出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語40-4-181922/11舎身活躍卯 沼の月王仁三郎参照文献検索
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第一八章 沼の月〔一一〇二〕

 十五夜の満月は水清きかなり広き葵の沼に浮いてゐる。空には円満清朗の月、池の面にもまた月影をうつして、小波にゆらいでゐる。そこを通りかかつた二人の宣伝使があつた。これは黄金姫、清照姫の二人である。
黄金『今日の御機嫌のよいお月さまの御かむばせ、まるで黄金色のやうだ。一つこの池の畔で月を賞翫しながら休息致しませうか』
清照『お母アさま。お月様の色は黄金姫でございますなア、そして清く照り輝き給ふ所は清照姫といつてもいいやうですなア。さうするとヤツパリ貴方が体で私が用といふやうなもの、一日も早くこの娑婆世界をして黄金世界に化せしめ、清く照り渡る三五の教を天下に輝かしたきものでございます。この沼は何といふ沼でございませうか』
『何でも葵沼とかいふ事だ。青空が映つて、星の影さへ浮んでゐる。何ともいへぬ景色だ。一つここで歌でもよみませうか』
『ハイよろしからう、お母アさまから一つ出して下さい、私が下の句をつけますから』

 黄金……大空も水底までも葵沼
 清照………黄金色に月は輝く。

 黄金の玉の姿は天と地に
  輝きわたり清く照りぬる。

 清くてる月の光の一しほに
  沼に映りていとどさやけし。

 月うかび星さへ浮ぶこの沼は
  高天原の姿なるらむ。

 三五の月の教をまつぶさに
  上と下とに照らしゆかなむ。

 照りわたるこの池水を眺むれば
  雲井の空にまがふべらなり。

 風さへも凪ぎわたりたる池の面に
  黄金の月清く照るなり。

 望の夜の月の姿を眺むれば
  心持よき沼の面かな。

 沼の月波に砕けてなみなみと
  動く姿を見れば飽かぬかも。

 今宵こそ沼の畔に熟睡して
  身魂の疲れ休めむとぞ思ふ。

 吾魂は今見る月の如くなり
  砕けむとしていかな砕けず。

 大空に澄み渡りたる月影は
  清照姫の姿ならまし。

 清く照る月の姿は素盞嗚の
  神の尊の光なるらむ。

 月読の神の姿や瑞御霊
  沼の底まで照りわたる哉。

黄金『オホヽヽヽ清さま、中々お上手ですこと、黄金姫もどうやら歌の種が切れました』
清照『お母アさま、それなら私が始めますから、どうぞ後の句をつけて下さい』
黄金『それも面白からう、やつて見なさい』
清照……われは今葵の沼の月を見る
黄金………月の教を開く道にて。

 月見ればこの世の中も楽しけれ
  みちかけ繁き人の世なれど。

 清く照る月に心をあらはめや
  天が下をば照らし行く身は。

 この沼の主は幸も多からむ
  夜な夜な清き月を眺めて。

 日の光打仰ぐ度に目は晦む
  月のみ独り眼養ふ。

 日の光隅なく照らす世の中に
  またもや月の光めでたし。

 日も月も世人のために大空に
  輝き給ふ神の御恵。

 有難し三五の月の御教の
  旭の如く照りわたる世は。

 日も月も波間に浮ぶ葵沼
  心も赤きわれは眺めつ。

 母と娘が葵の沼を打眺め
  月の光をめづる今日かな。

 バラモンの神の教は晦日の
  暗夜の如き姿なるらむ。

 暗の夜を照らし清むる黄金の
  月の光ぞ雄々しかりけり。

 晦日の大空遠く眺むれば
  大黒主の暗夜なりけり。

 鬼熊の別の命の魂は
  空行く雲に包まれし月。

 大空もやがてハルナの神館
  三五の月の清く照るらむ。

清照『オホヽヽヽ私もこれで小出しが切れました。また暇な時、倉庫よりドツサリ出してお目にかけませう』
黄金『オホヽヽヽヽ清さま、お前さまも随分杢助さまの側に居たおかげで、滑稽が上手になりましたな』

