出口王仁三郎 文献検索

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物語41-3-151922/11舎身活躍辰 難問題王仁三郎参照文献検索
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第一五章 難問題〔一一一九〕

 セーラン王は、テームス、レーブ、カルの三人を従へ蹄の音も勇ましく、漸くにして北光の神の岩窟の館に着いた。竜雲は岩窟の口まで出で迎へ、
『貴方はセーラン王様でございますか、お待ち受け致して居りました。一寸しばらくお待ち下さいませ、主人に申上げて来ますから』
『何分よろしく頼み入る、吾々は黄金姫、清照姫様の指揮に従ひ、暗夜を幸ひ、イルナの城より忍んで参つたものでござる。どうぞ北光彦の神様に宜敷くお取りなしを願ひます』
『ハイ承知致しました。しばらくお待ちを願ひます』
とそのまま踵をかへし奥深く進み入り、北光の神の前に手を支へ、
『正しくセーラン王様のお出でございました。どちらへお通し申しませうか』
 ヤスダラ姫の顔色は嬉しさと恥かしさと驚きとにサツと変つた。北光の神は欣然として、
『只今御面会致すから、第三号室に御案内申して置け。さうしてお湯でも差上げて、しばらくお待ちを願つて置いてくれ。吾はこれより神殿に参り、神様にお礼を申上げて来る。サア竹野姫、ヤスダラ姫殿、奥へ参りませう』
と先に立ち神前の間に進み行く。竜雲は表へさしてセーラン王を迎ふべく駆け出す。リーダーは後に両手を組んで独り言、
『何と怪つ体な事があるものだなア。狼の山へ怖々やつて来て見れば、沢山の狼は犬のやうに柔順しい。そこへ北光の神様のやうな、一つ目のお爺さまと、花を欺くやうな奥様、妙なコントラストだ。ヤスダラ姫様のお供をして此処へやつて来たと思へば、セーラン王様がお出でなさるとは何とした不思議の事だらう。定めし姫様も王様のお顔を御覧になつたら、ビツクリと喜びとで妙な顔をなさるだらう………(浄瑠璃口調)生者必滅会者定離、浮世の常とは云ひながら、親と親との許嫁、怪しき雲に隔てられ、国と都に引き分れ、朝な夕なに君の御身の上、案じ暮して居りました。今日は如何なる吉日ぞ。焦れ焦れたその人に、所もあらうに狼の住む高照山の岩窟でお目に懸らうとは、神ならぬ身の知るよしもなく、泣いてばかり居りました。思へば思へば有難や、尊き神の引き合せ、天の岩戸も開けたやうな、私や心になりました。嬉しいわいな、なつかしいわいな………と人目も恥ぢず縋りつき、互に手に手を取り交し、泣き叫ぶこそ可憐らしき。チヤン、チヤン、チヤン………と云ふ場合だ。俺も一度こんなローマンスを味はつて見たいものだ。青春の血に燃ゆる壮者と美人、どんなに嬉しからうぞ。互に焦れ慕うた男と女が思はぬ処で遇ふのだもの、これが嬉しうなうて何とせうぞいのう………。アハヽヽヽ、目出度い目出度い、お目出度い。北光の神様も苦労人だけあつて、中々粋が利いて居るわい。こんな事の分つた宣伝使にお仕へするのなら、俺だつてどんな苦労だつて厭ひはしない。岩より固い千代の固めを、千引の岩の岩窟の中で、北光の神様の目ぢやないが、確りカタメと云ふ洒落だな、ウフヽヽヽ』
 かかる所へセーラン王一行を三号室に導き置き、北光の神に報告すべく走つて来た竜雲は、リーダーのただ一人面白さうに笑うて居るのを見て、
『おいリーダー、何を笑つて居るのだ。お客さまが見えたのだよ。この館は御夫婦二人きりでお手が足らぬのだから、早くお客さまのお湯でも汲んでお世話をしないか、気の利かぬ男だなア』
『私だつて今来たばつかし、お客さまぢやありませぬか。客の分際として、そんな勝手な事が出来ますか。北光の神様のお許しさへあれば、お湯も汲みませう、どんな御用も致します』
『エヽ何と気の利かぬ男だなア』
『余り気が利いたり融通が利くと、シロの島の神地の都で失敗なさつたやうな事が出来ますからなア。まあヂツクリと落着きなさい。「大鳥は翼を急がぬ」と云ひまして、度量の大きいものは、さう小さい事にコセつきませぬからなア。エヘヽヽヽ』
『大男総身に智慧が廻り兼ねとか云つて、胴柄ばかり大きくつて、間に合はぬ男だなア。お前のやうなものは仁王さまにでもなつて門の入口にシヤチコ張つて居るのが適当だ』
『モシ竜雲さま、貴方に誠があるなら、不言実行ですよ。師匠を杖にするな、人を力にするな、とは三五教の教理だと、道々お説教をなさいましたなア。私はよく覚えて居りますよ』
『エヽ仕方がない、それならこれから不言実行だ』
と第三号室に向つて走り行かうとするのを、リーダーは裾をグツと握り、
『モシモシ竜雲さま、不言実行だと今おつしやつたが、それがもはや不言実行の原則を破つて居られるではございませぬか』
『エヽ八釜しい、俺のは特別製の准不言実行だ』
と云ひながら袖振りきつてセーラン王の室に走り出で、恭しく両手を支へて、
『セーラン王様、折角のお越しえらうお待たせ申しまして不都合でございました。しかしながら、私もたつた今初めて参つたもの、まだ席も温かくならない位でございます。と云つても最早二三日は暮れましたが、此処の召使と云ふ訳でもなし、貴方に一足お先に参つた珍客でございますから、どうぞ悪しからず見直し聞直し下さいませ』
『イヤ有難う、北光の神様はまだお越しになりませぬか』
『今お見えになるでせう。しばらくお待ちを願ひます』

