出口王仁三郎 文献検索

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物語36-1-41922/09海洋万里亥 無法人王仁三郎参照文献検索
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第四章 無法人〔九九二〕

 神地の都にほど遠からぬ、青木ケ岡の麓に館を構へたタールチンの奥座敷には、妻のキングス姫と共にヒソビソ話が始まつて居る。
タールチン『何と御館には困つた事が出来て来たものぢやないか。ケールス姫様を竜雲の奴巧く取り込み、横暴日に夜に募り、サガレン王様を見る事恰も配下の如き態度である。このままに放任しおかば、神地城も、シロの国も木端微塵、滅茶苦茶に瓦解し大騒乱をかもすは、火を見るよりも明かであらう。今にして何とかよき手段を廻らし、彼の怪物を排除せなくては、王さまの御身辺も案じやられる。何んとかそなたに良い考へはなからうかな』
キングス姫『本当に困つた事が出来て来ました。バラモン教を以て民を治むるこの御国へ、宗旨の違つたウラル教を植ゑ付けられては、到底紛乱の絶える間はございますまい。それに付けても、竜雲の悪僧、千変万化の妖術を使ひ、ケールス姫様の心を奪ひ、今は誰恐るるものもなく、無法の限りを尽す憎き奴でございます。何んとかこれは致さねばなりますまい』
『あの忠良なるシルレング、ユーズなども竜雲のために獄に投ぜられ、今は無辜の罪に悩んでゐる。どうかしてこれを救ひ出さむと、千苦万慮すれ共、ケールス姫の疑ひ深く、竜雲の勢ひ侮る可らず。吾々左守の神としても、これを如何ともする事が出来ないのは、時世時節とはいひながら実に残念な事である。このままにしておけば善人は悉く竜雲の毒舌にかかり、残らず亡ぼされ、悪人のみ跋扈跳梁して、遂には竜雲は如何なることを仕出かすかも知れない。彼は決して、現在の地位に甘んずる者ではない。野心満々たる怪物であるから先づ大樹を切るに先立ちその枝を切る如く、吾等も何時如何なる運命に陥し入れらるるやも計り難い。彼を誅伐するは、今を措いて他にある可らず、どうだキングス姫、そなたは竜雲より艶書を受取つたさうぢやなア』
 キングス姫は夫の言葉にやや顔を赤らめ、
『ハイ、仰せの通りでございます。余りの事で申上げやうもなく、心の内にて大変に煩悶致して居りました。しかしながら、あなた様が御存じの上は何をか隠しませう。これを御覧下さいませ』
と差出す一通の艶書、タールチンは手早く受取り、押開いて読み下せば左の通りである。
『竜雲よりキングス姫に私かにこの手紙を差上げる。この手紙を夫にお見せになるやうなことがあらば、貴女の生命はなくなりますぞ。また決して他言はなりませぬ。竜雲は貴女の御登場の際、一目お姿を拝してより、恋慕の心禁じ難く、朝夕煩悶の鬼に捉へられ、青息吐息をついて居ります。就ては竜雲は近き将来においてある目的を達し、シロの島国のキングと相成る考へなれば、今の内に夫を棄て、表面独身を装ひ、竜雲の隠し妻となつて貰ひたい。またあなたの御願とあれば、タールチンを従前の如く重く用ゐるであらう。貴女の一身の浮沈、夫の存亡に関する一大事ですから、何卒色好き返詞を賜はりたく、指折り数へて、貴女の御返詞を待つて居ります。左様なら……』
と書き記してあつた。タールチンはニツコと笑ひ、
『アハヽヽヽ、馬鹿な奴だなア。これさへあれば、面白い、どんな計略でも出来るであらう……コレ、キングス姫……』
と側近く耳に口を寄せ、何事か囁けば、キングス姫は莞爾として打諾き、
