出口王仁三郎 文献検索

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物語36-1-51922/09海洋万里亥 バリーの館王仁三郎参照文献検索
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第五章 バリーの館〔九九三〕

 竜雲は、サガレン王を発狂者として幽閉し、左守神のタールチン夫婦を初め、右守神のエームス、ゼム、エール、シルレング、ユーズ等のバラモン教信者にして王に誠忠なる人物を残らず獄に投じたれば、今は誰憚る者もなく、ケールス姫と共に国王気取りになつて、益々傍若無人の行動をなし、悪逆日に増長して、怨嗟の声は国内に轟き渡る事となつた。竜雲も遉は人心の向背如何を顧み、公然王と名乗る事をなさず、ケールス姫を表に立て、自分は黒幕となつて国政を掌握し、ケリヤを左守神とし、ハルマを右守神となし、ベール、メール、ヨールの三人を抜擢して重要なる位置に据ゑ、日夜、茗宴に耽り、放埒不覊の生活を送りつつあつた。
 さうしてサール、アナン、セール、ウインチなぞの正義派を盡く捕へて獄に投ぜむと、部下を四方に派して捜索し初めた。されど四人は、早くも姿をかくし、バリーの山中に隠れ、数多の正しき王の部下を集めて、竜雲を滅ぼし、王をして再び元の地位に立たせむと企劃しつつあつた。さうして、タールチン以下の冥窓に苦しむ人々を一日も早く救ひ出さむと、昼夜肝胆を砕きつつあつたのである。
 竜雲は秘蔵の弟子と頼みたるテーリスをして牢獄の番人頭となし、一同の動静を監視せしめつつあつた。されどこのテーリスは最も思慮深き人物にして、サガレン王の今日の境遇を予知し居たれば、初めよりケールス姫、竜雲に取り入り、絶対的の信任を受けて居た。それ故に竜雲はテーリスを抜擢して牢獄を守らしめ、これにて大丈夫と安堵の胸を撫で卸しつつあつたのである。
 バリーの山奥には巨大なる岩窟があつて、中は天然の住家となつて居る。此処にサガレン王に忠実なる人々はしばし姿を隠し、竜雲誅伐の計画を廻らしつつあつた。
 サールは一同に向ひ、
『最早今日となつては、竜雲も稍安心の胸を撫で卸し気を許し居るならむ。何とか致して夜襲を試み彼を引き捕へ、目に物見せてやらずば、王様を初め忠実なる人々の身辺は刻々に危険迫り、呑臍の悔を残す事あるべし。如何にすれば宜敷からむや』
と一同に計れば、アナンは進み出で、
『先づ第一にタールチン以下を救ひ出し、短兵急に攻め寄せて竜雲を奪ひとり、徐にケールス姫の御改心を願ふをもつて穏健なるやり方と考へます。漫りに人を殺すは天の許さざる処、止むを得ざれば彼を誅伐するも詮なけれど、成らう事なら一旦彼を捕縛して改心をせまり、どうしても聞かざればその時の手段に致さうではござらぬか』
ウインチ『この期に及んで、そんな手緩き事はして居られますまい。かくの如く忠臣義士の集まりし上からは、一挙に攻めよせ竜雲を滅し、国家のため害をのぞくに如くはありますまい』
セール『先ず第一に、タールチン、エームス以下を救ひ出すのが肝腎でござらう。しかしながらこれは容易の業ではござらぬ。皆さまは何か確信がございますかな』
アナン『確にあります。テーリスと内外相応じ、先づ彼をして時を窺ひタールチン以下を救ひ出さしめ、それを機会に攻め寄せなば易々たる業でござらう』
ウインチ『何を云うても名利に走る世の中、悪に従ふものは大多数、吾等は寡をもつて衆に当る事なれば、余り楽観は出来申さぬ。またテーリスは竜雲の股肱と頼む大の味方、さう註文通り彼が返り忠を致す気遣ひもありますまい』
アナン『決して決して御心配は御無用でござる。テーリスは今日ある事を予知し、わざと竜雲の喉下に這入り、甘く彼が股肱となつた者故、牢獄の監督を命じたのでございます。きつとテーリスは吾々の至るを待つて居るでせう』
ウインチ『果してそれが真なりとすれば、実にこの上なき好都合でござる。何とか彼に面会する機会はござるまいかなア』
 アナンはニツコと笑ひ、
『沢山に手段はござる。先づ御一同が夜討の計画を整へられた上、私は神地城近く進み入り、態と竜雲の部下に捕へられ、入牢してテーリスに遇ひ、この計画を窃に示し合せ、事を計るでござらう。先ず私はこれより神地の都近くに進みませう。こちらの方に準備が整へば牢獄の近辺に夜窃に現はれて、爆竹の合図をして下さい。さすれば私はテーリスと共に、内部の人々を牢獄より放ちし上、爆竹をもつて合図を致しませう。その音を聞くと共に表門に殺到されたし。必ず内より門を開き、共に共に大活動を致しませう。これより外に計略はありませぬ』
サール『なるほど結構な謀ではありますが、竜雲もまた、神変不思議の妖術を使ふ奴なれば、吾々の計略を前知し却て敵に計られ、反対に滅さるるやうな事はありますまいかなア』
アナン『決して左様な心配は入りませぬ。竜雲は些しも神通力はもつて居ませぬ。もし、果して彼に神通力がありとすれば、テーリスの心を看破せずには居りますまい』
 ウインチ、サール、セールは『成程』と打ち諾き、思はず知らず『アハヽヽヽ』と打ち笑ふ。
 アナンは門出の祝として歌を謡ふ。

