出口王仁三郎 文献検索

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物語40-2-71922/11舎身活躍卯 文珠王仁三郎参照文献検索
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第七章 文珠〔一〇九一〕

 照国別は照公、梅公、岩彦の宣伝使と共にクルスの森に休息する折しも、前方よりイソ館に向つて進撃する鬼春別の部将片彦の一隊の来るに会ひ、潜かに木の茂みに隠れて様子を窺ひつつあつた。片彦の一隊数十騎はライオン河を渡り、百丁余りの道を疾駆して、漸くクルスの森に到着し、人馬の休息をなさむと馬を乗り捨て、森の中に逍遥する者、または横はつて雑談に耽る者もあつた。
 この一隊はイソ館に向ふ攻撃軍の先鋒隊とも斥候隊ともいふべき重要の任務に就いてゐる隊列である。
 しばらく休息の上、片彦は再び馬にヒラリと飛乗り、人員点呼をなし、馬上より大音声を張り上げて下知して曰く、
『これより先は三五教の勢力範囲ともいふべき地点である。清春山は大足別将軍、今やカルマタ国へ進軍のため不在中なれば、守り少く、到底力とするに足らず。本隊のランチ将軍は、後より進み来るべしと雖も、吾等は吾等としての任務あり。四辺に心を配り、左右を窺ひつつ、これより以北は最も注意を要す』
と命令しつつあつた。木蔭に隠れし照国別一行はイソの館に進軍の先鋒と聞き、仮令少数と雖もこのまま通過せしむる事は出来ない。何とかしてこの先鋒隊を追ひ捲らねばならない。後より来る玉国別に対しても、照国別は敵に遭ひながらこれを見のがし、ウブスナ山に近付かしめたりと言はれては、吾々の職務が尽せない…………と腕を組み思案に暮れてゐた。
 岩彦は心を焦ち、
『照国別さま、大変な事になつて来ました。片彦の一隊と見えます。これを奥へ進ませてはなりませぬから、一つここで何とか方法を講じようではありませぬか。最前のお話によれば、三五教は何処までも無抵抗主義とは云はれましたが、敵は武力を以て進み来るもの、いかに言霊の妙用ありとて、十数倍の敵に向つて戦ふは容易の業ではありますまい。どうしても武力に訴へなければ駄目でせうから、あなたは宣伝歌を歌ひ魔神の霊を畏服させて下さい。この岩彦は得意の杖を使ひ、敵の真只中に躍り込んで、一歩もこれより奥へは進入させないやうに致しますから、決して敵を殺傷するやうな事は致しませぬ。ただ敵を威喝して、元へ追つ返すまでの事ですから………』
照国『先鋒隊として黄金姫、清照姫が行つて居る筈だから、後へ追つ返せば、却て両人を後より攻め来る敵軍と共に挟み撃ちに遭はすやうなものだ。ハテ困つたことが出来たものだ。吾々の目的はハルナの都の大黒主を帰順さすのが使命の眼目で、彼等如き木端武者を相手にすべきものではない。ぢやといつて、みすみすイソ館へ進撃する一隊と知つて、これを防止せざるは吾々の職務を果さざるといふもの。ともかく言霊を以て彼片彦が一隊に向ひ戦闘を開始してみよう。それでゆかない時は岩彦の考への通りに杖を使つて敵を散乱させる方法を採るより仕方はあるまい。先づ第一に神様のお力を借つて善戦善闘する事にせう。照公、梅公もその用意を致すがよからう』
照公『始めて敵の軍隊に出会し、こんな愉快な事はありませぬワイ。わが言霊の神力を試すはこの時でございませう』
と潔く言つてのけたものの、何とはなしにその声は震うてゐた。
梅公『宣伝使様、万々一敵の馬蹄に踏み躙られ、命危くなつた時は抵抗するかも知れませぬから、それだけ御承知を願つておきます。私は岩彦さまのやうに武器を使ふ事は不得手です、が何とかして防衛をなし、一身を守らねばなりませぬ』
と大事の使命を忘れてただ自分の安全に就てのみ心を痛めて居る様子であつた。岩彦は早くも杖をしごいて、弦を離れむとする間際の矢の如く、体を斜に構へて、照国別の命令を今や遅しと待つて居た。この時敵は已に馬首を並べて北進せむとする様子が見えて来た。
 照国別は声も涼しく宣伝歌を歌ふ。

