出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語39-3-121922/10舎身活躍寅 種明志王仁三郎参照文献検索
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第一二章 種明志〔一〇七七〕

 国公、ハム、タールの三人は夜明けと共に朝の空気を吸ひながら、不思議な事より情意投合して兄弟の如くになり、道々無駄話をしながら、河鹿峠を下り行く。照国別の待つてゐるといふ岩窟に到り見れば、照国別一行の姿は見えず、ただ二人の男が岩窟の小隅に小さくなつて震うて居た。ハムは無雑作に余り広からぬ岩窟に飛込み、よくよく調べ見ればイール、ヨセフの両人であつた。
ハム『オイ、イール、ヨセフの亡者ぢやないか。何時の間にこんな所へふん迷うて来たのだ』
イール『ヤア、ハムさまか、ようマア無事で助かつてくれたなア。俺達二人も何が何だか、サツパリ合点がゆかぬのだ。実際現界か幽界か、どう考へてもハツキリせぬ。お前は何と思ふか』
ハム『確りせぬかい。ここは河鹿山麓の南口の岩窟の中だよ』
ヨセフ『さうするとヤツパリ生復つたのだなア。夜前ここまで逃げて来て、スツ込んで居ると、頭のわれるやうなキツい声で宣伝歌を歌つて、この岩窟の中へ這入らうとする三人の宣伝使があつた。こんな奴に這入られたら大変だと、二人が中から岩の戸に突張りをかい、力限りに押して居つたら、とうとう根負をして通り過ぎてしまつた。それから今まで二人が岩戸を力限り押してゐたのだが、どうやら宣伝使が遠く行つたやうな塩梅だから、余り息がこむるので、新しい空気を注入してゐた所だよ』
ハム『オイお前の救主が此処に二人も来てゐる、早く御礼を申さぬか、タールさまに国公さまだ』
ヨセフ『何、俺を助けてくれた救主は三五教の宣伝使一行四人だよ。タールの奴、男甲斐もない、母娘の巡礼に俺達がさいなまれてゐるのを見捨て、逃げ出すといふ卑怯千万な不親切漢だから、そんな事を言つても駄目だ。ヘン、大きに憚りさま、なあイール、貴様も知つてゐるだらう、三五教の照国別とか云ふ宣伝使に違ない。お前もその記憶は確にあるだらう』
イール『確にさうだ。ここを通つた宣伝使もヤツパリ照国別さまに違ないが、余り神力が強いので、却て俺の方がこはくなり、近よりさへせねばよいと思うて此処迄助けて貰うた宣伝使にスツパ抜きをくはして、潜んで居つたのだ。オイ、ハム、お前どうして助かつたのだい』
ハム『俺は元から死んでは居なかつたのだ。きさま等二人が真砂の中に半身を埋めて目をまはしてゐたのを俺はよく側に見てゐた。しかしどうしたものか足腰が立たないので、三人一緒に頭を並べて、時を待つてゐた所、レーブ、タールの両人がうしやがつて、俺の悪口を散々吐いた上、このハムさまを谷川へ水葬しようなどと善からぬ事を吐きやがるものだから、おのれツと云ひさま、立上ると、ここに居るタールを初めレーブの奴、雲を霞と逃げ失せ、谷路にふん伸びてゐやがつた。天罰は恐ろしいものだ。踏殺してやらうと、思うたらまたもや俺の腰が変になり、谷路に一蓮托生的にふん伸びてゐた所へ、照国別の宣伝使が通りかかり、この国公さまに介抱を命じて、この岩窟まで行くと云つて、スタスタと下られたが、貴様が中から邪魔をするものだから、とうとう行かれてしまつたのだよ。その中の一人はこの国公さまだ。早く御礼を申さぬか』
 イール、ヨセフの両人は嬉しさうな怖さうな態度で、無暗に腰を屈め、頭を五六遍ペコペコ上げ下げしながら、
『モウ何にも申しませぬ、有難うございます、どうぞ堪忍して下され』
国公『お前は妙な事を言ふ奴だ、命を助けてやつた宣伝使の玉子がどうしてお前を苦めるものか、マア安心したがよからう』
