて居る。そこへホールさまが花も恥らふ優姿、乳母に手を曳かれ天教山の木花姫様のやうなスラリとした姿でお出なさつた。そこへまた道公さまが最前いつたやうな意気な姿でブラついて居た様は実に詩的だつたネー。まるで画中の人のやうだつたよ。ホールさまは、何奴も此奴も妙な顔をして酒に酔ひ喰つて居るのを打ち眺め、梅花の露に綻ぶやうな優しい口許で「ホヽヽヽヽ」と笑ひたまうたと思ひたまへ。さうすると酒喰ひの奴、そろそろお嬢さまを見て喰つてかかつたのだ』
 純公は道公の話に釣り込まれ、思はず知らず膝を寄せ目を丸くしながら、
『エ、それからその後はどうなつたのだ、早く云はないか』
道公『この先は天機漏らすべからずだ。これからが肝腎要の正念場だからな。オイ袖の下の流行する世の中だ。こんな神秘的の話を聞かうと思ふなら、些酒代をはり込め、ハルナの大劇場だつてこんな実歴談は聞く事は出来ないぞ』
玉国別『アツハヽヽヽ』
純公『サア早く次を云はぬかい。もどかしいぢやないか』
道公『後はどうなりますか。また明晩のお楽しみと云ふべき処だが、どつと張り込んでこの後を漏らさうかなア、エヘヽヽヽヽあゝ涎の奴、主人公の許しも得ずに自由自在に迸出せむとする不届きの奴だ。エヘヽヽヽもう云ふまいかな。イヤイヤ矢張祠の森の神様に奉納すると云うたから出惜みをしては済むまい。エヘヽヽヽしかりしかうして泥酔者の中から顔一面に熊襲髯を生し、目と鼻とのぐるりばかり赤黒い肌を現はした大男がムツクと立ち上り、姫様の首筋をぐつと鷲掴み「コリヤ阿魔つちよ、何だ失礼な、この方が折角機嫌よく酩酊して居るのに何がをかしいのだ、エーン俺の面を見て笑うたが笑ふに付けては何か訳があらう。サア貴様の手で俺に一杯酒をつげ」とかう大きく出やがつたのだ。ホールさまは忽ち顔色を変へ「アレ恐い乳母どうしようか」とおろおろ声を出して狼狽廻つてござるのだ。大の男は益々威猛高になり「俺を誰だと思つて居る。おれこそは月の国にても名の売れた色の黒い純公だぞ、繊弱い阿魔つちよに嘲弄されてどうして男が立つか。サア神妙に酌をせい」と吐かすのぢや、ホールさまは一生懸命「アレ恐い 助けて 助けて」と悲しさうな声を出して叫ばれたのだ。さうすると其辺中に酒に酔つて居た泥酔者が「ヤ何だ何だ、喧嘩だ喧嘩だ」と姫様と純公の廻りを取り巻く、その光景と云つたら実に物々しいものだつた。殆ど蟻の這ひ出る隙もないまでに、寄つたりな、寄つたりな、人の山。そこでこの道公は「まつた まつた、しばらく待つた」と大手を拡げ、捻鉢巻をグツと締め、二人の中に割つて入る。純公は怒り立ち「どこの何者か知らないが、邪魔をするとおためにならないぞ」と白浪言葉で睨めつける。俺もさる者日頃覚えた柔道百段の腕前で純公の素つ首引とらへ、空中目蒐けて、プリン プリン プリンと投げやれば、遉の大男も草原へドスンと転落し、痛いとも何とも云はず、恨めしげに後を眺めてスゴスゴと帰つて往つた愉快さ、心地よさ。今思うてもなぜあんな力が出たかと不思議のやうだ。そこでホールさまはどうしてござるかと四辺を見れば、乳母に手を引かれ人込を押わけサツサと逃げて往かれる。後姿を見て俺も何となく、人の居るのも構はず、指を銜へ伸びあがつて見て居たよ』
純公『アハヽヽヽ、骨折り損の疲労儲けと云ふ幕が下りたのだな。大方そんな事だらうと思うて居た。お気の毒様、ウフヽヽヽ俺だつたら、も一つ進んで優しい姫様の口からお礼を云はすのだが、お前は矢張気が弱いと見えるのう。ウフヽヽヽ』
道公『何これで終極ぢやないよ、これからが正念場だ。エヘヽヽヽ、それからな、俺も何となく聊か恋慕の心が起り、も一度天女のやうなホールさまのお顔が見たいと、どれだけ気を揉んだか分らない。しかし名に負ふ富豪、隙間の風にさへ当てられないで育つて居るお嬢さまだからどうしても遇ふことは出来はしない。いろいろと考へた結果俺はそこの風呂焚に入つたのだ。即ち三助に入り込んだのだ。さうすればいつか姫様のお顔を拝する事が出来るであらうと思うたから、エーン』
純公『何と気の弱い奴だな。俺だつたら、「先日は甚いお危ない事でございましたね。別にお身体にお障りはございませぬか。花見の時お嬢様が悪漢にお遇ひなされた時お助け申した私は道公だ」と両親に名乗り優しい姫様の手からお茶の一杯も汲んで貰つて来るのだに、貴様は薄惚だから殆ど掌中の玉を失うて来たのだ。そんな失恋話は好い加減に切り上げぬかい。徒に時間を空費するばかりぢや』
玉国別『オツホヽヽヽ』
道公『これからが三段目だ。確かり聞かうよ。風呂焚きの三助に入り込んで丸に十字のついた法被を着用に及び、姫様が今日は入浴か、明日は入浴かと待つて居たが、豈図らむやその風呂は上女中の入る風呂で、姫様は根つから覗きもしない。その時の俺の失望と云つたらあつたものぢやない。エーン』
純公『アハヽヽヽ、梟の宵企み、夜食に外れたと云ふ光景だな。ウフヽヽヽ』
道公『コリヤ、あまり軽蔑すな、まだ先があるのだ。かくの如くにして、三助を勤むる事満一年に及んだ暁、お嬢様は隣国のペンチ国のある富豪の家へお嫁入りと云ふ事になつたのだ。「アヽしまつた。こんな事なら一年も三助をするのぢやなかつたに、お声も聞かねばお姿も見ず杜鵑よりも酷い」と歎き悲しんだのも夢の間、番頭のテンプラ奴が「一寸三助お前に用があるから此方へ来い」と云うて来よつた。何事ならむと稍望みを抱きながら、恐る恐るテンプラの前に罷りつん出ると思ひも掛けなく、「お嬢様のお嫁入りだから貴様駕籠舁にいつてくれないか」とお出なさつた。「ヤレ嬉しや、願望成就時到れり」と二十遍も首を縦に振り「御用を承はりませう」と云つた処、その翌日いよいよお嫁入りの段となつた。駕籠にお這りの時のお姿を見た時は魂奪はれ、魄消えむと思ふばかり、殆ど卒倒しかけたよ。それからお姫様の駕籠を相棒の奴と舁ぎながら歌うて見たのだ。その歌がまた奇抜だつたよ。

