出口王仁三郎 文献検索

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物語41-4-201922/11舎身活躍辰 誘惑王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 誘惑〔一一二四〕

 セーリス姫はイルナ城の吾居間に一弦琴を弾じて居た。

『天と地とを造らしし  国治立大神は
 百の神等人々の  誠の親にましまして
 仁慈無限の神徳を  遍く下し給ふなり
 イルナの城は日に月に  八岐大蛇や醜狐
 曲鬼共の蔓りて  首陀の姓より生れたる
 右守司のカールチン  鰻登りに登りつめ
 驕り傲ぶり今ははや  セーラン王の御位を
 狽ひ居るこそうたてけれ  イルナの城は風前の
 今灯火となりし時  救ひの神の現れまして
 傾く城を立直し  セーラン王の身の上を
 安く守らせたまひつつ  魔神の頭上に鉄鎚を
 下させ給ふ時は来ぬ  あゝ面白し面白し
 ヤスダラ姫の妹と  生れあひたる吾こそは
 イルナの城の太柱  非道の事とは知りながら
 魔神に従ふユーフテス  言葉の先に操りつ
 醜神共の企らみを  洩れなく落ちなく探らせつ
 神の御為君のため  世人のために村肝の
 心痛むる苦しさよ  さはさりながら天地の
 神は吾等の真心を  清き御目に臠はし
 必ず許したまふべし  佯られたるユーフテス
 彼が心の憐れさを  妾は知らぬにあらねども
 大事の前の一小事  セーラン王の勅
 背かむ由もないぢやくり  涙を呑みて荒男
 操り来る苦しさよ  あゝ惟神々々
 神が表に現はれて  善神邪神を別けたまふ
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直し聞き直し
 身の過ちは宣り直す  尊き神の御教
 セーリス姫の心根を  憐れみ給ひて逸早く
 セーラン王の身の上を  守らせたまへ惟神
 この世を造りし大神の  御前に畏み願ぎまつる
 御前に慎しみ願ぎまつる』  

と歌を終り、合掌して声も静に「国治立尊、守り給へ幸倍たまへ」と祈る折しも、足音忍ばせながら入り来るはユーフテスである。セーリス姫はユーフテスの慌しく入り来りしを見て、言葉急しく、
『ヤア其方はなつかしきユーフテス殿、何か変つた事がございますかなア』
『ハイ、俄に申上げたき事があつて右守の前をつくろひ参りました。いよいよ大黒主の神が五百騎の軍隊を派遣し、右守と力を合せ、セーラン王様を退隠させむとの計略が整ひました。何とか用意を致さねばなりますまい』
『その軍隊は何時頃此処へ押し寄せて参りますか、分つて居りませうなア』
『あまり長くはありますまい。カルマタ国へ派遣された大足別の所へ参る使者が往きがけに大黒主様の信書を携へ、右守の館へ放り込んで参りました。右守もやや安心して、もはや軍隊の必要がないから、お断り申さうかとまで云つて居ました処へ、五百騎の応援軍を送るとの書面を頂き、俄に鼻息が荒くなつて参りました。それ故取るものも取りあへず貴女まで報告にやつて来ました』
 セーリス姫は平然として些も騒がず微笑を浮べながら、
『それは段々と面白くなつて来ましたなア。どちらになつても、私と貴方の結婚さへ都合よく出来れば好いぢやありませぬか。オホヽヽヽ』
『そりやさうですが、矢張セーラン王様が押し込まれなさつては貴女だつてあまり都合はよくありますまい。従つて私だつて羽振りが利きませぬからなア』
『ともかく黄金姫様に一つ申上げて来ますから、貴方此処に待つて居て下さい』
とツと立つて黄金姫の居間に進み入り、ユーフテスが報告の顛末を残らず物語つた。茲に黄金姫は清照姫、セーリス姫と三人鼎坐して、ひそひそ対抗策を打ち合す事となつた。
『思ひの外大黒主の軍勢、早く押し寄せ来るさうだが、何とかこれを阻止する考へはあるまいかなア。清照姫』
と云ひつつ清照姫の顔を覗き込む。清照姫は微笑しながら、
『お母さま、そりや何でもない事ですわ。私がその五百騎を喰ひ止めて見ませうか』
『それは誠に結構だが、其方一人でどうして喰ひ止める考へですか』
『ともかく右守を此処へ呼んで下さい。さうして私と右守とただ二人、一室に入つて密談を遂げ、うまく右守より喰ひ止めさして見せませう』
 黄金姫は肯きながら、
『ホヽヽヽヽ清さま、お前の美貌と弁舌とを応用すれば何の事もありますまい。どうぞ確りやつて下さいや』
『三寸の舌鋒をもつて、五百の軍隊を一人も残らず逐ひ散らすのもまた愉快でせう、オホヽヽヽ』
 セーリス姫は喜ばしげに、
『それならこれからユーフテスに命じ、右守を当城へ呼び寄せませうか』
清照『どうぞ早く、その手続きをして下さい』
『こんな時にはお転婆娘もまた必要だ。清さまも随分こんな事には経験がつんで居るからなア。オホヽヽヽ』
『お母さま、冷かして下さいますな。何ぼ秋だと云つても余りですわ』
『セーリス姫様、どうぞ早く頼みますよ』
 セーリス姫は「アイ」と答へてこの場を下り、吾居間に待たせて置いたユーフテスの耳に口を寄せ何事をか囁いた。ユーフテスは一切万事呑み込み顔で、セーリス姫の居間を立ち出で表に出で、大地をどんどん威喝させながら、木々の梢を渡る木枯の風、遠慮会釈もなく笛を吹いて通る城の馬場を尻引からげ、矢を射る如く右守の館をさして韋駄天走りに進み行く。

(大正一一・一一・一二 旧九・二四 加藤明子録)



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