出口王仁三郎 文献検索

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物語39-4-151922/10舎身活躍寅 焼糞王仁三郎参照文献検索
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第一五章 焼糞〔一〇八〇〕

 梵天王の自在天  バラモン国に名も高き
 ハルナの都に現はれし  大黒主の片腕と
 選まれゐたる神司  大足別はフサの国
 印度の御国の国境  清春山の岩窟に
 数多の部下を呼び集へ  暴威を振ふその内に
 三五教の神司  照国別の妹なる
 菖蒲の方に目をくれて  朝な夕なに諸人を
 彼が館に遣はしつ  千言万語を費して
 口説けど説けど磐石の  揺がぬ固き決心に
 流石の魔神も辟易し  ここに全く手を変へて
 レール(四郎)セーム(清六)や  シヤム(三六)ハール(八郎)
 ポーロ(保道)の五人を河鹿山  麓の道に遣はして
 菖蒲の方がウブスナの  斎苑の館に行く道を
 取押へむと待ちゐたる  時しもあれや三五の
 教を慕ふ梅彦が  妹と生れし花菖蒲
 女の繊弱き一人旅  来かかる前に塞がりて
 有無を云はせずフン縛り  清春山の谷間に
 引つれ来りて各自に  大足別の望みをば
 徹さむものと左右より  嚇しつすかしつ努むれど
 信仰堅固の菖蒲子は  頭を左右に打ふりて
 いつかな動かぬ権幕に  流石の曲津も持ちあぐみ
 困りぬいたる折柄に  遥に聞ゆる宣伝歌
 五人は一度に肝冷し  逃げ隠れむとする時に
 現はれ来りし宣伝使  照国別の眼力に
 睨まれ恐れて雲霞  逃げ行く後に菖蒲子が
 涙ながらの物語  よくよく聞けば両親は
 大足別に捕へられ  朝な夕なの責苦をば
 忍びゐますと聞きしより  照国別は驚いて
 日頃尋ねし父母は  バラモン教の岩窟に
 囚はれ給ふか いぢらしや  日頃尋ねし妹は
 汝なりしや嬉しやと  心も勇み身も勇み
 照公梅公諸共に  清春山の岩窟に
 登り行くこそ雄々しけれ。  

 清春山の岩窟には大将の大足別が数百人の武卒を率ゐ、大黒主の命によつてデカタン高原に蟠居せるウラル教の集団を勦滅せむと出陣した後であつた。目の上の瘤と嫌がつてゐた大足別の大将が出陣した後は、恐い者なしの連中、朝から晩まで酒をとり出し、『会うた時に笠ぬげ』式で、ビールやポートワインを穴倉より取り出し、朝から晩まで管の巻きつづけをやつてゐた。
 二十人ばかりの留守番は各八畳ばかりの間に胡坐をかきながら、遠慮なしに秘蔵の酒をとり出しウラル教式に、

