出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=42&HEN=3&SYOU=12&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語42-3-121922/11舎身活躍巳 心の色々王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=14685

第一二章 心の色々〔一一三七〕

 カールチンの奥の間にはハルマン、サマリー姫と主人の三人が鼎坐となりて、ヒソビソ話に夜の明くるのも知らず、耽つてゐる。
『旦那さま、貴方はお昼前から、館をソツとお立出でになり、お帰りが夜になつてもないので、もしや御城内で、お酒でもおすごし遊ばし、クダを巻いて皆の者を、いつものやうに困らせてござるのではあるまいかと心配でならず、ソツと城内を窺うて見た所が、門番の話にも、今日は右守さまのお姿は見なかつたと言ひ、女中共に聞いて見ても、お越しがないと言つて居ましたので、そこら中を捜しまはつて居りました所、入那川の水面に怪しい音がするので、ハテ不思議と立止まり様子を考へてゐると、大きな狐がノソノソと橋を渡つて北の方へ行く。此奴ア変だと水面を眺めてると、パツと浮上つた黒い影、命カラガラ飛込んで救ひ上げ、よくよく見れば旦那様、取止めもないことをおつしやつて、本当にこのハルマンもどうなる事かと気を揉みました。奥様の御不在中に、もしもの事があつたら、このハルマンは申訳がありませぬからなア、マアマア結構でございました』
『お父さま、この頃はお母アさまの不在中ですから、何卒どつこへも行かずに内に居つて下さい。心配でなりませぬ。もし御登城遊ばすなら、何時ものやうに二三人の家来を伴れて行つて下さい。苟くも右守司の職掌でありながら、一人歩きをなさるとは、余り軽々しいではありませぬか』
『ナアニ、一人歩くのにも、これには言ふに云はれぬ秘密があるのだ。俺の神謀鬼策は女童の知る所でない。マア俺のするやうに任しておいたがよからうぞ』
『日中ならばソリヤお一人でもよろしからうが、今夜のやうな事があつては大変ですから、どうぞ日の暮れない内にこれからお帰り遊ばすやうに願ひます。若い男が恋女の後を追ふやうに、夜分にコソコソと一人歩きするのは、どうぞ心得て下さいませ。姫さまも大変に御心配遊ばしますから……』
『イヤ実の所は、お前の知つてる通り、女房が出陣をしたのだから、先づ第一に大自在天様に御祈願を凝らし、御先祖の墓へも参り、女房の武勇を発揮するやう祈つて居つたのだ。そした所が、御先祖様の石塔の後から、テーナ姫の顔そのままの怪物が現はれ、恨めしの冷飯の……と吐きやがつて、怪体な手付を致し、終焉の果にや、毬のやうな目を剥きよつた。そこへまた一人の化物がやつて来て、傘のやうな目玉を剥きよつたものだから、流石の俺も一寸おつたまげて、わが家を指して逃帰る途中、誤つて入那川へ陥没したのだ。そこを貴様が折よく通つて助けてくれたのだ、マア有難い、御礼を申さねばなるまい。しかしながら、エー……ン、彼奴の命はどうなつたか知らぬてな』
『彼奴の命も此奴の命もあつたものですか。貴方は大変に、ヤスダラ ヤスダラとおつしやいましたが、ヤスダラ姫に対し、何かお考へがあるのですか』
『何、別にこれといふ考へもあるのぢやない、彼奴の生死に就いて、少しばかり気にかかつてならないのだ』
『私もヤスダラ姫さまの事が気に係つてならないのですよ。噂に聞けば、テルマン国からお帰りになつたといふ事、もしや王様と御夫婦にでもなられようものなら、私はどうしようかと、そればかりが心配でなりませぬワ』
『コリヤ娘、そんな心配は少しも要らない。お前はどこまでもセーラン王の妃だ。俺がキツと保証して添はしてやるから安心せい。しかしながら、もしも俺の女房が、今度の戦ひで命を奪られるやうな事があつたら、お前何と思ふか』
『それは申すまでもなく、悲しうございます。お父さまも矢張り悲しいでせう』
『そりや俺だつて、悲しい……のは当り前だ。しかしながらウーン……』
