出口王仁三郎 文献検索

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物語42-3-131922/11舎身活躍巳 揶揄王仁三郎参照文献検索
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第一三章 揶揄〔一一三八〕

 イルナ城の奥の一間には、黄金姫、清照姫、セーリス姫が鼎坐となつて何事か笑ひ興じてゐる。
黄金『セーリスさま、貴女も随分思ひきつたお転婆ですね。ユーフテスを到頭胆玉の宿替をさしてぼつ帰したぢやありませぬか。今そんな事なさると、肝腎の目的が画餅に帰しちや困るぢやありませぬか』
『ハイ、さう心配をして下さいますな。屹度ユーフテスは又々やつて来ますよ。大象も女の髪の毛一条にひかれると云ひますからな。妾の婉曲な言霊が、彼の脳裡に深く深くつぎ込んでありますから、どうあつても、よう忘れはしませぬわ。一寸妾の横目を使つただけでも、大の男がグナグナに肝も骨もなくなつて、茹でた蛸のやうになるのですもの、オホヽヽヽヽ』
『あなたは惜しいものだな。三十万年未来の二十世紀の世に生れさしたら、定めて良い芸妓になるでせう。荒男を毬の如くに翻弄すると云ふ凄い女だから、如何な黄金姫も荒肝をとられましたよ。オホヽヽヽ』
『ホヽヽヽヽ、あのまア黄金姫様のおつしやいます事わいの。妾よりも、も一つ先生がここに居られますわ』
と清照姫を指さす。
『清照姫はまだ試験中だ。あなたは最早優等卒業生で銀時計の口ですよ。しかしあなたのお眼鏡で清照姫がさうお転婆に見えますかな。親位、子にかけたら馬鹿なものはありませぬから、娘の事は私では十分に分りませぬわ。貴女の側面観でさうお認めになれば、或はお言葉の通りかも知れませぬ。何とまア困つた娘を持つたものですわい。しかし貴女は狐に化けて嚇かしたぢやありませぬか。城内一般の偉い評判になつてゐますよ。余り腕を揮うて茶目式を発揮なさるものですから、今後の清照姫の活動に支障が起りはせぬかと、チツとばかり心配ですわ』
『何、そこはまた私が砲兵隊を繰り出して、白兵戦を掩護致しますから大丈夫ですよ。なア清照姫様、あなたの方寸にチヤンとあるでせう』
『オホヽヽヽ、愈面白くなつて来ましたね。早くカールチンさまがやつて来てくれればいいに。あの恋人は何を愚図々々してゐやんすかいな。この頃の空のやうに俄に模様がグレンと変り、途中において私以上のナイスに出会し、例の垂涎三尺、細目の幕が下りてゐるのではあるまいかと心配でなりませぬわ。ほんにほんに恋男を持つと気の揉めた事だ。あたい、もしカールチンさまのお心変りでもしてゐたらどうしまほうか。なアお母アさま、チツと娘の心も推量して下さいませ。フヽヽヽヽ』
 黄金姫は怪訝な顔をして手鼻をツンとかみ、唇の泡を拭ひながら一寸目を丸くし、皺のよつた口を尖らし、清照姫の顔をマジマジと覗き込んで、
『これこれ清さま、お前チツと様子が変つて来たぢやないか。本当に惚れて貰つちやこの芝居が打てぬぢやないか』
『ホヽヽヽヽ、油断のならぬは娘ですよ。妾だつて初めの内は好かんたらしい、あのカールチン奴、うまく三寸の舌でチヨロまかし、サアとなつたら背負投を喰はし、エツパツパを喰はしてアフンとさしてやらう、その顔を見るが面白いと不人情の事を考へてゐましたが、深夜密に考へて見れば私だつて女だもの、異性が嫌ひと云ふ道理もないぢやありませぬか。カールチンさまが何程ヒヨツトコでも、友彦の事を思へば、幾層倍男振がいいか知れませぬわ。お母さま、あなたの目から見てもさうでせう。もう今となつては芝居どころか、真剣にカールチンさまを思ふやうになりました。何処迄もヤスダラ姫で引張るつもりですから、どうぞ親の慈悲で私の恋を叶へさして下さい、お願ひ申します』
