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物語40-3-121922/11舎身活躍卯 心の反映王仁三郎参照文献検索
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第一二章 心の反映〔一〇九六〕

 秋風切りに吹きすさぶ  玉山峠の谷間で
 バラモン教の大棟梁  イソの館の征討に
 上りしランチ将軍の  部下に仕へしカル司
 鬼熊別の家の子と  仕へて名高きレーブ等と
 衡突したるその結果  互に谷間に墜落し
 人事不省に陥りて  いつとはなしに幽界の
 枯野ケ原を歩みつつ  野中の巌に休む折
 カルの部下なる八人は  赤黒二人の鬼共に
 引つ立てられて枯草の  莽々茂る野原をば
 一途の川を指して行く  レーブとカルの両人は
 青き鬼奴に誘はれ  三途の川の渡場に
 漸く辿り来て見れば  果しも知らぬ広い川
 清き流れは滔々と  白き泡をば吐きながら
 大蛇のうねる如くなり  川の畔の一つ家は
 金光きらめく玉楼の  眼まばゆきばかりなり
 金門をあけて青鬼は  館の中に身を隠し
 二人の男をやうやうと  ここまで誘ひ参りしぞ
 受取りめされと云ふ声の  聞えてしばし経つ間に
 以前の鬼は会釈して  何処ともなしに消えにける
 二人は川辺に佇みて  思はぬ美しきこの家は
 土地に似合はぬ不思議さと  囁く折しも金鈴を
 振るよな清き女声  早く来れと呼びかくる
 不思議の眼をみはりつつ  近づき見れば鬼婆と
 思うた事は間違か  花も恥らふ優姿
 年は二八か二九からぬ  神妙無比の光美人
 いとニコニコと笑ひ居る  二人は驚き川端の
 女としばし掛合ひつ  一間を奥へと入りみれば
 奥の一間は草野原  三途の川の滔々と
 以前の如く鳴りゐたり  水晶館に導かれ
 鏡の如く透きとほる  館の中で出口をば
 失ひ互に辟易し  千言万語を並べつつ
 救ひを乞へば川端の  美人は二人の手を取つて
 醜けき小屋のその前に  立ちあらはれて言ひけらく
 今迄汝の立入りし  家屋は娑婆と神界の
 住居の姿の模型ぞや  この茅屋は鬼婆の
 弥永久に鎮まりて  娑婆にて重き罪かさね
 十万億土の旅立を  致す亡者の皮を剥ぐ
 脱衣婆さまの関所ぞと  いふより早く忽ちに
 娘は醜き婆となり  痩せからびたる手を伸べて
 二人の素ツ首引つ掴む  そのいやらしさ冷たさに
 三途の川の中つ瀬に  身を躍らして両人は
 ザンブとばかり飛び込んで  抜手を切つて向ふ岸
 やうやう渡り着きにけり。  

 二人は着衣のまま、際限もなき広い川を、意外にも易々と無事に渡つたのを、非常な大手柄をしたよな気分になり、爽快の念に堪へられず、川の面を眺めて、紺青の波を見入つてゐた。
レーブ『鬼婆アさまに首筋を掴まれ、生命カラガラこの川へ飛込んだものの、これだけ広い川、到底無事には渡れまいと真中ほどで思うたが、この激流にも似合はず、弓の矢が通つたやうに、一直線に易々と、しかも匆急に渡られたのは何とも知れぬ不思議ぢやないか』
カル『そこが現界と神界との異る点だ。ヤアあれを見よ。何時の間にか川はどつかへ沈没してしまひ、美はしい花が百花爛漫と咲き匂うてるぢやないか。アヽ何とも知れぬ芳香が鼻をついて来る。あれ見よ。川ぢやないぞ。エデンの花園みたいだ』
『ヤアほんにほんに、何とマア不思議な事ぢやないか。ようよう白梅の花が大きな木の枝に所々に咲いてゐる。バラの花に牡丹の花、紫雲英に白連華その外いろいろの草花が所せきまで咲いて来た。ヤツパリ天国の様子は違つたものだ。モウこんな所へ来た以上は虚偽ばかりの生活をつづけてゐる現界へは、万劫末代帰りたくないワイ。なあカル公、お前と俺とは、少しばかりの意地から、忠義だとか義務だとかいつて主人のために互に鎬を削り、名誉を誇らうと思つて、猟師にケシをかけられた尨犬のやうにいがみ合ひ、恨も何もない者同士が、命の取りやりをやつてゐたが、竜虎互に勢全からず、とうとう玉山峠の谷底で寂滅為楽急転直下、神界の旅立となつたのだ。がこれを思へば現界の奴位可哀相な者はないのう』
