出口王仁三郎 文献検索

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物語41-3-131922/11舎身活躍辰 夜の駒王仁三郎参照文献検索
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第一三章 夜の駒〔一一一七〕

 イルナの都、セーラン王の館の奥の間には、王を始め黄金姫、清照姫、テームス、レーブ、カルの六人、上下の列を正し、対坐しながら、ひそびそ話が始まつてゐる。
王『黄金姫様、遠方の所夜中にも拘らず、よくお越し下さいました。これで私も一安心致します。貴女は鬼熊別様の奥様蜈蚣姫様、小糸姫様でございますなア』
『ハイ、恥しながら運命の綱にひかれて、とうとう夫と別れ、神様のために三五教の宣伝使になりました。世の中は思ふやうにゆかないものでございます』
『左様でございますなア、私も夫婦の道に就いて、非常に悲惨な境遇に陥つて居ります。これでも何時かまた神様の御恵によつて、思ふやうに身魂の会うたもの同士添ふ事が出来ませうかなア。貴女様は最早鬼熊別様と仲よく元の夫婦となつて、神界にお仕へ遊ばすことが出来ませう。私は到底望みがありますまい』
『親子夫婦が一緒に神界に仕へる位、結構な事はありませぬが、私の夫は御存じの通り、バラモン教の柱石、私始め娘は三五教の宣伝使、何程神様は一つだと申しても、むつかしい仲でございます』
『決して御心配なさいますな。鬼熊別様は、キツト貴女のお説に御賛成遊ばすでございませう。私の今日の身の上は実に言ふに言はれぬ境遇に陥つて居ります。許嫁のヤスダラ姫は奸臣のために郤けられ、心に合はぬ妻を押付けられ、一日として楽しく暮した事はありませぬ。その上奸者侫人跋扈し、私の身辺は実に危急存亡の場合に陥つて居ります。就いては貴女様をお迎へ申上げ、この危急を救うて頂きたいと存じまして、北光の神様の夢のお告げによつて、数日前より貴女様の此方へお出ましになるのをばお捜し申して居りました。よくマア来て下さいました。今後は貴女のお指図に従ひ身を処する考へですから、何分よろしく御願ひ致します』
『貴方は三五の教を信じますか』
『ハイ、別に信ずるといふ訳ではございませぬが、大自在天様も世界の創造主、国治立尊様も矢張り世界の創造主、名は変れども元は同じ神様だと信じて居ります』
『国治立尊様は本当のこの世の御先祖様、盤古神王や自在天様は人類の祖先天足彦、胞場姫の身魂から発生した大蛇や悪狐悪鬼の邪霊の憑依した神様で、言はばその祖先を人間に出して居る方ですから、非常な相違があります。神から現はれた神と、人から現はれた神とは、そこに区別がなければなりませぬよ』
『あゝさうでございますかなア。私は三五教の奉斎主神たる国治立大神様も、盤古神王様も、大自在天様も同じ神様で、名称が違ふだけだと聞いて居ります。私も固くそれを信じて居りましたが、さう承はれば一つ考へねばなりますまい。チヨツト貴女様母娘に見て頂きたいものがござりますから、どうぞ私の籠り場所へお越し下さいませ。妻でも左守の司でも誰一人入れたことのない神聖な居間でございます。テームスよ、レーブ、カルと共にここにしばらく待つてゐてくれ』
