出口王仁三郎 文献検索

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物語43-1-41922/11舎身活躍午 玉眼開王仁三郎参照文献検索
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第四章 玉眼開〔一一五五〕

伊太公『思ひきや きや きや きやと泣く猿に
  キヤツといふ目に会はされるとは』

道公『コリヤコリヤ伊太公、気楽相に狂歌所かい。宣伝使様が今日か明日か知らぬよな目に会はされて苦んでござるのに、何を呆けてゐるのだ。サ、早く谷川へでも下りて清水を汲んで来い。俺は御介抱を申上げるから……』
伊太公『そんならお前達両人に、先生の御介抱を頼む事にしよう。俺はこれから谷水を汲んで来るワ』
といひながら、水筒をブラブラブラ下げ、谷川さしておりて行く。
伊太公『ヤア此所に綺麗な水が流れてゐる。これを汲んで洗つて上げたらキツと癒るだろ。

 山猿に掻きむしられて何もかも
  水の御霊の救ひ求むる。

 この水は神の恵の露なれば
  今日は見えると言ひたくぞある。

 谷川に落ち込み水を汲みに来た
  深き心を汲ませ玉へよ。

 このみづは眼ばかりか命まで
  救ひ助くる恵の露ぞ。

 惟神神の光の現はれて
  玉国別の眼照らせよ。

 みず知らず懐谷の山猿に
  掻きむしられし事の悔しさ。

 さりながら神の使命をおろそかに
  いたせし罪の報い来しにや。

 時置師神の命が現はれて
  心の眼開き玉へり。

 待てしばしぐづぐづしてるとこぢやない
  早く眼をあらはにやならぬ。

 伊太公の目は大丈夫さりながら
  師の君見る目いたいたしく思ふ』

と口ずさみながら、清冽なる秋の谷水を水筒に盛り、一刻も早く玉国別を助けむと、小柴や茨を掻きわけ、息をはづませ登り行く。玉国別は両眼より血を垂らしながら、布にて血糊を拭き取り、手の掌を両眼にあてて痛さをこらへて俯いてゐる。道公、純公は、
『サア大変々々』
と慌てふためき、うろたへ廻つて、チツとも間しやくに合はない。
玉国別『道公、水はまだか。伊太公はまだ帰らぬか』
道公『ハイ山路をタツタツタと下つて行たきり、今に至り姿を見せませぬ。先生がこれほど傷で困つてござるのに……エヽ気の利かぬ奴ですワイ。オイ純公、貴様何をウロウロしてゐるのだ。早く伊太公の水の催促に伊太々々』
純公『エヽ洒落どころかい。大変な目に会うて吾々は進路に迷うてゐるのだ。一寸先は真暗やみだ。そんな気楽なことどこかいやい』
かかる所へ伊太公はフースーフースーと鼻息荒く登り来り、
伊太公『アヽ大変遅くなつてすみませぬ。一刻の間も早く帰りたいと思ひ、気をあせればあせるほど、キツい坂で足がずり、漸くここまで到着致しました』
道公『オイ早く水筒を出さぬかい。根つから持つてゐないぢやないか』
伊太公は腰のあたりを探りながら、『アツ』と一声打驚き、
伊太公『ヤア大変だ。余り慌てて、谷底へ水を汲んだなり忘れて来たのだ。オイ道公、貴様早く取つて来てくれぬかい。先生の痛みが気の毒だから、早く目を冷さぬと段々腫れて来ちや大変だ』
道公『エヽ慌者だなア、どこらに置いておいたのだ。それをスツカリ言はぬかい』
伊太公『谷川と云つたら、山の谷を流れる川だ。その水を汲んでチヤンと砂の上においてあるのだ。サア早く行かぬかい。一分間でも先生の苦痛を助けにやなるまいぞ』
純公『オイ伊太公、貴様が置いといたのだから、貴様が行かなグヅグヅ捜してゐる間がないぢやないか。本当に困つた奴だな。丸で雉子の直使だ。水を汲みに行つたつて、持つて帰らにや何になるものか』
伊太公『貴様、水を汲んで来いとぬかしたぢやないか。別に持つて帰れとまでは言はぬものだから忘れたつて仕方がないワイ。オイ純公、貴様も来てくれぬかい。実の所はどこで落したか分らぬのだ。二人よつて鵜の目鷹の目で、小柴の中や枯草の間を捜し求めて見つけて来うぢやないか、……モシモシ先生様、モウしばらくの御苦痛、どうぞ御辛抱下さいませ。誠に気の利かぬ男でございまして、御心中お察し申します。コラ、道公、何を呆けてゐるのだ、早く御介抱を申さぬかい』
道公『介抱せいと云つたつて、仕方がないぢやないか。俺やここで猿の再襲来を防禦してゐるから、貴様等両人、水筒捜しに行つて来い』
 伊太公、純公両人はブツブツ呟きながら、小柴を分けて水筒の落ちた場所を探しに行く。漸くにして一丁ばかり下つた所に、水筒は落ちて居た。しかしながら入口を下に尻を上に落したのだから、一滴も残らず吐き出してしまひ、空水筒となつて、天下太平気分で横はつてゐる。
伊太公『エヽ気の利かない水筒だな、落ちるのなら何故上向けに落ちないのだ。折角俺が呑ましてやつた水を、皆吐き出して……何と都合の悪い時にや、都合の悪いものだなア。オイ純公、仕方がない。マ一度谷底まで一走り行つて来うかい』
純公『さうだなア。水筒が見つかつた以上は貴様一人でいいのぢやけれど、元来が慌者だから、また道で落しよると何にもならぬ。俺が監視役として従いて行てやらう』
 純公は水筒を懐にねぢ込み、急坂を小柴を分け、草に辷りながら、伊太公と共に深き谷底に下り立ち、清泉をドブドブドブと丸い泡を立てさせ、口まで満たした。

