出口王仁三郎 文献検索

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物語36-1-21922/09海洋万里亥 川辺の館王仁三郎参照文献検索
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第二章 川辺の館〔九九〇〕

 神地の城は東北西の三方、美しき青山に囲まれ、南方は稍展開し、城の東西に余り広からねども、水清く流れ深き清泉が通つて居る。奇石怪岩最も多く、奇勝絶景の地点を選んで、ケールス姫の別宅が建てられてあつた。東の河は別館の西を流れ、河の中には種々雑多の形をしたる大小無数の岩石が点在し、その間を淙々と流るる水音、聞くも見るも壮快の思ひに満たされる。
 ケールス姫は、ウラル教の神司竜雲を此処に招き、朝夕となく不義の快楽に耽つて居た。サガレン王はいつも神地の館にあつて政務を見、バラモン教の大自在天を祭りたる神殿に、殆ど閉ぢ籠り祈願に余念なく、信仰をもつて唯一の楽みとして居た。
ケールス姫『竜雲さま、どうしてまた王様はこのやうな結構なウラル教の教が分らないのでせう。何とかしてウラル教を信奉さるるやうに、貴方の神力を以て悦服さして下さる事は出来ますまいかなア』
竜雲『盤古神王の御威勢、天ケ下に何一つ御自由にならない事はありませぬ。王様をウラル教に入信させるのは朝飯前の事でございますが、これには何か深き神様の思召があつて、吾々に一つの決心を与ふべく仕組まれたのでございませう。バラモンの如き、人の血を見なくては到底承知せないと云ふやうな神様を祭り、これを信仰すると云ふは、一身上の不幸のみならず、延いて国家国民の大不幸です。しかしながら、この錫蘭島にて誰一人指をさへるものなき王様の事ですから、吾々人間としては、何程教理を申上げた処で、いやと一口首をお振りになつたが最後、もはや申上げる事は出来ますまい』
『本当に困つたことでございますなア。何とかよい分別が貴方にありますまいか。かうして互に親しうなつた二人の仲、何も遠慮は要りますまい。どうぞ貴方のお考へを、包まず匿さず私に打ち明けて下さいませ』
『何と仰せられても、こればかりは口に頬張つて、如何に親密な貴女様にでも申上げる事は出来ませぬ』
『竜雲さま、貴方は随分冷静な方ですなア。未だ私の心が分らないのですか、イヤ信用して下さらないのですか』
『決して決して信用せない処か、貴女より外に、この世の中に私の力になつてくれる方はありませぬ。私は貴女のためには一つより無い生命までも捧げて居ります』
『それなら何故云つて下さらないのですか』
『こればかりはしばらく御猶予を願ひます』
『ハイ、宜敷うございます、貴方はタールチンの女房キングス姫には何でもおつしやる癖に、信用のない私にはお隠しになるのでせう、宜敷うございます。それならそれで私にも一つの考へがございますから……』
『さう悪気を廻されては大変に困るぢやありませぬか。どうぞ冷静に胸に手をあてて、今日の私の地位と境遇とをお考へ下さいませ』
『貴方は今日の地位がお気に入らないのですか。そりやさうでせう。私だつて貴方を真の夫と仰ぎ、この錫蘭の島をして、ウラル教の教に立替へ、島民を安く楽しく暮さしてやりたいのは胸に一ぱいでございます。しかしながら貴方が、エツトキング、サーチ、エール、アイ、シエール、ビーベツトになると云ふ事は一つ考へものです。うつかりやり損ふものなら、それこそ、大変ですからなア』
『第一邪魔になるのはタールチン、シルレング、ユーズの頑固派です。あれを何とかせなくては、到底この目的は達成する事は不可能です』
『そんな事は御心配には及びますまい。しかしながら蟻穴堤防を崩すとか云つて、些とも油断はなりますまい』
 竜雲は、ケールス姫の耳に口を寄せ、
『エールベツト、キング、シヤームン、デー、イツクス、バー』
と囁いた。この言葉は如何なる意義を含んで居るか、読者の判断に任す事とする。
 かかる処へ、ベールは泥まぶれとなつて慌しく馳帰り、
『モシモシ、ケールス姫様に申上げます。大変な、プロテスタントが現はれ、竜雲さまをベツトすると云つて、計劃おさおさ怠りなき有様です。愚図々々して居れば、今に竜雲様は申すに及ばず、ケールス姫様の御身辺が危くなりますから、命からがら御注進に参りました』
ケールス姫『シルレング、ユーズの両人が、竜雲様をベツトせむと云ふ計劃を廻らして居るのでは無いか』
『ハイ、その通りでございます。貴女さまの御命令により、蓮の花見に事よせ、娑羅双樹の森に両人を誘き出し、彼が心底を探りみたる処、蛙は口から、何もかも酒に酔つて喋つてしまひました。さうして私を貴女様の間者に相違ないと云つて、両人は双方より私に飛びかかり、ベツトせむと息巻き来るを、死物狂の力を出して格闘の結果、漸く夜に紛れてここまで逃げて帰りました。あなた方も斯様な処にお出で遊ばしては、生命が危くございます。どうぞ早く神地の館にお引き取り下さいませ。何時彼等は徒党を組んで押し寄せ来るかも図られませぬ』
竜雲『それは大変だ。姫様一先づ城内へ立ち帰る事と致しませう』
ケールス姫『別に驚くには及びますまい。盤古神王様が吾々の信仰をお認めになつた以上はキツト御保護をして下さいませう。かう云ふ時に騒がないやう胆力を練るために平常から信仰を励んで居るのではありませぬか。竜雲様、もしシルレング、ユーズの押し寄せ来るとも、神変不思議の貴方の霊力をもつて打ち懲してやれば、すぐ埒のつく事ではございませぬか』
と迷信しきつたるケールス姫は、竜雲の神力を過信して平然と構へて居る。
ベール『モシモシ姫様、何程竜雲様に御神力があればとて、非は理に勝たず、理は法に勝たず、法は権に勝たずと云ふことがございます。身に寸鉄も帯びざる貴方方に対し数多の反逆者共が凶器を携へ闖入し来る事あらば、時と場合に寄つては、いかなる運命に陥るやも分りませぬ。また貴女と竜雲様との、トツチケーアイの一伍一什を、彼等は看破して居ますから、何時サガレン王様に、貴女の御不在を窺ひ上申するやも分りませぬ。さうならば、ますますもつて事が面倒となります故、どうぞ一時も早く此処を立ち去り、お館へお帰りになつた上、姫様の御口より王様に向ひ、シルレング、ユーズの一派は、クーデターを企劃し、日ならず館へ侵入し来るべければ、早く王様にその御処置を遊ばすやうと、申上げて下さいませ。先んずれば人を制す、愚図々々して居て彼等に計られては御身の一大事、竜雲様の御身辺も気づかはしければ、どうぞベールの申上げる事をお聞きとどけのほどを願上げ奉ります』
と顔色まで変へて述べ立てた。竜雲は顔色をサツと変へ、
『ともかく、姫様一刻の猶予もなりますまい。サア早く帰城致しませう』
と惶てて座を立つ。ケールス姫も稍不安の念にかられながら、城内さして立ち帰り、奥深く艶姿を隠したり。

(大正一一・九・二一 旧八・一 加藤明子録)



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