『これは怪しからぬ。女と云ふものは油断のならぬものだ。あゝあどうしたらよからうかな。セーリス姫様、お前さまは本当に偉い、男に耽溺せないだけ見上げたものだ。この清照姫は小さい時から癖が悪うて、男の側へ寄せると直この通りデレてしまふのだから困つたものだ。どうぞお前さまからトツクリと清さまに云うて聞かして下さいな。今となつて、こんな事を云はれちや気が気ぢやありませぬ』
『ホヽヽヽヽ、清照姫様はヤツパリ新しいですな。それが本当でせう。妾のやうな骨董品は最早時代遅れですよ。いやもう感心致しました』
『お母さま、よく考へて御覧なさいませ。猫に鼠、男に女と云ふぢやありませぬか。猫の前に鰹節を出しておけば、いつかは喰ひつくものですよ。一旦香ばしい味を覚えたが最後、誰が何と云つたつて放すものぢやありませぬからな。ホヽヽヽヽ、誰が何と云つてもカールチンさまほど気の利いた方が外にあるものですか。早く来てくれぬかいなア。仮令お母様が何と云つても妾の夫は妾がきめるが正当だ。お母さまの夫ぢやあるまいし、私の夫を人にきめて貰ふやうな、そんな不見識な事がどうして出来ますものか。ねえ、セーリス姫さま、さうぢやありませぬか』
『オホヽヽヽヽまたしても清さま、お前は私に揶揄つて居るのだな。親の前でそんな事を云ふ娘が何処にありますか。世間慣れて、どうにもかうにも始末のつかぬド転婆になつたものぢやな』
『どうです私の腕前は、お母さまでさへも本当になさるでせう。これ位うまくやつてのけねば、どうしても麦飯で鯉は釣れませぬからな。誰がすかんたらしいカールチン如き悪人に恋慕する奴がありますか。オホヽヽヽ』
『それでチヨツとこの婆も安心しました。どうぞうまくやつて下さいや』
『しかしお母さま、前以て断つておきますが、人の心は生物ですから何時心機一転して嘘が誠になるかも知れませぬから、その時こそは因縁ぢやと思つて諦めて下さるでせうな。三浦之助義村が時姫に向つて云ひますだらう。「親につくか夫につくか、おちつく道はたんだ一つ、返答如何に、思案如何にとせりかけられ、どちらが重い軽いとは、恩と恋との義理づめに言葉は涙諸共に………思ひ切つて打ち明けませう。父さま、許して下さいませ」と云ふでせう。さうだからマサカになつたら、棺桶へ片足つつ込んだ末の短い頼りないお母さまよりも本当の力になつてくれる末長い夫につく方が本当の利益ですわ』
『えー仕方のない女だな。どうなつとなさいませ。お前さまの恋愛までも干渉する余裕がありませぬわい』
『オホヽヽヽヽ何と面白い活劇を拝見致しました。フランスのオリオン劇場へでも持つて行つて上演したら、随分人気を呼ぶ事でせうよ』
『何と云つても三五教きつての千両役者ですから、うまいものですわい。僅かに十五やそこらで肩揚のとれない中から男と駆落をしたり、肱鉄砲を喰はしたり、両親を置去りにして竜宮島まで飛出し、平気で黄竜姫と名乗り、女王さまになつて澄まし込んで居ると云ふ竦腕家だから、到底親の私でもお側へは寄れませぬわい。オホヽヽヽ』
 かく割りなき雑談に耽る折しも、受付のミルは慌しく入り来り、三人の前に両手をついて、
『只今右守さまがお入来になりました』
セーリス『それは御苦労、直こちらへお通り遊ばすやうに云つておくれ』
 ミルは、
『ハイ』
と答へて表へ駆出す。黄金姫はニタツと笑ひを残し、王の籠り室へ手早く姿を隠してしまつた。

(大正一一・一一・一六 旧九・二八 北村隆光録)



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