出口王仁三郎 文献検索

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物語34-3-201922/09海洋万里酉 玉卜王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 玉卜〔九六一〕

 建日の館の奥の間には主の建国別、妻の建能姫は差向ひとなつて、ヒソビソと話に耽つてゐる。
建能姫『御主人様、今日は意外なお客さまでごさいましたが、あの黒姫様といふお方も随分御苦労を遊ばしたやうでございますなア。どこともなしに面やつれをなさつてゐらられた所を見れば、余程息子さまの事に就て、お気をもませられたと見えまするなア』
建国別『さうですなア、しかしながら親と云ふものは有難いものです。私がもしや自分の子ではあるまいかとワザワザ寄つて下さつたそのお志は、本当に清い美しい慈愛が籠つて居ります。私も両親がこの世に達者でゐられたならば、あの黒姫様のやうな慈愛の心を以て、捜してゐらつしやるでせう。これを思へば神様や親の恩が有難くて涙がこぼれます。あゝ私の両親はどこにどうしてござるやら、私も両親に会ひたいばかりで、神様を信じ、今日はこのやうな結構な宣伝使に仕上げて頂きました。もしも私に歴乎とした両親があり、幼少から親の膝元に育てられて居つたならば、安逸に流れて、到底結構な神様の道を開く事は出来ますまい。これを思へば両親の行方が知れぬのも、却て私の身の幸福、神様の深き広き思召でございませう』
建能姫『さうでございませう。神様は遠近広狭大小明暗の区別なく、御見すかし遊ばしてゐられますから、御両親の所在もキツと御分りになつて居るに違ひございませぬ。され共何時の神懸りにも、両親の所在をいくら尋ねても、口をつぐんで、一言半句の宣示もして下さらぬのは、要するに吾々夫婦を憐み玉ひ、立派な神司に仕立て上げてやらうとの、情の鞭でございませう。神様の御目より御覧になつて、モウあれは大丈夫だ、誠が貫徹したと思召したらキツと所在を知らして下さいませう。また何かの都合で、御両親様を居ながら、ここへ引よせて下さるかも知れませぬ。どうぞ取越苦労をせないやうにして下さいませ』
建国別『さうですなア。モウ両親の事は今日限り思ひますまい。何程気をいらつても、人間としてどうする事も出来ませぬから、それよりも神様のため、世人のために宣伝使たるの最善の努力を尽すのが何よりでございませう』
建能姫『あゝよく言つて下さいました。何事も今後は大神様の御心に任し、妾がこんな事申してはすみませぬが、御両親様の事は、神様がよきやうにお守り下さるでせうから思ひ切つて下さいませ。決して妾があなたの御両親を袖に思つて申すのではございませぬ。あなたの幸福のため、御両親のために申上げるのでございますから……』
建国別『私が何時も両親の事を思うてむつかしい顔をしてゐましたのを、貴女は余程不快に思へたでせうなア』
建能姫『ハイ、別に不快には思ひませぬが、御主人様の御憂苦の色が何時とはなしに御顔に表はれますので、御体に障りはせないかと、そればかり心配を致しました。どうぞ只今限り、麗しいお顔を見せて下さいませや』
建国別『本当に心配をかけて済みませなんだ。今日限り神様に任して、両親の事は心配致しますまい。今後はただ一言たりとも、悔み言は申しませぬから安心して下さい。言ひ納めに一口あなたに話したいのは、あの黒姫さまの詞尻、何とはなしに縁由ありげに感じましたが、貴女は如何御考へですか』
建能姫『ハイ妾も黒姫様は何か心に当る事がお有りなさるやうに存じました。しかしながら黒姫様は妾とは違ひ、お年を老つてゐられますから、世の中の酸いも甘いもよく御存じの筈、それ故今心当りがあると言つては、折角の修業が破れはせぬかと、深い思召を以ておつしやつて下さらなかつたのでせう。しかし吾々夫婦の真心が通りさへすれば、黒姫様も知らして下さるでせう。モウ一つ念を押してお尋ねしたいのは山々でございましたが、何を云つても神様に仕へる身の上のあなた様、神様の道を次にして、吾身勝手な両親の事ばかりを熱心に尋ねると思はれては、第一主人の名折れ……と存じまして、控へて居りました。どうやらこの世にござるのに間違はないやうに存じます』
