出口王仁三郎 文献検索

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物語35-1-21922/09海洋万里戌 出陣王仁三郎参照文献検索
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第二章 出陣〔九六六〕

 三五教の宣伝使  黒姫司はしとしとと
 建日の館を立ち出でて  岩石起伏の急坂を
 火の国街道さして行く  神の経綸か偶然か
 知らず識らずに踏み迷ひ  左へ行くべき谷道を
 いつの間にかは右に取り  向日峠の山麓に
 いと淋し気にさしかかる  深谷川の丸木橋
 半朽ちたるその上を  薄氷を踏む心地して
 神の恵に助けられ  向ふへ渡りすたすたと
 樟樹の空を封じたる  細谷道を辿る折
 面窶れたるいたいけの  娘のお梅に出会し
 事情を聞けば武野村  義侠をもつて聞えたる
 白波男の虎公が  妹と聞いて立ち留まり
 お梅を労り何故に  汝は少女の身をもつて
 この山道を辿るやと  聞くよりお梅は涙ぐみ
 私の義姉のお愛さま  大蛇の三公と云ふ奴が
 兄の命の不在宅に  数多の乾児を引つれて
 現はれ来り義姉上を  高手や小手に縛めて
 向日峠の山麓の  樟の木蔭に連れ来り
 義姉妹二人は三公の  手下の奴にさいなまれ
 遂には義姉の息絶えて  土中に深く埋められ
 二人の男と諸共に  あへない最後を遂げしぞと
 聞くより黒姫仰天し  お梅を背に負ひながら
 樟の根下に駆けよつて  力限りに墓の石
 取りのぞかむと思へども  女の非力如何とも
 救はむよしも泣くばかり  途方に暮るる折もあれ
 三尺ばかりの小童児  八柱此処に現はれて
 さしもに重き岩石を  毬の如くにひつ掴み
 彼方此方に投げ散らし  そのまま姿をかくしける
 黒姫ハツと驚いて  八人の童児に打ち向ひ
 感謝する間も泣くばかり  童児の姿は白雲と
 なつてその場に消えにける  黒姫汗を流しつつ
 力限りに土を掘り  三人の男女を抱上げて
 芝生の上に横臥させ  固く縛りしいましめの
 縄解き放ち一二三と  天の数歌のりつれば
 お愛は息を吹きかへし  感謝の涙に暮れにける
 黒姫お愛に目もくれず  二人の男を熟視して
 高山彦には非ずやと  眺むる折しも孫公の
 姿に驚き胸を撫で  ほんにお前は孫公か
 嬉しい事だと云ひながら  お梅が谷におり立ちて
 掬ひ来れる水筒の  水を含ませ労りつ
 兼公までをも救ひ上げ  此処に五人は皇神の
 尊き恵を感謝して  この場を後に谷道の
 草踏みわけてかへり来る  時しもあれや虎公は
 新、久、八の三人を  伴ひ此処に来かかつて
 互の無事を祝しつつ  屋方の村の三公が
 家路をさして進み行く  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ。  