『あゝ面白し面白し  不倶戴天の仇を討ち
 君を助くる時は来ぬ  ウラルの教の竜雲が
 いつの間にやら錫蘭の島  神地の都に現はれて
 種々雑多と計画し  ケールス姫の傍近く
 侍りて姫を誑惑し  日に日につのる悪逆無道
 左守神のタールチン  キングス姫を初めとし
 エームス、ユーズ、ゼム、エール  シルレングまでも無残にも
 牢獄の中に投げ込みて  自己に従ふ悪者を
 近づけ遂に野心をば  遂行せむと朝夕に
 よからぬ事を企みつつ  サガレン王を幽閉し
 飛ぶ鳥さへも落すよな  その勢のすさまじく
 侮り難く見えにけり  さはさりながら天地の
 皇大神はいかにして  この狂暴を許すべき
 天地の道理に背きたる  曲の司の竜雲を
 滅ぼしたまふ時は来ぬ  あゝ面白し面白し
 精忠無比の人々は  この隠家に集まりて
 君の御為国のため  軍を整へ神地城
 さして堂々進み行く  天地の神も吾々が
 誠を諾ひたまひつつ  太き功を永久に
 立てさせたまはむ逸早く  準備を整へ曲神を
 打ち平げて天ケ下  四方の民草安らけく
 いと平けく治むべし  吾はこれより一走り
 神地の都に立ち向ひ  彼の竜雲が手下等に
 甘く捕はれ入獄し  テーリスさまに廻り遇ひ
 すべての計画打ち合せ  サール、セールやウインチの
 神軍攻めて来るまで  総ての準備を整へむ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ
 忠義に逸る吾々が  願ひを漏らさず聞し召せ
 神地の城は高くとも  周囲の堀は深くとも
 忠義一途の真心に  刃向ふ敵はよもあらじ
 あゝ勇ましや勇ましや  君を助くる時は来ぬ
 あゝ惟神々々  数多の正しき人々よ
 後より用意を整へて  進んで来れ逸早く
 吾は一先づ立ち出でむ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 誠の力は世を救ふ  神が表に現はれて
 善と悪とを立てわける  三五教ではなけれども
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 身の過ちは宣り直す  神の心に顧みて
 悪逆無道の竜雲も  心を改めまつろへば
 必ず命は助くべし  いざいざさらばいざさらば
 いづれも無事で神軍を  指揮して後より来りませ』

と足早に旅装束を調へ、神地の都を指して進み行く。

(大正一一・九・二一 旧八・一 加藤明子録)



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