出口王仁三郎 文献検索

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物語36-1-11922/09海洋万里亥 二教対立王仁三郎参照文献検索
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第一章 二教対立〔九八九〕

 亜細亜大陸の西南端に突出したる熱帯の月の国は、後世これを天竺と称へ、今は印度と云ふ。この国の東南端の海中に浮び出でたる大孤島はシロの島といふ。現代にては錫蘭島と称へられて、仏教の始祖釈迦如来が誕生したる由緒深き島である。
 釈迦はこの島より仏教を、印度、西蔵、安南、シヤム、支那、朝鮮と、その教勢東漸して、遂に自転倒島の我日本国にまで、その勢力を及ぼしたのである。仏教は概して、有色人種の宗教となつてゐる。これに反してキリスト教は、大部分白色人種の宗教となつてゐる。土耳古、希臘の如きコーカス人種もまた、仏教の感化を受けたこと最も大なるものがあつた。
 シロの島といふ意義はシは磯輪垣の約りである。シワ垣とは四方水を以て天然の要害となし、垣を作られてゐるといふ意味である。ロといふ言霊の意義は、国主あり人民あり、そして独立的土地を有し、城廓を構へて王者の治むるといふ事である。神代の昔よりこの島は非常に人文が発達してゐた。エルサレムに次いでの神代における文明国であつた。故にこれをシロの島といふ。またシロといふ別の意味はシロは知るの転訛にて、天下をしろしめす王者の居ます島といふことである。
 序に島といふのはシは水であり、マは廻る言霊である。故に古は島には人の家もなく、また人類の棲息せざりしものの称へであつた。然乍この物語にも高砂島、筑紫島、自転倒島などと島の名義を以て呼んでゐるのは、この言霊の意義より言へば実に矛盾せし如く聞ゆるであらう。さりながら、今日の称呼上分り易きを尊んで、現代的に島と称へたまでである。その実はシロといつた方が適当なのである。
 我国の武家が頭を上げてから、各地に群雄割拠し、各自に居城を作り、その武威を誇つたその城廓及び境域を総称して城といつたのも、館の周囲に堀を穿ち、水をめぐらしたから城と云うたのである。偶には山の上に館を建てて城と呼んでゐる変則的のものもあつた。故にこれを特に山城といつて、山の字を冠してゐたのである。また島といふ字は漢字で山扁に鳥を書き、また山冠に鳥を書いてシマと読ましてあるのは、海島に数多の鳥族が棲息してゐたからである。筑紫の島とか、オーストラリア島とかいふのは、三水扁に州と書いて、現代用ゐて居る。これは字義の上からは最も適当な称呼である。このシロの島は後世、釈迦が現はれて、仏教を起すまでは、殆どバラモン教の勢力の中心となつて居たのである。後世のバラモン教は、すべての人間は大自在天の頭より生れた種族と、胴から生れた種族と、足から生れた種族と三種あるといふ教理が、深く国人の脳髄に浸み込み、頭より生れたりと称する種族は所謂この国の貴族にして、人民の頭に立ち、遊逸徒食にのみ耽りながら、これを惟神の真理と誤信してゐたのである。また大自在天の胴から生れた階級人は、すべて人民の上に立ち、政治を行ふ治者の地位にあつた。また足から生れたと称せらるる階級に属する民族は、営々兀々として朝暮勤労に服し、上級民族の殆ど衣食住の生産機関たるの観をなして居た。
 釈迦はこの国のある一孤島の浄飯王といふ王者の子と生れ、悉達太子といつた。彼はこのバラモン教の不公平、不道理なる習慣を打破して、万民を平等に、天の恵に浴せしめむと思ひ立ち、自他平等の教理を樹立し、生老病死の四苦を救はむとして、彼の仏教なるものを創立したのであつた。そしてこの釈迦は、神素盞嗚大神の和魂、大八洲彦命、後には月照彦神の再生せし者たることは、霊界物語第六巻に示したる通りである。
 地球の大傾斜せしより以前は、今の如く余りの熱帯ではなかつた。気候中和を得、極めて暮しよき温帯に位置を占めて居たのである。しかし釈迦の生れたる時代は、すでに赤道直下に間近き島国となつて居たのである。印度は言ふに及ばず、この錫蘭島の住民は何れも色黒く、少しく黄味を帯びたやうな膚をして居た。
 神素盞嗚大神の八人乙女の第七の娘、君子姫は侍女の清子姫と共にバラモン教の本山メソポタミヤの顕恩城を後にして、フサの国にて三五教の宣伝に従事せむとする折しも、バラモン教の釘彦の一派に捉へられ、姉妹五人は何れも半破れし舟に乗せられて波のまにまに放逐されたのである。君子姫は侍女と共に激浪怒濤を渡り、漸くにしてシロの島のドンドラ岬に漂着し、それより夜を日についで、先年友彦が小糸姫と共に隠れゐたる、神館を尋ねて進み行くこととなつた。
