出口王仁三郎 文献検索

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物語41-1-41922/11舎身活躍辰 右守館王仁三郎参照文献検索
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第四章 右守館〔一一〇八〕

 右守の司カールチンは妻のテーナと共に酒汲み交しながら、夜の更くるまで、ホロ酔機嫌になつて、セーラン王追放の奸策を謀つてゐる。
『旦那様、今度こそは大黒主様も御承知下さるでせうなア。セーラン王様は、大黒主様の最も御嫌な鬼熊別の一派だと云ふ事を、あれだけ何回も虚実交々取交ぜて内通しておいたのですから』
『今度こそは本望成就の時が来たのだ。いよいよ願望成就する上は、吾々夫婦は入那の刹帝利となるのだから、長生きはせにやならないものだ。今までサマリー姫を犠牲にして后に上げてゐたが、どうやら王は俺達の企みを悟つたらしく、サマリー姫に対して、大変にキツく当るので、姫は泣きもつて逃げて帰つて来よつた。グヅグヅしてゐると悪の企みの現はれ口だ。先んずれば人を制すと云ふから、姫が帰つたのをキツカケに早馬使をハルナの都へ遣はしたのだから、キツトこちらの使が、先に到着してるに違ひない。セーラン王が使をやつた所で、最早あとのまつり、何と俺のやり方は敏捷なものだらう。アハヽヽヽ』
『旦那様は何時とても機をみるに敏なる方ですから、私も貴郎のやうな夫に添うたのは何程幸福だか知れませぬワ。時に可哀相なのはサマリー姫ぢやございませぬか。娘にトツクリと言ひ含めて、セーラン王の后に上げたのだけれど、今ではどうやら親の意思は忘却し、王様に恋着心を持つてゐるやうな塩梅だ。実に罪な事をしたものですなア。あゝして帰つては来て居るものの、私が考へて居れば、寝言にまで王を慕うてゐるのだから困つたものです。さうだから如何に吾生んだ娘だと云つて、この計略を、今日となつては娘の前では云ふ訳には行かず、万一娘が聞かうものなら、王に内通をするかも知れませぬからなア』
『そんな不心得な事を致し、親に反くやうな奴は、埒よく手討ちに致せばいいぢやないか。こんな大望を抱いてる吾々夫婦が、子の一人二人犠牲にするのは前以て覚悟して居なくてはならぬではないか』
『それはまた、余り胴欲ぢやござりませぬか。何程吾々夫婦が出世をしたとて、肝腎の後を継ぐ子がなくては、何にもなりますまい。千年も万年も生きられるものではなし、子が可愛いばかりに、こんな心配をして居るのぢやありませぬか』
『さう云へばさうだが、諺にも言ふぢやないか、子を捨てる藪はあつても吾身を捨てる藪はないと。まさかになつたら子をすてて自分の命を全うするのが当世だ…………イヤ人情だ。俺だつて立派に目的を達し、吾子に後を継がしたいのは山々だが、その子のために陰謀露顕して、吾々夫婦の命をとられるやうなことが出来致したら、それこそ大変ぢやないか』
『あなたは吾子に対し、左様な水臭い御考へですか。私は自分の命はどうならうとも、吾子さへ立派になつてくれれば、それで満足を致します』
『馬鹿だなア、それだから母親は甘いと云ふのだ。吾子だと云つても、体を分けた以上は他人ぢやないか。その証拠には吾子が何程大病で苦しんで居つても、親の体にチツとも痛痒を感じないではないか』
『何とマアあなたはどこまでも無慈悲な方ですなア。私は娘が大病になつた時、自分の体が苦しくなつて寝られず、出来る事なら、娘に代つて患うてやりたいとまで思ひましたよ』
『俺だつてチツとばかりは娘の苦しんでるのを見た時は体にこたへたが、しかし娘の苦痛に比ぶれば、二十分の一位な苦しさだつた。ヤツパリ自分が苦しむのは辛いから、どうしても秘密がばれるとあれば、娘を手討にしてでも、夫婦の命を助からねばならない。親の云ふ事をきかぬ奴は不孝者だから、親が手討にするのが、何それが悪い。アカの他人でさへも吾々の秘密をもらし、規則を破つたならば、大根を切るやうにヅボリヅボリと首を切り捨てるぢやないか。切られた奴だつて、ヤツパリ親も兄弟も子もあるのだから、苦しいのは同じ事だ。そんな事を言つてゐたら、到底この世に立派に暮して行くことは出来ない。自己を守るのが第一だよ』