『常世の国の自在天  大国彦を祀りたる
 バラモン教の神館  空照り渡る月の国
 ハルナの都に現はれて  鬼雲彦のまたの御名
 大黒主が郎党を  呼び集ひつつ日に月に
 再び勢盛り返し  傲り驕ぶり今は早
 自高自慢の鼻高く  神素盞嗚大神の
 鎮まりいますイソ館  進撃せむと進み来る
 その扮装の勇ましさ  片彦いかに勇あるも
 天地を揺がせ雷電や  風雨を自由に叱咤する
 三五教の言霊に  いかでか敵し得ざらむや
 あゝ惟神々々  神の心に見直して
 無謀の戦を起すより  一日も早く真心に
 立復りませ片彦よ  われも神の子汝もまた
 尊き神の貴の御子  御子と御子とは睦び合ひ
 誠一つの天地の  神の大道に叶ひつつ
 天の下なる神人を  救ひ助けて神国の
 柱とならむ惟神  神に誠を誓ひつつ
 汝が軍に立ち向ひ  言霊車挽き出す
 われは照国別の神  この世を照らす照公や
 神の御稜威も一時に  開いて薫る梅公や
 心も固き宣伝使  岩彦司の四人連
 イソの館を立出でて  ここまで進みクルス森
 木蔭に潜み横はり  汝が一隊の物語
 完全に委曲に聞終り  覚りし上は如何にして
 汝をこのまま通さむや  鬼春別の部下とます
 汝片彦将軍よ  言霊隊の神軍が
 勇士と現れし三五の  照国別の言の葉を
 いと平けく安らけく  心の鏡にうつし見て
 省み給へ惟神  神に誓ひて宣り伝ふ』

