出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語36-1-61922/09海洋万里亥 意外な答王仁三郎参照文献検索
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第六章 意外な答〔九九四〕

 アナンはサール、セール、ウインチの同志に別れを告げ、テーリスに会つて内外相呼応し、一挙に竜雲を捕へむと計画を定め、ブラリブラリと神地城近く現はれた。メール、ヨールの両人は忽ちアナンを捕へ獄に投じた。
 アナンはテーリスが依然として牢獄の監督たるべしと確信して居たが、豈図らむやベールの悪人が何時の間にか代つて居る。竜雲もテーリスを固く信じ吾股肱と頼み、大切なる牢獄の監督を命じて居たが、彼も悪者、万一正義派に款を通じ如何なる事を仕出かすやも計り難しと、奸智に長けた竜雲は、ベールをしてこれに代らしめたのである。アナンはかうなつては恰も飛んで火に入る夏の虫も同様であつた。凡ての計画はこれにてサツパリ齟齬してしまふ事を非常に恐れざるを得なかつた。アナンは獄中にて私かに謡ふ、その歌、

『天と地とを造らしし  誠の神のいます世は
 如何なる事か恐るべき  天に煌めく星の影
 地は青々と生茂り  山河清く美はしく
 蓮の花は遠近に  咲き匂ひたる神の国
 吾等は神の子神の宮  いかでか曲のをかすべき
 如何なる艱みに遇ふとても  心も身をも皇神に
 任せ奉りて信仰の  誠を尽す吾こそは
 神も照覧遊ばさむ  一度は敵に悩まされ
 百の責苦に遭ふとても  いつしか開く神の門
 このシロ島はサガレン王の  君の命の永久に
 鎮まり居まして国民を  いと平けく安らけく
 知ろし召すべき神の国  ウラルの道の神司
 竜雲いかに暴力を  揮ふといへど曲神の
 いかでか正義に敵し得む  籠に飼はれし鳥さへも
 いつしか破れて天地の  広き御園に悠々と
 春をば謡ふ時あらむ  あゝ惟神々々
 神の霊の幸はひて  サガレン王を始めとし
 忠義に厚きタールチン  キングス姫やゼム、エール
 エームス、ユーズ、シルレング  尊き正しき人々の
 身魂を安く守りませ  アナンは敵に捕へられ
 苦しき月日を送るとも  君の御ため国のため
 世人のためとなるならば  如何でか命を惜まむや
 いかなる敵の現はれて  水責め火責めはまだ愚か
 剣の責苦に遭ふとても  君に捧げしこの生命
 心も広きシロの島  神地の獄舎に囚はれて
 身はままならぬ籠の鳥  なれども心は清々と
 天地四方の国原を  自由自在に逍遥し
 皇大神の御光は  吾身の上を照しまし
 歓喜は胸に湧き満ちぬ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 八岐大蛇の憑りたる  醜の司を言向けて
 この神国を永久に  守らにやおかぬ吾心
 生きては御国の楯となり  死しては護国の鬼となり
 誠一つを天地に  貫き通す楽しさよ
 ベールの眼は光るとも  夜は見えない人の身の
 いかでかわれ等の心根を  探りあてむや惟神
 神の教に背きつつ  一時の栄華に憧れて
 魔神に媚びつ諂ひつ  吾身一つの栄達を
 計らむとする卑劣さよ  思へば思へばベールこそ
 実にも憐れな者ぞかし  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』  

 エームスはまた獄中にありて、私に述懐を述べて居る、その歌。

『天地を造り固めたる  国治立大御神
 大地の力と現れませる  神素盞嗚大御神
 大地の霊と現はれし  金勝要大神の
 守らせ給ふ瑞穂国  中にも尊きシロの島
 この神国は天地の  殊更深き御恵に
 栄えて進む珍の国  この神国を知ろしめす
 サガレン王は民草の  主と居まし師と居まし
 親とまします厳の神  高き御稜威はヒマラヤの
 山も物かは行く雲も  伊行き憚る珍の王
 ウラルの道の竜雲が  非望の企みに乗せられて
 今は苦しみ給へども  如何でか神は許さむや
 ケールス姫や竜雲の  悪逆無道の振舞は
 天地容れざる逆罪ぞ  あゝ惟神々々
 神が表に現れまして  善悪正邪を分ちまし
 魔神を亡ぼし善神を  救はせ給ふは目の当り
 吾等は獄舎に投げ込まれ  無限の苦痛に遭ふとても
 心は広き天の原  空行く鳥の如くなり
 如何に無道の竜雲も  吾等が清き魂を
 縛り苦しむ枉業は  如何に心を尽すとも
 到底行ひ得ざらまし  心の空に日月の
 輝き渡る正義の士  如何でか獄舎を恐れむや
 神は吾等と倶に坐す  バラモン教の自在天
 大国彦の御前に  心を清め身を浄め
 一日も早く吾王の  心を安んじ苦しみを
 救はせ給へ惟神  神の御水火に生れたる
 サガレン王の側近く  右守神と仕へたる
 道の司のエールスが  ひそかにひそかに祈ぎ奉る
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』

と謡ふ折しも、ベールは足音高くこの場に現はれ来り、獄舎の外より、
『エームスさま、只今竜雲殿より、貴方に対する疑ひは全く晴れたから、許してやれとの御言葉でございます。貴方は竜雲様の危難を救うた殊勲者だから、どうぞ早く此処を出て下さい』
と声を和げて、慇懃に打つて変つた態度で言ひ渡すにぞ、エームスは頭を左右に振り、
『それは誠に以て有難うございます。しかしながら私は最早社会へ出て働かうとは思ひませぬ。それ故この別荘が殊の外気楽でございますれば、どうぞ永く獄において下さるやう竜雲殿にお願ひをして下さい。折角居馴ずんだ処でございますから、出るのが惜しくなりました。アハヽヽヽ』
『これはしたり、エームスさま、獄舎の中が結構だとは、そりや本心でおつしやるのですか』
『私は此処で一生を送りたく希望して居ります。到底竜雲さまに許され、或はお役に使はれましても、不運な者は何処迄も不運、また候、人を助けて牢獄に打ち込まれるやうな事が出来致しても詰りませぬから、此処にかうして居れば、罪を作らず心を悩まさず結構でございます。どうぞ私を解放してこの上苦労をさせぬやうに許して下さいませ。どうも私の性質として、悪い事は出来ませぬ。悪い事を平気で巧くやつて除ける人間は竜雲様の御引立によりましてズンズンと御出世遊ばすなり、命をお助け申して善事をなしたる私は獄に投ぜらるると云ふやうな逆様の世の中ですから、到底社会へ出て活動する場所がございませぬ。何時までも此処に置いて貰ひたいと申すのは左様の次第でありますから、悪からず竜雲殿にこの由をお伝へ下さいませ』
『これはまた変つた御意見、ベールも一向合点が参りませぬ。何はともあれ、一応竜雲様にお伺ひ致して参りませう』
と云ひながら、スタスタとこの場を立ち去る。

(大正一一・九・二一 旧八・一 北村隆光録)



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