出口王仁三郎 文献検索

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物語36-1-31922/09海洋万里亥 反間苦肉王仁三郎参照文献検索
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第三章 反間苦肉〔九九一〕

 サガレン王は神前の間に端坐して冥想に耽つて居る。其処へ慌しく襖を押開け入り来りしケールス姫は、両眼に涙を湛へながらワツとばかりに泣き伏したり。サガレン王は驚いて、
『消魂ましき汝のその様子、何事なるぞ』
と尋ぬれば、ケールス姫は漸くにして顔をあげ、涙を拭ひ、
『王様、大変な事が出来ました。御用心なさいませ』
『大変な事とは何だ』
『外でもございませぬ。シルレング、ユーズの輩、私に徒党を結び反逆を企て、王様を始め妾等を今夜の中にベツトして、クーデターを行ふ陰謀を企てて居ります』
『何、シルレング、ユーズが左様な事を企劃して居ると申すのか。それは大方何かの間違ひであらう』
『イエイエ、決して間違ひではございませぬ。先日より両人の様子如何にも怪しと存じ、私にベールを遣はして、彼等が胸中を探らせし処、今夜を期して事を挙ぐる手筈になつて居ります。愚図々々致して居れば御身の一大事、社稷の顛覆は風前の灯火も同様なれば、時を移さず彼等一派を速かに獄に投じ、しかして後ゆるゆるとお調べにならば、一切の事実が判然する事でございませう。万一ベールの報告にして誤りなりとせば、これに越したる喜びはございませぬ。ともかくも彼等を捕縛し、一時投獄を仰せ付けられるが安全でございます。この事をお聞き下さるならば、妾も只今限りウラル教の信仰を捨て、バラモン教に入信し、王と共に神政に仕へ奉るでございませう。王様! 何卒一刻の猶予もなりませぬから、早く御英断をお願ひ申します』
『そなたがバラモン教に帰順してくれるのは有難い。第一家内円満の曙光を認めたやうなものだ。しかしながらシルレング、ユーズに限つて左様な不都合な事を致すべき道理がない。篤と取調べた上、改めて報告せよ。吾もまたゼム、エール、エームスに命じて、事の実否を急々探らせ見む。先づ心を落ち付けよ』
 姫はワツとばかりに泣き出し、恨めしげに王の顔を見上げながら、
『お情ないそのお言葉、妾の申上げた事を貴方は信用して下さいませぬか。ゼム、エール、エームスの如き臣下の方を、貴方は妾よりも幾層倍御信任なさるのでせう。エーさうなれば最早妾は是非に及ばぬ。居ながら王の危難を見るに忍びませぬ。此処にて自害を致します』
と云ふより早く、隠し持つたる懐剣を引き抜き、アワヤ咽につき立てむとする姫の狂言を王は誠と信じ、驚いて座を起ち、姫の手をシツカと握り、
『ヤレ待て! ケールス姫、早まるな』
『イエイエ妾は貴方には捨てられ、臣下にはせめ立てられ、この世に生きて何の望みもなく、ムザムザと臣下の手にかかつて死恥を曬さむよりも、御身の前にて潔く咽を突き切り自害を致します。どうぞその手をお放し下さいませ』
と泣き叫ぶ。王は黙念として居たりしが、しばらくあつて口を開き、
『しからばともかくも、シルレング、ユーズの件に就ては其方に一任する。しかしながら一切の事情の判明するまでは、決して成敗する事はならぬぞ』
 姫はこの言葉を聞いて、私かに舌を剥き出しながら、面に涙を流しつつ、
『ハイ、不束な妾の願を御聞き届け下さいまして有難うございます。しからばこれよりタールチンに命じ、彼等を獄に投じます。就ては彼等の罪状は後で篤と取調べ、御報告申上げまする』
と云ひながらこの場を立たむとするを、サガレン王は、
『ケールス姫、しばらく待ちや』
と声をかけた。ケールス姫は後振り返り、
『待てとおつしやるのは、御心変りがしたのではござりませぬか』
