出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語41-3-141922/11舎身活躍辰 慈訓王仁三郎参照文献検索
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第一四章 慈訓〔一一一八〕

 狼守る高照山の岩窟には主客五人膝を交へて何事か話に耽つてゐる。北光の神は宣伝使の傍鍛冶の名人なれば、数多の精巧なる機械を閑暇あるごとに製造し、鑿、槌、鶴嘴、鍬等を造つて岩窟を穿ち、今や八咫の大広間は幾つとなく穿たれ、難攻不落の金城鉄壁となつたのである。それに数百千の狼は北光の神の恩威に服し、恰も飼犬の如くよくその命を守り、かつ人語を解するやうになつてゐた。岩窟の一間には天の目一つの神を上座に、その右側には竹野姫、少し下がつてヤスダラ姫、竜雲、リーダーの順に湯をすすりながら神話に耽る。
竜雲『北光の神様、私も悪逆無道の悪魔に憑依され、サガレン王に対し不臣の罪を重ね、已に霊魂は根底の国へ投げ込まるる所でござりましたが、貴神の御親切なる御教訓によつて、貪瞋痴の夢も覚め、漸く真人間にして頂きました。一時勢に乗じ、サガレン王の後を襲うて権利を揮うた時の苦しさに比ぶれば、今日の気楽さ楽しさは、天地の相違でござります。体主霊従の欲望にかられ、知らず知らずに身魂を地獄に落してゐるものは、決して竜雲ばかりではござりますまい。何とかしてその迷ひを醒まさせ、身魂を安楽にさせてやりたいものでござりますワ』
北光『其方は月の国を巡回して来たのだから、最早天下の人情はよく分つただらう。随分世の中は憐れむべきものが多いだらうな』
『ハイ、仰せの通り何処の国へ参りましても宗教争ひや名利の欲に搦まれて、互に鎬を削る惨状は、まるで地獄餓鬼畜生道そのままの出現でござります。丁度以前のセイロン島における竜雲の雛形は到る所に散見せられます。しかしながら不思議な事には三五教の少しでも息のかかつた地方は、極めて人心平穏、寡欲恬淡にして、上下相親しみ、小天国が築かれてゐるのを目撃致しまして、最も愉快に感じた事もござります』
『其方が七千余ケ国を巡つた中、比較的治まり難い処は何処々々だと思ひましたか』
『ハイ、随分沢山で一々申上げる訳には参りませぬ。しかしながら第一にカルマタ国、第二にイルナの国などは今や大騒乱の勃発せむとする間際になつてゐるやうでござります。カルマタ国は東北に地教山を控へ、地教山には三五教の神柱が誠の道を守つて附近の人民を教養して居られる。そこへウラル教の常暗彦が現はれて本拠を構へ、間隙あれば地教山を併呑せむと企んでゐる。この頃はまたウラル教の勢ひがあまり盛なと云うて、ハルナの都の大黒主が、大足別将軍に数多の軍隊を引率せしめ攻め来るとの飛報頻りに来り、人心恟々たる有様でござります。次にはイルナの国のセーラン王に対する嫉視反目日に月に加はり、正義派と不正義派とが断えず暗闘をつづけ、今にも右守の司は大黒主の威勢を頼みイルナの王を放逐し、自らとつて代らむとの計画中だとの城下の人々のとりどりの噂、何時イルナの都は戦塵の巷と変るやも知れぬとの事でござります。何とかしてこの惨状を未発に防ぎたいと存じ、竜雲も都下を徘徊致して宣伝歌を歌ひ廻りました所、右守のカールチンが部下に圧迫され、已に生命までとられむとせし所、不思議にも何処ともなく狼の群、白昼に現はれ来り、咆哮怒号して敵を追散らし、煙の如く姿を隠しました。その機を窺ひ一目散に都を逃げ出し、照山峠を越えてスタスタ帰り来る途中、蓮川の辺においてヤスダラ姫様主従に出会ひ、お二人様の危難を救ひ、後になり前になり、見えつ隠れつ照山峠の麓まで送つて来ました所、三五教の黄金姫様母娘に出会ひ、一時も早く北光彦の神様の御命令だから高照山へ参れとのお言葉、取るものも取りあへず姫様のお供をして此処まで参つたものでござります。実に危険至極の世の中となつて参りました』
『成るほど、それは御苦労。この館は猛獣の眷族数多守り居れば、天下第一の安全地帯だ。ヤスダラ姫殿も御安心なされませ』
『ハイ有難うござります。女の道を踏み外した妾をお咎めもなくお助け下さいまして何とも恐れ多くて申上げやうもござりませぬ。何卒よろしく今後の御教養を、偏にお願ひ申します』
『随分ヤスダラ姫様、貴女も悪人共の欲望の犠牲となつて苦しみましたな。身魂の合はぬ夫を持たされ、嘸日々不愉快をお感じになつたでせう。御心中お察し申します』
と情ある言葉に、ヤスダラ姫はヤツと安心し、嬉し涙を袖に拭ひながら、
『思ひもよらぬ御親切な御言葉、有難うござります。何を隠しませう、妾はイルナの都の左守クーリンスの長女と生れ、セーラン王様の許嫁でござりました所が、ハルナの都の大黒主様に諂び諛ふ右守カールチンのために遮られ、種々と難癖をつけられた挙句、テルマン国の毘舎が妻とせられ、今日まで面白からぬ月日を送つて来ました。今貴神のお言葉の通り身魂が合はないのか存じませぬが、夫のシヤールに対して少しも愛の念が起らず、夫もまた妾に対して至極冷淡、路傍相会ふ人の如く、夫婦としての暖味は夢にも味はつた事はござりませぬ。妻として夫に対して愛を捧げるが道なれども、どうしたものかその心が湧いて来ませぬ。勿体ない事ながら、明けても暮れても親の許嫁の夫セーラン王様の事が目にちらつき、お声が耳に響き、王様の事のみ夢現に恋ひ慕ひ心に罪を重ねて居りました。所へ右守の妻テーナ姫が夫の館に右守の使者として現はれ来り、妾に対し無理難題を吹きかけ、夫のシヤールを威喝して遂に獄舎を造り妾を投げ込み、非常な虐待を致すのでござります。妾は最早運命つきたりと覚悟を極め、涙にくるる折しも、雨風烈しき夜半、これなる忠僕リーダーが獄舎を打破り、妾を背負ひ暗に紛れて此処まで漸う連れて来てくれました。これも全く神様のお蔭と竜雲殿の御保護でござります。最早この世に望みはござりませぬが、せめて一度父のクーリンスや妹のセーリス姫に面会したうござります。また成る事ならば一目なりとも王様のお姿を拝みたく存じます。それさへ出来れば最早死んでも怨みはござりませぬ』