 この神館より数里を隔てて神地の都といふがあつた。此処にはサガレン王、ケールス姫の二人が館を構へ、この島国の殆ど七分ばかりを統轄して居た。そしてサガレン王はバラモン教を奉じ、その妃のケールス姫はウラル教を奉じて居た。
 この国の人々の言葉は残らずサンスクリツトを用ふるは言ふまでもない。されど口述者は一般の読者に諒解し易からしむるため、成るべく日本語を以て、述べることとしておく。
 神地の都の少しく南方に、娑羅双樹の密生したる小高き風景よき丘陵がある。そこに二三の中流階級と覚しき黒い面の男が、展開したる原野の中に点々として咲き乱れて居る白蓮華を眺めて、酒汲みかはし、雑談に耽つて居る。一人はシルレングといひ、一人はユーズと云ひ、も一人の男はベールといふ。何れもサガレン王に仕へて居る一部の役人であつた。今日は休暇を賜はつて、ここに蓮の花見をすべく、一日の清遊を試みて居たのである。
シルレング『オイ、サガレン王様も本当にお気の毒ではないか。あれだけ好きなバラモン教を公然と祀ることも出来ず、ケールス姫様がウラル教だから、姫の方の勢力が旺盛になり、館の内は何時とはなしに、信仰争ひで、何ともいへぬ殺伐で冷たい空気が漂うて居るやうだ。王様もさぞ不愉快な事であらう。何とかして吾々の奉ずるバラモン教に立替へたいものだなア。王様ばかりか、吾々共も本当に不愉快で、政務も碌に執る気にならないぢやないか』
ユーズ『何を言つても、ケールス姫様がウラル教の神司竜雲を殊の外寵愛し、今ではサガレン王様よりも尊敬して居られるといふ体裁だから、どうにもかうにも仕方がないぢやないか、またあの竜雲といふ怪物は、いろいろと神変不思議の妖術を使ひ、ケールス姫を甘く籠絡し、権勢並ぶものなき今日の有様だから、ウツカリこんな話しでも竜雲の耳へ這入らうものなら、それこそ大変だ。モウこの話しは打切りにしたらどうだ』
ベール『ナニ、どこの牛骨か馬骨か知れもせぬ風来者の竜雲如きに、尻尾を巻いてたまるものかい。おれは何とかして、あの怪物を征伐し、ケールス姫様の御目をさましサガレン王さまの御安心を得たいと思うて居る。これが吾々臣下たる者の、君に尽すべき最善の道だからなア』
シルレング『時にあの竜雲の奴、左守の神のタールチン殿の奥様、キングス姫と○○関係があるといふことだが、お前聞いて居るか』
ベール『聞いて居るとも、第一それが癪に障るのだ。それだから、タールチンさまに、この間も面会し、いろいろと忠告をしたのだが、何といつても、嬶天下だから、タールチンさまの言はれるには……今日飛ぶ鳥も落すやうな竜雲さまのなさる事に、吾々が嘴を容れる場合でない、モウそんな事は今後言つてくれな……と箝口令を布きよるのだ。本当に良い腰抜だなア。閨閥関係を以て自分の地位を保たうとする、その卑怯さ、実に吾々の風上におくべき代物でないのだ。何とかして竜雲の面の皮を剥いてやる妙案はあろまいかな』
ユーズ『そりや方法は幾らでもある。しかしながら大事を遂行せむとする者は、軽々に事を執つてはならない。先づ沈思黙考して敵の虚を窺ひ、時節を待つて決行するのだナア』
ベール『その決行はどうするといふのだ』
ユーズ『オイ、ベール、お前はそんなこと云つて、竜雲の間者になつて来て居るのではないか。どうも目付が怪しいぞ。自分の方から竜雲の悪口を言つて、俺達の腹を探つて居るのだらう。そんなことの分らぬユーズさまぢやないぞ』
ベール『コレは怪しからぬ。誰があんな怪物のお先に使はれてなるものかい。何程ベールのやうに鳴る男でも、そんな秘密は言ふことは出来ないからなア』
ユーズ『ヤツパリ貴様は自白しよつたなア。秘密をいふ事が出来ないとは何だ。竜雲に頼まれて俺達の腹を探らうと、蓮見物に事よせ、ここまでつれ出して来よつたに違あるまい。サアかうなる上は、モウ見のがすことは出来ぬ……オイ、シルレング、今の中にベール奴を片付けてしまはうぢやないか』
シルレング『ヨシ、合点だ』
といひながら、ベールに向つて武者振ついた。ユーズは後からベールに縄をかけむと組付く。さすがのベールも一生懸命になつて、二人を相手に格闘を始め、三人は組んづ組まれつ、小丘の上から麓の蓮池の中へ一塊になつて、ゴロゴロゴロと落ち込んでしまつた。
 この時すでに月は半円の姿を現はして頭上に輝き始めた。銀河はエルサレムの方面から印度洋の彼方に清く流れて居る。颯々たる風は蓮の池の面を撫で、葉のふれて鳴る音パタパタと聞えて居る。三人は泥池の中で、バサリ、ドブンと音を立てて泥水まぶれになつて、力限りに互角の勢で掴み合うて居る。
 娑羅双樹のこもつた枝から、梟が『ホウスケホウホウ、ドロツクドロンボ、ゴロツトカヤセ、ボーボー』と鳴き立てて居る。

(大正一一・九・二一 旧八・一 松村真澄録)



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