出口王仁三郎 文献検索

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物語42-4-161922/11舎身活躍巳 失恋会議王仁三郎参照文献検索
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第一六章 失恋会議〔一一四一〕

 右守の館の奥の一間には、サマリー姫とサモア姫の二人が、この頃右守司の行動の何となく遽として落着きのないのに心を痛めつつ、密々と前後策を攻究しつつあつた。
『サモア殿、其方はこの頃の父上の御様子に就て、何か不思議に思ふ事はないか、私何ンだか心配になつて仕方がないのよ。母上がハルナ国へ御出陣になつてからは、家を外にして出歩き通し、家事一切は其方除けの有様、それに合点の行かぬは俄に髪を揃へたり髯をいぢつたり、男の癖に顔に白粉を塗つたり眉を揃へたり、衣服を毎日着替へたり、まるで若い男のするやうな事ばかりして居られるぢやありませぬか。大方ヤスダラ姫さまに口先でチヨロマカされて、アンナ狂気じみた事をなさるのぢやなからうかと、案じられて仕様がありませぬよ』
『私の察する所では、旦那様はどうやらヤスダラ姫様に恋慕遊ばされ、現をぬかして居らつしやるやうに思はれます。マンモスの話から考へて見ると、旦那には大変な悪魔が付けねらつて居るやうですわ。コリヤどうしても姫さまから一応御諫言をして戴かねば、到底私なぞが御諫め申上げてもダメですわ』
『困つた事がで来ましたなア。父は到底私どもの言ふ事は耳に入れる気遣ひはないから、旦那様の御信任厚きユーフテスから申上げるやうにしたらドンなものだらうかな』
『それは全然ダメでせうよ。ユーフテスが旦那様の精神を混乱させたのですもの』
『あのユーフテスが? そんな事を父上に勧めたのかい。何ンとマア悪い男だなア。これからユーフテスを呼び出して厳重に調べて見ませう。コレコレ、マンモス、其処に居ないか、一寸用事がある。早く来て下さい』
と呼ばはる声に襖を押開けて入り来るはマンモスであつた。彼は二人の密談を不道徳にも隣室に息を殺して立聞きして居たのであつた。
『姫さま、御呼びになつたのは私でござりますか。何なりと、御用を仰せ付け下さりませ』
サマリー『アヽマンモス、偉う早いぢやないか。大方最前からの二人の談話をすつかり聞いてしまつたのだらう』
『ハイ御推量に違はず、一切の経緯を残らず承はりました。実に困つた事になりましたねえ。これと云ふも全くユーフテスのなす行で、決して旦那様の心より出た事ではありませぬ。それだからマンモスが何時も旦那様や奥様始め姫様にも申上げたでせう。ユーフテスは実に右守家の爆裂弾だから、一時も早く放逐遊ばし、彼の代りにこのマンモスを御採用下されと。私は決して私利私欲に駆られて人を落し、自分が出世をしようと思ふやうなケチな心ではありませぬ。只々お家の大事を思へばこそ、死を決して御忠告申上げたのです』
『ともかくもお前御苦労だが、父上の在処を一時も早く探つて連れ帰つておくれ。愚図々々しては居られないから』
『エヽ承知致しました。しかしながら今日は貴女様の予ての御許しのサモア姫と改めて夫婦の結婚をなすべきマンモス一生の大事の日でござりますから、何卒この御用はハルマンに申付けて下さいませ。私一生の祝日ですから、今日一日や二日に旦那様がドウカウといふ訳でありませぬからなア』
『コレコレ マンモス、お前とそんな約束は私はした覚はない。神妙に忠義を竭した暁は、都合によつたらサモア姫のやうな美人をお前の女房にしてやらうと言つたまでだよ。かう言ふと済まぬが、先達てのやうに左守の邸宅へ忍術を以て忍び込み、下手をして捕へられ、男らしくもない、主人に頼まれた秘密まで悉皆敵方に打明けて、生命を惜み逃げ帰つて来るやうな卑怯な男には、何程サモア姫だつて愛想を尽かさずには居られないぢやないかえ。モウそんな野望は思ひ切つたがよからう。第一家筋からして段が違つてるのだから』
『ハイ宜敷うございます。一寸の虫にも五分の魂、月夜ばかりぢやありませぬ。暗の夜もありますから、随分御注意なさいませ。サマリー姫様、サモア殿、左様なら』
と凄い文句を残してスタスタと足音荒く表を指して出て行つた。
 後見送つて両人は、しばし茫然として居た。
『オホヽヽヽ何と男の恋に呆けたのは見つともないものだなア。サモア殿、あのスタイルを御覧になつたら、定めし満足でせうなア』