と身の上話にホロリと涙を落し差俯むく。
『それでスツカリ事情は分りました。やがて親兄妹は申すに及ばず、セーラン王様に会はせませう。さうして屹度身魂同士の夫婦だから肉体の上でも夫婦となつて、イルナの都の花と謳はれ遊ばすやうに守つてあげませう。この手筈は已に此方において神示の下に行はれつつありますから御安心なさいませ』
『左様な有難い事になりませうかな。そんな事が出来ますならば、妾を初め親兄妹はどれほど喜ぶか知れませぬ。王様も嘸御満足を遊ばすでござりませう』
竹野『ヤスダラ姫様、貴女もこれから神様のために余程御苦労を遊ばさねばなりませぬぞや。妾も随分若い時は両親に別れ、淋しい月日を送りましたが、風の便りに父の命は高砂島に在しますと聞き、姉妹三人が色々と艱難苦労を致しまして、珍の都を立ち出でてエデンの川辺へ進み行く折しも、悪者共に取巻かれ、困りきつて居る所へ、月照彦様の御化身照彦と云ふ館の僕が追つ掛け来り危難を救ひくれられました。それより父の在します珍の都へ、主従四人訪ねて参り、ヤレ嬉しやと思うたのも束の間、木花姫命様の化身なる珍山彦の神に導かれ恋ひしき父の都を後に、テルの国にて照彦に別れ、それより船に乗つてアタルの港へ上陸し、ヒル、カルの国々を姉妹三人離れ離れに宣伝を致し、ウラル教の魔神鷹依別の目付に追ひ捲られ、情ある春山彦の館に隠され漸く危難を免れ、黄泉比良坂の戦ひに参加致しましたが、随分種々の神様のお試しに会ひました。それよりまたアジヤに渡り所々方々と宣伝に廻るうち、神素盞嗚大神様のお媒酌によつてコーカス山において北光の神様と結婚式を挙げましたが、それから長い間夫婦同居した事もなく、お道のため活動をつづけ、この頃漸く夫婦が一緒にかうして御用を勤めるやうになりました。最早夫も年が寄り、妾もこんな婆になつてしまひました。オホヽヽヽ』
と涙をかくして笑ひに紛らす。
 ヤスダラ姫は竹野姫の話に感じ、かつ自分の苦労の足らぬのを恥かしく顔赤らめてオゾオゾしながら、
『左様でござりましたか、人間と云ふものは中々容易な事で一生を送る事は出来ませぬな。妾等は貴女の事を思へばお話になりませぬ。少しの忍耐もなく夫の牢獄を脱け出し、ノメノメと親兄妹や思ふ夫を慕うて帰つて来た心のきたなさ、恥かしさ、実に汗顔の至りでござります』
『ヤスダラ姫様、御心配なさいますな。貴女はこれから神界のため御活動遊ばすのだ。人の一生は重荷を負うて険しい山坂を登るやうなものです。何時険呑な目に遭ふやら、倒れるやら分りませぬ。そこを神様の御神力で助けられ、波風荒き世の中を安々と渡るのですよ。さうして自分の身を守りながら神様の貴の御子たる天下の万民に誠の道を教へ諭して、天国に救ひ、霊肉ともに安心立命を与へるのが神より選まれたる貴女等の任務だから、如何なる艱難辛苦に遭ふとも決して落胆したり怨んだりしてはなりませぬ。何事もこの世の中は人間の自由には木の葉一枚だつてなるものではない。みんな神の御心のまにまに操縦されて居るのだから、如何なる事が出て来ようとも惟神に任し、人間は人間としての最善の努力を捧ぐればよいのです。この竜雲さまだつて始めは随分虫のよい考へを起し得意の時代もあつたが、忽ち夢は覚めて千仭の谷間へ身を落したやうに見すぼらしい乞食とまでなり果て、此処に翻然として天地の誠を覚り、諸国行脚をなし、今は完全な神司となり、御神力を身に備ふるやうにおなりなさつたのですから、人はどうしても苦労を致さねば誠の神柱にはなる事は出来ませぬ。この北光の神が都矣刈の太刀を鍛ふるにも、鉄や鋼を烈火の中へ投げ入れ、金床の上に置いて、金槌を以て幾度となく錬り鍛へ叩き伸し、遂には光芒陸離たる名刀と鍛へるやうなもので、人間も神様の鍛錬を経なくては駄目です。一つでも多く叩かれた剣は切れ味もよく匂も美はしきやうなもので、人間も十分に叩かれ苦しめられ、水火の中を潜つて来ねば駄目です。これからこの北光の神が貴女の恋ふるセーラン王に面会させますが、決して安心をしてはなりませぬぞ。吾々夫婦の如く互に手配りをして誠の道に尽さねばなりませぬ。いつまでも若い身を以て天下擾乱のこの場合、夫婦が安楽に情味を楽しむと云ふ事は出来ませぬ。生者必滅会者定離、別離の苦しみは人間は愚か、万物に至るまで免れ難き所、この点を十分に御承知を願つておかねばなりませぬ。やがてセーラン王は二三の忠誠なる僕に守られ、此処にお出でになりませう』
『ハイ、有難うござります。何から何まで御親切の御教訓、屹度肝に銘じて忘却致しませぬ。否何事も神様の仰せを遵奉致しまして、天晴れ神柱と鍛へて頂く覚悟でござります』

