出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語42-3-141922/11舎身活躍巳 吃驚王仁三郎参照文献検索
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第一四章 吃驚〔一一三九〕

 右守司のカールチンは意気揚々として清照姫、セーリス姫の話してゐる奥の間へ入り来り、
『あゝヤスダラ姫殿、セーリス姫殿、えらい御無沙汰を致しました。昨日はお目にかかる積りで居りましたが、少しく差支が出来まして到頭失礼を致しました』
『それはお忙しいことでござりましたな。道中で頭の鉢合せをしたり、親切にお墓参りをなされたり、狸に騙されたり、河へ飛び込んだり、大変な御活動でござりましたさうですな。流石は右守さまだと云つて、姉さまも感心して居やはりました。さう立ちはだかつて居らずに、マアここにお坐りなさいませ。昨日の一伍一什を一つ聞かして頂きたいものでござります』
 カールチンは頭を掻きながら、
『ヘー、別に活動したと……云ふ訳でもありませぬ。時の勢やむを得ず、惟神的にさされたのですよ。誰がまたそんな事を御報告に参りましたかな』
『私の天眼通で一寸此処から透視して居りましたよ。まづまづお怪我がなくて結構でしたな。時にユーフテスさまはどうしてゐられますかな。昨日から待つてゐますが、お顔を見せなさらぬので大変に気を揉んで居ります』
『エ、何とおつしやいます。ユーフテスは昨日来たぢやありませぬか。大変に頬辺を抓られて顔を腫らして居ましたよ。大変苛めなさつたと云ふ事ですが、さう悪戯をするものぢやありませぬぞ。女はヤツパリ女らしうなさる方が床しいですな』
『この間からユーフテス様のお顔を拝んだ事はありませぬ。そりや何かのお考へ違ひでせう。大方私だと思つて仇志野の古狐にでも弄ばれて居らつしやつたのでせう。何とまア困つた人だなア』
『何分この頃は悪魔横行しまして、彼方にも此方にも古狸や狐が出現し、男を悩ますと見えますわい。ワハヽヽヽ』
『もしもし姉さま、何恥かしさうに俯向いて居られますの。あれほど八釜しく焦れて居ながら気の弱い、何です、早く御挨拶をなさいませぬか』
 清照姫、細い声で恥かしさうに、
『ハイ』
と云つたきり益々俯向く。
『アハヽヽヽ、余程恥かしくなつて来たと見えるな。流石はお嬢さまだ。いやさうなくては女の価値がない。今時の女は男を三文とも思つてゐないから困るのだ。いやズンと気に入つた。海棠の花でも雨に湿つてチツとばかり俯向いて居る所に、得もいはれぬ風情のあるものだ。エヘヽヽヽ』
『もし右守さま、口から何だか長い紐が下がつて居るぢやありませぬか。早うお手繰り遊ばせ。姉さまが御覧になつたら、あまり見つともよくありませぬよ。ホヽヽヽヽ、あのまア細い目わいのう。本当に右守さまも、姉さまにスウヰートハートして居られると見えますな。お目出度いお目出度い。これ姉さま、お顔を上げなさらぬか。何ですか十二か十三の娘のやうに、そんな気の弱い事でどうして恋が成功しますか。私、側に見てゐても本当にジレツたいわ』
『どうやら恥かしいと見えるわい。いやセーリス姫さま、姉妹の貴女がここに居らつしやると、姫も気がひけて思ふ事も云へないと見えます。どうぞ少し席を外して貰ふ事は出来ますまいかな』
『ホヽヽヽヽ、それはお易い御用でございます。それなら邪魔者はしばらく姿を隠しますから、どうぞシツポリと御両人様お楽しみ』
と態とにプリンとして見せ、畳を二つ三つボンボンと蹶つて早々に自分の居間へ走つて行く。
『オホヽヽヽ、何と面白いものだなア。しかし、あこに云ふに云はれぬ妙味があるのだ。チツとセーリス姫は俺達のローマンスを妬いてゐると見えるわい。いやヤスダラ姫殿、セーちやまは帰りました。サアもう誰に遠慮は入りませぬ。お顔をあげなさい。さうしてトツクリと将来の御相談を遂げておかうぢやありませぬか』
