出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=36&HEN=3&SYOU=19&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語36-3-191922/09海洋万里亥 紅蓮の舌王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=13993

第一九章 紅蓮の舌〔一〇〇七〕

 門番のベスは再び竜雲、ケールス姫の居間へ慌しく伺候し、恭しく両手をつかへ、
『畏れながら申上げます。只今門前に現はれました、白髪異様の老人が、老人かと思へば平たくなつたり、長くなつたり、顔が四つも五つもあり、身体が背継ぎしたやうに見えたり、眼も鼻も随分沢山持つた化物が現はれました。何と云つても頑張つて帰らうとは致しませぬ。到底吾々門番の非力では追払ふ訳には行きませぬ。しかしながら、飲めよ騒げよ一寸先は暗よ、暗の後には月が出る……と、ヘヽヽヽヽ随分気に入る事を云ひます。屹度あれはウラル教の神様が化けてござつたのかも知れませぬ。善とも悪とも、たとへ方なきものでございます』
 竜雲はベスの言葉を聞き、しばらく首を傾げて居たが、俄に口を尖らして、
『ベス、お前は大変に酩酊して居るではないか。目がチラチラして居るぞ。お前の酔うた眼で見たものだから、さう種々と姿が変つて見えたのであらう。決して化物ではあるまい』
『ハイ、些しばかり聞し召したものでございますから、眼の調子が狂つても居りませうが、何はともあれ、一風変つた人物でございます。どうぞお目通りをお許しになつて篤とお調べ下さいませ』
 ケールス姫は傍より静な声にて、
『何はともあれ、その男を此処へ案内して来たがよからう』
『ハイ、畏まりました』
とベスは座を立ち、ヒヨロリヒヨロリと廊下を危く踏み鳴らしながら表へ出て行く。しばらくありて以前のベスは白髪の老人を導き、竜雲の前に恐る恐る現はれ、
『唯今申上げました化物とは、これでございます。どうぞ篤とお調べの上、ウラル教の神力をもつてお退治下さいませ。彼様なものが徘徊致すと吾々は門番も碌に勤まりませぬ』
竜雲『オイ、ベス、余計な事を申すな。早く立ち去れ!』
ベス『ハイ、オイ化州、確りやらないと駄目だぞ』
と口汚く罵りながらこの場を立ち去つた。
老人『神地の都の城主、サガレン王の後を襲うて政治を執る竜雲とは其方の事か?』
と雷の如き大声を発して問ひかける。どこともなく底力のある声に、遉の竜雲も面喰つて後へ二足三足タヂタヂと退き、
『ハイ、仰せの通り竜雲は私でござる。貴方はこの竜雲に対し御訪問下さつたのは、如何なる御用でござるか。さうしてその御姓名は何と申さるるか、お聞かせを願ひたい』
『吾こそは三五教の宣伝使、天の岩戸開きの神業に仕へたる天の目一つの神でござる。汝に対し訓誡を与へたき事あれば、老駆ををかし遥々と此処に参りしものぞ』
 竜雲は三五教と聞いて、些しく顔色を変じたが、何となく犯し難きその威貌に度肝をぬかれ、
『音に聞えし天の目一つの神様でございましたか。これはこれは遠路の処、ようこそ御入来下さいました。何卒々々至らぬ竜雲、宜敷く御指導をお願ひ申す』
『アハヽヽヽ、随分その方も外交的手腕は立派なものだ、余程現代化してござると見える。しかしながら竜雲殿にお尋ね致したい事がござる。その尋ねたいと申すのは外でもない、サガレン王の今日の境遇だ。苟くもバラモン教の教司、一国の王者の身をもつて、山野に流浪し給ふやうになつたのは、何かの理由がなくては叶はぬ。この経緯を詳細に吾前に告白されたい』
『ハイ、これには種々の訳もございまするが、あまり込み入つての御干渉は迷惑千万、何卒この話は打ち切つて、三五教の教理を御教示あらむ事を希望致します』
『ハヽヽヽヽ、吾々の干渉地帯でないから問うてくれなと云はるるのかな。イヤ尤もだ、秘密の暴露を恐るるは人情の常だ。たつて辞退せらるるものを無理には強要致さぬ。しかしながらよく考へて御覧なされ! もしも此処にある王者があり、その王者には后があつて、夫婦相並び神を敬ひ政治をとり、円満に民を治めて居る。其処へ何処ともなく一人の妖僧が現はれ来たつて、その后を誑惑し、変つた信仰を強ひ、漸次にしてその后の心を奪ひ、遂には畏れ多くも夫たり国王たる神司を、妖僧と共に腹を合して放逐し、後に晏然としてその后を妻となし、自らは王者然として控へて居る悪逆無道の怪物ありとすれば、竜雲殿は如何思召さるるか。神の教を宣伝する宣伝使としてこれが黙過する事が出来ようか、如何でござるアハヽヽヽ。これは要するに譬でござれば、決してお気にさへられな。竜雲殿の明敏なる頭脳によつて、その解決を与へて貰ひたいのだ』
『ハイ、成るほど六かしい問題でござる』
『六ケ敷き問題は問題だ。しかしどう解決をつけたらよいかと聞いて居るのだ。イヤそこに俯むいて居るのはケールス姫殿でござらう。其方の意見を承はらう』
『ハイ誠に恐れ入つた次第でございます。何ともお答への致しやうがございませぬ。貴方の御判断にお任せ申すより、もはや手段はございませぬ』
『今の中に心を改め、其方両人が、計略をもつて逐出したるサガレン王を探ね出し、茨の鞭を負うて王に心の底より謝罪をなし、その罪を清めなければ、天罰立所に至り、地震雷火の雨の誡めに遇ふは最早眼前に迫つて居る。両人早く決心をなさらぬと、其方が身辺の危険は刻々に迫りつつありますぞ。いらざる目一つの神が差出口とけなさるるならばそれまでだ。目一つの神はこの上両人に対して忠告すべき事はない。よく良心に尋ねて、最善の方法を取られたがよからう。縁あらばまたもやお目にかからうも知れない。左様なら……』
と云ふより早く、コツンコツンと廊下に杖の音を響かせ、表を指して帰り行く。
 竜雲、ケールス姫は、目一つの神の後姿を見送り、茫然自失なす処を知らず、顔色忽ち蒼白に変じ、太き溜息を吐いて居る。