『お父さま、その後を言つて下さい。どうなさるとおつしやるのですか』
『マア刹那心を楽しむのだな。その時やその時のまた風が吹くだらうから』
『モシ姫さま、御心配なさいますな、旦那さまの心の中には、行先の事までチヤンと成案があるのですから……それはそれは抜目のない旦那さまですから、流石は貴女のお父さまだけあつて、よく注意の行届いたものです。ヤスダラ山の春風が吹いて、このお館は軈て百花爛漫、天国の花園と変るかも知れませぬ』
『お父さま、貴方はこの頃、大変にヤスダラ姫さまを御贔屓遊ばすさうですが、ヨモヤ、セーラン王様の御妃になさる御考へぢやありますまいな。さうなりや、私はどうしたら良いのですか』
『すべて人間は、何事も十分といふ事はいかぬものだ。恋を得むと欲すれば位を捨てなくてはならず、位を得むと欲すれば恋そのものを放擲せなくてはならぬ。両方良いのは頬被りと○○だけだ。それさへお前に合点が行けば、お前の恋は永遠に継続させてやるが、どうだ、この間からお前に相談しようと思うてゐたが、丁度今日は好い機会だから聞いて見るのだ』
『妙なことをおつしやいます。私はイルナの国では最高級のセーラン王の妃、また国内第一の立派な夫に恋してゐるのです。それをどちらか捨てねばならぬとは、ヤツパリさうすると、貴方は王様を退隠させ、自分が年来の野心を遂げるといふ、面白からぬ御考へでせう』
『イヤ、俺の方から無理に迫るのぢやない。今までは武力に訴へてでも目的を達しようと思つてゐたのだが、お前の知つてゐる通り、大黒主様の応援軍までお断り申し、部下の武士まで残らず遠征の途に上らせた位だから、何事も円満解決のつく見込が十分立つてゐるのだ。王様の口からおつしやつたのだから、お前が何程頑張つた所で、王様の御決心は動かす事は出来まい。さうだから、位をすてて恋を選めといつたのだ。お前の夫が刹帝利になるのも、親がなるのも、お前としては別に差支がないぢやないか。チツとは親の養育の恩も考へてくれたらどうだ』
『オホヽヽヽ、何とマア虫のよいお考へですこと。あの王様に限つて、そんなことおつしやる筈がありませぬワ。そりや貴方の独合点でせう。さうでなくは、城内の悪者共にチヨロまかされ、油断をさされてござるのでせう。あゝ困つた事をなさいましたなア。あゝしかしながら、これで安心しました。貴方に軍隊を抱へさしておくと、勢に任せて脱線をなさるから気が気でありませなんだ。これで王様、一安心なさりませう。キツと貴方は翼剥がれた鳥のやうなものだから、叛逆人として入那の牢獄にブチ込まれるにきまつてゐます。それは私が気の毒でなりませぬ。しかしながら海山の養育の恩に酬ゆるため、命に代へてでも貴方を助けるやうに王様へ願ひますから、どうぞこれからは、悪い考へを出さないやうにして下さい。そしてヤスダラ姫様に、どうぞ接近しないやうに心得て下さい。頼みますから………』
『実の所は、何もかもブチあけて言ふが、ヤスダラ姫は最早俺の女房だ。いろいろと悪魔が邪魔をしやがつて、恋の妨害を致しよる、お前がゴテゴテいふのも、決してお前の本心からではあるまい。副守の奴、お前の口を借つて、俺の金剛心を鈍らさうとかかつて居るだらう。モウかうなつては俺も命がけだ。誰が何と云つても、梃子でも棒でも動くやうなチヨロい決心ぢやないから、モウ下らぬ意見は止めてくれ。ハルマン、貴様も俺が出世をすれば一緒について昇るのだから、邪魔を致しては後日のためにならないぞ、よいか。賢明な主人の本心がチツとは分つたか』
『ハイ、分つたでもなし、分らぬでもありませぬ。しかしながら、国家のために自重せなくてはならない大切な御身の上、今後は私がどこへお出でになるにも、お供を致しますから、どうぞお一人で館を出ないやうに願ひます』
『エヽ小ざかしし、ツベコベと主人の行動に就て干渉するのか。今日限りグヅグヅぬかすと、暇を遣はすから、トツトと出て行け。サマリー姫、其方も、俺のする事に喙を入れるのならば、最早了簡は致さぬぞ。何だ偉さうに、夫に嫌はれて、のめのめと親の内へ逃帰り、世話になつてゐながら、何時までも親に対し、主人気取りで居るとは何の事だ。いゝ加減に慢心しておくがよからうぞ。最早俺は入那の国の刹帝利だ。国中において俺に一口でも逆らふ者があつたら、忽ち追放だから、さう思へ。エーン』