『その筆法で参りますと、あなたは自分の命を助けるために、私の命を取らねばならぬ時が来たら、私を殺しますか』
『きまつた事だ。夫のために女房が代理となつて殺され、夫の命を救ふのは、名誉ぢやないか。後世まで貞女の鑑として謳はれるのだから、殺された女房の方が何程光栄だか知れないぞ』
『貴郎はハルナの都へお参りになつてから、大変に冷酷になられましたなア。大方八岐の大蛇が憑依してるのではありますまいか』
『上のなす所下これに倣ふと云ふ、川上の水はキツと川下へ流れて来るものだ。俺も大黒主様のお気に入るやうになつた位だから、大功は細瑾を顧みず、チツとばかりの犠牲位は春風が面を吹く位にも思つてゐないのだ』
『さうすると、貴郎は大黒主様が鬼雲姫様を追出し遊ばしたやうに、外に立派な女があつたら、追ひ出すのでせうなア』
『オイ、そこまで追窮するな、水臭くなるからなア』
『ヘン、ようおつしやいますワイ。親子は一世、夫婦は二世と云つて、切つても切れぬ親子をば、自己保全のためには殺しても差支ないと云ふ主義の貴郎が、何時でも取替へこの出来る女房に対し、離縁する位は朝飯前のことでせう。本当にここまで思想も悪化すれば申分はありますまい』
『コリヤ、人のことだと思ふと、吾事だぞ。貴様もセーラン王を廃する事に就いて、俺と始終相談をした悪人ぢやないか。その発頭人は貴様だらうがな。貴様が何時も右守となつてクーリンスの下役になつてゐるのは腑甲斐ない男だと、口癖のやうに悔んだものだから、元から善人でもない俺が、つい貴様に感染してこんな善くもない、自分としては悪くもない企みを始めたのぢやないか』
『オホヽヽヽようマアそんな白々しいことをおつしやりますワイ、流石は大黒主様のお気に入りだけあつて、エライ事をおつしやりますなア』
『夫婦喧嘩はいい加減に切上げようぢやないか。サマリー姫の耳へ這入つたら大変だからのう』
『ナアニ、這入つたつて構ひますものか。貴郎はマサカ違へば一人よりない娘を殺し、私を鬼雲姫様の二の舞にするといふ残酷な御精神だから、そんなこと思ふと阿呆らしくて、こんな危ない芸当は出来ませぬワ。サマリー姫だつて貴郎一人の子ではなし、私の腹を痛めて出来た娘、そんな水臭いことをおつしやると、私が承知しませぬぞや』
と話す所へサマリー姫は目を腫しながら、恐さうに現はれ来り、
『お父さま、お母アさま、モウお寝みになつたら如何でございますか』
 カールチンは打驚き、
『お前はサマリー姫、何故今頃にこんな所へ出て来るのだ。いい加減に寝間へ行つて寝まないか。大方二人の話を立聞したのだらう』
『ハイ、委細の様子残らず承はりました。どうぞ私を御存分に遊ばして下さいませ。鬼の親を持つたと思うて諦めますから………』
『コリヤ娘、何と云ふ事を申すか、鬼の親とは何だ』
『オホヽヽヽこのサマリー姫は王様と争論をしてカールチンの館へ帰つて来ては居るものの、実際を言へば王の后、サマリー姫だよ。親とは云ひながら、汝は臣下の身分だ。不届な事を申すと了簡は致さぬぞや。サア存分にして貰ひませう』
と身をすりよせ、カールチンの前に投出す。
『ヨシ、最早陰謀露はれた上は、到底許しておくべき汝でない。主従もクソもあつたものかい。サア覚悟を致せ』
と立上り、刀を掴み引抜かむとするを、テーナはグツとその手を握り、
『コレ、カールチン殿、滅多な事をしてはなりませぬぞや』
『今となつてはサマリー姫を殺し、陰謀の露顕を防ぐよりほかに途はない。サア覚悟を致せ』
とまたもや柄に手をかけるを、テーナは後より力限りに抱き止め、声を限りに、
『サマリー姫殿、早く逃げさせられよ』
と促すを、サマリー姫は平然としてビクとも動かず、
