出口王仁三郎 文献検索

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物語40-4-201922/11舎身活躍卯 入那の森王仁三郎参照文献検索
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本文    文字数=20094

第二〇章 入那の森〔一一〇四〕

 黄金姫は照国別一行と葵沼の畔で東西に別れ、西へ西へと進み行く。日も漸く黄昏れて、百鳥は塒を求め、彼方此方の森に帰り行く、その羽音の騒がしさ。一行四人はハタとつき当つた相当広い川辺に着いた。比較的水が少くて徒渉するにも余り困難を感じないやうに見えて居る。一行は薄暗がりに裾をからげて流れを渡り、二三丁西に当るコンモリとした森蔭を目当に辿り着いた。後の夜の月はまだ姿を現はさぬ宵暗である。森の中には古ぼけた相当に大きい祠が建つてゐた。
黄金『秋の日は暮れ易く、余り足も草臥れない内にまた休まねばならぬやうになりました。幸ひこの森の祠の中で一休み致しませう』
清照『お母アさま、今晩は斯様な所で休まずに、やがて月も出ますから、それまでここで月待をして進むことにしませう。夜半頃まで歩けば、余程里程がはかどりませうから………』
黄金『長い道中のことだから、夜が明けたら歩き、何程楽でも日が暮れたら泊つてゆくことにしませう』
清照『それでも何だか気がせいてなりませぬ。ハルナの都にましますお父さまの身の上に何か変事でも起つてゐるやうに思はれて、気が気でなりませぬ』
黄金『何程焦つた所で遠い里程、何事も神様にお任せして、ボツボツ行きませう。草臥れて道で倒れるやうな事があつては、悪神の跋扈する世の中、困りますから』
レーブ『お二人さま、ここで今晩は御一宿なさつたらどうです。吾々両人は互に交代で不寝番を致しますから………』
黄金『それなら何神様の祠か知らぬが先づ天津祝詞を奏上し、このお宮を拝借することに致しませう。清照姫………さうが善いぢやないか』
清照『お父さまの身の上の事は、ここでトツクリ神様に御願ひ致しまして、寝むことに致しませう』
 黄金姫は軽くうなづきながら、型の如く祝詞を奏上し、祠の中に進み入り、蓑を布いて母娘枕を並べ寝に就いた。レーブ、カルの両人は祠の床下に横はりつつあつたが、何時の間にか、ウトウトと眠つてしまつた。
 ここへスタスタとやつて来た二三人の男がある、足音を忍ばせながら祠の前に立寄り、
アルマ『オイ、テク、何でもここらあたりの祠の中らしいぞ』
テク『オイ、アルマ、こんな所に何が居るものかい』
アルマ『それでも何だか妙な響が聞えて来るぢやないか、メツタに鼠の鼾ぢやあるまいぞ。イルナの刹帝利さまから聞いたには、キツと黄金姫の一行は此処を通るに違ひないとおつしやつた。マアマア黙つて様子を考へたらどうだ。彼奴さへ捉まへたなら、結構な御褒美が頂けるのだからなア。小さい国の一つも貰つてハムとなつて威張らうとままだよ』
テク『しかしながら黄金姫といふ奴は中々の豪傑で、俺達の手には合はないぞ。ただ所在さへ分れば黙つて報告し、強い奴に掴まへさせばいいのだ。それが余程利口な行方ぢやからなア、おい、テム、貴様はどつちにするか』
テム『俺はどつちかといへば中立だ。しかしながら同じことなら生擒にしたいものだ。オイオイどうやら本真物の人間の鼾がして来だしたぞ』
 レーブ、カルの両人は床下から三人の話を息をこらして聞いてゐた。三人は床下に二人がひそんでゐるとは夢にも知らず、ドシドシと階段を登り、
アルマ『ヤアこの縁側は数百年来の風雨の侵害によつて、余程老朽してると見えるワイ。気をつけぬと底がぬけて、脛でもかすつたら、またこの間のやうに吠面かわいて、負うてくれの何のとダダをこねねばならぬやうになるぞ。気をつけたり 気をつけたり』
 レーブは床下から、そこらの石を拾つて、古板を下からガンガンと力をこめてなぐり立てた。三人はこの声に驚き、飛上がつた途端に、階段から真逆様に祠の前に転落し、
『アイタヽヽ、ウンウン』
と唸り出した。
テク『オイ、貴様等チトしつかりせぬか。あれ位な声にビツクリしやがつて、挙措その度を失し、こんな所からヒツクリ返るといふことがあるものか。そんな臆病なことでどうして吾々の御用が勤まると思ふか』
アルマ『テク、お前もヤツパリ落ちたぢやないか。人を責むること急にして、己の失敗は口角につかねて知らぬ顔の半兵衛とはチツと虫がよすぎるぢやないか』
テク『貴様等二人が転げやがつたものだから、俺も一緒について落されたのだ。いはば俺は被害者だ。貴様等両人は証拠充分なる加害者だから、刹帝利様に報告して相当の処分をやつて貰ふから、さう思へ』
アルマ『アハヽヽヽ旃陀羅成上がり奴、エラさうに吐すない。俺はかう見えても、チヤキチヤキの首陀の家柄だ。貴様等とは人種が違ふのだからなア』
テク『コリヤ俺が旃陀羅なんて、無礼なことを言ふな、勿体なくもバラモン族だぞ』
アルマ『バラモンが聞いて呆れるワイ、のうテム、此奴は今日も道の真中で旃陀羅に会ひやがつて、心安さうに何だか囁いてゐたぢやないか。彼奴に近よつて物をいふ奴は矢張その系統でなければ、汚らはしくて寄り付く者はないからのう』
テク『コリヤ両人、上官に対して何といふ無礼なこと申す。吾々捕手の役人は旃陀羅であらうが首陀であらうが、一々出会ふ奴の面を検めねばならず、物も言はして見ねば人間の程度が分らないから、仕方なしに職務を重んじて物を言つたのだ。そんな冷淡なことでこの役目が勤まるか、万々一蜈蚣姫がこの捜索の厳しいのを悟つて、人のいやがる旃陀羅に化けて通るかも知れない。さうだから、この方が職務忠実に勤めてゐたのだ。馬鹿野郎だなア。左様な不心得な奴は只今限り暇をくれてやるから、さう思へ』
テム『オイ大将、口ばかりエラさうに言つてるが、お前の腰は立つのかい』
テク『貴様の知つてゐる通り、腰が立ちやこそ此処までやつて来たのぢやないかい。訳の分らぬことを吐すものぢやないワイ。サア只今限り暇をくれる、どつこへなりと、天下に放ち飼ひだ。うせたがよからうぞ』
アルマ『どこへ行けと云つても、俺達は両人共ビツクリ腰が抜けたのだから、しばらく免職だけは保留してゐてくれ。同じ免職なれば、依願免職といふ形式でやつて貰はねば、今後の就職口に付いて迷惑だから、貴様を旃陀羅と云つた位で、この結構……でもない職を免ぜられて堪るものかい。のうテム公』
テク『武士の言葉に二言はないぞ。いひ出したら後へは引かぬテクさまの気性を知つてゐるだらう』
アルマ『ヘン、テクテクと何だテクせの悪い、泥棒上り奴が、モウかうなつては、破れかぶれだ。オイ、テム公、貴様はテム公だから、テクの奴がかぶりついて来たら、手向ふ役となつて格闘するのだ。万々一形勢危しと見たら、俺が助太刀をする、しかしモウ少し経たぬと駄目だ。まだ抜けた腰が元の鞘へ、少しばかり納まつてゐないからのう。しかしテクの奴もきつく腰を打ちやがつたに違ない、あの声の色を見い、大分に痛さうだぞ。大体旃陀羅がこんな尊い御神前へ土足のまま昇るものだから、神罰が当り、俺達までがマキ添ひに会うたのだ』
 かく話す時しも、またもや床下から一層大きな怪しい声が聞えてきた。先のはレーブ一人が石で床板をコツいたのであつたが、今度は両人が力一杯石にて床下を叩いたのだから、四五層倍の響音に聞えて来た。三人はキヤツと悲鳴をあげ、逃げようとして手ばかりもがいてゐるが、チツとも腰が立たない。さうかうしてゐる間に、月は容赦なく下界を照らし、森の隙間から強き光がさして、三人の体を照らした。
 レーブ、カルは床下よりニタリと笑ひながら這ひ出し、階段の上にツカツカと登り、あたりに響く大音声にて歌ひ出した。