純公『すみ切りしこの谷水を水筒に
  呑ませて帰る身こそ嬉しき。

 伊太公が折角汲んだ谷水は
  水泡となりて消え失せにける』

伊太公『俺だとて落す心はなけれ共
  目に見ぬ智慧を落したるらむ。

 落したる瓶を拾うて音彦の
  眼を洗ふわれおとましき』

純公『さア早う伊太公の奴よついて来い
  眼伊太公と待つてござるぞ』

と云ひながら、またもや急坂を攀ぢ登り、漸くにして玉国別の傍に着き、水筒の水を手にすくひ、玉国別の両眼を念入りに洗滌した。
玉国別『アヽ有難い、これでスツカリ目の痛みが止まつたやうだ』
伊太公『先生、痛みが止まりましたか、それは何より嬉しい事でございます。しかし明りは見えますかな』
玉国別『イヤ痛みは余程軽減したやうだが、チツとも見えないワ』
道公『エヽ何とおつしやいます、お目が見えませぬか、コリヤ大変だ。大西洋の真中で蒸気船の機関が破裂したよなものだ、これから俺達はどうしたら良からうかなア』
玉国別『心配してくれな。物のあいろは分らぬが、ボンヤリとそこら中が明く見えるやうだ。何れ熱が下つたら、元の通りになるだらう。これといふのも吾身の安全を第一として烈風に恐れ、肝腎の神様に祈願することや言霊を以て風神を駆逐することを忘れてゐたその罪が報うて来たのだ。実によい教訓を受けたものだ。せめて北光神様のやうに一眼なりと開かして下されば、結構だがなア』
 道公はつくづくと玉国別の両眼を打ち眺め、
『ヨウこれは思つたよりも大疵だ。モシ先生、右の目はサツパリ潰れてしまつてゐますよ。まだも見込のあるのは左の目ですよ』
玉国別『左の目は日の大神様、右の目は月の大神様だ。月の国へ魔神の征服に出陣の途中、月の大神に配すべき右の目を猿に取られたのは、全く神罰に違ない。まさしく坤の大神様が、吾目をお取上げになつたのだらう、あゝ惟神霊幸倍坐世』
道公『オイ伊太公、純公、コリヤかうしては居られまい、これから三人は谷底へ下つて一生懸命に水垢離を取り、先生の目の祈願をさして頂かうぢやないか』
 かく話す折しも、下の谷道を宣伝歌を歌ひつつ東北指して登り行く一隊があつた。これはケーリス、タークス、ポーロの一行が照国別の信書を携へ、斎苑館に修行に向ふのであつた。
道公『ヤアあの声は三五教の宣伝歌ぢやないか。モシ先生、キツとあれは吾々の味方に違ありませぬ。一つ後追つかけて、貴方の眼病を鎮魂して貰ひませうか』
玉国別『苟くも宣伝使の身を以て、山猿に眼を掻きむしられ、どうしてそんな事が、恥しうて頼めるものか。何事も神様にお任せするより道はないのだから、御親切は有難いが、それだけはどうぞ止めてくれ』
道公『それだと申して、危急存亡の場合、そんな事が言うてゐられますか。今となつては恥も外聞もいつたものぢやございませぬ。何程神徳高き宣伝使でも、怪我は廻りものですからそれが恥になると云ふ事はありますまい。オイ伊太公、純公、何をグヅグヅしてるのだ。千危一機のこの場合に泣く奴があるかい。早く宣伝歌の声を尋ねて頼んで来ぬか』
伊太公『それもさうだ。オイ純公、お前も御苦労だが、俺に従いて来てくれ』
純公『ヨーシ、合点だ。急かねばならぬ、急いては事を仕損ずる。気をおちつけて、ゆるゆる急いで行かう』
道公『どうぞさうしてくれ。サアサア早う早う、手を合はして、今日は俺が頼むから』
