出口王仁三郎 文献検索

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物語41-1-51922/11舎身活躍辰 急告王仁三郎参照文献検索
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第五章 急告〔一一〇九〕

 セーラン王の館の玄関口にて出会つたのは右守のカールチンが右の腕と頼むマンモスとサモア姫である。
『オー、マンモス様、今日は大変にお早い御登城でござりますな。貴方の御出世の妨げになると何時もおつしやるユーフテスの事に就いて、私が一つ確な証拠を握りましたから、どうぞソツと一寸私の居間まで来て下さいませぬか。ここでは人目がはげしうござりますから、聞かれちや大変ですワ』
 マンモスは声を潜めて、
『何、ユーフテスの何か欠点を見出だしたと云ふのか。よしよしそれなら行きませう』
『どうぞ足音を忍ばせて妾の室まで来て下さいませ』
と四五間離れて先に立つて行く。
 マンモスは姫の後から何喰はぬ顔して従ひつつ後姿を眺めて、
『何と好い女だなア。何処ともなしに気が利いてる奴だ。器量と云ひ、あの足の運びやうと云ひ、何処に欠点のない女だ。俺も早く思惑を立ててサモア姫の歓心を買ひ、一日も早く結婚の式を挙げたいものだ。姫も姫で俺には特別の秘密を明してくれるのだから占めたものだ。俺位幸福な者はこのイルナの国には、も一人とあるまい。先方も俺にはチヨイ惚れなり俺の方からは大惚れと来て居るのだから堪らないわ、エヘヽヽヽ』
と独り笑ひ独り囁き、サモア姫の室に忍び入る。サモア姫は長煙管で煙草をつぎ一服吸ひつけて、吸口を着物の袖で拭きながら柳の葉のやうな細い目をして、
『さあマンモスさま、一服お上り』
と差出す。マンモスもまた団栗眼を無理に細くし、猫のやうに喉をゴロゴロならせ、色男気取りですまし込んで、サモア姫の差出す煙管をソツと受取り、体を斜に構へスパスパと煙を輪に吹いて居る。サモア姫は小声になつて、
『これ、マンモスさま、大変な事が見付かりましたよ。屹度貴方の御出世の種ですわ』
 マンモスまた小声になり、
『サモアさま、何ですか、早く云つて下さいな』
 サモア姫はツと立上り戸口を少しく開き、顔を外へつき出して四辺をキヨロキヨロ見廻し、幸ひ人無きにヤツと安心したものの如く、ピシヤリと戸を締め、中から固く錠を下し、マンモスの前に静に坐し、マンモスの左の手をグツと握り、二つ三つ左右に振り立て、
『これマンモスさま、確かりなさいませ。ここが貴方の登竜門だ。ユーフテスさまが内証でクーリンスの娘セーリス姫のお居間へ忍び入り、カールチン様の凡ての計略を密々と洩らしてゐましたよ。屹度二人は情約締結が私と貴方のやうに済んでゐると見えますワ。そしてセーラン王様に一切の秘密を打明ける考へらしうござりましたよ』
『そりや本当の事ですか。本当ならば私と貴女にとつては大変な幸運が向いて来たやうなものです』
『もしマンモスさま』
と耳に口をよせ何事かしばらくの間囁いて居る。マンモスは幾度も打頷きながら、
『サモア姫殿、随分気をおつけなさい。私はこれからカールチン様の館に参つて注進を致し、ユーフテスの反逆を逐一申上げ、彼を制敗致して貰ひませう。さうすれば、吾々はカールチン様の一の家来となり、お前さまと安楽に立派に楽しい月日が送れますからな。何程セーラン王様が御威勢が高いと云つても、鬼熊別様の御系統だから決して恐るるには足りますまい。カールチン様は右守でも大黒主様のお気に入りだから大したものですよ。何と云つても旗色のよい方へつくが利口の人間のやり方ですからな』
と悪に抜目のないマンモスは一生懸命に城内を立ち出で、カールチンの館へ慌しく駆け込む。マンモスはカールチンの館の裏口から忍び入り、そのまま奥に進み、カールチン、テーナ姫夫婦の前に両手をつき、