 清照『コツケコと東雲つぐる鶏の声
  やがて日の出の神や昇らむ』

黄金『オホヽヽ早速の滑稽が始まつた。ドレこの母も一つ旅の疲れを慰むるため、駄句つて見ませう。

 葵沼に赤い心の神司
  白い三五の月を見る哉。

 黄金の姫の司が現はれて
  葵の沼のわれた月みる』

 清照『われた月そりや母さまの事ですよ
  私の月はまん丸い月』

黄金『オツホヽヽヽ手にも足にも合はぬお嬢さまだなア』

『われぬ月とは言ふものの友彦の
  波に砕けし半われの月』

『うまうまと母の前にて嘘をつき
  つき通さむとするぞ可笑しき』

『片われの月さへ望の夜となれば
  どこもかけない黄金の月』

黄金『オホヽヽヽヽ余り月々云うてると、月がひつくり返つて、キズが出て来ます。モウいい加減に歌の材料もつきだ。サアサアここでゆつくり寝ツキませう』
清照『私もツキ合ひにお側にツキ添うて、寝ツキませう。オホヽヽヽ』
と笑ひながら、月の光を浴びつつ、蓑を布いて沼の畔にたわいもなく横はる。
 かかる所へ、沼に浮んだ月を砕いて、バサバサバサと波を蹴破り、走つて来た七八人の黒い影、
エル『あゝあ、ドテライ目に会うた。蜈蚣姫、小糸姫の両人に、テツキリと玉山峠の南坂で出会し、カルの大将の命令で、遮二無二攻めかけた所、苦もなく谷底へ取つてほられ、気絶して一途の川まで鬼に引きゆかれ困つてゐる所へ、三五教の宣伝使がやつて来やがつて、何とも知れぬ甘露水を呑ませてくれやがつたと思へば、谷底にブツ倒れて夢を見てゐたのであつた。本当にこはい夢だつたが、気がついて見ると馬鹿らしい、それにも拘らず、カルの大将奴、安眠中に起されて、命の御恩人だなどと、御追従を百万陀羅並べ、胸糞が悪くつてたまらない、とうと彼奴ア三五教に沈没してしまひやがつた、猫の目の玉ほどよく気の変る奴だ。俺達はどこまでも初心を変ぜず、大黒主神様のために身命を捧げたのだから、あんな柔弱な事は出来ない、なあキル公、本当に約らぬ腰弱ぢやないか』
キル『オヽさうだ、おれも余りケツ体が悪くて、あんな宣伝使に………ハイハイおかげで命を助けて貰ひました………などと、馬鹿らしい、その場逃れにお世辞を云つてやつたが、何だか打たぬ博奕に負けたやうで、気色が悪くて堪らない。一つは仇討のため、一つは大黒主様の前に功名を立てるため、皆の奴の寝息を考へて、ソツと宣伝使の腰に綱をつけ、一ぺんにグイと引張つて喉のしまる仕掛をしておいた所、宣伝使の奴、大変な古狸だから、寝真似をしてをつたと見えて、いつの間にか魔法を使ひ、あべこべに俺達をフン縛り、レーブに綱を引かしやがつた時の苦しさ、今度こそ本当に幽界旅行をせねばならぬかと心配したよ。一体貴様達ア気の利かぬ奴だから、大きな声を出しやがつて………命の御恩人に恩を仇で返すよな事をしたら神罰が当るなんて吐しやがるものだから、とうとう計略が外れ、虻蜂取らずになつてしまつたぢやないか。今度から気をつけぬと、どんな目に会はされるか知れやしないぞ。本当に馬鹿だなア。今にも蜈蚣姫や小糸姫がこの沼を迂回して、ここに来るに違ないから、今度はぬかつちやならないぞ。おれ達や貴様達は大黒主様のおかげで、女房子を安楽に養うてゐるのぢやないか。よう考へて見い、果物ばかり食つて命をつなぐ訳にもゆくまい。大黒主様から御扶持を頂かなかつたら、家内中が皆かつゑて死なねばならない。それほど大恩深き御主人様の事を打忘れ、たつた自分一人の命を助けてくれた宣伝使が、ナニそれほど有難いか、しかも安眠してゐる所を起されたと云つていいやうなものだ。大勢の命を常住不断につながして下さる大黒主様に、どうして替へる事が出来ようか。皆の奴、さうぢやないか』