『オホヽヽヽ、心の底から、属根嫌になつてしまひますわ。エヘヽヽヽ』
 話変つて、マンモスは二人の女に手痛き肱鉄の言霊を浴びせられ、無念やる方なく、失恋者同士の応援を求めむため、犬猿も啻ならざりしユーフテスの館へさして、トントントントン駆けて行く。ユーフテスはマンモスの来訪に際し、一度も吾家の敷居を跨げた事がないマンモスが飛んで来たのは、唯事ではあるまいと、いつもなら塩振りかけて箒を立てる処だが、自分も失恋の結果、何となく心細くなつて居たので、いつもの敵も今日は強い味方が出来たやうな心持で門口に迎へに出で、
『ヤア、マンモス殿、その慌て方は何でござるか。よもやサモア鉄道の脱線顛覆ではありませぬかなア』
『脱線も顛覆も通り越えて、メチヤメチヤに破壊してしまひましたよ。セーリス姫さまはどうなりましたか』
『どうなつたか、かうなつたか、サツパリ見当が付かないのですよ。彼奴は、ババ化物でした』
『ヘーン、あのセーリス姫が……どう云ふ意味の化物ですか。矢張りサモア姫のやうに貴方を今まで甘くチヨロまかし、最後の五分間になつて伏兵が現はれ、クリツプ砲で砲撃と出かけたのですか』
『何、それならまだ気が利いて居るが、セーリス姫と思つたのは大変な古狐でしたよ。大方狐の奴、本物のセーリス姫をいつの間にかバリバリとやつてしまひ、旨く化けて居やがつたと見えますわい、いやもう女には懲り懲りだ。今思ひ出してもゾツとするやうだ』
『何、そんな事があるものか。今朝もセーリス姫さまが本当に心配して「この頃ユーフテスさまのお顔が見えぬ」と云うて居たよ。しかし彼奴もサモアの亜流だ。惚れられて居たと思ふと違ふから、まア断念するのだなア』
『如何にも断念(残念)至極だ。しかしながら、右守の神様のレコはどうなつたらう、この間から舌を痛めたので外出もせず燻ぼつて居たので、一寸も御様子が分らぬが、キツト、アフンの幕が下りたに違ひなからうなア』
『サアその事について、大変サマリー姫とサモアとが御心配の体だ。俺もそれを思ふと大変気の毒で堪へられぬ……事はないわい。いや寧ろ小気味がよいやうだ』
 かく話す処へ門口より、
『ユーフテス ユーフテス』
と呼びながら入り来るは右守の司のカールチンであつた。ユーフテスは、その姿を見て口を尖らし、
『ヤア旦那様、血相変へて、何事でございますか』
『ヤア大変だ大変だ。王が二つもあり、ヤスダラ姫が二人も居るのだから、あんまり恐ろしくて居られた態ぢやない。スツテの事で……無事に命が助かるかと思つた城内は、どいつもこいつも化物ばかりだ。甘い事、柔しい事吐しやがつて俺達を安心させ、ソツと召しとらうといふ計劃だから、俺も強者、改心したやうな顔をして歌をよんでその場を誤魔化し、便所へ行くと云つて便所の穴からソツと逃げて帰つた所だ。何でも一人は本物で一人は化物だ。もうかう露顕した上はユーフテス、お前も助かるまい、俺もどうかせなけりやならないと、此処へ相談に来たのだ。ヤア、マンモス、貴様も此処へ来て居たのか、三人寄れば文珠の智慧だから、此処一つ相談をしようぢやないか』
『旦那様、あの奥の間から、セーラン王の声音を使つて居るのは、三五教の黄金姫と云ふ奴です。さうしてヤスダラ姫と名乗つて居る奴は、矢張贋者で三五教の宣伝使、清照姫と云ふ、鬼熊別様の妻子ですよ』
『そんな詳しい事を貴様は誰に聞いたのか』
『何と云うても蛇の道は蛇ですわ。ある方法をもつてすつかり偵察しましたわい』
『そいつは大変だ。愚図々々して居ては俺達の命がなくなるかも知れないぞ。サア今晩のうちに吾々三人が城内に忍び込み、一人も残らず斬り殺してしまはねば、枕を高うする事は出来まいぞ』
マンモス『こんどは忍術の奥の手を出しますから滅多に失敗は致しませぬ。サアお二人様、奥へお出なさいませ。私が秘密を教へます』
と奥の離室に進み入る。茲に三人は今夜の十二時を期して、黄金姫以下重なる幹部を殺害せむと、鳩首謀議をこらして居た。ユーフテスの家に仕へて居る下女のチールは三人の隠謀を残らず立聞きし、何食はぬ顔をして、そつと裏口をぬけ出し、右守の娘サマリー姫にその顛末をすつかり密告してしまつた。サマリー姫は今後如何なる活動をなすであらうか。

(大正一一・一一・一七 旧九・二九 加藤明子録)



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