建国別『あゝ貴女もそう感じられましたか、私もそうだらうと存じて居ります。何だか黒姫様にお目にかかつてから、心強くなつて来ました。確かな手掛りが出来たやうな心持が致します。しかし建能姫殿、これ限り、モウ両親の事は惟神に任して、申しますまい』
建能姫『有難うございます、妾も安心致しました』
 かかる所へ虎公、玉公の両人は三人の乾児と共に、恐る恐る現はれ来り、襖の外より、
虎公『御主人様、大先生様、突然参りまして、偉い御馳走に預りました。これでお暇を致します。また更めて御礼に参りますから、御夫婦共御壮健に御暮し下さいませ』
と云ふのは虎公の声であつた。
 建能姫は襖を静かに開き、
建能姫『これはこれは武野の村の親分さま、サアどうぞ御遠慮なしに此方へ御通り下さいませ』
虎公『イヤどうも偉い御馳走になりました、余り酩酊を致して居りますので、失礼でございますから、此処で御免を蒙りませう』
建国別『虎公さま、どうぞゆつくりして下さい。今日は私の祝日でございますから、十分に酔うて頂かねばなりませぬ。余りお早いぢやございませぬか。どうぞ今晩はゆつくりとお泊り下さいまして、面白い話でも聞かせて下さいませ』
虎公『ハイ、御親切は有難うございますが、今ここに参つて居りまする玉公の所持致して居る、日の出神様から賜はつたと云ふ水晶玉に変異が現はれまして、どうも気がかりでなりませぬ。玉に映つた曇りより判断して見ますれば、私の不在宅に、何だか変つた事が出来たやうでございますから、私も何だか気がイライラしてなりませぬから、今日はこれでお暇を致します』
建国別『それは御心配でございませう。コレ玉公、大した事はございませぬかなア』
玉公『ハイ、私の経験によれば、親分の宅に大変な事が起つてゐるやうに感じます。しかしながら結局は何ともないと云ふ象が表はれて居りますが、グヅグヅして居つては、事件が益々大きく、むつかしくなる虞がございますから、これで御暇を致します』
建国別『そうおつしやれば是非はございませぬ。お留守宅に何事も無いやうに、これから吾々夫婦が、神前に御祈願を致しておきますから、安心して御帰り下さいませ』
虎公『ハイ有難うございます』
と涙を流しながら、再拝して一同も共にこの場を立去り、イソイソと出でて行く。
 虎公の一行は表門までやつて来た。門番の幾公は祝酒に酔ひつぶれ、まはらぬ舌にて、
幾公『オイ虎公の親分、チツと早いぢやないか。モツとゆつくり俺と一杯やらうぢやないか。何程急いだとて、日の暮れる時にやヤツパリ暮れるのだからなア』
虎公『ウン有難う。しかし今日は何とはなしに、胸騒ぎがしてならぬから、一先づ帰る事にする、また更めて遊びに来るワ。貴様も御主人様に、一日のお暇を頂いて遊びに来い、酒は幾らでも用意がしてあるからな』
幾公『イクともイクとも、イク度となくイクぞよ。モウお前のやうな酒喰ひは懲り懲りだ……などとイク地のない事を云はぬやうに頼むぞよ』
虎公『アハヽヽヽヽ痩せてもこけても、武野村の虎公だ。貴様が幾ら酒を飲んだつて、そんな事に尾を巻くやうな、吝くせえ兄貴ぢやねえワ』
幾公『それでも今親分、胸騒ぎがすると云つたぢやないか。余りガブガブと酒を飲まれると、胸さわぎするからなア。俺も何だかハートに動悸が打ちやがつて、胸騒ぎがして仕様がないワ』
虎公『アハヽヽヽそりや貴様は意地汚く、無理に酒を喰ふから、動悸がうつのだ。いゝ加減に心得て、酒を呑むのはよいが、酒に呑まれぬやうにしたがよからうぞ』
幾公『ヤツパリ吝くさい事を言ふ親分だなア。オイ親分一寸待て、ここに一升徳利が盗んで来てあるワ。これでもグツと一口呑んで帰つてくれ』
虎公『ヤア其奴ア有難い、このまま預つて行く』
と云ひながら、幾公の手より一升徳利を引つたくり、
虎公『玉公、来れ!』
と尻端折つて、門前の小径を一生懸命駆出した。
 虎公は走りながら足拍子を取つて唄ひ出した。