 三五教に仕へたる  北光彦の宣伝使
 天の目一つ神司  松浦の郷を後にして
 河森河を遡り  神地の都に現はれて
 心汚き竜雲や  ケールス姫に打向ひ
 悪逆無道の行動を  悔悟せしめて天国の
 園に導き助けむと  老の歩みもトボトボと
 恐れげもなく進み来る  門番ベスに伴はれ
 奥殿深く進み入り  竜雲ケールス両人に
 向つて真理を説き諭し  その改心を迫りおき
 悠々として長廊下  コツリコツリと杖の音
 次第々々に遠ざかり  何時の間にやら崇高な
 神の姿は消えにける  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ  サガレン王を初めとし
 服ひまつる忠誠の  神の司や信人を
 誠の道にまつろひて  天授の真理を悟らしめ
 八十の曲津に疲れたる  竜雲ケールス両人を
 尊き神の正道に  眼を醒まさしめ朝夕に
 神の教にまつろはせ  百の司の御魂まで
 洗ひやらむと雄々しくも  守りも固きこの城に
 単身進み入りにける  神の御霊の幸はひて
 醜の曲津も影隠し  天津御神のたまひたる
 元つみたまに立ち帰り  神人和合の天国を
 神地の城の棟高く  照らさせたまへ惟神
 神のみ前に願ぎまつる。  