『仰せに従ひ美事成功させて見せませう』
と稍確信あるものの如く肯いた。
 それより二日目の夕方、竜雲の側へキングス姫の手紙がそツと届いた。竜雲は願望成就と打喜びながら封押切つてよくよく見れば、左の如き文面が記してある。
『竜雲さま、妾のやうな不束な女に、神力無双の生神さまより、懇切なる御手紙を頂きましたことは、妾身に取つて一生の光栄でございます。早速御返詞を申上げたいと存じて居りましたが、何を云つても、夫ある身の上、御返詞を書きます暇もなく、やうやう今日、夫タールチンが小糸の館に参りました不在中を幸ひ、この手紙を認めました。夫は四五日帰りますまい。就いては詳しき御話しを承はりたく、また妾の心の中も申上げたうございますから、どうぞ藤の森の森林まで、万障繰合はせ、明後晩御越し下さいませぬか。もしも御越し下さることならば、この使に厳封して、返詞の御手紙を頂きたうございます。吾家にてお目にかかるのはいと易き事なれ共、数多の人々の出入多く、かつ夫の不在中にあなたと御話しをしてゐたと言はれては、世間体も何となく面白からず存じます故、何卒藤の森の頂上まで御足労を、強つて御願申上げたうございます』
と記しあるを見て竜雲は大いに喜び、直ちに返書を認め、使の男に渡した。
 タールチンは藤の森のある処に陥穽を掘り、その上に落葉を沢山に被せ、竜雲の来るを今や遅しと木かげに潜んで待つてゐた。
 竜雲はかかる企みのあるとは夢にも知らず、神ならぬ身の悲しさ、得意然として、城内をソツと脱け出で面部を深く包み、藤の森の頂きさして、月照る山路を登つて行く。
 細い路の中央に深き陥穽のあるのも知らず、悠々として、キングス姫に会はむと登り行く途端、踏み外して、陥穽にバツサリと落込んでしまつた。タールチンは物をも言はず、土をかきあつめ、陥穽を埋めて素知らぬ顔して吾家を指して帰り行く。
 この時エームスは藤の森の山上に月を賞しつつ、二三の部下と共に登つて居たが、夜中頃帰りに就き、知らず知らずにその陥穽を踏み外し、自分もまたそれに陥つた。されど俄に柔かき土を以て埋めたることとて引ならしたる土も四五尺ばかりゴソツと落込んでしまつた。その時何だか、足許に暖かい毛のやうな物が触つたやうな感じがした。エームスは二三の部下と共に、鋤鍬を吾館より持ち来らせ、汗をタラタラ流しながら、何人か生埋めにされて居るならむ、救ひ与へむと、一生懸命に土を掘り上げ、救ひ出して見れば豈計らむや、日頃城中に暴威を振ふウラル教の竜雲なりとは。エームスは心の内にて……あゝ失敗つた奴を助けたものだ、こんな事なら、救ひ出すぢやなかつたに……と後悔すれ共、最早及ばなかつた。
 竜雲は救ひ出されて、
『危い所を助けてくれた、恩人は何人なりや?』
と言ひながら、顔を覗き込み、
『アヽお前はエームスか、よくマア助けてくれた。何れ帰城の上、何分の沙汰を致すから、何処へも行かず待つて居てくれよ』
と云ひ捨て、早々藤の森の岡を下りて帰り行く。
   ○
 エームスはサール外二人の部下と共に、竜雲の居間に、稍不安の念に駆られながら、生命を助けてやつたのだから、決して不足は云はうまい、何かキツと詞の礼位は云ふのだらうと、腹をきめてやつて来たのである。
 竜雲は心の内にて、エームスの吾生命を救つてくれた事に就いては好感情を持つて居た。されどエームスはサガレン王の右守の神として声名あり、かつバラモン教の熱心なる信者であつて、常に自分の目の上の瘤として憎んでゐた。それ故竜雲はこの機を逸せず、自分の目的の妨害になる者は善悪に係らず、何れ亡さねば止まぬと云ふ悪心を発揮し、言葉厳かにエームスに向つていふ。