玉国別『コリヤ三人、どうしても俺のいふ事を聞かぬのか、俺に恥をかかす積りか』
 道公は頭を掻きながら、
道公『ダツて貴方、これがどうして安閑として居られませうか』
玉国別『神様の教に、人を杖につくな、身内を力にするな……といふ事がある。俺の目は俺が神様に祈つて何とかして貰ふから、どうぞそれだけはやめてくれ、頼みだから』
道公『オイ伊太、純、どうも仕方がないぢやないか』
伊太公『俺達の先生だもの、俺達三人が神様に祈つて直して貰へばいいのだ。外の宣伝使に先生の恥を曝すのも済まないからなア』
 玉国別は天に向つて合掌し、天津祝詞を奏上し、……国治立大神の神名を称へて、罪を謝した。その詞、
『高天原の主宰にして、一霊四魂三元八力の大元霊にまします大国治立大神様、私は貴神の尊き霊力体を賦与せられ、この地上に生れ来て、幼少の頃よりいろいろ雑多の善からぬ事のみ致しまして、世を汚し、道を損ひ、人を苦め、親を泣かせ、他人に迷惑をかけ、しまひの果にはウラル教の宣伝使となり、日の出別神様に救はれて一人前の宣伝使として頂きました。かかる罪深き吾々をも捨て玉はず、きため玉はず、広き厚き大御心に見直し聞直し詔直し下さいまして、尊き宣伝使にお使ひ下さいました事は、罪深き吾々に取つては、無上の光栄でございます。かかる広大無辺なる御恩寵に浴しながら、知らず知らずの間に慢心を致し天下の宣伝使気分になつて、世の中の盲聾唖躄などを癒やし助けむと、勇み進んで此処まで参りました事を、誠に恥かしく存じます。今日只今山猿の手を借つて、吾々の両眼を刔出し、汚れたる心を清め、曇りたる心の眼を開かせ、身霊を明きに救ひ玉ひしその御恩徳を有難く感謝致します。人間の体は神様の生宮とある以上は何処迄も大切にこの肉体を守らねばならないのでございますが、自分の心の愚昧より大切なる肉の宮を損ひ破り、吾々の霊肉を与へ下さいました貴神様に対してお詫の申上げやうもございませぬ。誠にすまない無調法を致しました。仮令玉国別両眼の明を失する共、せめては心の眼を照らさせ下さいますれば神素盞嗚大神様よりよさし玉ひし吾使命を飽迄も果たし、斎苑の館に復命をさして頂く考へでございます。この上は御無理な願は決して致しませぬ。何卒々々惟神の御摂理によりて、御心のままにお取成し下さいますやうに謹んで御願を申上げます』
と願ひ終り、両眼より雨の如く涙を流してゐる。三人もこの有様を見て、思はず落涙にむせび、大地にかぶり付いて感謝の祈願を凝らしてゐる。玉国別は尚も一生懸命に、天地の大神に対し、懴悔の告白をなしつつあつた。不思議や左の目は俄に明くなり、四辺の状況は手に取る如く見えて来た。玉国別は嬉し涙に咽びながら、またもや拍手再拝して神恩を感謝する。
玉国別『イヤ道公、伊太公、純公、喜んでくれ。どうやら片眼が見え出したやうだ。神様は罪深き玉国別を助けて下さつた。あゝ有難し有難し』
とまたもや合掌。三人はこの言葉に驚喜し、
『あゝ有難し勿体なし』
と一斉に合掌し、勢込んで再び天津祝詞を奏上し始めた。あゝ惟神霊幸倍坐世。

(大正一一・一一・二六 旧一〇・八 松村真澄録)



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