イール『そんなら三五教の巡礼に御無礼した事を許してくれますか』
国公『三五教の巡礼とはどんな風をして居つたか、一寸耳よりだ。詳しく聞かしてくれ』
イール『婆アさまと娘と二人の巡礼だ。中々強い奴で、とうとうハムの大将まで谷底へとつて放られた位だから、手にも足にも合ふものぢやない』
 国公はワザと口を尖らし、
『それは怪しからぬ、おれの母と女房とが一足先に、巡礼姿になつて此々を通つた筈だ。そんなら吾母と女房に対し、無礼を加へた奴だなア、さう聞く上は、モウ了見はならぬぞよ』
イール『モシ国さま、私ばかりぢやございませぬ。現に此処に居るハムの命令で、抵抗しました。ヨセフもタールもまだ外にレーブといふ奴、私は例外として都合〆て五人、反対的行動を執つたのだから、どうぞハムから戒めてやつて下さい、私は何もかも白状した褒美に命だけは助けて下さい。その代り国様が鼻をかめとおつしやつたら、鼻でも拭いて上げます。尻をふけとおつしやつたら尻でも拭きます。アーンアーンアーン』
ハム『アハヽヽヽ悪の張本人はこのハムさまだ。コレ国さま、私から先へ成敗して下さい、部下の罪悪を一身に引受けるのは衆に将たるものの正に行ふべき道だ。サア早くお望み次第……』
とニユツと首をつき出し、早く首をとれと云はぬばかりにして居る。
国公『ヨシヨシ首を取れなら、取つてもやらう。しかしながら今はの際に貴様等の素性を一々白状せよ。その上にて事と品によつたら許してやらぬ事もない』
 ハムは悪びれたる色もなく、さも落着き払つた態度で物語る。

『天津御空を照りわたる  光も強き月の国
 生れはデカタン高原の  南の端に青山を
 四方にめぐらすガランダの  テームス王の子と生れ
 親の名をつぎ民草を  安く治むる折もあれ
 バラモン教の神司  大黒主の手下なる
 釘彦片彦両人が  何時の間にやら国内に
 ひそみて国人悉く  バラモン教に帰順させ
 徒党を組んで王城へ  夜陰に乗じて迫りくる
 その勢のすさまじさ  妻子を初め家来共
 雲を霞と逃げ散りて  影も形も泣き寝入り
 取残されたハム一人  刃向ふ術もなきままに
 命惜しさに降服し  大黒主の御前に
 引出されて已むを得ず  先祖代々伝はりし
 王の位を打棄てて  フサの国へと追ひ出され
 彼方此方をトボトボと  さまよひ巡り妻や子の
 所在を尋ぬる折もあれ  バラモン教の副棟梁
 鬼熊別の神司  タルの都の手前にて
 思はず知らず巡り会ひ  厳しく素性を尋ねられ
 大黒主の手下等に  さいなまれたる物語
 申上ぐれば鬼熊別の  神の司は涙ぐみ
 妻子を尋ねてさまよふか  お前は不憫な奴だのう
 われも妻子の行方をば  尋ねて暮す身の上ぞ
 お前の心は察し入る  大黒主の大将が
 如何に言ふとも鬼熊別が  甘く取りなし助けむと
 云はれし時の嬉しさよ  喜び勇みこのハムは
 鬼熊別に従ひて  ハルナの都に立向ひ
 抜擢されて部下となり  蜈蚣の姫や小糸姫
 続いてハムが妻子をば  尋ねむものと遠近を
 朝な夕なにさまよひて  ここまで来りし折もあれ
 蜈蚣の姫によく似たる  母娘の巡礼にめぐり会ひ
 実を聞かむと声高に  母娘の巡礼に立向ひ
 つめかけ見れば吾胸に  グツとこたへた蜈蚣姫
 小糸の姫に違ない  秘密の洩れむ恐ろしさ
 四人の奴等を追ひ散らし  後に残りしハム一人
 鬼熊別の命令を  母娘の方に伝へむと
 思うた事も水の泡  取つて放られた谷の底
 折角会うた母と娘に  別れし事の残念さ
 推量あれよ国さまよ  私は悪い者でない
 素性をあかせばこの通り  何卒お許し願ひます
 神が表に現はれて  心の善悪立別ける
 この世を造りし大神の  御霊幸はふ国さまは