 俄に森の中より聞え来る宣伝歌の声に、片彦始め一同は案に相違し、しばし馬首を止め、稍躊躇の色が見えて来た。後に控へし四五人の騎士は言霊に討たれて、何となく怖気づき、早くも馬首をめぐらし、馳け出さむとする形勢さへ見えて来た。片彦はこの態を見て、気を焦ち、躊躇してゐては、却て味方の不統一を来し、不利益この上なしと声を励まし、
『ヤアヤア一同の騎士、三五教の宣伝使の一行現はれたり、大自在天大国彦神の神力を身に受けたる吾々神軍の勇士は、彼等に躊躇することなく、馬蹄にかけて踏み殺せよ』
と厳しく下知すれば、駒に跨り、照国別の方に向つて、鞭をきびしく馬背に当てながら踏砕かむと進み来る。照国別は泰然自若として天の数歌を奏上し、またもや宣伝歌を歌ひ出した。されど心の曇り切つたる曲神には、宣伝歌の力も充分に透徹せず、敵は命限りに攻め来る。その猛勢に腕を叩いて待構へてゐた岩彦は『照国別殿お許しあれ』と言ひながら弦を放れた矢の如く、金剛杖を上下左右に唸りを立てて振り廻しながら、敵に向つて突撃し、瞬く間に馬の脚を片つ端から擲り立てた。馬は驚いて立上り、馬上の騎士は真逆様に地上に転落し、馬を乗り捨て四方八方に逃げ散りゆく。片彦は騎馬のまま、一目散に南方さして駆け出すを、岩彦は敵の馬に跨り杖にて馬腹を鞭ちながら片彦の後を追うて一目散に駆り行く。
 照国別は泰然自若として尚も宣伝歌を歌ひつつあつた。数多の騎士は思ひ思ひに四方八方に転けつ輾びつ散乱した。されども北へは一人も恐れてか逃げ行く者はない。岩彦に膝頭を打たれて倒れてゐる馬匹は七八頭、彼方此方に呻き声をあげてゐる。馬から転落する際、首を突込み、肩骨を外して九死一生の苦みを受け呻吟してゐる二人の敵を、照公、梅公が手分けして介抱してゐる。照国別は敵の負傷者に向つて一生懸命に鎮魂を与へた。漸く首の骨は二人の介抱によつて元に復し、外れた肩胛骨も元の如く治まつた。
 三人の介抱を受けて漸く元に復したる二人の騎士は、味方は一人もあたりに居らず、三人の三五教の宣伝使や信者の顔を見て大に驚き、
『私は片彦将軍の見出しに預かり、バラモン教の宣伝使となつてゐるケーリス、タークスといふ二人の者でございます。どうぞ今日只今より三五教に帰順致しますから、命ばかりはお助けを願ひます』
とハラハラと涙を流して頼み込んだ。照国別は言葉を改めて、いと慇懃に労はりながら、
『あなた方は矢張バラモンの宣伝使でござつたか。世の中は相見互だ、互に助け助けられ、持ちつ持たれつの世の中、三五教は決してバラモン教の如く敵を殺傷するといふやうな非人道的なことはやらないから安心してゐるがよい。就ては汝等両人に申付くることがある。これより清春山へ立寄り、イソの館へお使に行つてはくれまいかなア』
『ハイ最早貴方のお弟子となつた以上は如何なることも承はりませう。しかしながらイソの館へ参るのだけは何だか恐ろしい心持が致します』
『決して三五教は敵でも助ける役だから、汝等を苦めるやうなことはない。また照国別の弟子だといへば屹度大切に扱つて下さるであらう。今手紙を書くから、これを持つて清春山へ立寄り、その次にはイソの館に行つて日の出別神様に面会し、しばらくイソ館にて三五の道の修業を致すやう取計らうてやらう』
 二人は、
『ハイ』
と云つたきり有難涙にくれ、再び馬に跨り北へ北へと進むこととなつた。一通の手紙は清春山のポーロに宛て、帰順を促す文面であり、一通は照国別が出陣の途中遭遇したる一伍一什を日の出別神に報告し、かつこの両人をして三五教の教理を学ばしめ、将来宣伝使として用ひ給はば、相当の成績をあぐる者なるべし、何分よろしく頼み入るとの文面であつた。二人は心の底より照国別の慈愛に感じ、遂に清春山に立寄り、ポーロに手紙を渡し、次いでイソ館に進んで教理を学び、且またバラモン教のイソ館を攻撃する一伍一什の作戦計画を残らず打開けて物語り、非常な便宜を与へたのである。
 清春山に二人が立寄り、ポーロその外を帰順せしめたる一条やその他の面白き経路は項を改めて述ぶることとする。
 話は元へ返つて、岩彦は駿馬に跨り、逃げゆく片彦の後を、己も馬に跨つて一目散に西南指して駆け行く。ライオン河の近くまでやつて来ると、釘彦将軍の一隊またもや数十騎、片彦と共に岩彦一人を目がけて弓を射かけ、攻めかくる。岩彦は一隊の的となり、身体一面矢に刺され、蝟の如くなつてしまつた。されど生死の境を超越したる岩彦は獅子奮迅の勢を以て、馬の蹄にて一隊を踏み躙らむと、前後左右をかけ巡りつつあつたが、身体の重傷に疲れ果て、ドツと馬上より地上に転落し、人事不省となつてしまつた。片彦、釘彦将軍は今この時と、馬を飛び下り、岩彦の首を刎ねむとする時、何処ともなく山岳も崩るるばかりの大音響と共に数十頭の唐獅子現はれ来り、その中にて最も巨大なる獅子の背に大の男跨り、眉間より強烈なる神光を発射しながら、釘彦の一隊に向つて突込み来る、その勢に辟易し、得物を投げ棄て、或は馬を棄て、四方八方に散乱してしまつた。獅子の唸り声に岩彦はハツと気が付きあたりを見れば、巨大なる獅子の背に跨り、眉間より霊光を発射する神人が側近く莞爾として控へてゐる。岩彦は体の痛みを忘れ起直り、跪いて救命の恩を謝した。よくよく見れば嵩計らむや、三五教にて名も高き英雄豪傑の時置師神であつた。岩彦は驚きと喜びの余り、
『ヤア貴神は杢助様、どうして私の遭難が分りましたか、よくマア助けて下さいました』
 杢助はカラカラと打笑ひ、
『イヤ岩彦、今後は決して乱暴なことは致してはなりませぬぞ。苟くも三五教の宣伝使たる身を以て暴力に訴へ敵を悩まさむとするは御神慮に反する行動である。飽迄善戦善闘し、言霊の神力を発射し、それにしても行かなければ、隙を覗つて一時退却するも、決して神慮に背くものではない。汝はこれよりこの獅子に跨り、ライオン河を渡り、黄金姫、清照姫の遭難を救ふべし、さらば』
といふより早く杢助の姿は煙と消え、数多の獅子の影もなく、ただ一頭の巨大なる唐獅子のみ両足を揃へ、行儀よく坐つてゐた。今杢助と現はれたのは、その実は五六七大神の命により、木花姫命が仮りに杢助の姿を現はし、岩彦の危難を救はれたのである。岩彦はこれよりただ一人唐獅子に跨り、ライオン河を打渡り、黄金姫の危急を救ふべく、急ぎ後を追ふこととなつた。
 この時、岩彦の姿は何時の間にやら透き通り、恰も鼈甲の如くなつてゐた。仏者の所謂文珠菩薩は岩彦の宣伝使の霊である。これより岩彦は月の国を縦横無尽に獅子の助けによりて、所々に変幻出没し、三五の神軍を、危急の場合に現はれて救ひ守ることとなつたのである。
 惟神霊幸倍坐世。

(大正一一・一一・二 旧九・一四 松村真澄録)



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