『オホヽヽヽ、好かぬたらしい男だこと、貴方は立派なイルナ城の右守様、さうして、テーナ姫様と云ふ立派な立派な牡丹餅のやうなお顔の奥さまがあるぢやありませぬか。私のやうな出戻りの女を捉へて、そんな事おつしやいますと、貴方の名誉に関はるぢやありませぬか。いい加減におやめなさいませ』
『これはしたり、案に相違の姫の御言葉、そんな筈ではなかつたに。何とした変りやうだらう』
『妾は些も変つては居ないのよ。変つたのは貴方のお心ですわ』
『イヤ吾々は些も変つてゐない。姫の心がスツカリ変つてるぢやないか』
『さうですかな。貴方が好きで好きで仕方がなかつたのだが、今日はまた何だか知らぬが、ぞぞ毛が立つほど嫌になりました。好きな貴方が嫌ひな貴方と変つてゐるのですから、ヤツパリ本人は貴方でせう。本人が変ればこそ、相手方の妾の目から変つて見えるのですわ』
『そんなこたアどうでもいい。サア愈今日は情約締結を致しませう。私が当城の主人刹帝利と今になりますから、貴女は私の正妃、よもやお不足はありますまい』
『妾は貴方のやうな水臭いお方は末の見込がござりませぬから、嫌ひでござります。昔からいろいろと艱難辛苦をして、ヤツと此処まで夫婦が位置を築き上げ、今や進んで刹帝利におなりなさると云ふ所で慢心を遊ばし、不人情にも女房を殺しにやつた後で、妾のやうな何にも経験のない、つまらぬ女を女房にしようと思ふやうなお方は、私絶対に嫌ひでござります。また外に綺麗な方が見付かつたら、私は第二のテーナ姫様にしられてしまひ、生命をとられるやらも図られませぬから、まアそんな剣呑な方にお相手になるのは止めておきませうかい』
『今更そんな事を云つて貰つちや困るぢやありませぬか。大黒主様から吾々の目的を達成するために、五百騎の軍勢を応援のため御派遣下さるのをば、貴女の希望によりお断り申上げ、その上また味方を残らず呼び集め、ハルナの国へ遠征の旅に出してしまひ、最早守り少なくなつたこの際、お前さまに尻を振り向けられて、どうしてこの右守司が立ち行きますか。チツとは推量して貰ひませうかい。エーン』
『ホヽヽヽヽ、お前さまはそんな頓馬だから妾が嫌ふのだよ。女にかけたら目も鼻もないのだから、本当に困つた唐変木だな。ウフヽヽヽ』
『これ、ヤスダラ姫さま、腹の黒い。いゝ加減にいちやつかしておいて下され。男冥加につきますぞや』
 隣の室にはオホンオホンと、男の咳払ひが聞えて来た。これは黄金姫が二人の掛合を面白可笑しく立聞きし、わざとセーラン王の声色で咳払ひをして見せたのであつた。清照姫は小声になり、
『あの通り、襖一枚次の間に王様が控へてござるのですから、貴方のやうにさうヅケヅケと何もかも云つて貰つちや困るぢやありませぬか。チと気を付けて下さいな』
 カールチンは二つ三つ首を縦に振りながら小声になり、
『ウン、よしよし、あ! それで分つた。何だか妙な事を云ふと思つたが、王が隣室に居られるので、あんな事を云つたのだなア。よし分つた。もう俺も諒解したから心配してくれな』
『ホヽヽヽ何が諒解ですか。妾のやうな女を相手にせずに、もつと立派なお方にお掛合遊ばせ』
 かく云ふ折しも、ミルは慌しく走り来り、
『もし右守さま、ヤスダラ姫様、今王様とヤスダラ姫と云ふ貴女にソツクリのお方が帰られました』
 カールチンは、
『何、ヤスダラ姫が帰つた。王様がお帰り、ハテ、どうしたものかな』
と腕を組み胡坐をかいて、しばし思案に沈みつつあつた。

(大正一一・一一・一六 旧九・二八 北村隆光録)



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