出口王仁三郎 文献検索

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物語41-2-101922/11舎身活躍辰 狼の岩窟王仁三郎参照文献検索
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第一〇章 狼の岩窟〔一一一四〕

 入那の都より四五里を隔てたる所に高照山といふ高山脈が横はつてゐる。イルナの都へ行くにはどうしてもこの山を越さねばならぬ。昔大洪水のあつた時、高照姫命が天降り給ひて、国人をこの高山の頂に救はれた因縁によつて今尚高照山と称へられてゐるのである。この峠を照山峠と称へられてゐる。今より十万年以前に世界的大地震があつて、今の印度は非常な高原地であつたのが、大に降下してしまつたものである。ハルナの都も今は孟買となつてゐるが、今の孟買は丁度その時代の大雲山の頂に当つてゐる。ハルナの都は海底深く沈没してしまつた。故に今日の地理学、地質学より見れば、大変にこの物語は相違する点の多々あるは言を俟たない次第である。
 照山峠の二三里右手に当つて、狼の岩窟といふのがある。ここには実に恐ろしき狼の群が天地を我物顔に横行闊歩して、人間の一歩もその地点に踏み入る事を許さない狼窟であつた。黄金姫、清照姫はイルナの森の少しく手前から狼の群に誘はれて、この狼の岩窟に進み入る事となつた。(狼とは食人種の別称)
 噂に聞く恐ろしき狼の棲処とは言ふものの、母娘両人が宣伝歌を歌ひながら、狼につれられて山深く進み入ると、幾千万とも限りなく、狼軍は細谷路の傍に列を作り、ウーウーと歓呼の声を放ち、二人の入り来るをば嬉しげに待ち迎へてゐる。母娘はあたりに心を配りながら、漸くにして狼王の棲息せる大岩窟に進み入つた。
 岩窟の中は大変に広くかつ美しく、所々に金、銀、瑪瑙、しやこ、瑠璃などが光つてゐる。その美はしさ、恰も天国の宮殿に進み入つた如き感じがした。母娘は案に相違しながら狼に導かれて奥深く進み入ると、そこに白髪異様の老人が美はしき姫神と共に端坐し、何事か狼に囁いてゐる。狼はよく人語を解するものの如くであつた。母娘は怪しみながら老人の側近く寄り見れば、豈図らむや三五教の宣伝使、天の目一つ神夫婦である。
 黄金姫は打驚き、頓狂な声を出して、
『ヨウ、貴方は北光の神様ではございませぬか。珍しい所でお目にかかりました。どうしてマア斯様な狼窟へ御夫婦とも御立籠になつてゐられますか』
『神素盞嗚尊より、汝は神変不思議の神力を得たれば、最早人間界を済度するには及ばぬ。人間界は他の宣伝使にて事足れば、汝はこれより猛獣の棲処に進み入り、彼等憐れなる獣類の霊を済度し、向上せしめ、生を変へて人間と生れしむべく、恵の露を施せよとの御命令、謹んで承はり、とうとう今は鷹依姫、竜国別さまのやうに、猛獣の王となりましたよ。アハヽヽヽ』
『何とマア大神様の御仁慈は、禽獣まで及ぼすとはここの事でございますア。私等母娘、入那の森を越えて都へ進まむとする折しも、数十頭の狼現はれ来り、吾等母娘の袖を喰へ無理に引張りますので、何事か神様の思召ならむと、ここまで狼にひかれて岩窟参りをやつて来ました。オホヽヽヽ』
竹野『貴女は三五教にて御名の高き黄金姫の神司でございましたか、お若いのは清照姫様でございますか。世のため道のため、御苦労さまでございますなア』
『ハイ有難うございます。貴女は黄泉比良坂において桃の実と仕へ給うた竹野姫様でございましたか。御高名は承はり、一度拝顔を得たしと明暮れ祈つてゐましたが、これはまた思はぬ所で拝顔を得ました。何分身魂の曇つた吾々母娘、どうぞお叱りを願ひます』
『御鄭重な御挨拶、痛み入ります。どうぞ何分にもよろしく御交際を願ひます』
北光『貴女は玉山峠において、狼に救はれたでせう』
黄金『ハイ左様でございます、貴方それを御存じでございますか』
『狼共の注進により、貴女の危急を救ふべく、一小隊ばかり繰出しました、アハヽヽヽヽ』
『それは御親切によう救うて下さいました。吾々は未だ人間心がぬけませぬので、猛獣までもなづけることは出来ませぬ。また獣の言を解する事も出来ない困つた女でございます。かやうな身魂を以て宣伝使とは実にお恥しうございます』
『貴女をここへお招きしたのは外ではございませぬ。実は貴女はハルナの都へお越し遊ばす事になつて居りますれども、それ以前に一つ、不思議な働きをして頂かねばなりませぬから、狼を遣はして、右の手続きを取つたのでございます。実はイルナの国にバラモン教の神司兼刹帝利なるセーラン王の部下にカールチンといふ心汚き右守があつて、ハルナの都の大黒主と諜し合せ、セーラン王を打亡ぼし、自ら刹帝利の位地に進まむと致して居ります。就いてはハルナの都より数千騎を以て、近々にセーラン王の館へ攻めよせ来る筈なれば、貴女はこれよりイルナ城に進み入り、セーラン王その他一族を誘ひ出し、この狼の岩窟へ迎へとり、徐に右守の陰謀を打破つて貰ひたい。そのために貴女を御苦労になつたのです』
と始めて狼の迎へに来た理由を物語る。
『委細承知致しました。左様ならば母娘両人がこれよりイルナ城へ進みませう。何卒御保護を願ひます』
『眷族共を数多従へさせますれば御安心下さいませ。しかしながら狼といふ奴は屋外の守護にはなりますが、屋内へ這入れば少しも働きの出来ない奴ですから、どうぞ気をつけて行つて下さい。貴女は途中において、竜雲を始め、ヤスダラ姫にキツト会ふでせう。北光の神が待つてゐたと言つて下さい』
 黄金姫は目を丸くし、
『ナニ竜雲とおつしやるのは、セイロン島において謀叛を企んだ妖僧ではございませぬか』
 北光の神ニツコと笑ひ、
『左様でござる。如何に悪人なればとて改心した上は尊き神様の御子。今は修行のため、月の国七千余国を巡礼させてありますが、時々狼の眷族をさし遣はし、竜雲を守らせ、また竜雲より絶えず手紙を眷族に持たせて送つて来ます。実に狼と雖も、なづいたら重宝なものですよ。アハヽヽヽ』
『丁度吾々母娘のやうなものですなア。私も蜈蚣姫といつた頃は、随分大神様の教に敵対ひ、黄金の玉を盗みなどして、悪の限りを尽して来ましたが、改心の結果、かやうな尊き宣伝使に採用されましたのですから、実に神様の御仁慈は、言葉に尽すことが出来ませぬ』
と声まで曇らせてホロリと涙を落し、さし俯むく。
『北光の神様、どうぞ清照も御守護をして下さいませや。キツト御使命は果しますから。竹野姫様、よろしく御願ひ致します』
『何と凛々しい清照姫様の御姿、どうぞ男の難に会はないやうに気をつけて下さいませ。貴女も一度御経験が御有りなさるのですからなア』
 清照姫は少しく頬を赤らめて差俯むくしほらしさ。北光の神は母娘の首途を祝すべく、音吐朗々として宣伝歌を歌ひ始むる。