『しかしながら、お前と俺と偽善のやり比べをやつたおかげに、互に娑婆の苦を逃れ、こんな天国浄土へ来られるやうになつたのだから、何が御都合になるとも分らぬぢやないか。昨日の敵は今日の味方、虎狼の唸り声も極楽の花園を渡る花の薫風となりにけりだ。モウかうして神界へ来た以上は、名位寿福の必要もなければ互に争ふ余地もない。勝手に広大無辺な花園を逍遥し、自由自在に木の実を取つて食ひ、一切の系累を捨てて単身天国の旅をするのだから、これ位愉快な事はないぢやないか。しかしながら善因善果、悪因悪果といふからは、斯様な所へ来られるやうになるのは余程現界において善を尽したものでなければならぬ筈だ。俺達の過去を追懐すれば、決してかやうな所へやつて来られる道理はない。ヒヨツとしたら、神様が人違を遊ばしたか、感違をなさつたかも知れぬぞ。モシそんな事であつたなら、俺達は大変だ。この美はしき楽しき境遇が忽ち一変して、至醜至苦の地獄道へ落されるかも知れない。これを思へばヤツパリ執着心が起つて来る。何程執着心をとれと云つても、この天国に執着が残らいでたまらうか。あゝ惟神霊幸倍坐世。どうぞ神様、夢でも構ひませぬから、どこまでもこの境地において下さいますやうに』
と手を合して一生懸命に天地を拝んでゐる。何時の間にか、二人の立つてゐた地面は二十間ばかり持上り、左右の低い所に坦々たる大道が通じて、種々雑多の人物や禽獣が右往左往に往来してゐるのが見えて来た。
レーブ『ヤア俄にまた様子が変つて来たぞ。オイ、カル、気をつけないと、どんな事になるか知れぬぞ、チツとも油断は出来ないからな』
 かく話す折しも、二三丁前方に当つて猿をしめるやうな悲鳴が聞えて来た。二人は物をも言はず、その声を尋ねて何人か悪魔に迫害され居るならむ、救うてやらねばなるまいと、無言のまま駆出した。近よつて見れば、白衣をダラリと着流した丸ポチヤの青白い顔をした男が、右手に血刀を持ち、左手に四五才ばかりの美はしき童子の首筋を引掴み、今や胸先へ短刀を突き刺さむとする間際であつた。
 レーブ、カルの二人は吾を忘れて、その男に飛びかかり、血刀を引つたくり、童子を助けむと、力限りにもがけども、白衣の男は地から生えた岩のやうに、押せども突けどもビクとも動かぬ。みるみる間にその童子を無残にも突き殺してしまつた。
レーブ『コリヤ悪魔奴、此処は何処と心得てゐる、勿体なくもかかる尊き天国において、左様な兇行を演ずるといふ事があるか』
男『アハヽヽヽ阿呆らしいワイ。悪魔の容物の分際として、この方を悪魔呼ばはりするとは何の事だ。糞虫は糞の臭気を知らぬとは貴様の事だ。サアこれからその方の番だ、そこ動くな。イヒヽヽヽ、なんとマアいぢらしいものだなア、いかさま野郎のインチキ亡者奴、身魂の因縁によつて、この天来菩薩がこれから汝を制敗致すから、喜んでこの方の刃を受けたがよからうぞ』
レーブ『アハヽヽヽ天来菩薩とはソラ何を吐かす、苟くも菩薩たる者が凶器をふりまはし、天国の街道において殺生をするといふ事があるか。まして罪のない童子を殺害するとは、以ての外の代物だ。コリヤ悪魔、イヤ天来、よつく聞け、この方こそはバラモン教にて英雄豪傑と世に謳はれた武術の達人、カル、レーブの両人だ。汝の如き小童共、仮令幾百万人一団となつて武者ぶりつくとも、千引の岩に蚊軍の襲撃したやうなものだ。サア今にこの方の武勇を現はし、汝が剣をボツたくり、寸断にしてくれむ、覚悟を致したがよからうぞ。神界の名残に神文でも称へたがよからう』
男『ウツフヽヽヽうろたへ者奴が、神界の法則によつて、この方が使命を全くするため、この童子を制敗してゐるのだ。汝はいつも現界でホザいて居るだらう、神が表に現はれて、善と悪とを立別ける、神でなくて、身魂の善悪が分るものか。貴様達の容喙すべき限でない、人間は人間らしく黙つて自分の行くべき所へ行けばいいのだ。訳も知らずに安つぽい慈悲心だとか、義侠心を発揮しようと思つても、そんな事は、鏡の如き明かな神界においては通用致さぬぞ』