 ハムの誠の心根を  詳しく悟り玉ふらむ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』

と悠々と歌を以て答へた。
国公『さうするとハムさま、お前は鬼熊別さまの命令で、蜈蚣姫、小糸姫様の所在を尋ねがてら、妻子の行方を探つてゐるのだな。ソリヤ感心だ。しかし蜈蚣姫、小糸姫は決して三五教の信者でも宣伝使でもない、しかし母娘共に健全にゐらせられることだけは大丈夫だ。そして先にお前達を投げた母娘の巡礼は、あれは黄金姫、清照姫といふ立派な宣伝使で、決してお前の言ふやうな方ではないぞ』
と意味ありげに三人の前でワザとに言葉を濁してゐる。ハムは早くも国公の腹中を悟り、ワザと空呆けて、
『アヽさうでしたか、さう承はれば人相書に合はない所が沢山あります。……オイ、タール外二人、お前はどう思ふか』
タール『俺は余りの恐ろしさで、婆アさまと娘位の事は承知してゐるが、人相を検めるなんてそんな余裕があるものかい』
ハム『イール、ヨセフの両人、貴様はどう思ふか』
ヨセフ『俺は言ふとすまぬが、鬼熊別さまの女房子に、あんな立派な方があらう筈がないと思うてゐるのだ。あのお方の身魂は、すでにすでに都率天の月照彦の神さまのお側で御用をしてござる結構な神様の肉の宮だから………』
イール『俺もさう思ふ。何程蜈蚣姫様、小糸姫様が豪傑だと云つても、あんな力が出る筈がない。またそんな力のある方なら、母娘の武勇は天下に鳴轟いてゐる筈だからなア』
国公『そらさうだらう、あの母娘を蜈蚣姫小糸姫などと思ふのが、大変な的外れだ。それさへ分れば、最早あの母娘を追跡するのも無駄骨折だ。それよりもハムさまのやうに一つ素性を明かしたらどうだい』
イール『そんなら何もかも棚卸しをしてお目にかけませう。私はデカタン高原のサワラといふ小さい国の首陀の家に生れた者ですが、大黒主の部下なるテーグスといふ宣伝使がやつて来て、片つ端から国人をバラモン教に引入れるので、ムカついてたまらず、ウラル教の教理を真向にふりかざし防ぎ戦うたけれど、遂に衆寡敵せず、サワラの牢獄に投込まれ、百日百夜の責苦に会ひ、とうとう初心を翻してバラモン教に心の空から帰順して助けて貰つたのだ』
ハム『オイオイ、心の空からぢやなからう、底からぢやないか』
イール『ソラ底が底ぢや』
ハム『大方貴様は嘘使つてゐやがるのだろ』
イール『ソラそこに底もあり蓋もある、何と云つても長い者には巻かれ、強い者には従はねばならぬ現状だから、俺の肉体はバラモン教だ』
ハム『肉体はバラモン教で、精神はウラル教だな。何と都合の好い宣伝使だなア』
イール『ハムさま、お前だつてチヨボチヨボぢやないか』
ハム『人間の分際として人の心の奥底がどうして忖度出来るものか、如何なる法の力も武力も、圧制も思想上の強圧は到底出来ない。目に見えぬ世界の事だから、まして今の盲共の窺知すべき限りにあらずだ。そんな野暮な事を言ふものではないよ』
ヨセフ『つまり時の天下に従へといふ筆法だな』
イール『コリヤ、ヨセフ、貴様は信仰の土台はどこにあるか』
ヨセフ『俺の本当の信仰は三五教だ。三五教は世界第一の優秀教だからなア』
イール『アハヽヽヽ現金な奴だなア、三五教の国公さまの前だと思つて、甘く胡麻をすりやがつたな。この胡麻摺坊主奴』
とピシヤリと横面を平手でなぐつた。
ヨセフ『コリヤ、三五教の信者に対して何と云ふ無礼な事を致すのだ。俺はモウかうなつては包むに由なし、本当の事を教へてやらう。実の所は顕恩郷にまします太玉命の御家来に、その人ありと聞えたる三五教の宣伝使依彦さまとは俺の事だぞ。バラモン教の内情を探るべく鬼熊別の部下となり、貴様等と一緒に交はつて猫を被つてゐたのだ。本当に盲ばかりの寄合だと思つて、密にホクソ笑をして居たのだ。ウフヽヽヽ』
