出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語36-3-161922/09海洋万里亥 門雀王仁三郎参照文献検索
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第一六章 門雀〔一〇〇四〕

 神地の城の表門には、門番のシール、ベスの両人が、あまりの無聊と暑さとを忘れむため、チビリチビリと胡坐をかいて酒を汲み交し雑談に耽つて居る。
『オイ、ベス、ケールス姫様が血相変へて襷十字に綾取り、後鉢巻を凛と締め、裾もあらはに大薙刀を小脇に抱込み、此処迄現はれ来り、手持無沙汰のお面貌でコソコソと再び元のお館に引つ返されたのは一体何だらう。まるで戦場における女武者のやうぢやないか。俺は此処に門番を酒と一緒に神妙につとめて居るから、貴様一寸お館へ入つて様子を探つて来てくれ。何だか気が落ち付かないやうな心持がして来たからなア』
『さうだなア。合点の往かぬ姫様の御様子、これには何か訳があるのであらう。叱られるか知らないが一寸奥まで往つて来る。俺達は門番の分際として、昇殿は許されない身の上だが、何でも非常の事が大奥には突発して居るに違ひない。万々一竜雲様の御身の上に一大事があつては、吾々も悠々閑々として居る訳には往かない。叱られても構はぬ、奥まで踏込んで来る。様子は後から詳しく分るであらう』
と云ひのこし、ベスは白鉢巻を締め襷十字に綾取りながら、尻引つからげ無雑作に奥殿さして進み入り、ケリヤの負傷や、竜雲、ケールス姫、テールの驚きの場面を一見し、かつ大体の様子を垣間見ながら、この分ならば余り大した事はあるまい、夢の騒動だと呟きながらスタスタと踵を返さむとする時、目敏くもケールス姫はベスの姿を見て声を尖らせ、
『お前は門番のベスではないか。館の禁制を破り、かかる大奥まで何しに来たのだい』
と呶鳴りつけられ、ベスは慄ひながら頭を掻き、
『ハヽハイ、マヽ誠に申訳がござりませぬ。実はケールス姫様のただならぬ御様子を拝みまして、この大奥には何事か珍事突発せしならむ、如何に卑しき門番なりとて、君の危難を救はずには居られない、昇殿の御禁制は百も千も承知致しては居りますが、かかる非常時にはそんな事を守つて居る事は出来ない、とも角お二方を助け申さねばならないと、シールと申し合せ、不都合を顧みずここまで参りました。どうぞ御勘弁を願ひます』
『許し難き汝の行動、常ならばこのままに差措くべきではないが、汝の吾等を思ふ誠忠に免じて唯今限り忘れて遣はす。気をつけて厳重に門を守れよ。さうして大奥のこの有様を、何人にも口外してはならないぞ。堅く口留して置く』
『ハイ有り難うございます。決して決して首が飛んでも申しませぬから御安心下さいませ』
 竜雲は声を尖らせて、
『ベス、早くこの場を退却致せ!』
 「ハイ」と答へてベスはこの場を立去る。ケリヤは姫に足を切られて苦悶の声を放ち「ウン ウン」と唸つて居る。テールは腰を抜かしたまま、目玉ばかりヂヤイロコンパスのやうに急速度をもつて白黒交替に転回させて居る。

 心汚き竜雲が  寵児となりて朝夕に
 近く仕へし青年テールは  一間に入りてウラル教の
 神の御文を拝読し  知らず知らずに夢に入り
 前後も知らぬその隙を  心に潜む曲鬼は
 自由自在に跳梁し  夢路をたどる時もあれ
 神地の城の表門  人馬の物音物凄く
 攻め来る敵の鬨の声  訝かしさよと飛び起きて
 館の勾欄かけ登り  眼下をきつと見渡せば
 今まで主と頼みたる  サガレン王は勇ましく
 連銭葦毛の馬に乗り  金覆輪の鞍置いて
 駒の嘶き勇ましく  采配振つて寄せ来る
 続いて青鹿毛黒鹿毛に  跨がる勇士は何人と
 眼を据ゑて眺むれば  テーリス、エームス両勇士
 黄金の采配打ち揮ひ  厳しき下知に兵士は
 潮の如く打ち寄する  スワ一大事とかけ下り
 数十の勇士を引率し  敵に向つて斬り込めば
 衆を頼みて押し寄せし  遉の敵も辟易し
 寄せては返す磯の浪  旗色悪く見えけるが
 膝下に響く鬨の声  雲霞の如き大軍は
 単梯陣を張りながら  少数の味方と侮つて
 阿修羅王の如攻め来る  味方は慄悍決死の士
 鬼神も挫ぐ豪傑が  如何はしけむバタバタと
 鋭き刃に貫かれ  苦もなくその場に倒れたり
 テールは驚きただ一人  門内深く忍び入り
 門を鎖してスタスタと  ケールス姫や竜雲の
 居間をばさして進み入り  敵は間近く迫つたり
 この場を早く遁走し  後日の備へをなしませと
 誠しやかに述べ立つる  昼寝の夢の物語
 誠となして竜雲は  顔の色までサツと変へ
 忽ちその場に腰抜かし  慄ひ戦くをかしさよ
 まさかの時に強いのは  女心の一心ぞ
 ケールス姫は立ち上り  長押の薙刀おつ取つて
 表をさして駆出し  寄せ来る敵を一騎だも
 余す事なくなぎ払ひ  女の武勇を現はすは
 今この時と勇み立ち  立出でなむとするところ
 左守のケリヤは入り来り  平穏無事のこの城に
 何をもつてか姫様は  仰々しくもその姿
 止まり給へと云ひければ  姫は怒つて忽ちに
 ケリヤの足を薙ぎ払ふ  ウンと一声叫びつつ
 その場に倒れし憐れさよ  死物狂のケールス姫は
 後鉢巻凛としめ  襷十字に綾取りて
 強敵こそは御参なれ  唯今思ひ知らせむと
 猛虎の如く駆出せば  こは抑如何に門前は
 ソヨ吹く風の音も無く  天地静に寝ぬるごと
 閑寂の気は漂ひぬ  姫は不審に堪へずして
 再び館の奥の間へ  手持無沙汰に帰り来る
 とくと様子を調ぶれば  テールが夢の空騒ぎ
 張りつめ居たる魂も  グタリと緩みケールス姫は
 テールの司に打ち向ひ  その不都合を責めかくる
 夢に夢見た慌て者  テールは頭掻きながら
 やつと許され虎口をば  逃れし如き心地して
 胸なで下すぞをかしけれ  この世に鬼はなけれども
 吾身の作りし村肝の  心の鬼に責められて
 苦しみなやむはテールのみか  ケールス姫も竜雲も
 同じく心を痛めつつ  挙措その度をば失ひて
 慄ひ居たるぞおそろしき。  

 幸にケリヤの薙刀の創は思つたよりは浅く、切口に粘土をつけ繃帯を施したれば、数日の後には殿中歩行の自由を僅に得る処まで回復したりける。
 これより城内は間断なく不可解なる事のみ続出し、竜雲を初め上下の司達は戦々兢々として安き心もなく、淋しげにその月日を送りつつありしといふ。

(大正一一・九・二三 旧八・三 加藤明子録)



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