『ホツホヽヽ、カールチン殿も随分耄碌しましたねえ。妾一人の命を取つて、それでこの陰謀が現はれないと思つてゐますか。最早王様のお耳に入つた以上は駄目ですよ。何程大黒主様の御威勢が強くても、数百里を隔てたハルナの都から、さう早速に御加勢は出来ますまい。また王様には忠誠無比の家来も沢山に従いて居りますれば、貴郎が何程あせつても駄目でせう。妾はこれよりカールチンの首を取り、王様にお土産となし、疑を晴し、元の如く可愛がつて頂きますから、夫婦共、其処に、姫の命令だ、お坐り召され。入那の国王の后サマリー姫、キツと申付ける』
テーナ『コレコレ姫様、そんな没義道なことがありますか。海山の恩を受けたる両親を刃にかくるとは、人間にあるまじき仕業ではござらぬか』
『親の教育が祟つたのだから、仕方がありますまい。吾身のためには子の命でも取ると、只今おつしやつたでせう。骨肉相食む、無道の教をなさつた貴方、已むを得ますまい。サア覚悟をなされ』
カールチン『イヤ姫様、しばらくお待ち下さいませ。つい酒の上で女房を揶揄つてゐたまででございます。決して決して勿体ない。仮令吾子といひながら、王の后とおなり遊ばした貴方に対しどうして不義の刃が当てられませうか』
『貴方は既に王様に対し、無形の刃を当てがつて居るではありませぬか。大それた野心を起し、自分が王位に取つて代らうとは、人道にあるまじき悪業、大自在天様に畏れはございませぬか。貴方は、妾を陰謀の犠牲になさつたのでせう。これ位残酷なことはございますまい。妾の朝夕の心遣ひと云ふものは一通り二通りではございませぬぞ。王様に対し、お気の毒でなりませぬから、何時とはなしに王様に同情をするやうになり、今では恋ひしくなつて参りました。しかるに王様は左守様のお娘ヤスダラ姫様に、寝ても起きても心を寄せ給ひ、妾に対しては極めて冷淡な御扱ひ、これといふのも両親の心が善くないから、何とはなしに王様の心に叶はないのでせう。どうか一日も早く御改心を願ひます。さうでなければサマリー姫、改めて両人を手討に致す、覚悟めされ』
と懐剣をスラリと引抜けば、カールチンは自棄糞になり、
『ナアニ、猪口才千万な、不孝娘』
と云ひながら、手早く懐剣を奪ひ取り、グツと後手に縛り上げ、地下室へ姫を閉ぢ込めてしまつた。
 姫は無念の歯を喰ひしばり、声を限りにカールチンの無道を罵りながら大自在天大国彦命守り給へ幸はひ給へ……と一生懸命に祈願を凝らして居る。
 カールチンはヤツと胸を撫でおろし、
『あゝコレで一安心だ。世の中は思ふやうに行かぬものだなア。体は生みつけても、魂は生みつけられぬとは此処の事だ。オイ、テーナ、お前の腹から出た娘ながら、随分義の固い立派な者だなア。彼奴の言ふ事は真に道理に叶つてゐる。しかしながら今となつてはどうする事も出来ない。可哀相ながらしばらく牢獄に放り込んで置くより途はない。陰謀露顕の虞があるからのう……』
『今サマリー姫の言葉によれば、吾々の陰謀は最早王様やその他の人々に分つてゐるやうですから、サマリー姫ただ一人位暗室へ放り込んだ所で、何の効もありますまい。吾耳を抑へて鈴を盗むやうな話ぢやありませぬか』
『アハヽヽヽ、女童の分際として英雄の心事や智謀が分るものかい。女は女らしく神妙に夫の命令に服従すれば良いのだ。四の五の申すと、貴様も姫の如くに牢獄にブチ込んでしまふぞ』
と稍声を高めて睨めつけ叱り付くる。
『オホヽヽヽ怖い事怖い事、モウこれきり、何も申しますまい』
『女は沈黙が第一だ。牝鶏暁を告げる家には凶事多しといふ。今後は俺のする事に就いて一口でも容喙しようものなら、了簡は致さぬぞ。合点致したか』
と駄目を押してゐる。テーナは顔色青ざめて稍怒りを帯び、夫の顔を恨めしげに眺めてゐる。そこへ慌しくやつて来たのは、カールチンが股肱と頼むマンモスである。カールチン、テーナは素知らぬ風を装ひ、
『イヤ、マンモス、何か急用でも起つたのかな』
『ハイ、少しく申上げたき事がございまして……』

(大正一一・一一・一〇 旧九・二二 松村真澄録)



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