レーブ『仮令この童子に如何なる罪があらうとも、神界においては何事も善意に解し、神直日大直日に見直し聞き直し宣直し給ふのが大慈大悲の神様の御恵だ。その方は使命だと申すが、娑婆地獄ならば知らぬこと、天地の神の分霊たる人間を自ら手を下して制敗するといふ道理があるか』
男『エヘヽヽヽぬかしたりな ぬかしたりな、それほどよく理屈の分つたその方なれば、この方を神直日大直日に見直し聞き直し宣直さぬか。娑婆で少しく覚えた武勇を鼻にかけ、吾々を悪魔呼ばはりになし、この方の刀を掠奪して盗賊の罪を重ね、またこの方を寸断せむとは自家撞着も甚だしいではないか。そんな事でどうして神界の旅が出来るか。テもさても分らぬ奴だな。オツホヽヽヽ鬼の上前を貴様ははねようと致すのか、何と恐ろしい我の強い代物だなア』
カル『コリヤ悪魔、ここは神界だぞ、貴様の居る世界は幽界だらう。かやうな所へやつて来るといふ事があるか、早く立去れ。グヅグヅ致して居ると、神界幽界の国際談判が始まり、遂には談判破裂して、地獄征伐の宣示が渙発されるやうになるかも知れぬぞ』
男『イツヒヽヽヽその方は現界において一つの善事もなさず、まぐれ当りに神界へふみ迷うて来よつて、一角善人面をさらして、ツベコベと理屈を囀つてゐやがるが、この悪魔もこの血刀も、皆貴様の心の反映だ。貴様は八岐大蛇の悪魔の憑いた大黒主の部下に仕ふる鬼春別の乾児の乾児のその乾児たる小悪人で居ながら、三才の童子に等しき天の下の青人草の生血を吸ひ、少しの武勇を鼻にかけ、修羅の戦場に疾駆したその罪が今ここに顕現してゐるのだ。要するにこの方は貴様の罪が生んだ悪魔だから、貴様が本当に神直日大直日に見直し宣直し、発ごんと改心を致したならば、かかる尊き神界の大道にどうして俺が現はれる事が出来ようか。俺が亡ぼしたくば、貴様の心から改心したがよからう。人が悪魔だと思うて居れば、みんな自分の事だぞ。コリヤ、レーブ、その方は今の先黄金姫に出会ひ、三五教の教理を聞いたであらう。人が悪いと思うてゐると皆われの事ぢやぞよ………と玉山峠の岩蔭で聞かされたぢやないか』
レーブ『成程さうすると、お前は俺の言はば副守護神だなア。何と悪い副守が居やがつたものだなア』
男『アハヽヽヽ都合のよい勝手な事をいふな。副守護神所か、貴様の本守護神の断片だ。トコトン改心致さぬと、まだまだこの先で貴様の生んだ鬼が貴様に肉迫して、どんな目に会はすか知れぬぞ。己が刀で己が首切るやうなことが出来致すから、早く改心致したがよからう。レーブばかりでない、カルもその通りだ、この童子はヤツパリ、カルの身魂の化身だ。どうだ判つたか』
レーブ『ヤア判つた、かうして二人仲よくして神界の旅行をやつてゐるものの、本当のことを言へば、おれも淋しくて仕方がないから、道伴れにしようと思ひ、表面こそ親切に打解けたらしくしてゐるものの、行く所まで行つたならば斯様な悪人はこの下に見ゆる地獄道へつき落してやらうと、心の端に思うてゐたのだ。ヤア悪かつた、オイ、カル公、俺は本当に済まなかつた。心の罪を赦してくれ』
カル『あゝさうか、おれも実はお前と打解けて歩いて居るものの、何時お前が俺の素首を引抜くか知れぬと思うて、戦々兢々と心の底でしてゐたのだ。さうするとあの童子は俺の恐怖心が塊つて現はれたのだな。お前がさう改心してくれる以上は、最早お前も恐れはせぬ。互に打解けて心の底から仲よくして、この天国を遊行しようぢやないか。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と両手を合せ、両人は目をとぢて天地に祈願をこめた。しばらくあつて、目を開きあたりを見れば、男の影も童子の影もなく、大地に流れた血潮と見えしは紅の花、紛々と咲き匂ひ、白黄紫青などの美はしき羽の蝶翩翻と花を目がけて舞ひ遊んでゐる。両人は初めて心の迷ひを醒まし、天津祝詞を奏上しながら、北へ北へと手をつなぎつつ、いと睦じげに進み行く。

(大正一一・一一・三 旧九・一五 松村真澄録)



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