 二人は目一つの神の立ち去りし後にて、またもやひそひそと話に耽り居る。
『モシ竜雲さま、今見えた目一つの神様は三五教の宣伝使だと云はれましたが、何とマア御神徳の高い方でせう。お顔は目つかちで、何とはなしに見劣りがするやうですが、どこともなしに犯すべからざる威厳が備はつて居ました。かういふと済みませぬが、常々神徳高き竜雲様だと思つて居ましたが、傍に寄せるとまるで比べものにはなりませぬ。象の傍によつた猫のような気分が致しましたワ』
『これはしたり、余りと云へば余りの無礼ではないか。吾々を猫にたとへるとは不埒千万、それほどこの竜雲が小さきものに見えるならば、なぜ其方は目一つの神を引き止めて夫となし、この竜雲を放逐せないのか』
と声を尖らせてゐる。
『何も貴方を疎外したのぢやございませぬ。目一つの神様の御神徳を讃へたのでございますワ。貴方は見れば見るほど、交際へばつきあふほど小さくなり汚くなり、弱くならつしやるやうですワ。こんな事なら、なぜ神徳高きサガレン王に背いたであらうかと、今更悔悟の念に堪へませぬ。この館は妾が住家、今はいい気になつて王者然と構へて居られますが、実際を云へば私の館、お気に召さねば何時なりと帰つて下さい』
『これケールス姫殿、其方は狂気したのか、その言霊は何でござる』
『ハイ、一たん悪魔に誑惑され、大蛇のかかつた竜雲様に従つて居ましたが、今漸く病気全快しまして正気に立ち帰りました。もはや正気に立ち帰つた上は、今までの罪が恐ろしく、また竜雲の悪心が憎らしくなつて来ましたよ』
『心機一転も甚だしいぢやないか。これケールス姫、よい加減にこの竜雲を揶揄つて置くがよい。下らぬ事を云つてさう気を揉ますものではないよ』
『妾はもはやこの世に生きて居る事は出来ませぬ。大罪を犯した者でございますから、潔く自殺を致します。仮令三日でも五日でも、縁あればこそ不義の契を結んだ妾、臨終の際にのぞんで一口忠告を致して置かねばなりませぬ。悪は何時までも続くものではありませぬよ。貴方はこれから男らしく割腹して、サガレン王様に罪を謝すか、但は世捨人になつて再び難業苦業をなし誠の神の司とおなりなさるか、それは貴方の自由意志に任しませうが、たとへ如何なる事があつても、悪を企んだり策略を廻らしたり、今までのやうに嘘をいつてはなりませぬよ。これが私の竜雲に対する忠告だ。この世に生きて何の詮もなし、左様ならば竜雲殿、お別れ致しますぞや』
と云ふより早く、懐中より懐剣をとり出し、今や喉にガバとばかり突き立てむとす。竜雲は慌てて姫の手を確りと押へ、声を慄はせて、
『ケールス姫殿、しばし待たれよ。短気は損気、死なうと思へばいつでも死ねる。この竜雲も唯今限り改心を致すから、どうぞ死ぬ事だけは止めて下さい。可惜神地の城の名花を散らすは誠に惜しい、先づ思ひ止まつて下され』
と姫の手を力限りに握りしめて居る。
『イエイエ、何と云つて下さつても罪多きこの体、死を選ぶより外に道はありませぬ。どうぞその手を放して下さい!』
と身を藻掻く。その騒動を聞きつけて走り入つたる右守の神のハルマは、この体を見て打驚き、
『竜雲様、姫様、尊き御身を持ちながら、何の不自由もなきに夫婦喧嘩をなさるとは、盤古神王様に対し畏れ多いではござらぬか。苟くも王者の身をもつて、俗人輩のなすが如き刃物三昧とは何事でござるか』
 ケールス姫は泣き声を絞りながら、
『ヤアその方は右守の神のハルマであらう。吾は決して竜雲殿と争ひはして居ない。余りの罪の恐ろしさに、自害をしようとして居るのだ。それを竜雲殿が執念深くも止めようとなさるのだから、どうぞ其方、私の頼みだ、竜雲殿の手を放させておくれ!』
『これこれ姫様、自殺は罪悪中の大罪悪と申すぢやありませぬか。如何なる事情かは存じませぬが、私が此処へ現はれた以上は、決して死なしは致しませぬ』
と云ひながら、強力に任せて姫の手より剣を奪ひ、手早く窓を開けて眼下の谷川へ投げ捨つれば、竜雲はやれ安心と吐息を吐く時しも、慌だしくこの場に馳来るテールは両手を仕へ、
『モシモシ、この城内に火災起り、非常な勢で火は風に煽られ、火炎の舌は瞬く間に城の大部分を舐尽し、早くもこの館に延焼しました。サア早く、立退きを願ひます』
と云ふ間もあらず、黒煙濛々として四辺を包み、竜雲、ケールス姫、ハルマは、見る見る黒煙に包まれにける。

(大正一一・九・二三 旧八・三 加藤明子録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web