 テームスは、
『ハイ畏まりました』
とさし俯むく。王は母娘を伴なひ、籠りの室へ進み行く。行つて見れば、かなり広い室が二間並んでゐる。そこには立派に斎壇が設けられ、いろいろの面白き骨董品などが、陳列されてあつた。床の間の簾を王はクリクリと捲上げ、手を拍ち、祝詞を奏上し始めた。母娘も同じく頭を下げ、小声に祝詞を奏上し、終つて斎壇をよくよく見れば、一幅の掛軸が床の間の正面にかけられ、神酒、御饌、御水等がキチンと供へられてある。これは常に王が潔斎して神慮を伺ふ秘密室であつた。
 掛物の神号をよく見れば、天一神王国治立尊……と正面に大字にて記し、その真下に教主神素盞嗚尊と記し、中央の両側に盤古神王塩長彦命、常世神王大国彦命と王の直筆で記されてあつた。黄金姫母娘はこの幅に目をとめ、何とも言へぬ爽快さと驚きの念にうたれ、呆然としてその神号を眺めてゐる。
『私の信仰はこの通りでございます。お分りになりましたか』
『思ひもよらぬ御神徳を頂きました。これではイルナの城も大丈夫、御安心なさいませ。しかしながらこの世の御先祖様でも時世時節には対抗し難く、一度は常世彦、常世姫一派のために、根底の国までお出でなさつた位だから、決して油断は出来ませぬ。貴方の信仰が大黒主の方へでも分らうものなら大変だから、今しばらくは発表せないがよろしいぞや』
『ハイ、左守の司にさへもこの室は覗かせた事はありませぬ。誰も知る者はないのですから、大丈夫でございます』
『仮令この室を覗かぬとも、貴方の信仰がかうだとすば、何時とはなしに、貴方の声音に現はれ、皮膚に現はれ、遂にはかん付かれるものです。どうしても心の色は包む事は出来ませぬから』
『貴女様が此処へお越し下さつた以上は、余り心配する事も要りますまい。一寸これを御覧下さいませ』
と次の間に二人を導く。見ればここにも一寸した床の間があつて、二幅の絵像が掲げられてあつた。黄金姫、清照姫はアツとばかり驚かざるを得なかつた。それは日頃心にかけてゐる夫鬼熊別の肖像と一幅は神素盞嗚尊の御肖像であつた。清照姫は思はず、
『あゝこれはお父様、大神様』
と言はうとするを、黄金姫は口に手を当て、
『コレコレ清照姫殿、何をおつしやる。これはキツト大黒主様と自在天様の絵姿だ。そんな大きな声を出すと、悪魔の耳に這入つては大変ですよ』
『父上によう似た御肖像でございますなア。ホヽヽ』
『私は今までバラモン神を信仰してこの国を治めて居りましたが、ある夜の夢に神素盞嗚大神様、鬼熊別命様と二柱現はれ給ひ、いろいろ雑多の有難き教訓を垂れさせ下さいまして、それより神命に従ひ、私一人信仰を励み、時の到るを待つて居りました。私の夢に現はれたお姿を思ひ出して、自ら筆を執り、ソツとお給仕を致して居ります。鬼熊別様は神界にては神素盞嗚尊様のお脇立になつてゐられます。キツトその肉体も三五のお道へお入り遊ばすでせう。ただ時間の問題のみが残つてゐるのだと感じて居ります』
 黄金姫母娘は物をも言はず感に打たれ、嬉し涙にかきくれてゐる。セーラン王は、

