出口王仁三郎 文献検索

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物語35-1-91922/09海洋万里戌 分担王仁三郎参照文献検索
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第九章 分担〔九七三〕

 吼え猛る虎狼や獅子大蛇  熊襲の国の高原に
 館を構へて遠近に  暴威を揮ひし男達
 その名も大蛇の三公が  離座敷に夜もすがら
 酒汲みかはし四方山の  話に耽る人の影
 障子に映る五つ六つ  夜は深々と更け渡り
 荒野を渡る夜嵐の  声も何時しか静まりて
 幽かに聞ゆる谷川の  巌を咬むで迸る
 水の音のみ鳴り渡る。  

 酒の機嫌で何となく神経興奮して寝つかれぬままに、ブラリブラリと境内を逍遥してゐた新、久、徳の三人、障子に映る人影を眺め、巻舌になつて呶鳴つてゐる。
『オイ新公、あの障子の影を見い! 貴様が親方の不在になると、チヨイチヨイと酒を汲んで貰ふと吐しよつたナイスの影法師がシヤントコセイのウントコセと映つとるぢやねえか、本当に偉い奴だなア。お愛の姐貴もただの狐ぢやないと思うて居つたが、八島別とか何とかの娘だと言ひよつたなア。昔常世の会議で八島とかいふ狐が出よつて、常世姫命をアフンと言はしよつた其奴の系統かも知れないぞ』
『コリヤ徳、そんな大きい声で吐すと、三公に聞えるぢやねえか。貴様が口外せぬと吐したから、この新公が親切に神秘の鍵を開いて聞かしてやつたぢやねえか、これほど夜が更けて、そこらあたりがシーンとして居るのだから、小さい囁き声でも聞えるのだから、小さい声で云はぬかい。お愛さまに聞えたら大変だぞ』
『貴様のその声の方が余程大きいぢやねえか。オイ新公、あのお梅と云ふ奴ア、親分の妹だといふ事だが、妹まで伴れて駆落しよつたのか。本当に念の入つた奴だなア』
『妹といへばマアマア妹だ。実のとかア、彼奴も拾ひ子だよ。うちの虎公が表向妹だと云つてるのだが、その実ア、フサの国に生れた女で、姉にはお松といふ立派なナイスがあるのだ』
『そのお松をどうして知つとるのだ』
『きまつた事だ。松竹梅と云ふ事があるぢやねえか。お梅の姉はお竹、お竹の姉はお松だ。黄泉比良坂の桃の実になつた松竹梅の宣伝使の生れ変りだからなア。本当に素敵なものだ。オイ徳公、俺が一つ貴様の改悪記念にお梅さまを女房に周旋してやらうか』
『あんな若え代物とどうして夫婦になれるものけえ。世間体が見つともねえワ』
『貴様ア、世間体を憚る良心があるのなら、なぜこんな無頼漢の三公の乾児になつたのだい。それの方が余程世間体が悪いぞ。俺のとこの親方はドンドンながら、ポンポンながら、豊の国の豊日別命さまの御総領で、虎若彦命様だ。若い時に無分別な恋におちて、熊襲の国へお出で遊ばしたのだが、何と云つても種が種だから偉いものだ。大蛇の三公なんて云ふ奴あ、どこの牛骨だか馬骨だか素性の分らねえゲス下郎だから、人情も知らねば、誠の道理も悟らず、卑怯未練な、親分の不在宅へ押かけて、お愛の方を無理往生させようとしよつたのだよ。そんな奴の提灯持をしてる奴に、碌な奴があるかい、なア久公』
『オイオイそんな声を出すと、親分に聞えるぢやねえか。聞えたらまた事が面倒だぞ』
『(浄瑠璃)そりや聞えませぬ、久公さま……だい、お詞無理とは……チンチン……ぢや、思はねどオヽヽヽ俺は余り気にかかる、折角結構な親方を、持つて喜ぶひまもなう、追ひ出されては、この新公、どこにどうして暮さうやら、案じすごしてヒヤヒヤと、轟く胸を押へつ……け……悔み歎きしその顔付……』
『オイオイ障子が開いたぞ。親分が今お目玉だ。逃げろ逃げろ』
『(浄瑠璃)ヤレその障子開けまいぞ、この蚊帳の内は黒姫婆が城廓、その腐つた魂で、この城一重破らるるなら、サヽヽ破つて見……よ……と百筋千筋の理をこめて、引つかついだる蚊帳の内、泣くねより外応答なし……と云ふやうな愁歎場だ』
 障子をあけた男の影、
『オイ久公、何を云つてゐるか』
 三人は一度に両手で頭を抱へ、
『ヘーー』
と云つた限り踞んでしまつた。
『ハハー、人間かと思へば、四つ足だつたな』
