出口王仁三郎 文献検索

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物語34-3-231922/09海洋万里酉 動静王仁三郎参照文献検索
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第二三章 動静〔九六四〕

 六公の一部隊が帰つて来たと聞いて、大蛇の三公は、六公を秘かに吾居間に通した。そこには与三公、勘公の両人が両脇に控へてゐる。
三公『オイ六、甘く往つたらうなア』
 六は頭を一寸かき、首を三つ四つ振りながら、
『へー、それはそれは何でございます。筑紫ケ岳の高山峠の頂上に参りました所、五人の奴は、忽ち雲を霞と逃げ散つて、行方知らずとなりにけり……と云ふ為体でごぜえやした。誠に以て大勝利を得ましてごぜえやすから、どうぞ御安心下さいませ』
三公『随分骨が折れただらうな』
六公『イーエ、どうしてどうして、滅相もございませぬ。大親分の御威勢と云ふものは、大したものでございますワ。吾々一同が高山峠へ行つてみると、虎公の奴、吾々の匂ひを嗅いで、雲を霞と逃げ去り、猫の子一匹居らぬやうになつてしまひました』
与三『オイ六公、虎公は逃げたのぢやあるまい。居らなかつたのぢやないか』
六公『そらさうだ。逃げたから居らないのだ。居らないから、逃げたと云ふのだ』
与三『貴様、今まで何をして居たのだ』
六公『俺は、大親分の命令によつて、虎公一統の所在を探ねむと、夜を日に継いで、筑紫ケ岳に向つて、汗をタラタラ流しながら、崎嶇たる山路を、ウントコドツコイ、ヤツトコマカセと登つて見れば、レコード破りの大暴風雨、岩石は中天に舞ひ上り、凄じい音をして、ドサン、バタンと所構はず降つて来る、大木は惜気もなく、根元から吹倒される、木の股は裂ける、礫の雨は降る、それはそれは開闢以来の大騒動だつた。その中を泰然自若として行進を続けたのは、この六公の一行だ。六公も偉いが、親分の威勢も大したものだよ。生れてからあの位壮快な目に会つた事はねえワ。虎公の野郎、この烈風に吹かれて、どつかの谷底へ、ズデンドーと落込んでくたばりやがつたに違ひないと、千尾千谷隈なく捜し求むれど、狼に食はれてしまつたか、虎にいかれたか、影も形もなくなりにけり。ハテ不思議と、山頂に佇み、双手を組み、思案をして見れど、根つから、良い思案も浮んで来ず、止むを得ずオーイオーイと味方を呼び集め、一旦高山峠の絶頂で人員調査を、一二三……とやつた上、石塊だらけの峻坂を、エンヤラヤアと駆降り、樫の木の森蔭に一同集まり、大方虎公の奴、三五教の信者だから、建日の館へ行きよつたに違なからう、これにより一隊を引つれ、華々しく館にかけ向ひ、一戦を試み、一泡ふかしてくれむかとばかり思つたが、イヤ待てしばし、軽々しく進んでは、却て戦ひ利あらずと、あせる胸をグツと押へ、手具脛曳いて待つ所へ、虎公の奴、神ならぬ身の知る由もなく、ヌツクリとこの場に現はれ来りけり……だ』
三公『それからどうしたと云ふのだ。早く後を云はねえか』
六公『言はぬが花と云ふ事がございますから、モウここらで打切りにさして頂きませうか、六公が六でもない事をしよつたと云つて、御立腹なせえましては、双方の気が悪うなりますから、何れ六のやつた事に六な事はございませぬワイ』
三公『オイ六、シツカリせぬか。貴様の云ふ事は支離滅裂、前後矛盾、何が何だか訳が分らぬだないか』
六公『ヘヽすべて物事は分らぬ所に価値がございますので……』
三公『ナニ、分らぬ所で、勝を得たと云ふのか。虎公はどうなつたのだ』
六公『トラ一寸分りかねますなア。何れ何とかなつて居るでせう。そこまで詳しう査べる余裕がなかつたので……無念ながらも、残党を引集め、やみやみ立帰つて候……と云ふやうな事でごぜえす』
 三公は面をふくらし、