 飲めよ騒げよ一寸先や暗よ
  暗の後には月が出る

と唄ひながらヘベレケに酔ひ潰れ、脱線振りを盛んに発揮してゐる。
レール『オイ、ポーロ、貴様は何時も御大将を笠に着て俺達を腮の先でコキ使ひやがつたが、もう今日となつては駄目だ。これからレールさまが留守師団長だからその命令を遵奉するのだよ。万々一レールの御命令に服従せないと、この間のタルチン(太郎吉)のやうに岩上から深谷川へ空中滑走の曲芸を演じて谷底に伏艇し、そのまま三途の川へタダ走りにならねばならぬから、チツとは神妙にしたがよからうぞ。貴様が何時も飲食物にケチをつけゴテゴテ吐すものだから、胃の腑の格納庫は空虚になり、碌に働きも出来やしない。コンパスのプロペラがチツとも云ふ事をきかないから、それで是非なくかうしてヘタばつて酒を飲んで居るのだ。オイ、皆の奴、大将は印度の国の都まで行つて、それから大黒主の軍隊と合し、デカタン高原へ行くのだから、先づ一年位は帰つて来ない事は請合だ。あるだけの酒を飲んでパンを喰ひ尽し、無くなつたら今度はアーメニヤに長駆進撃してウラル彦の館を襲ひ、ここもまた蚕の虫が桑の葉を喰ふやうに喰ひつぶしさへすれば吾々の天下は太平だ。こんな甘い酒も飲まずに河鹿峠を痩馬追ふやうに朝から晩までハイハイと云つて居るのも気が利かねい。こんな事が出て来ると思つて待つてゐたのだ。俺達は大将から腰抜野郎の、裏返り者と認識されてゐるのだから、肝腎の戦争にも連れて行きやがらなんだのだよ』
ポーロ『それが却て此方とらの好都合だ。俺も今迄は大将の命令で威張つてゐたものの心の底をたたいたらヤツパリお前達と同一だ』
レール『さう聞けば牛の爪だ、先からよく分つてる。しかし分らぬのは奥の岩窟に隠してある老夫婦ぢやないか。あんな柔順い老人を何故何時までもあんな暗室に突つ込んでおくのだらう。第一それが俺は気に喰はないのだ、………ポーロ、貴様は凡ての様子を知つてゐる筈だ。キレイサツパリとここで白状してしまへ』
ポーロ『もうかうなる上は何をか包まむやだ。大きな声では云はれぬが此処の大将は天下無類のデレ助だ。バラモン教で居ながらウラル教の娘にゾツコン惚込んで『女房にくれえ』と掛合つた所、宗旨が違ふので今幽閉されている夫婦が容易に首を縦にふらない。そこで大足別の大将が手を代へ品をかへ、沢山な贈物をして夫婦を説きつけたけれども、どうしても駄目だつた。そこで今度は焼糞になつて老夫婦がコーカス山に参拝する途中を待ち受け高手小手に縛しめ象の背にフン縛つてまたも馬の背にのせ到頭この岩窟まで連れ帰り、朝から晩まで『姫を渡すか、渡せば助けてやる、嫌ぢや何ぞと吐すが最後、貴様の素首を引ぬいてやらう』と執念深くも、御大自ら幽閉室の前に現はれて口説きたてるのだから堪らない。あんな大将に見込まれたら、丸で蛇に狙はれた蛙のやうなものだらう』
レール『その娘は何処に居るのだ。肝腎の代物が無いのに爺や婆を苛めて居つても仕方がないぢやないか。大足別の大将も余程訳の分らぬケレまた人足だのう』
ポーロ『オイ、コラ、そんな事を吐すと剣呑だぞ。この中にも矢張犬が潜んで居るぞ。俺達の行動を密告する代物が何喰はぬ顔して潜入してゐるのだから、あんまりの事は言はぬがよからう。敵の中にも味方があれば、味方の中にも敵がある今の世の中、チツト気をつけぬかい』
レール『その犬と云ふのはチヤンと俺の天眼通で看破してあるのだ。大方エルマの事だらう』
ポーロ『それさへ分つて居れば俺も安心だ。此奴は俺等の中に身を低うして交つてゐるが、実の処は大足別の従弟に当る奴だ。しかしながらかうなつた以上はエルマを許しておく訳には行くまい。酒に酔うた紛れに、此奴をフン縛つて谷川へドブ漬け茄子とやつてこまさうかい』
エルマ『コリヤコリヤ、何を吐すのだ。間違ふにもほどがあるぞ。大将の従弟はポーロぢやないか』
レール『エルマとポーロと間違つた所でたつた一人の事だ。もうかう酒がまはつてはどちらが善か悪か分らない。一層の事二人ともドブンとやつてしまへばいいぢやないか、一人の奴は時の災難ぢやと思つて諦めさへすればいいのだ。ウフヽヽヽ』
ポーロ『コラコラ、味方同志が内乱を起しちやつまらないぞ。ここは吾々一同が腹帯をしめ結束を固くして居らねば、主人の留守を考へて三五教の奴が襲撃して来たらどうする。「兄弟牆に鬩ぐとも外その侮を防ぐ」と云ふ金言を心得ぬかい』
レール『金言も心得もあつたものかい。主人の留守の真鍋焚き、毎日日日無礼講を開いて各自心の塵芥を払ひ出し水晶魂となりさへすればバラモン教の御神慮に叶ふのだ。酒さへ飲めば何でも彼でも腹の底まで打明すものだから酒ほど偉いものはない。アヽ酒なる哉酒なる哉だ。さけもさけも世の中に酒ほど愛嬌のものあろか、イヒヽヽヽヽ。何とうまい酒だのう、こんな時に喧嘩をするやうな野暮が何処にあるかい。酒さへ飲めば善もなければ悪もない。敵もなければ味方もない。喧嘩の仲裁する奴はヤツパリ酒だ。仲裁の権威を保有する酒を先に飲んで置きながら喧嘩をすると云ふ事があるものけえ、アーン』