『神の御稜威も高照の  山奥深く築かれし
 狼達の岩窟に  教を開く宣伝使
 北光彦や竹野姫  黄金姫や清照姫の
 貴の命の首途を  祝して清き宣伝歌
 謹み敬ひ宣べ立つる  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましまして  イルナの都に立向ふ
 秋の草野の色深き  黄金姫や清照姫の
 貴の命の御使に  仁慈無限の大神の
 大御力を授けまし  眷族共に守らせて
 セーラン王の館へと  遣はし奉る勇ましさ
 皇大神の御言もて  天の目一つ神司
 竹野の姫と諸共に  汝が命に打向ひ
 イルナの都の曲神を  言向和す出陣を
 神に代りて宣べ伝ふ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 魔神はいかに荒ぶとも  皇大神の守ります
 三五教の神司  恐るることは更になし
 悪逆無道の神司  右守司のカールチン
 それに従ふ曲神は  いかに沢山あるとても
 生言霊の神力に  言向和し三五の
 教にまつろへ和すこと  火を睹るよりも明けし
 さはさりながらバラモンの  大黒主は名にし負ふ
 八岐大蛇の生宮と  下り果てたる霊なれば
 いかに尊き神力も  容易に亡ぼす術もなし
 心ひそめて時を待ち  彼等が自ら弱りはて
 悔悟の念の起るまで  ひそかに事を計るべし
 先づ第一にセーランの  王をば救ひ一族を
 助けてこれの岩窟に  深くかくしたその上で
 大黒主の軍勢を  生言霊に悉く
 言向和し、さもなくば  海の彼方に追ひちらし
 三五教の神力を  時節をまつて照らすべし
 時の力は天地を  造り給ひし大神も
 左右し給ふ事ならず  ここの道理を聞き分けて
 慌てず騒がず悠々と  時節を待つて曲神を
 言向け給へ惟神  神に代りて北光の
 神の司が宣べ伝ふ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』  