『イエイエ違ひます違ひます。新酒と久酒と徳利に入れて持つて来やした、三公……オツトドツコイ三人でございます。トラまアよい味の酒でございますから、味はおウメさんで、中々素敵な物でげす。夜夜中にこんな所まで来て、孫公々々して居るものだから、月も星もないこれほど曇つた黒姫の晩に、ヲロチい目に会うて困つて居る三公でげす。親方どうでげせう、第三次会をお開きなさつたら……モウ夜の明けるに間もあるめえから、綺麗なナイスをお愛手として一杯やるも乙でげせう。アーア、とうとう酒に一夜酔をしてしまつて、舌も碌にまはりやしねえわ』
虎公『オイ三人の奴、最前から聞いて居れば、貴様等は怪しからぬ事を囀つて居つたではねえか』
『ヘエ、虎公の親分さま済みませぬ。新公が自慢顔をして、親方さまの素性を明かしよつたものだから、耳が痛くて仕方がねえのを辛抱して聞いて居つたのですよ。さうして宅の親分をボロ糞にこきおろしよるものだから、ムカつくのムカつかぬのつて、最前から三四度も八百屋店を出しましたのだ。アーア、こんな所に居つちや剣呑だ。親方、今日はそんな事を言つて、私を冷つかし、冷酒で苦しめるよりも、燗酒に見直し聞直して下さいませ。オイ皆の奴、あつちへ行かうかい』
と云ひながら、三人は暗に紛れて、田圃の中へ酔醒ましに行つてしまつた。
 あとには例の虎公、黒姫、孫公、兼公、お愛、お梅に、主人側の三公七人が机を中において、ヒソヒソ話を続けて居る。宵から尊き神様の御経綸談に魂をぬかれ、夜の更けるも知らず、また余りの愉快さに睡気もささず、小声にいろいろの経歴話を交ぜて、入信の経路などを物語つてゐる。黒姫が、
『今窓外にて三人の話を聞けば、お愛さまや虎公さま、お梅さまの身の上話、実際あの通りでございますか』
『若え奴が酒に酔つて云ふのですから、当になつたものぢやございませぬ』
『酒の酔本性違はず……と云ひますから、満更、影も形もない事ではございますまい。酒に酔うた時は比較的正直なものですからなア虎公さま』
『合うたとこもあれば、合はない所もあり、ともかく聞きはづれを云つてるのですから、困つたものですワイ』
『お梅さまはお松さまの妹だとか云つてゐましたなア。そのお松さまは今どこに居られますか。お差支なくばおつしやつて下さいませ』
『ハイ私には姉がございました。中の姉さまのお竹さまはコーカス山へ行つたきり行方不明となり、上の姉さまのお松さまはフサの国から海を渡つてどこか遠い国へ行かれたとか言ふ話でございます。何分私の小さい時に別れたのですから詳しい事は存じませぬ』
『あなたの御両親は何と云ひますかな』
『私の父母は人の噂に承はりますれば、バラモン教の鬼雲彦とやら云ふ大将に連れ帰られ、生命を取られたとか云ふことを承はりました。私はある悪者のために拐はかされ、筑紫ケ岳の頂上へ来る折しも、兄さまがお出でになり、悪者を追ひ散らし、私を助けて連れ帰り、今まで世話して下さいました。兄さまの計らひで、親子兄弟のない子だと言つたら世間の人が軽蔑するから、お前は俺の国許から訪ねて来た妹だと言つてをるがよい、俺もお前を真の妹だと思うて可愛がつてやるとおつしやつて下さいました』
と涙を流し泣き入る。虎公もお愛も黒姫も手を組み首を垂れ、太き息をついて居る。
『お梅さまの事は三公今始めて承はりました。ヤア虎公さま、あなたは本当に親切な方ですなア。ヤもう感心致しました』
とこれもまた涙含む。
『ヤアこれで孫公も三人の秘密が全部分りました。就いては三公の親分、お前さまは何と云ふ人の子だい、序に言つて下さつたらどうです。モウかうなれば親身の兄弟も同様だから、何の分け隔ても要りますまい』
『私の父はエヂプトの町に住んで居りまして、春公と申し、母はお常といひました。或時、三五教の宣伝使となつたのを幸ひ、初陣の功名をして神様に御目にかけたいとか云つて、私を家に残し、白瀬川の水上、スツポンの湖に棲む大蛇を言向和すとか云つて、夫婦が参りました。さうした所が、私の両親はまだ神力が足らなかつたと見えまして、湖の大蛇に苦もなく呑まれてしまつたのでございます。私はただ一人下男と留守をして居りましたが、この事を風の便りに聞き、矢も楯もたまらず、三五教の宣伝使で埃及の酋長なる夏山彦様の御館へ、父が入魂にして頂いて居つたのを幸ひ馳せ参じ、神勅を伺つて貰つた所「お前の両親は今まで余り沢山に財産を拵へ、難儀な者を助ける助けると云つたばかりで、米一掴み与へた事もなし、大勢の者の執着心が重なつて大蛇となり、お前の両親を亡ぼしてしまつたのだから、モウ駄目だ。せめては両親の冥福を祈り、再びこの世へ立派な人間として生れて来るやうに祈つてやれ」……とおつしやいました。