三公『エヽ何奴も此奴も碌な奴アないワイ。オイ与三公、勘公、六をトツクリ査べて、委細を俺に報告してくれ。俺はこれから、徳に一寸用があるから……』
と云ひすて、この場を立つて今酒宴の開かれてゐた広い座敷へ進み行つた。
 徳、高の二人は差向ひになつて、相変らず管を巻きながら、何事か囁いて居る。三公は声をかけ、
三公『オイ徳、お前に言うておいた仕事に早く往つてくれないと、遅れちや駄目だぞ』
徳公『ヘエ、行く事は行きますが、どうも根つから葉つから、はづみませぬワイ。今日は余りお酒がまはりましたので、体が自由になりませぬから、明日に延ばして下せえなア』
三公『明日に延ばせる位なら、貴様に言ひ付けるか。サア早く用意をせよ』
徳公『用意をせよとおつしやつても、これだけヨーイが廻つたら、この上、ヨーイの仕方もありますめえ。あんなシヤンに対して、私のこのレツテルでは、どうも成功覚束なしと観察致しましたから、実ア、胴を据ゑて思ひ切り酒をあふつた所でげす』
三公『お前はこの用を果すまで、酒を呑まぬと言つたぢやないか。肝腎要の時になつて、さうヘベレケに酔うてどうなるものか、サア早く立てい』
徳公『親方、何と云つて下さつても、腰が立ちませぬワ、腰が……それよりも直接に親方が行かれた方が、手取早う話がつくかも知れませぬで。二人の奴は元の通り埋めておき、お愛のシヤンだけを、山奥へかつぎ込み、そこは甘く、あなたの御器量で要領を得なさい。それが何より早道だ。三五教の言ひ草だないが、人を杖につくな子分をたよりにするなと云ふ事がごぜえますからな、ゲーゲブプーエー、あゝ苦しい、かう苦してどうして道中がなるものか。動中静あり静中動ありだ。ドウセイお前さまの物になるのだもの、私がドウチウ訳にも行かないのだから、親方ドウドウセイセイやつて来て下さいな。私もセイ一杯ドウを据ゑて、酒でも飲んで、親分のセイ功を祈つてゐませうかい』
三公『ドウも仕方のねえ奴だなア』
徳公『本当にドウも仕方のねえ奴だ。他人の女房に横恋慕をするなんて、人の風上に立つ親分にも似合はねえ卑怯未練な行方だねえか、エーゲブ、ウーーー』
 三公は癇高な声を出して、
三公『与三公勘公』
と呼んだ。この声に与三、勘の両人は、行歩蹣跚としてこの場に現はれ来り、
与三『親分、何ぞ御用でげすかなア』
三公『徳公を一つ裏の谷川へ連れて行つて、水を呑ませ、酔をさまさして、早く今の所へ行くやうにしてくれないか』
与三『そりや与三さうな事です、オイ徳、立たぬか。貴様ア、肝腎の時になつて、何の事だ。そんな事で親方勤めが出来ると思ふか』
徳公『トクと思案をして見た所、何を言うても人里はなれた、あの森林だ。モシもお愛の奴、息でも止まつて居らうものなら、ヒユードロドロだ。それを思へば怖くも…何ともないが、何時の間にか酒腰がぬけやがつて、どうしても動けないのだよ。哥兄、頼みだが、今日は俺の代理を命ずるから、トツトと行つてくれねえか。本当に親方もあこまで仕組んだ大芝居だから、このままオジヤンになつては残念だらうし、俺達も甘い酒を親方からおごらした手前、気の毒でならねえからなア』
与三『俺や駄目だ。そんなら仕方がねえから、オイ勘州貴様、徳の代りに行つたらどうだい』
勘公『おれやモウ御免だ。今日は親の命日だからなア』
 かかる所へ二三の乾児共慌しく駆け込み来り、
『ヤア与三の哥兄、タヽヽ大変だ大変だ。お愛の幽霊と虎公の幽霊が、沢山の亡者を連れて押寄せて来よつたぞ。サア用意だ用意だ』
 与三、勘の両人は『アツ』と云つたまま、腰を抜かしてその場に倒れてしまつた。
 館の外には唸りを立てて夏の風がゴーゴーと吹き渡つてゆく。油蝉の声は館の庭先の木の上から、耳が痛いほどゼミゼミ、ミンミンミンと聞えて来る。

(大正一一・九・一四 旧七・二三 松村真澄録)



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