 お愛は途々謡ひ初めた。その歌。

『熊襲の国にかくれなき  大曲津見と聞えたる
 八岐大蛇の分霊  憑りて醜のわざをなす
 大蛇の三公が夕間暮  数多の乾児を引きつれて
 夫の命の不在宅へ  どやどや進み入り来り
 妾が隙を窺ひつ  首に細縄引きかけて
 グイと後へ引き倒し  有無を云はせず三公が
 乾児の奴等は蟻のごと  群がり来つて吾身をば
 縦横無尽に引き縛り  口には箝ます猿轡
 妾は無念の息を詰め  涙かくして傍を
 ふと眺むればこは如何に  妹のお梅も猿轡
 口に箝められ慄ひ居る  ハツと驚き顔と顔
 見合すばかり音なしの  口さへ利けぬ苦しさに
 三五教の大神の  尊き救ひを祈りつつ
 大蛇の三公がなすままに  身を任せたる腑甲斐なさ
 大蛇の三公初めとし  兼公与三公両人の
 兄弟分の両腕は  妾二人をひつかたげ
 西へ西へと向日山  峠の麓の森林に
 担ぎ来りて三公が  夫ある身の妾等に
 非道極まる横恋慕  嚇しつ賺しつ詰めかくる
 その言の葉の嫌らしく  汚らはしさに腹を立て
 命かまはぬ捨て台詞  手痛き言霊打ち出せば
 兼公与三公両人は  交る交るに傍により
 煩き事を云ひかける  アヽ惟神々々
 神に任せしこの体  夫ある身の如何にして
 力に怖れて三公が  いかで望みを許さむや
 口を極めて罵れば  三公忽ち腹を立て
 妾が前に詰め寄つて  黒い顔にて覗き込む
 嫌な臭ひのする男  逆づくやうに思はれて
 胸も塞がるばかりなり  大蛇の乾児はむらむらと
 妾に向つて攻めて来る  この時兼公の返り忠
 太い度胸のお愛どの  こんな姐貴を親方に
 持つた乾児は幸だ  面白からうと云ひながら
 秋波を送る可笑しさよ  大蛇は胸に据ゑ兼ねて
 与三公に向つて縛れよと  めくばせすれば兼公の
 不意を狙つて綱をかけ  首引き締めて走り出す
 遉の兼公も弱り果て  高手や小手に縛られて
 泣き声上ぐるをかしさよ  大空つたふ日の影は
 地平線下にかくれまし  夕暮告ぐる鳥の声
 時々刻々と寂寥の  気分漂ふ折からに
 間近く聞ゆる宣伝歌  三五教の孫公が
 忽ち此処に現はれて  吾は尊き宣伝使
 火の国都に名も高き  高山彦と空威張り
 一同の者の荒肝を  挫ぎやらむと思ひつつ
 早速の頓智も水の泡  二つの眼に目潰しの
 砂なげ込まれ憐れにも  孫公は其処に踞みける
 時を移さず与三公は  孫公の首に綱をかけ
 肩にひつかけ二三間  力限りに引きずれば
 何条もつて耐るべき  信仰強き孫公も
 瞬く間に身体を  雁字搦みに縛られて
 苦しみもだゆる憐れさよ  大蛇の三公は冷やかに
 三人を眺めて嘲笑ひ  乾児の奴に下知なして
 忽ち大地に穴を掘り  男女三人を荒縄に
 縛りたるまま放り込んで  見るも無残な生埋めの
 悪逆無道を敢てなし  土をかぶせて墓となし
 重き石をば運び来て  吾等が上に積み重ね
 凱歌を揚げて帰り行く  あゝ惟神々々
 神の守りの深くして  妹のお梅は恙なく
 九死一生の難関を  苦もなく越えて木下暗
 姿をかくす賢さよ  妾三人は荒鉄の
 冷たき土に埋められ  身動きならぬ苦しさに
 前途を案じ煩ひて  天地を祈り吾夫の
 御無事を祈る折柄に  黒姫司が現はれて
 妹お梅と諸共に  力を合せて三人を
 苦もなく救ひたまひたる  その御恵の有難さ
 感謝の涙泣く泣くも  黒姫司に従ひて
 妹のお梅に手を曳かれ  草生ひ茂る木下道
 帰り来れる折もあれ  吾背の君の虎さまが
 玉公さまを初めとし  新、久、八の乾児連れ
 来りたまひし嬉しさよ  あゝ惟神々々
 神の恵の幸はひて  此処に一行九人連れ
 屋方の村に立ち向ひ  大蛇の三公訪れて
 三五教の神の教  善悪正邪の大道を
 誡めさとし村肝の  かれが心に潜むなる
 曲の御魂を言向けて  神の大道に尽すべき
 清きみたまとなさしめむ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 誠の力は世を救ふ  誠一つの言霊の
 剣に刃向ふ敵はなし  黒姫司に従ひて
 夫の命と諸共に  言霊戦を開くべく
 岩石起伏の谷道を  進み行くこそ楽しけれ
 あゝ惟神々々  御霊幸倍ましませよ』

と謡ひながら一行の先に立ち、猿田彦気取りになつて進み行くお愛の姿の雄々しさ。黒姫を初め虎公、孫公、お梅は何となく心勇みて進み行く。

(大正一一・九・一五 旧七・二四 加藤明子録)



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