出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語41-4-211922/11舎身活躍辰 長舌王仁三郎参照文献検索
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第二一章 長舌〔一一二五〕

 右守司のカールチンはただ一人奥の間に端坐して、やがて二カ月の末には日頃の願望成就し、刹帝利の地位に進むだらう、さうすれば城内の大改革を施さねばなるまい。先ず第一着手として何から始めようかなどと、猿猴が水の月を掴むやうな虫のよい考へに耽つて居た。其処へユーフテスは慌しく入り来り、
『モシモシ旦那様、お喜びなされませ。イヒヽヽヽヽ、お目出度うございます。貴方は本当に偉い方ですなア、偉大の人格者ですよ。ヤスダラ姫様がこの間貴方のお顔を一寸拝み遊ばしてから、俄に病気になられましてブラブラとして居られます。どうぞ一遍見舞に往つてあげて下さいませな。ドクトル・オブ・メヂチーネでもイルナの湯でも、どうしてもかうしても治癒らないと云ふ御病気になられまして、朝から晩までウンウンと唸り通し、それはそれは気の毒で目を開けて見ては居られませぬ。そこでセーリス姫様が大変御心配遊ばして、その病源をお探り遊ばしたところ、ヤスダラ姫様は、エヽヽヽヽと細い細い柳の葉のやうな目をして「妾の病は気の病だ、ウヽヽモヽヽリヽヽ』と云つて俯むいて後は何もおつしやいませぬ。そこで呑み込みのよいセーリス姫様が「ハヽアこれは右守さまにホの字とレの字だな。これは到底旦那様のお顔を見せねば本復は出来まい」とちやんと心の中で裁判して、ヤスダラ姫様に向ひ言葉淑やかに「モシ姉上様、何か心に秘密があるのでせう。妹の私に云はれない事はありますまいから、おつしやつて下さいませ。どんな事でも姉様の事なら御用を承はりませう」と鶯か鈴虫のやうな声で尋ねられた処、ヤスダラ姫様はやうやう涙の顔を上げ「あゝ妹、よう親切に尋ねて下さつた。お前の心は嬉しいが、余り恥かしうて口籠り何も云へませぬ。もう私は生きてこの世に望みのない身の上だから、潔う死にます」と、とつけもない事をおつしやるのでセールス姫様は益々御心配なされ、いろいろと手を変へ品を替へ探つて見なされた処、姉計らむや妹計らむや、立派な奥様のある旦那様に恋慕してござると云ふ事がハツキリと分りました。エヘヽヽヽ、お目出度うございます。お浦山吹でございますわい』
 カールチンは忽ち目を細うし涎をくりながら、
『ウツフン、そんな事があつたら、それこそ天地がひつくり返るぢやないか。若い者ならともかくも、こんな年寄つた五十男にそんな事がありやうがないぢやないか。腹の悪い、そんなに人を煽てるものぢやないわ』
『イエイエ決して決して旦那様にそんな嘘を申上げて済みますか。恋と云ふものは老若上下の区別はありませぬ。また女と云ふものは虚栄心の強いものでございますから、旦那様がやがて刹帝利におなり遊ばすのを聞いて益々恋が募つたものと見えます。しかしながら、貴方様には立派な奥様がおありなさるのですから、そんな事を云うては済まないと、セーリス姫様が懇々と説諭をなさつたさうですけれど、ヤスダラ姫様はどうしてもお聞き遊ばさず「この恋が叶はねば淵川に身を投げて死ぬから後の弔ひを頼むぞや」と、それはそれはエライ御決心、どうにもかうにも、手に合ひませぬ。どうぞ一度姫様の館へ、助けると思うて奥様へ内証で行つて上げて下さいませ。さうして貴方から篤くりと説諭して下さいましたら、恋の夢も醒めるでせう』
 カールチンは目を細くしながら、
『何と困つた事が出来たものだなア。どれどれそれならこれからヤスダラ姫に会ひ、篤くり道理を説き聞かし思ひ切らしてやらう』
といそいそとして座を立つ。ユーフテスは後を向いて舌を出し、再び向き直つて顔を元の如くキチンと整理し、
『色男様、オツトドツコイ、大切な旦那様、左様ならばユーフテスがお供致しませう。万々一情約締契が調ふやうな事がございましたら、貴方は私の相婿のお兄様、なるべくお兄様と云はれるやうになつて貰ひたいものですな。エヘヽヽヽヽ』
『ユーフテス、矢釜しいぞ、女房に悟られちや大変だからなア』
『奥様に気兼なさる処を見ると矢張ちつとは脈がありますなア。イヤお目出度う、お祝ひ申します』
 カールチンは押へ切れぬやうな嬉しさうな顔を晒しつつ、
『オイ、ユーフテス、しようもない事を云ふものでないぞ。エヘヽヽヽヽ』
と思はず知らず笑をこぼし城内指して進み行く。ユーフテスも後に従ひ、舌を出しながら跟いて行く。カールチンはフト走りながら後を見ると、ユーフテスが長い舌を出して頤をシヤクつて走つて来るのが目についた。
『こりや、ユーフテス、何だ長い舌を出して人を馬鹿にするない』
『余りお目出度いので、きつと結婚の時にはどつさり御馳走をして下さると思ひ、今から舌なめずりをしたのでございます。これは誠に失敬しました、エヘヽヽヽヽ』
『こりや こりやユーフテス、先へ往け、貴様が後から来ると何だか小忙しくつて仕方がないわい』
 ユーフテスは、
『それなら旦那様、お先に御免蒙ります』
と云ふより早く先に立ち、もうかうなつちや後に目鼻はついて居ない、何程舌を出したつて見とがめらるる心配はないと、力一杯長い舌を出し頤をしやくりながら、とんとんとんと駆け出す途端、高い石につまづいてバタリと倒れる機に舌を噛み、ウンとその場に血を吐いて打ち倒れた。カールチンはヤスダラ姫の事のみに現になつて、ユーフテスの舌を噛んで倒れて居るのに気がつかず、その体に躓いて三間ばかり前の方にドスンと打ち倒れ「アイタヽヽヽ」と膝頭を撫でながら、まだ気がつかず、
『ユーフテスの奴何だ、俺が倒れて居るのも知らずに、主人を後にして雲を霞と何処かへ行きやがつた。何と脚の早い奴ぢやなア』
と呟きながら、とんとんとんと道端のイトドやキリギリスを驚かせて城内指して一目散に走り行く。

(大正一一・一一・一二 旧九・二四 加藤明子録)



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