竹野『ヤスダラ姫貴の命の言の葉を
  聞くにつけても涙ぐまるる。

 勇ましき汝が御言を聞きしより
  竹野の姫の胸も輝く』

ヤスダラ『有難し北光神や竹野姫
  御言のままに道に仕へむ。

 セーラン王貴の命の今此処に
  来ますと聞きて胸轟きぬ。

 相見ての後の心に比ぶれば
  今の吾こそ楽しかるらむ』

北光『セーラン王貴の命は今此処に
  北光神の住家訪ねて。

 惟神神の御手に導かれ
  妹背の山の谷間を行きませ』

竜雲『打仰ぎ空行く雲を眺むれば
  人の行末思ひやられつ。

 高照の山に棲まへる狼も
  夫婦の道は忘れざるらむ。

 妻となり夫となるも天地の
  神の結びし縁なるらむ』

リーダー『はるばるとテルマン国を立出でて
  姫を守りつ今此処にあり。

 テルマンのシヤールの館を出でし時
  行末如何にと思ひなやみしよ。

 かくばかり尊き神に会ひし上は
  世に恐るべきものあらじとぞ思ふ。

 惟神神の御言を畏みて
  世人のために身をや尽さむ』

 かく歌ひ終る時しも、俄に聞ゆる蹄の音カツカツと岩窟内まで響き来る。
北光『ヤア、あの足音はセーラン王の一行ならむ。竜雲殿、お出迎へ頼み入る』
ヤスダラ『えツ!』
竜雲『畏まりました』
と身を起し岩窟の入口指して一目散にかけり行く。

(大正一一・一一・一二 旧九・二四 北村隆光録)



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