しかしながら両親はどこかへ生れ変るにした所で、私としては最早親を取られたのだから、安閑としては居られない、スツポンの湖の大蛇を片つ端から切り屠り、親の仇を討つてやらむと、夏山彦御夫婦が親切におとめ下さるのも聞かず、夜に紛れて吾家を飛出し、湖の畔に来て見れば、際限もなき広い湖、此奴ア到底一人や二人の力ではいかないと断念し、それから遥々と熊襲の国の屋方村、樫の森の木かげに庵を結び、侠客となつて数多の乾児を養ひ、サアこれで大丈夫と云ふやうになつた所で、一挙にして大蛇を殲滅せむと、心の底より悪ではないが、悪を装うて悪人原をかりあつめ、大蛇退治の用意をして居つたのです。三五教のやうな無抵抗主義の教を奉ずる信者が幾らあつても、到底大蛇征伐のやうな殺生な事は致しますまいから、類を以て集まるとか云つて、悪い者の所へは悪い者が集まります。その悪い奴を沢山集めて悪い大蛇を平げるのは所謂毒を以て毒を制すると云ふ筆法ですから、今日までその覚悟を持つてゐたのでございます。さうしてお愛様に対し失礼な事を致しましたのも、実の所は恋慕に事寄せ、お愛様を私の手許に引寄せ、建日向別命様の霊系であるから、まさかの時の用意にと思つて、いろいろ雑多と拙劣な計劃をめぐらしてゐたのでございます。実に幼稚な考へで、只今となつては恥しうございます』
と物語りつつ、涙を雨の如くに流しながら、悄然として俯むく。
『ヤアそれで虎公もスツカリと様子が分つた。いよいよ四人の種明かしも無事に終了してお目出度い、その話を聞く以上は、ジツとしちやゐられない。サアこれから三公さま、吾々と共にスツポンの湖に向つて言霊戦を開きに参りませう。しかしながら、三五の教は喜ばれて仇を討つといふ教だから、大蛇の命を取りに行くのではない、大蛇の霊を、天津祝詞の生言霊によつて解脱させ、天国に救ひ上げ、今後は決して国民に災をなさないやうにするのだ。一旦殺された御両親は気の毒だが、これも自分から作つた罪が酬うて大蛇に呑まれたのだから、吾々人間として如何ともする事は出来ない。また三公さまだとて、大蛇を親の仇だと恨む訳には参りますまい。要するに春公、お常御両人の自ら造つた悪魔が、自らを攻めたのだから、言はば自業自得、何事も神様の御裁断に任すより仕方がない。サア皆さま、言霊戦に参らうぢやありませぬか』
『ソリヤ結構ですなア。この三公の野郎も時を移さず乾児を引つれて参る事に致しませう』
『イエイエ乾児なんか伴れて行く必要はありませぬよ。吾々には八百万の神さまが守護して下さるから、人数は余り要りませぬ、三人居れば大丈夫です』
『左様なれば虎公さま、お愛さま、三公さま、あなたに御苦労になりませう。黒姫はこれから孫公を伴れて火の国都へ参りませう』
『あゝそれは御苦労でございます。左様なれば機嫌よく御越しなさいませ。誰か乾児を一二人、御案内に立てませうか』
『ハイ有難うございます。どなたでもよろしいから、道の勝手を御存じの方を、お一人お貸し下さらば有難うございます』
『そんなら、徳をお供に立たせますから、よろしう願ひます。元来が気の利かない男ですから、却て足手纏ひになるかも知れませぬが……』
『ハイ御親切に有難うございます。そんなら徳さまに御苦労になりませう』
『黒姫さま、女房の命を助けて下さつたお前さまを、一人やる訳にも行きませぬから、久公を一人御案内に立てませう。さうすれば三人の道伴れ、大丈夫ですから』
『ハイ有難うございます。どこへ行つても神様と道伴れ、一人で結構でございますが、向ふへ参つた所で、掛合が一人では都合が悪うございますから、そんならお二人にお世話になりませう。その代りに孫公をあなた方のお伴をさせませう……コレ孫公さま、お二人の親分によく仕へ、大蛇を言向和せた上、火の国都へ訪ねて来て下さい』
『ハイ願うてもなき事、有難うございます。そんなら行つて参ります。随分御無事でお出で下さいますやう御祈り致します』
 茲にお梅は虎公の命によつて、新、八の二人と共に武野村の不在宅へ帰る事となりぬ。虎公、お愛、三公、孫公の四人は、いよいよ時を移さず屋方の村を立出で、スツポンの湖の大蛇を言向和すべく、意気揚々として旅装束を整へ進み行く。
 兼公、与三公、高公の三人は数多の乾児と共にあとに留まりて不在役を勤めさせらる。

(大正一一・九・一六 旧七・二五 松村真澄録)



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