『イヤ別に心変りは致さぬ。其方は今ウラル教を捨てて、只今限りバラモン教になると云つたであらう。それに間違ひはないか』
『仰せまでもなく、一旦申上げた事にどうして間違ひがございませう』
『ウン、それならいい。其方がウラル教を捨てた以上は、最早竜雲は本城に必要のない男だ。速に退却を命ぜよ。一刻も置く事はならぬぞ』
『それは余り急な御命令、竜雲にも篤と云ひ聞かし、得心をさせて帰さねばなりますまい。仮令ウラル教なればとて、今の今まで師匠と仰いだ竜雲に対し、さう素気なくも取扱ふ事は出来ますまい』
『イヤ、彼こそ吾に対する危険人物の張本人だ。早く退却を命ぜよ』
『一国の王とならせ給へる御身を以て、左様な無慈悲の事を仰せられましては、どうして国民が悦服致しませうか。そこは円満に因果を含めて退却を命ずるが、王のためにも最前の御道だと考へます。しかしながら謀反人の計画は、時々刻々に準備が整ひますれば、後に至つて臍を噛むとも及びませぬ。ともかくタールチンを呼び出し、シルレング、ユーズの両人を捕縛させませう』
と云ひながら欣々として、ベールを伴ひこの場を立つて行く。
 後に王はただ一人黙念として差俯向き、思案に暮れて居る。かかる処へゼム、エールの両人は、足音何となく忙しく現はれ来り、恭しく両手をつき、
ゼム『恐れながら王に申し上げます。竜雲なるもの、この頃の挙動何となく怪しく、一時も早く退却を命じ給はずば、如何なる事を仕出かすかも分りませぬ故、何とか御英断を以て彼を放逐して下さいませ』
『ウン』
と云つたきりまた俯向いて居る。
エール『サア早く何とか御命令を待ちまする。彼が如き怪物は最早一刻もこの城内に留め置かせられては王のためになりませぬ。云はば暗剣殺も同様ですから、吾々は死を決して忠言を申上げます』
王『竜雲は何かよくない事を計画して居るか』
エール『ハイ確にレール、キング、ベツトの計画を立てて居りますれば、何卒一時も早く本城より放逐あらむ事を御願ひ申します』
王『竜雲が左様な不覊を企み居ると云ふ確な証拠がつかまつたのか』
エール『ハイ、これと云ふ証拠はございませぬが、吾々一同の考へには、どうしても彼の面上に殺気が現はれて居ります。一刻も留めおかせらるべき人物ではございませぬ』
 王は『ウン』と云つたきりまたもや両手を組んで俯向いて居る。
 そこへ慌しく入り来るは以前のケールス姫、ベールの両人である。
 姫はゼム、エールの二人の姿が王の前にあるを見て大に怒り、目を釣り上げながら、
『汝は奸佞邪智の大悪人、城内の秩序を攪乱致す不忠者、今宵の中に本城を乗取らむとする憎き曲者!』
と呶鳴りつけられ、ゼム、エールの二人は案に相違の姫の言葉に呆れ返り、
ゼム『これはまた思ひも寄らぬ姫様のお言葉、何を証拠に左様な反逆者呼ばはりをなされますか』
エール『仮令姫様の御言葉なりとて証拠もなきその暴言、卑しき臣下なりとも吾々は聞き捨てはなりませぬ。何を証拠に左様な事を仰せられますか』
姫『黙れ! 悪人猛々しとは汝等の事、汝はシルレング、ユーズと私かに諜し合せ、レール、キング、ベツトの計画を立てて居つたであらう……王様これも一味の奴原、決して油断はなりませぬ。早く投獄を仰せつけられますやうに……』
 王は首を左右に振り、稍不機嫌な面持にて言葉鋭く姫に向ひ、
『ゼム、エールの両人は予が最も信任するもの、両人に限つて左様な不心得は決して致すまい。汝は居間に帰りて休息致せよ』
と儼然として宣示した。流石のケールス姫も王の一言には返す言葉もなく、両人を睨めつけ後に心を残しつつ吾居間さして帰り行く。

(大正一一・九・二一 旧八・一 北村隆光録)



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