 竹野姫はまた黄金姫母娘の首途を祝し、宣伝歌を歌ふ。

『鬼熊別が妻司と  現はれ給ひし蜈蚣姫
 心の暗の戸押し開き  真如の月の御光に
 照らされ給ひ三五の  神の司と進みまし
 名さへ目出度き黄金姫の  貴の命と言あげし
 黄竜姫と現はれて  竜宮島に時めきし
 小糸の姫も今は早  三五教の神司
 清照姫となり給ふ  神の恵の幸はひて
 曲は忽ち善となり  曇は晴れて大空の
 青きが如く すくすくと  心勇ませ給ひつつ
 神素盞嗚大神の  御言畏み秋の空
 草鞋脚絆に身をかため  心も軽き蓑笠の
 そのいでたちの勇ましさ  思へば思へば三五の
 尊き神の御教に  魔司は忽ち善となり
 鬼は仏となり変り  狼さへもかくの如
 いと従順になりをへぬ  黄金姫よ清照姫の
 貴の命よ汝は今  イルナの都に到りなば
 我情我慢の雲を去り  仁慈無限の大神の
 清き心に神ならひ  あくまで争ひ競ふなく
 無抵抗主義を発揮して  四方にさやれる曲司を
 善に導き救ひませ  何程知識はさとくとも
 意念はいかに強くとも  禽獣虫魚を助くるは
 慈悲の心に及ぶまじ  慈悲博愛を禽獣に
 及ぼし救ふ神心  必ず忘れ給ふまじ
 あゝ惟神々々  神に祈りて竹野姫
 汝が命の出陣に  際して忠告仕る
 あゝ惟神々々  守らせ給へ天津神
 国津神たち八百万  母娘二人の成功を
 指折り数へ待ち暮らす  竹野の姫の志
 心に深く刻みつつ  とく出でませよ神司
 成功祈り奉る』  

と歌ひ了り、神殿の神酒を下げ来りて、母娘に戴かせ、首途を送る。黄金姫は簡単に三十一文字を以て答礼に代ふ。

『北光の神の命や竹野姫
  その宣言を固く守らむ。

 世を救ふ心のたけの清ければ
  世に恐るべき曲はあるらめ。

 いざさらばこれより進み入那国
  セーラン王を守り助けむ』

清照『二柱神の御言を畏みて
  母娘は心勇みて行かむ。

 狼の御供の司に守られて
  入那の国に進む嬉しさ。

 北光の神の命よいざさらば
  待たせ給へよ帰り来る日を。

 竹野姫神の命に物申す
  汝が背の君をよく守りませ』

 竹野姫はこれに答へて、

『大神の御稜威も空に高照の
  イルナに進む人ぞ尊き。

 北光の神の司は生神よ
  今日は岩窟に明日は入那に』

黄金『いと清き神の司の御教に
  われは進みて都に上らむ。

 いざさらば二柱ともまめやかに
  神の大道に仕へ給はれ』

 かく歌ひ、別れを告げて再び身づくろひをなし、黄金姫、清照姫は狼に送られ、急坂を勇み進んで下り、山口に出で、再び元来し道に引返し、照山峠を越えて入那の都に進むこととはなりぬ。

(大正一一・一一・一一 旧九・二三 松村真澄録)



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