一同『さう事を分けて説明して貰へば、大黒主さまは有難いなア。この御恩に酬ゆるにはどうしても蜈蚣姫、小糸姫の二人を捜して連れ帰るのが第一の御恩報じだ。最早将軍はイソ館へ進軍され、遠く行かれたに違ないから、俺達は到底本隊をはなれて、この小部隊では険呑で進む事も出来ないから、せめては母娘二人の行方を捜して、彼奴を捕縛して凱旋する方が、何程手柄になるか知れたものぢやないぞ。浅い沼ではあるが、時々泥深い所があつて、睾丸も褌もズクタンボーになりよつた。何とかして此奴を早く干かさぬと、気分が悪くて仕方ない。月は照つてゐるが、彼奴はあつてもなうてもよい奴だから、俺の褌一つよう乾かす力を持つてゐやがらせぬワイ。その事思へば、日輪さまはエライものだなア。三五教は月の教だとか吐して居るが、夜の守護だから、サツパリ駄目だ。サア皆の奴、ここで一つ一服致さうかい』
 黄金姫は草の中から、
『われこそは一途の川の鬼婆だぞよ、その方は此処を葵の沼と思うて居るか、ここは冥途の関所だ。サア早くその衣を脱げ』
キル『オイ皆の奴、ヤツパリ此奴ア夢かも知れぬぞ。宣伝使が助けよつたと思うたのは嘘だつたかいな。一途の川のヤツパリここは連続だ。エヽもうかうなつてはヤケクソだ。どつかここらの草の中に脱衣婆の声がして来た。サア突貫々々』
と号令する。黄金姫、清照姫は草を分けて八人の前にスツクと立現はれ、
黄金『バラモン教の悪人共、サアこれから蜈蚣姫が武勇の試し時、覚悟いたせ』
キル『ナヽ何だあ、蜈蚣姫だ、甘い事吐すない、一途の川の星々婆ア奴、ガキも人数だ。八人と一人では叶ふまい。サア突貫々々』
清照『妾は三五教の宣伝使小糸姫だ。バラモン教の悪人共、一人も残らず冥途の旅立をさしてやらう。サア覚悟はよいか』
キル『ヤア此奴はまた若い脱衣婆アだ。コリヤ両人、蜈蚣姫や小糸姫の名をかたつても駄目だぞ。一イ二ウ三ツ』
といひながら、八人は二人に向つて武者振りつくを、
『エヽ面倒』
と母娘二人は首筋つかんで葵の沼の真中へ、一人も残らず、バサリバサリと投げ込んだ。八人はこの勢に辟易し、一生懸命に再び沼の真中をバサバサバサと北を指して逃げて行く。
 八人の奴は驚きの余り、照国別の休んでゐる所へ、以前の怖さを忘れてまたもやバサバサバサと命からがら上つて来た。レーブはこの姿を見て、
『アハヽヽヽ、コリヤ八つの蛙、どうしたのだ。いかにカヘルだと云つて、再び元の所へ逃げカヘル奴があるかい』
キル『ヤア…………此奴アしまつた、余りビツクリして忘れてゐた。前門の狼、後門の虎だ。オイ、レーブ、こらへてくれ。向ふへ渡ると蜈蚣姫、小糸姫の名をかたつて婆や娘がヒユードロドロと出やがるなり、こつちへ来ればまたこの通り、進退これ谷まるだ。モウ改心するから許してくれ。頼む頼む』
レーブ『たとへ宣伝使がお赦しになつても、貴様のやうな不都合な奴はこのレーブが赦さぬのだ。オイ、カル、貴様も一つ手伝つてくれ。この八匹の蛙を元のドブ池へ突込んでやるのだから』
『ヨシ来た』
とカルは立上り、手に唾して、片つぱしからドブンドブンと沼を目がけて投込んだ。八人はまたもやバサバサバサと浅き沼を命カラガラ南を指して逃げて行く。
春公『モシ宣伝使様、ヒヨツとしたら、黄金姫様、清照姫様はこの沼の向方あたりにお休みになつてるのかも知れませぬぜ』
照国『いかにもさうかも知れない、一つこの沼を渡つて、追つついて査べてみよう。サア一同用意だ』
と云ひながら、早くも照国別は裾をからげ、浅き沼をバサバサと歩み出した。照、梅、春、レーブ、カルの一行は照国別の後に従ひ、月照り渡る沼の中をバサリバサリと、波に円を描きながら急ぎ行く。

(大正一一・一一・四 旧九・一六 松村真澄録)



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