『昨夜は危き生命を助けられ、その段は竜雲にとつても感謝する次第である。さりながら汝等は、タールチン、キングス姫等と諜し合せ、この竜雲を始め、ケールス姫、サガレン王をレース、ベツトせむとの野心を抱く者たる事は、歴然たる事実であれば見せしめのため、汝を反逆罪に定むるによつて、さう覚悟を致したがよからう』
と儼然として言ひ渡したるにぞ、エームスは案に相違の竜雲の言葉に呆れ返り、
『吾々を反逆者とは何を証拠に仰せらるるや。人命を救助しながら、思ひもよらぬ冤罪に問はるるとは前代未聞の事でござる。竜雲殿は狂気めされたのではあるまいか』
と気色ばんで詰めよるを、竜雲は冷然として聞流し、ワザと作り笑ひをしながら、
『アハヽヽヽ、よくもマア白ばくれたものだなア。その弁解は後にゆつくり聞かう……ヤアヤア者共、反逆人のエームスを早く縛り上げ、獄に投ぜよ!』
と呼ばはつた。かねて待構へたる数名の捕手は、有無を言はせずエームスを引捕へ、直ちに暗黒なる獄屋に無理無体に投込んでしまつた。
 竜雲とケールス姫の命令にて、タールチン、キングス姫もまた同じ運命の下に捉へられ、獄舎に呻吟する身の上となつてしまつたのである。
 サールは僅に身を以てこの場を逃れ直ちにゼム、エールの館に駆け至つて、その実状を一々報告した。ゼム、エールはサールと共に、時をうつさずサガレン王の館に参り、竜雲が暴状を陳奏した。サガレン王は大に驚き、直ちに侍臣をしてケールス姫、竜雲を召し出だした。
 竜雲、ケールス姫の二人は予て覚悟の事とて、驚きたる色もなく、悠々として入り来り、
姫『今お呼びになつたのは、如何なる御用でございますか』
 サガレン王は目をしば叩き、
『ケールス姫!』
と言を強めながら、
『その方は左守の神、タールチン夫婦を始め、エームスを獄に投じたのは如何なる罪あつての事か、一応吾の裁断を得た上にて決行致すべきものなるに、汝一了簡を以て、かかる重臣を徒に投ずるは不届きならずや。また汝はウラル教を捨て、竜雲を放逐すると、吾に誓ひながら、相変らず竜雲を側近く招き、種々良からぬ計画をなすとは、言語道断の行方、今日より汝を始め竜雲の両人を放逐いたす、サア早くこの場を立去れ!』
と怒髪天を衝いて呶鳴り立てたれば、竜雲はケールス姫に目配せし、
竜雲『苟くも王者の身を以てかくの如き暴言を吐き玉ふは、普通の精神に非ざるべし。王には発狂の兆あり、否既に発狂し居れり。早く座敷牢に入れまつり、御摂養を遊ばさねば、この上病勢募る時は、第一本城のためには不幸この上なく、国民の迷惑は一方ならざるべし。ケールス姫殿、如何遊ばす御考へなりや』
 ケールス姫は黙つて俯いてゐる。サガレン王は益々怒り、
『汝竜雲、吾に向つて発狂とは何事ぞ。手打ちに致してくれむ』
と大刀をスラリと引抜き、斬つてかからむとす。数多の近従は王の背後よりムンヅとばかり抱き止めた。竜雲は一同に向ひ、
『王さまは御病気におはしませば、御全快遊ばすまで、座敷牢にお隠し申せよ』
と下知する。ケールス姫は何とも云はず、首を垂れて、サガレン王に顔を見せぬやうに努めてゐる。
 その間に憐れや王は竜雲の腹心の部下のために、発狂ならざる身を発狂者として一室に監禁さるる事となつてしまつたのである。

(大正一一・九・二一 旧八・一 松村真澄録)
   此日風強く雨さへ降り来り頗る冷気を覚ゆ



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