『旦那様、奥様、大変な事が起りました。御用心なされませ』
 カールチンはこの言葉に驚き立膝になつて、
『何、大変とは何事ぞ。早く委細を物語れ』
とせき立てる。マンモスは汗を拭ひ、
『はい、貴方の御信任遊ばすユーフテスの事でござります。貴方は彼を此上なき者と御信用遊ばして居られますが、彼はセーラン王の間者でござりますから用心なさいませ。人もあらうにクーリンスの娘セーリス姫と情を通じ、一切の秘密をセーラン王やクーリンスの許へ報告致して居りまする。今の間に彼を御制敗遊ばされねば、貴方の御生命にも関はる一大事が何時起るかも知れませぬ。私はサモア姫に云ひ含めて様子を考へさして居りました所、確な証拠を握りましたから、今にも彼を呼び出して御制敗なさるのがお家のため、お身のためと恐れながら考へます』
『何、ユーフテスが左様な裏返り的な行動を採つて居るか。そりや怪しからぬ。このままに捨ておく訳には行くまい』
『もし旦那様、ユーフテスは実に吾々に対し忠実な男でござりますから、よもや、そんな事は致しますまい。人の云ふ事は直に信じてはなりませぬ。一応取調べた上でなくては是非の判断はつきますまい。これマンモス、お前は大変慌てて居る様子だが、トツクリ調べた上の事か。或は人の噂を聞いたのか』
『テーナ姫様、私も旦那様の御恩顧を受けて居る者でござります。何しに証拠なき事を申上げて御夫婦のお気を揉ませませうか。正真正銘の生中の掛値もない証拠がござります。どうぞ時を移さずユーフテスを召捕り遊ばしてお家の禍根をお除き下さいませ。何程事務が執れると云つても、あの男のする位の事は私でも致します。時おくれては一大事、さあ早く御決心を願ひます』
 カールチンはマンモスの言葉を半信じ半疑つて居る。その理由はユーフテスは自分の最も信任する男であり、二人の中に地位の争ひが暗に起つてゐる事をよく承知して居たから、マンモスがこんな事を捏造してユーフテスを陥れる考へではあるまいかとも思つてゐたのである。
『マンモス、其方の云ふ事は一分一厘間違ひはないか』
『決して決して嘘偽りは申しませぬ。愚図々々して居ればお館の一大事ですから、取る物も取り敢へず城内を駆け出し内報に参りました』
 カールチン、テーナの二人は双手を組みマンモスの報告の虚実を判じかね、しばし黙然として考へこんで居る。そこへ何気なうやつて来たのはユーフテスである。ユーフテスはこの場の様子の啻ならざると、マンモスのその場に居るに少しく不審を起し、
『旦那様、奥様、御機嫌よろしうござりますか。ヤア其方はマンモス、吾々の許しもなく直接に旦那様に面会を願ふとは合点が参らぬ。何か急用な事でも起つたのか』
と少しく声に力を入れて詰るやうに問ひつめる。マンモスは不意を打たれて俄の返答に困り、
『ハイ、いやもう貴方も御壮健で恐悦至極に存じます。旦那様もお達者で、まあまあ目出度い目出度い』
と上下の言葉使ひを取違へ、マゴついてゐる。
『何とも合点の行かぬマンモスの挙動、何か拙者の行動について旦那様に内通をしに来たのだらう。汝等下役の来るべき所でない、お下り召され』
『何はともあれ、ユーフテスに尋ね問ふべき仔細あれば、マンモス、其方はしばし居間へ下つて、此方の命令を待つがよかろうぞ』
と厳しき鶴の一声にマンモスは返す言葉もなく、手持無沙汰に後に心を残し、吾居間さして帰り行く。
 カールチンは半信半疑の雲に包まれながら言葉厳かに、
『ユーフテス、お前に一つ尋ねたい事があるが、セーリス姫の居間へ行つたのは何用あつてか、その理由を包まず隠さず吾前に陳述せよ』
と語気を荒らげ問ひかけた。ユーフテスは平然として、
『実はその事に就いて旦那様に一伍一什を申上げむと、登城を済ませ、急いで御前へ罷り出でました所でござります。マンモスの奴、何か申上げたのではござりませぬか』
『うん』