レーブ『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 刹帝利浄行畏舎首陀や  旃陀羅族の素性をば
 立別け給ふ時は来ぬ  この世を造りし神直日
 心も広き大直日  ただ何事も人の世は
 直日に見直し宣直し  大黒主は知らずして
 ただ惟神に刹帝利の  流れのはてとあやまりつ
 旃陀羅族のテク公を  神の司の供人と
 使ひ居たりし可笑しさよ  かかる矛盾を見るにつけ
 バラモン教の神司  大黒主の盲神
 ぢやといふ事はハツキリと  今や隈なく知れわたる
 三五の月の御光に  照らされ苦む三人連
 中にも賤しきテク公は  天地の間も恐れずに
 勿体なくもバラモンの  鬼熊別の奥さまや
 小糸嬢をば馬に乗せ  お供に仕へしさへあるに
 冥加知らずのテク公は  怪しき眼を光らして
 心に何か企むてふ  容子の色に見えければ
 神に斉しき黄金の  姫の命や清照の
 姫の司はそれとなく  玉山峠の麓にて
 レーブにかこつけ暇やると  言はれた時の天眼通
 これぞ誠の生神と  敬ひ慕ひ後を追ひ
 いろいろ雑多と苦労して  ここまで従ひ来りしぞ
 この床下にひそみ居て  汝等三人の囁きを
 残らず聞いたレーブ、カル  最早叶はぬ百年目
 腰の抜けたを幸ひに  弱目をみかけて俺達が
 つけ込むのではなけれども  耳をさらへてよつく聞け
 汝は鬼熊別の神  下僕とならむといろいろに
 手をかへ品を変へながら  頼み込んだが明察の
 ほまれも高き神司  鬼熊別は忽ちに
 看破なされて御首を  左右りとふり給ひ
 男を下げてベソをかき  大黒主の下僕等に
 うまく取り入り漸くに  下僕の数に加へられ
 よからぬ事のみ行ひつ  またもや此処に現はれて
 イルナの国の刹帝利と  心を合せ奥様や
 嬢様たちを捉へむと  向ひ来るぞ可笑しけれ
 命知らずの馬鹿者よ  心の鬼に責められて
 チヨツとの音に胆ひやし  階段上から転落し
 腰を痛めて吠面を  かわき苦む憐れさよ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましまして
 悪に返つた旃陀羅の  テクの心を立直し
 仁慈無限の三五の  神の教に逸早く
 進ませ給へ天地の  尊き神の御前に
 慎み敬ひ願ぎまつる  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 摂取不捨の御誓ひ  人間界に交こりて
 賤しき身分とさげしまれ  排斥されし旃陀羅も
 その源を尋ぬれば  天地の神の御分霊
 御分体ぞと聞くからは  一切平等神の御子
 大慈大悲の御心に  見直しましてテクの罪
 許させ給へと願ぎまつる』  