王『高照の嶮しき山を登り来て
  岩窟の中に身をやすめぬる。

 北光の神の命に会はむとて
  神の随々訪ね来しはや』

竜雲『今しばし待たせたまはれ神司
  やがては此処に北光の神。

 生身魂清く直なる竹野姫
  妻の命も共にいませり。

 汝が命慕ひたまひし姫神に
  会はせたまはむ時は迫れり。

 ヤスダラ姫貴の命は君を慕ひ
  朝な夕なに祈りたまへる』

王『摩訶不思議ヤスダラ姫が如何にして
  これの岩窟に潜み居るにや』

竜雲『何事も神のまにまに人の身は
  まもられて行く夢の世なるよ』

 かく語り合ふ所へ、北光の神は衣服を着替へ威儀を正して入り来り、王に向ひ、
『私は北光彦でござる。よくまアこの岩窟に入らせられました。黄金姫、清照姫殿は機嫌よくして居られますかなア』
『初めてお目にかかりました。貴方は三五教にて御名も高き北光の神様、一目そのお姿を拝しまして、誠の生神様にお目にかかつたやうな心に力づきました。何卒今後の御教導をお願ひ致します。御存じの通りイルナの城は危急存亡の場合でござりますれば、黄金姫様の御指図に従ひ、卑怯未練とは承知しながら神命を奉じて微行致して参りました』
とやや涙ぐみける。
『アハヽヽヽ、決して御心配遊ばすな。何事も神様の御経綸に任すより道はありませぬ。これから吾々は神策を施しますから、気を落着けてゆつくりとなさつたがよろしからう。此処は御存じの通り狼の巣窟、如何なる英雄豪傑も、この岩窟ばかりは窺ふ事は出来ませぬ。御安心なさいませ。しかしながら、貴方に一つお尋ねして置かなければならぬ事がござります。それは余の儀ではござらぬ、貴方にはサマリー姫と云ふお妃があるでせう、その妃は今後どうなさるお積りですか』
 王はこの言葉にハタとつまり、如何答へむと心を悩ませ、黙然としてしばしが間さし俯むいて居る。
『一旦妻と定つたサマリー姫を何処迄も連れて、共々に苦労をなさるお考へでせうなア。万一貴方の恋ひ慕ふ立派な女が此処に現はれたとすれば、貴方は自分の意志に従つてその女を妻に致しますか。但は気に入らぬサマリー姫をどこまでも愛して行きますか。それを聞かして頂きたい。北光の神にも少し考へがござるから』
 王は如何は答へむかと、とつおいつ思案に暮れながら、漸くにして、
『ハイ何事も惟神に任しませう。心の曇つた吾々、どうしてよいか判断がつきませぬ。どうぞ貴方のお考へを承はりたうございます』
と甘く言葉をそらし、北光の神にその解決をおつつけてしまつた。
『オツホヽヽヽ、隅にもおけぬ王様だなア、かう北光が申せば御返答にお困りだらうと思つたが、反対にこちらへ大問題をおつかぶせられ、北光彦も聊か迷惑を致しました』
『何もかも御存じの貴方の前で包み隠すも無駄でございます。また私も心にもなき事を申上げたくはありませぬ。お叱りかは存じませぬが、実はサマリー姫はどう考へても厭で厭で仕方がありませぬ。何かの策略があつて、右守の司が私の許嫁を追ひ出し、娘を無理に押しつけたのでございますから、要するに愛のなき縁談でございます。かかる虚偽的愛の夫婦は却て神様に対し済まないやうな気も致します。また一方より考へて見れば、今日の処サマリー姫は心の底から私に対して愛慕の念を起して居るやうでございます。それ故に日夜心を痛め、どうしたらよいかと迷うて居る次第でございます。サマリー姫一人のためにイルナの城の興亡に関する問題ですから、私も決し兼ねて居ります』
『何と気の弱いお方だなア。なぜ男らしく、初めにポンと断りを云はなかつたのですか。貴方はセーラン王の位地に恋々として、心にもなき結婚を承諾したのでせう。貴方には親の許した許嫁があつた筈、なぜ先約を履行なさらなかつたか。それから第一間違つて居る。両親の許した許嫁を無視して途中から変更するといふ事は第一孝の道に欠けて居る。仮令如何なる事情があらうとも父王様の命令を遵守し、一身を賭してなぜ争はなかつたのですか』
『そのお言葉を聞いて今更の如く自分の薄志弱行を悔みます。私も何とかして天則違反か知らねどもヤスダラ姫と夫婦となる事を得ば、たとへ王位を捨てても悔ゆる処はございませぬ』
『ウフヽヽヽ、とうとう本音を吹きましたな。それが偽りのなき貴方の真心だ。しかしながら、そのヤスダラ姫様が、夫に一回なりとも交はりを結んで居られたならどうなされますか。それでも貴方は喜んで夫婦になるお考へですか。もしヤスダラ姫に対し貞節を守り、一回の交はりもして居なかつたとすればともかく、どうでもかまはぬ、添ひさへすればよいと云ふお考へなれば、貴方はもはや人間ではない、恋の奴隷と云ふものですよ』
『ハイ、仰せの如くヤスダラ姫にして左様な事がありとすれば私は断念致します。しかし彼に限つて左様な事はあるまいと思ひます』
『今貴方に会はせたいものがある。驚かないやうにして下さい』
『それはヤスダラ姫でございますか。何とはなしにそのやうな気分が浮んで参りました』
『アハヽヽヽ、矢張り蛇の道は蛇だなア』

(大正一一・一一・一二 旧九・二四 加藤明子録)



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