イール『コラ、ヨセフ、そんな嘘を云つても、辻つまが合はないぞ。三五教の宣伝使が三五教の黄金姫に取つて放られるといふ、そんな矛盾がどこにあるか』
ヨセフ『そこは貴様等を詐るために、八百長で一寸放られて見たのだ』
イール『何と高価な八百長だのう。一つ違へば命がなくなるやうな八百長は昔から聞いた事がない』
ヨセフ『さうだから三五教の宣伝使照国別さまがやつて来て命を助けてくれたぢやないか。要するに惟神的の八百長だといふ事が今分つたのだ。アハヽヽヽ』
イール『負惜みの強い事を吐すない。そんなら何故照国別さま一行を恐れてブルブル震ひながら暗に紛れて逃げたり、岩戸を力一杯あけさせじと骨を折つたのだ』
ヨセフ『マアあつて過ぎた事を、さう細かく詮議するものぢやない。掃溜をほぜくるとしまひにや蚯蚓が出るぞ。アヽ今日はマアよい天気だな、一寸宣伝使様、外へ出て御覧、連山黄金色に彩られ、まるで錦絵を見るやうですワ』
イール『コリヤ、ヨセフ、そんな所へ脱線しやがつて、急場をつくらはうと思うても駄目だぞ、ナア国公さま、本当に油断のならぬ代物ばかりですな』
国公『どれもこれも打揃うて油断のならぬ人物ばかりだ。しかし今の世の中は世界中皆この通りだ。お前達は現世界の縮図だから何れも立派な悪神の代表者だよ。アハヽヽヽ』
ハム『オイ、タールの奴、貴様も素性をここで明かさぬか、何だか物臭い代物だぞ』
タール『俺はお前達のやうな人種とは元来からして、種が違ふのだ。勿体なくも盤古神王様を尊敬遊ばすウラル彦ウラル姫様の御娘子、高宮姫様といふ別嬪さまの情夫だ』
ヨセフ『ヘン、甘い事を吐すない。ウラル教だと云へば、俺達が勝手を知らぬかと思つて、貴様のやうなしやつ面に、仮令悪神の娘でも、あの有名だつた美人の高宮姫が惚れる道理があるかい。第一年が違ふぢやないか、高宮姫の十七八の花盛りには貴様はまだこの世へ生れて来て居らぬ筈だ』
タール『それは俺の親爺のことだ。俺の父は随分色男だつたよ。アーメニヤの都から、ウラル姫命の最愛の娘、高宮姫と手に手を取つて逐電し、ある事情のために身をかくし、それから再びアーメニヤへ帰つて立派な女房を持つたその女房の名は香具耶姫と云つて、つまり俺の母親だ。父の名は香具耶彦といふ男だよ。コーカス山から北光神がやつて来て、言霊戦を開いたので、父子兄弟チリチリバラバラに逃げ失せ、今では親も分らな、兄弟も知れないのだ。これが俺の詐らざる素性だよ』
 国公はタールの言葉を聞いて、双手を組み思案にくれてゐたが、ツツと立つてタールの首筋を打眺め、思はず知らずアツと叫んだ。タールはこの叫び声に不審を起し、
『モシ国公さま、何ぞ私に憑依して居りますかな』
国公『お前は若い時に春公とは言はなんだか』
タール『ハイ、私の名は春公です。そして私の兄はお前さまと同じ名のついた国公といひました。モウ生きて居るか死んで居るか、今にテンと分りませぬ。何分エライ騒ぎで、親子が四方に逃げ散つてしまつたものだから……』
国公『ともかくこれからお前と兄弟のやうになつて仲よくしよう。オイ皆の連中、これから貴様達は一切の障壁を去つて、俺と一緒に三五教のために活動しようぢやないか。キツと俺が照国別様にお目にかかつて、よきやうに取持つてやるから』
一同『ハイ有難う、そんなら国公さま、よろしく頼みます』
国公『サア早く行かう、照国別様が途中で待ちあぐんでござるだらう』
と言ひながら、岩窟を後に四人を伴ひ、宣伝歌を歌ひながら、崎嶇たる山路を足早に下り行く。

(大正一一・一〇・二八 旧九・九 松村真澄録)



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