 カルはレーブの後についてまた歌ふ。

『おつたまげたか、たまげたか  テクにアルマにテムの奴
 天に口あり壁に耳  汝等三人の悪だくみ
 残らず聞いた床の下  コリヤ面白い面白い
 一つおどして胆玉を  試してやらうとレーブさま
 カルの二人が二つの目  見合しながら床下の
 石を拾ひて古板を  ドヽヽヽドンと打叩き
 おどしてみれば面白や  汝等三人は胆潰し
 道路神にさいなまれ  つまみ出されたその如く
 階下にドーツと打倒れ  腰をぬかしてウンウンと
 吠面かわき愚痴並べ  旃陀羅族だ刹帝利と
 味方同志が内乱を  起し居るこそ馬鹿らしい
 あゝ惟神々々  神の神罰立どころ
 悪の企みの年の明き  大黒主に仕へたる
 おれは名高きカルさまよ  今床下で聞き居れば
 アルマやテムの両人を  只今限り免職と
 エラさうにほざいて居つただろ  おれは貴様に比ぶれば
 十三四段上役だ  このカルさまが神様に
 代つてテクを免職し  息の根とめて根の国や
 底の国なる地獄道  派遣してやるテクの奴
 双手を合せ感謝せよ  大慈大悲のカルさまが
 お前の好きな底の国  青赤黒の鬼共が
 手具脛ひいて待つてゐる  焦熱地獄のドン底へ
 紹介状をつけるから  安心致して行くがよい
 アハヽヽハツハ オホヽヽヽ  誠に誠に気味がよい
 それに引替へテムアルマ  二人の奴はカルさまが
 抜擢致して今よりは  改心次第で三五の
 司のお供に任けてやろ  サア嬉しいか嬉しいか
 二人の奴らよ返答せよ  返答次第で天となり
 或は地獄と早変り  極楽地獄の境目ぢや
 あゝ惟神々々  祠の中にひそみます
 黄金姫や清照の  姫の司の御前に
 カルが真心捧げつつ  只今仲裁仕る
 あゝ惟神々々  叶はぬならば逸早く
 両手を合せ尻をふり  頭を下げつ四つ這ひに
 三べん廻つてワンワンと  吠えて改心したと云ふ
 証拠を早く見せてくれ  それをばシホにカルさまが
 神の司に取持つて  お前を許し結構な
 これから役目にするほどに  昇る身魂とまた降る
 身魂とさばく神の道  テク公は降る両人は
 天国浄土に昇るよな  心一つの持様で
 ハツキリ区別がつくほどに  メソメソ吠えずに確かりと
 早く改心した上で  感謝の誠を現はせよ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』