 俺は十八お嬢さまは十七の花盛り  一人の乳母に手を曳かれ
 梅を散らした裾模様  黒縮緬の扮装で
 ぞろ ぞろ ぞろと桜見に  お越しなさつたその時に
 彼方に五人此方には  また七人と酒を呑み
 呑めよ騒げよ一寸先暗夜  闇の後には月が出る
 月はつきだが縁のつき  ウントコドツコイ ドツコイシヨ
 髯武者男の純公が  花も恥らふお嬢さまを
 とつ捕まへて酌せいと  駄々を捏ねたる最中に
 飛んで出たのは俺だつた  純公の奴めが腹を立て
 武者振りつくのをとつかまへ  習ひ覚えた柔道で
 ウンと一声なげやつた  空中二三度回転し
 命辛々逃げて往く  後振りかへり眺むれば
 ホールの姫は逸早く  乳母にお手を引かれつつ
 館をさして帰り往く  あれほど美しいお姫さま
 も一度お顔が拝みたい  何とか工夫はないものか
 手蔓を求めて三助と  なつて月日を待つ中に
 思ひも掛けぬ御結婚  あゝ是非もなし是非もなし
 爺が鳶に油揚  もつていなれた心地して
 せめては駕籠の御供を  さして貰つたを幸ひと
 此処迄ウントコついて来た  ウントコドツコイ ドツコイシヨ

と足に合せて唄つたら、駕籠の中から細い涼しいホールさまの声として、「この駕籠一寸待つた。俄にお腹が痛み出したから、今日の結婚嫌だ嫌だ 帰る」とおつしやつてお聞きにならぬ。サア大変だ、結婚の途中お姫様が引返したのだから、どつちの家も大騒動、それからとうとう駕籠は家に帰り、奥の間にサツサとお姫さまは腹痛も忘れて入つてしまつた。よくよく聞けば「あの駕籠舁きと夫婦にしてくれねば妾は死ぬ」と駄々を捏ねたと思ひ給へ。サアこれからがボロイのだ。とうとう俺はホールさまの座敷に呼び入れられ、山野河海の珍肴、姫の細い白い手でお酌をして貰ひ、初めて結婚の式を挙げて夫婦となり、沢山の財産を与へて貰ふ事になつたのだ。さうすると、月に村雲花に嵐、姫様と俺と盃を交はして居る所へ、阿修羅王の荒れ狂ふが如く入つて来たのは純公だつた。サア此方の襖は叩き毀す、火鉢をなげつける。乱暴狼藉、そこで俺も、も一度姫に吾手並を見せておく必要があると思ひ、「サア来い来れ」と手を拡げた途端、目が醒めたら、何の事だ、破れ小屋の二畳敷で汗ビツシヨリかいて夢を見て居たのだつた、アハヽヽヽ』
玉国別『ウツフヽヽヽ』
純公『ワハヽヽヽ、馬鹿にするない』
道公『何、バラモン国から直輸入したばかりの舶来品の卸し売りだ、アハヽヽヽ』

(大正一一・一一・二七 旧一〇・九 加藤明子録)



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