エルマ『さうともさうとも一切万事酒で解決のつく世の中だ。(歌口調)「アヽ、世の中豊年ぢや、万作ぢや、万作々々万作ぢや」(都々逸)「酒を飲む人心から可愛い、酔うて管巻きやなほ可愛い」とけつかるワイ、ウー、ゲツプ、ウーン、酒の奴、不謹慎千万にも俺達の密談を聞かうと思うて喉元から一寸覗きやがつた。エー不従順な代物だなア』
ポーロ『コラ、レール、ポーロ ポーロと涙をこぼしもつて酒を喰ふ奴があるかい。酒を飲んだら飲んだらしう何故勇まぬのか。貴様は泣上戸だな』
レール『あんまりの酒の洪水でレールが沈没し汽車が方向を取違へて脱線したのだ。乗客は忽ち顛覆の厄に会ひ阿鼻叫喚恰も地獄の如しだ。その惨状を見るに忍びず、一掬同情の涙をそそいだのだ。貴様のやうな奴が英雄の心事が分つて堪るかい。えーウーゲツプウーン、酒の奴、またしても法則を破つて秘密室を覗かうとしやがる。怪しからぬ奴だな。こらヤツコス、貴様、何だ、真面目腐つた顔しやがつて貴様こそ剣呑だ。これだけ皆がうま酒に酔うて居るのに貴様だけ真面目な顔をしやがつて、何の事だい、大方貴様は大将が帰つて来たら俺達の行動を一々上申するつもりだらう。アーン』
ヤツコス『ヤイ、レール、そんな殺生な事を云つてくれるない。俺は貴様等の知つてる通り極端な下戸ぢやないか。下戸がどうして酒が飲めるかい』
レール『酒好む人が奈良漬食はずして酒好かぬ人が粕汁を喰ふ………と云ふことがある。貴様、粕汁ならチツとばかり喰ふだらう。粕汁でもあまり馬鹿にならないぞ。ドツサリ飲めば酔ふぞ。貴様も粕汁でも飲んで古今独歩珍無類の管を巻いたらどうだ(歌口調)「酒を飲まぬ奴ア心から憎い、管も巻かぬ奴ア、なほ憎い」と云ふ事があるぞ、ヤイ、ヤツコス奴一ツ飲んだらどうだい。酒が強うて飲めなけりや湯でもさして緩うしてやらうか』
ヤツコス『イヤ、もう沢山だ。決してお前等の行動を上申するやうな不道徳な事はせぬから安心してくれえ』
レール『酒の席に酒飲まぬ奴が坐つてると何ともなしに気がひけて、座が白けて仕方がないワ。そして女のお給仕がないと云ふから殺風景な事この上なしだ。時に此処の大将が恋着してる「アヤメ」と云ふナイスは何処に居るだらうな。俺はそのナイスの事が苦になつて忘れられぬわいのう。オヽヽヽヽ(義太夫)思へば思へば いぢらしいやあ、父と母とは名も高きコーカス山のお宮詣でのその砌、バラモン教の曲津神……………』
ポーロ『コリヤコリヤ、曲津神と云ふ事があるかい』
レール『(義太夫)バラモン教の神司、大黒主に捕へられ荒風すさぶ山野を渡りやうやうに、象の背中に乗せられて、ここまで来たのがアヽヽヽ運の尽き、暗き牢屋に投げ込まれ、朝な、夕なの御飯さへ、碌々味はふ事も得ず、苦しみ歎く あゝゝゝり様はアヽヽ、よその見る目も憐れなり、一時も早く吾娘、ここに尋ねて来るなれば、大足別の大将も、目を細うして涎こき、以ての外の御満足、とは云ひながら情なや、三五教の司なら、可愛い娘を女房に、熨斗までつけて奉らむと思へども、悪逆無道の大黒主がオツトドツコイヽヽヽ仁慈無限の大黒主が、左守の神にも譬ふべき、清春山の岩窟に、勢ひ並ぶものもなき、大足別と云ひながら、これが女房にやられようか、ほんに思へば前の世で、如何なる事の罪せしか、憐れみ玉へや三五の、皇大神と口説きたて、くどき立つれエヽヽばアヽヽヽレールさま、………と云ふやうな老夫婦の心情だ。オイ一つ脱線つづけに婆でも女に違ひないから牢屋から引張り出してお給仕でもさしたらどうだ。あまり心持悪くはあるめいぞ。アーン』
一同『イヒヽヽヽ』
と歯を剥き出し腮をシヤクつて笑ふ折しも、入口の番をして居たキルク(喜久雄)は宙をとんで馳せ来り、
キルク『モシモシ ポーロさま、たゝゝゝゝ大変だ大変だ。立派な美人が来ましたぜ』
ポーロ『ナニ、美人が来た。そりや大変な面白い事だ。早く引張つて来い』
レール『それだから時節は待たねばならぬものだ。別嬪と聞いちや俺も堪らないわ。ヤツパリ目が二つあるだらうな、アーン』
キルク『別嬪が一人に、強い怖さうな宣伝使が三人です』
『ヤア、そりや大変だ』
と一同は俄に酒の酔も醒め、徳利を蹴飛ばし鉢を割りながら右往左往に狼狽へまはる。

(大正一一・一〇・二八 旧九・九 北村隆光録)



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