『天地の神の恵を目のあたり
  拝みし今日ぞ尊かりけり。

 素盞嗚神の尊に服ひて
  教を守る鬼熊別の神司よ。

 鬼熊別神の命は今しばし
  ハルナの都に忍びますらむ。

 時機来ればやがて表に現はれて
  三五教の司となりまさむ。

 あゝ嬉し黄金姫や清照姫
  神の司に会ひし今宵は』

黄金『来て見れば思ひもよらぬ王の居間に
  わが背の君の姿拝みし。

 バラモンの教の御子と思ひしに
  摩訶不思議なる今宵なりけり』

清照『千早振る神の光の強ければ
  父の命の心照りつつ

 吾父は最早国治立神の
  教の御子となりましにけむ。

 セーランの王の命よ今しばし
  時を待ちませ神のまにまに。

 清照姫教の司も今宵こそ
  積る思ひの晴れ渡りける』

黄金『北光の神の命のかくれます
  高照山にとく進みませ。

 高照の山は世人の恐ろしく
  噂すれども貴の真秀良場。

 百千々の狼の群従へて
  北光の神は王を待ちつつ。

 いざさらばテームス、レーブ、カル三人
  後に従へとく出でませよ』

王『黄金姫神の御言に従ひて
  とく立出でむ高照山へ。

 吾行きし後の館は汝命
  しばし止まり守り給はれ』

清照『大神の稜威の光に照らされて
  道も隈なく安く行きませ。

 母と娘が心を協せ身を尽し
  入那の城をしばし守らむ』

王『鬼熊別神の命の賜ひてし
  生玉章を汝に奉らむ。

 心して披き見給へ鬼熊別
  神の命の真心の色を』

と言ひながら、鬼熊別より王に遣はしたる密書を黄金姫に恭しく手渡した。黄金姫は手早く封じ目を切り、押披いて読み下せば、左の文面であつた。
『鬼熊別よりセーラン王に密書を送る。
一、これの天地は天一神王大国治立尊の造り給ひし神国にして、決して大国彦、塩長彦の神等の創造せし天地にあらず。また大黒主はバラモン教の大棟梁として兵馬の権を握り、大教主の仮面を被り居らるれども、天は何時迄もかかる虚偽を許し給はず、必ずや本然の誠に立ち返り、三五教を信従する時あるべし。それに付いては神素盞嗚大神の御摂理により、吾妻子近々の中に王が館に訪問すべければ、一切万事を打明け、国家のために最善の努力をなさるべし。ハルナの都は今や軍隊の大部分は遠征の途に上り、守り最も少なくなり居れり。しかるに王に仕ふる右守より王を廃立せむとの願書、大黒主の許に来り、大黒主は数千の騎士を近々差向くる事となりをれば、イルナ城は実に風前の灯火なるを以て、貴王は吾妻子と共に善後策を講じ、一時何れへか避難さるべし。鬼熊別はハルナの都に止まつて、大黒主を悔ひ改めしめ、その身魂をして天国浄土に救はむと朝夕努めつつあり。吾妻子に面会の日を期し、一刻の猶予もなく、安全地帯へ一時身をかくさるべく呉々も注意致します。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と記されてあつた。黄金姫、清照姫は久しぶりに鬼熊別の肉筆の手紙を見て、夫に直接会ひし如く、父に面会せし如く、心勇み、感涙を落しながら、
黄金『あゝこれにて何もかも分りました。北光の神様が一時も早く貴方を狼の岩窟へ誘ひ来れとの御命令も、この手紙の文面にて氷解しました。あゝ、何と神様はどこまでも注意周到なお方だなア』
清照『お父様に直接お目にかかつたやうな心持が致します。神様、有難うございます』
と両手を合せ、神素盞嗚尊の聖像に向つて、感謝の詞を捧げた。
黄金『サアかうなる上は、一刻も早く高照山へ夜の明けない中にお越し遊ばせ。申上げたき事は山々あれど、今はさういふ余裕もございませぬ。サア早く早く』
とせき立つれば王は、
『左様ならば、万事よろしく願ひます』
と先に立ち、テームス等が控へてゐる居間に姿を現はした。王は母娘と共に表の居間に立現はれ、テームスに打ち向ひ、
『テームス、御苦労だが、早く駒の用意をしてくれ。これから高照山へレーブ、カルを伴ひ、出発致すから』
『ハイ承知致しました。しかしながら黄金姫様の御命令により、馬の用意はチヤンと整へておきました。何時なりともお供を致しませう』
『あゝそれは有難い。それなら、黄金姫様、清照姫様、あとをよろしく御願ひ致します』

黄金『君ゆきて如何にけながくなるとても
  われは館を守りて待たむ。

 うら安く進み出でませ高照の
  山の岩窟に神は待たせり。

 三五の教司の北光の神は
  君のいでまし待たせ給はむ』

王『いざさらば黄金姫や清照姫
  神の命よ惜しく別れむ』

と歌ひながら、慌しく表に出で、裏門口より駒引き出し、暗の道を辿りて、高照山の岩窟指して一行四人は雲を霞と駆り行く。

(大正一一・一一・一二 旧九・二四 松村真澄録)



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