『其方はセーリス姫と何か企んで居るのではありませぬか。セーリス姫は誰の娘だと思つて居ますか。お前さまの行動が怪しいと云ふので、今マンモスが注進に来た所だよ。旦那様の疑を晴らすために、何事も包まず隠さず云つたがよかろうぞや』
『お尋ねまでもない一切万事の様子を申上げむと参上致しましたのでござります。実はセーリス姫、私の男らしい処に属根惚れ込み、幾度となく艶書を送り来る可笑しさ。こいつはテツキリ、クーリンスの内命で自分の腹を探らして居るに違ひないと存じ、固造と仇名をとつたこのユーフテスは幾度となく肱鉄をかまし、昨日まで暮れて来ました所、女の一心と云ふものは偉いもので、セーリス姫が態々吾家に訪ねて参り、埒もない事を申して、恋しいの何のと口説き立て、いやもう手も足もつけやうなく、この上情なく致せば自害も致しかねまじき権幕、そこで私が思ふやうには、こりや決して廻し者ではない。恋に上下の隔てはないと考へ、態と軟かく出て見れば、姫は益々本性を現はし、ぞつこん私に惚きつて居ると云ふことが明白になりました。さうなれば彼を利用してセーラン王の動静を探り、且先方に計略あらばその裏を掻くには持つて来いと存じまして、旦那様には内証なれど、一寸このユーフテスが気を利かしたのでござります』
『あゝさうだつたか、お前の事だから如才はあるまいと思つてゐた。持つべきものは家来なりけりだ。そりや良いことをしてくれた。よい探偵の手蔓が出来たものだな。大自在天様も、まだこのカールチンを捨て給はぬと見えるわい。アハヽヽヽ、いやテーナ、安心致せよ』
『それ聞いてチツとばかり安心致しましたが、まだ十分気を許す所へは参りますまい。そしてユーフテス、何かよい事を探つて来たであらうな』
『ハイ、王様の信任を受けて居るセーリス姫の事ですから、何でもよく知つてゐます。女と云ふものは賢いやうでもあだといものですワ。一伍一什私の口車にのつて皆喋つてしまひました』
『どんなことを言つて居たのかな』
『私もまだ一度会つたきりで十分のことは聞きませなんだ。そしてまたあまり追究致しますと怪しく思はれてはならぬと存じ、少しばかり、それとはなしに探つて見ました所が、王様は非常にサマリー姫様をお慕ひ遊ばし、姫と添ふのならば王位を棄てて、姫の父親カールチン様に後を継がせてもよいとのお考へでござります。あまり御夫婦の仲がいいものですから意茶づき喧嘩を遊ばし、到頭サマリー姫様は吾家へお帰りになつたので王様の御心配、口で申すやうのことではござりませぬ』
『何、王様はサマリー姫をそれだけ愛して居られるのか、そらさうだらう。夫婦の情愛はまた格別のものだからな』
と嬉しげにテーナはうなづく。
『姫様と旧の如く添はれるのならば、刹帝利の王位を棄てて右守の司様に後を継いで貰つても差支ないと時々お洩らしぢやさうです。もはや王様においてそのお心ある上は、一日も早くサマリー姫を王様の御許に返し、大黒主様の応援を断つて、円満解決の道を講じられる方が将来のため、大変結構でござりませう。国民に対しても信用上大変に都合がよろしいだらうと存じます』
『そりや果して真実か、それが真実とすれば此方も一つ考へねばなるまい。平地に波を起す必要もないからのう』
『そら、さうでございますとも。吾々だつて旦那様が刹帝利の位におつき遊ばす以上は左守の司に任じて頂けるのですから、一生懸命に、ここまで探つたのでござります。これ以上はまた明日登城致しましてセーリス姫に篤と申し聞かせ、王の信任ある彼の口より、一日も早く王様の自決されるやう勧めませう』
と早くもユーフテスはセーリス姫の罠にかかり、カールチン夫婦をうまくチヨロまかしてしまつた。さうしてサマリー姫を獄舎より引き出し両親にお詫をさせ、盛装を整へ輿に打乗せて入那城へ送り届ける事となつた。マンモスはユーフテスの計らひにて忽ち牢獄に投げ込まれてしまつた。

(大正一一・一一・一〇 旧九・二二 北村隆光録)



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