虎公『ウントコドツコイドツコイシヨ  建国別の御館で
 一周年の祝宴に  ドツサリよばれてウントコシヨ
 ドツコイドツコイづぶ六に  酔うてしまつた虎公が
 その足並は千鳥足  そこらの道が二筋も
 三筋も四筋も見えて来た  玉公の顔まで色々と
 細くなつたりドツコイシヨ  丸くなつたり三つ四つ
 同じ顔が並び出す  どうしてこんなウントコシヨ
 怪体な事になつただろ  玉公が持つてる水晶の
 玉の卜筮伺へば  何だか知らぬが俺の宅
 変つた事が出来てゐる  ドツコイドツコイ皆の奴
 足元用心するがよい  大方宅のお愛奴が
 俺が出たのをドツコイシヨ  女の小さい心から
 外に女子があるやうに  思ひひがめて九寸五分
 スラリと抜いて喉元へ  あてて居るのぢやあるまいか
 何とはなしに気にかかる  ウントコドツコイ危ないぞ
 こらこら玉公シツカリせい  そこら辺りが石車
 宅のお嬶は生れつき  世間の女と事変はり
 よつ程気丈な奴だから  めつたな事はあるまいと
 心は許して居るものの  天地の事は何もかも
 鏡のやうによく映る  水晶玉の暗点が
 ウントコドツコイ気になつて  胸の警鐘なりひびく
 此奴ア ヤツパリ尋常事で  ウントコドツコイあるまいぞ
 一時も早く吾家に  飛鳥の如くかけ帰り
 実否を探らにやならうまい  ウントコドツコイまた辷る
 ホンに危ない坂路だ  俺に翼があつたなら
 宙空翔つて一走り  家の様子は忽ちに
 手に取る如く知れるだろ  なぜに烏にドツコイシヨ
 俺は生れて来なんだか  今となつては大空を
 自由自在に翔り行く  烏の奴が羨ましい
 ウントコドツコイまた辷る  皆の奴共気をつけよ
 オイオイ玉公水晶の  その宝玉を大切に
 ギユツと握つておとすなよ  お前の家の宝物
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  神が表に現はれて
 善と悪とを立別ける  虎公吾家に現はれて
 善か悪かを考へて  ウントコドツコイその上で
 何とか思案をせにやならぬ  お愛の奴は今頃は
 俺の帰るを欠伸して  待つて居るかも分らない
 何が何だかウントコシヨ  サツパリ訳が分らない
 お愛の奴が悋気して  刃物三眛ウントコシヨ
 やつて居るのぢやあるまいか  イヤイヤ ヤツパリさうぢやない
 大蛇の三公がやつて来て  俺らの不在をつけ込んで
 無体の恋慕をウントコシヨ  遂行せむとつめ寄つて
 お愛を困らせ居るのだろ  そんな事でもあつたなら
 お愛の奴はウントコシヨ  負ぬ気強い女故
 中々ウンとは申すまい  揚句の果は双方から
 切りつ はつりつウントコシヨ  血の雨降らすに違ない
 これを思へば一時も  早く吾家へ帰りたい
 今日に限つてこの道は  ウントコドツコイこれほどに
 際限もなく延びよつて  いつもの道より遠くなる
 やうな心地がしてならぬ  ホンに気のせく事ぢやワイ
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  三五教の神様よ
 私の不在の家の内  どうぞ何事もないやうに
 お守りなさつて下さんせ  仮令三公が来る共
 お愛の体にドツコイシヨ  指一本も触へぬよに
 どうぞ守つて下さんせ  武野の村の男達
 虎公サンと名を売つた  男の顔に泥が付く
 これが第一ウントコシヨ  私は辛うてたまらない
 男と男の意地づくで  命の取合するとても
 決して厭ひはいたさない  男の顔に泥ぬられ
 ウントコシヨウ ウントコシヨウ  万劫末代拭はれぬ
 恥をのこすがわしやつらい  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』  

と足拍子を取りながら、急坂を上り下りつ、玉公外三人の乾児と共に、息をはづませ帰り行く。

(大正一一・九・一四 旧七・二三 松村真澄録)



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