 かかる所へ慌しくやつて来たのは例のユーフテスであつた。三人はユーフテスの落着かぬ姿を見て、稍怪しみながら、ハルマンは膝を立て直し、
『ヤア其方はユーフテス殿、いつもに変る今日の御様子、何か城内に変つたことが起つたのぢやありませぬか』
と言葉せはしく問ひかける。ユーフテスは真青な顔をしながら、
『城内には大変な事が突発しましたぞ。グヅグヅしてゐると、何時目玉が飛出るか、尾が下るか知れませぬ、気をつけなさいませ。旦那様も御注意をなさらぬと、馬鹿を見られちやお気の毒だと思つて御注進に参りました。私は大変にやられて来ました。前車の覆へるは後車の戒め、私のやうな失敗を旦那様にさしちや申訳がないと思ひ、忠義の心抑へ難く取る物も取敢ず、痛い足を引摺つて参つたのでございます』
『テンと貴方のお言葉は要領を得ぬぢやありませぬか。その頬べたはどうなさいました。紫色に腫れ上つてるぢやありませぬか』
『天下無双の美人が両ホウから私の両ホホを、可愛さ余つて憎らしいと云つて、抓りよつたのです。ズイ分痛い同情に預かつて来ました。モシ旦那様、どうぞここ四五日は登城なさらぬやうに心得て下さい。また頬ベタを抓られちや堪りませぬからなア』
『美人に頬を抓られたのを、お自慢で俺に見せに来たのだろ。随分気分がよかつたらうのう』
『ハイ、よかつたり、悪かつたり、嬉しかつたり、怖かつたり、つまり喜怒哀楽愛憎欲の七情が遺憾なく発露致しました。立派なセーリス姫だと思へば、其奴が大きな白狐になつてノソノソと歩き出す。一人は本当のセーリス姫だと思へば、其奴がまた目がつり上り口が尖り、忽ち狐の御面相になつてしまふ。イヤもう入那の城内は、この頃はサーパリ妖怪変化窟となつてしまひました。何とかして本当のセーリス姫を発見しなくてはなりませぬ。旦那様も今お出でになつたら、キツと私の二の舞をやつて馬鹿を見せられるに違ひありませぬ。さうだから四五日は御見合せを願ひたいと言つてるのですよ』
『アハヽヽヽ面白い面白い、狐でも狸でも何でも構はぬ。そこを看破するのが天眼通力だ。貴様は恋のために眼がくらんでゐるから、そんな目に遇ふのだ。そこは流石のカールチンさまだ。城内の妖怪を残らず看破して、至治泰平の天国を築き上げるのがこの方の役だから、先づ黙つて俺の御手際を見てゐるがよからう。ハルマン、貴様も今が思案のし時だ。ここで改心致し、主人の自由行動を妨げないといふ誓ひを立てるなら、従前の通り、家来に使つてやらう。オイ、娘、貴様もその通りだ。今日の場合、神力無双、旭日昇天の御威勢高き俺に向つて、ツベコベ横槍を入れると、親子の縁も今日限りだ。どうだ、分つたか、エーン』
 ハルマンはヤツと胸を撫で下し、ともかくも放り出されちや大変と、ワザとに嬉しさうな顔をして、
『ハイ有難うございました。今後は決して何も申しませぬ。絶対服従を誓ひますから、どうぞ末永く可愛がつて使つて下さいませ』
『ウン、ヨシヨシ、それさへ慎まば、俺だつて貴様に暇をやりたいことはないのだ』
ハルマン『時にユーフテスさま、実際そんな不思議が城内に突発してるのか、チツと合点が行かぬぢやないか』
『ウン、本当に不可思議千万だ』
サマリー『それなら、カールチン殿、しばらく妾は沈黙して、時の移るを待つであらう、さらば』
と言ひ棄て、裾をゾロリゾロリと引摺りながら、奥の間指して進み入る。ハルマンも、ユーフテスも続いて、自分の家路へ指して一先づ立帰る事となつた。カールチンは、
『ヤレヤレ邪魔物が払はれた』
と打喜び、化粧室に入つて、いろいろと顔の整理を終り、美はしき衣服を身に纒ひ、裏門よりニコニコとして、城内指してまたもや進み行くのであつた。

(大正一一・一一・一六 旧九・二八 松村真澄録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web