 三人は体の身動きもならぬままに、両手を合せ、
『お助け お助け』
と叫んでゐる。この騒ぎに黄金姫、清照姫は目を覚まし、何事ならむと祠の戸を開いて外に現はれ見れば、三人の男のこの惨状、
黄金『コレ、レーブ、カル両人、ここにどうやら三人の男が倒れてゐるやうだ。早く神様にお詫をしてやつて下さい。先づ鎮魂を施して、腰を立たしてやらねばなるまいぞや』
レーブ『ハイ、畏まりました。しかしながら此奴はテームス峠を登る時、清照姫様の馬の口を取つて、玉山峠の麓まで送つて来たテクといふ悪者でございます。外の二人は助けてやつてもよろしいが、此奴だけはみせしめのためにこのままに捨ておき、頭から糞でもひつかけてやつた方が将来のためかも知れませぬぜ』
テク『モシモシ、レーブさま、そんな殺生なことをいはずに、わしも今日から改心しますから、どうぞ助けて下さいな』
レーブ『何と云つてもこのレーブさまとしては許すことが出来ないワ。今日こそ思ふ存分貴様をいぢめてやるのだ。貴様もチツと小手の利いてる代物だから、こんな時に仕返しをしてやらぬと、千載一遇の機会を逸するといふものだ。いつやら俺の頭をなぐりやがつて、そのために俺は治療二週間を要する傷を負うたのだ。それでも長いものには巻かれ主義で、今日まで辛抱して来たのだから、今日は仇討ちの時節が到来したのだ。エヘヽヽヽ、神が仇をうつてやるぞよとおつしやるのはここの事だ、こりやテク、観念致せ』
黄金『コレ、レーブ、お前も無抵抗主義と忍耐と慈悲との三五教へ入つたのだから、今までの恨みはサラリと川へ流し赦してやりなさい』
『奥様の御言葉なれど此奴に限つて赦すことは出来ませぬ。恨み骨髄に徹してる不倶戴天の仇敵ですから、どうぞ仇を討たして下さいませ』
『お前は神様の御言葉を忘れたのかな』
『イエイエどうして、忘れてなりますものか、片時の間も、尊き三五の教は忘却致しませぬ』
『それなら何故仇を赦してやらないのか、チツとお前の信仰と、矛盾しては居ないかなア』
『矛盾か撞着か知りませぬが、此奴ばかりは赦す事は出来ませぬ。普通の人間に擲られたのなら辛抱も致しますが、こんな旃陀羅にやられたと思へば残念で堪りませぬ。こんな奴に擲られてそのままにしておいては出世の時節がありませぬから、どうぞ頭を一つカチ割らせて下さいませ。何とおつしやつてもこれだけは思ひとまる訳には参りませぬ』
と手頃の石を拾ひ、そこに倒れて居るテクの頭を打割らうとするのを、黄金姫は大喝一声、
『レーブ、しばらく待てツ。これほど事を分けて申すのに、女宣伝使と侮つて、吾言を用ひないのか。只今限り免職を致すから、さう思うたがよからうぞや』
 レーブは頭を掻きながら、
『あゝまた免職が伝染したと見えますわい。エヽ仕方がない、それなら奥さまの御命令に従ひませう』
テク『コレ、レーブ、さうしたがよいぞや。人を免職させると、また自分が免職になるぞや』
レーブ『エヽ貴様まで人を馬鹿にするない、アタ忌々しい』
黄金『オホヽヽヽ』
清照『ウフヽヽヽあのマア、レーブさまの悄気た顔わいのう』
カル『エツヘヽヽヽ、コリヤ面白い面白い』
黄金『三人の者共、黄金姫が赦すから、何処へなと勝手に行つたがよからう。今度は決してこんな割のわるい商売は致す事はなりませぬぞ』
三人『ハイ有難う』
と涙声に感謝してゐる。不思議や三人の腰は忽ち旧に復し、喜び勇んで匆々にこの森を後に逃ぐるが如く姿を隠した。
 黄金姫一行は夜の明くるを待ち、悠々としてこの場を立出で、イルナの国の都を指して進み行く。

(大正一一・一一・五 旧九・一七 松村真澄録)



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