出口王仁三郎 文献検索

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物語34-1-61922/09海洋万里酉 蜂の巣王仁三郎参照文献検索
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第六章 蜂の巣〔九四七〕

 高山彦の後を追ひ  遥々来りし黒姫は
 房公、芳公を伴ひて  筑紫ケ岳を登り行く
 細き谷道右左  水成岩の此処彼処
 頭を抬げて居る中を  足に力を入れながら
 エイヤエイヤと声揃へ  一歩々々登り行く
 ウンウンウンと呻きつつ  芳公は歌を謡ひ出す。

芳公『あゝ惟神々々  御霊幸はひましまして
 この急坂をやすやすと  登らせ給へ純世姫
 ウントコドツコイ息苦し  ハアハアハアハア スウスウスウ
 すべて山坂登るときや  向ふを眺めちやいかないぞ
 一歩々々俯向いて  梯子を登る心地して
 進めば何時しか絶頂に  ウントコドツコイ着くだらう
 とは云ふもののきつい坂  お嬶の○に上るとは
 チツとは骨があるやうだ  足はモカモカして来だす
 ハアハアドツコイ、ウントコナ  腰の辺りがドツコイシヨ
 どうやらハアハア変梃に  フウスウフウスウ、ドツコイシヨ
 なつて来たでは無いかいな  高山彦へ登るのは
 余程骨が折れるわい  ハアハアこれこれハアハア、ドツコイシヨ
 黒姫さまよ聞きなされ  高山彦と云ふ峠
 中々登り難いぞや  にくいといつてもお前さまは
 ハアハアフウフウ可愛いかろ  可愛い男にドツコイシヨ
 ハアハアフウフウあふのだもの  お前は前途に楽しみが
 ウントコドツコイぶら下る  私は汗がぶら下る
 こんな峠と知つたなら  ウントコドツコイ初めから
 私は来るのぢやなかつたに  胸突坂の嶮しさよ
 水成岩や火成岩  片麻岩かは知らねども
 本当に堅い石道だ  皆さまドツコイ気をつけよ
 ウツカリ滑つて向脛を  ウントコドツコイ擦り剥いちや
 自転倒島にドツコイシヨ  残して置いた女房子に
 あはせる顔が無いほどに  房公さまも気をつけよ
 ウントコドツコイ、ハアハアフウ  芳公さまも気をつける
 黒姫さまはドツコイシヨ  高山峠を登るのだ
 仮令向脛ドツコイシヨ  剥いたところで得心だ
 現在夫の名のやうな  筑紫ケ岳のドツコイシヨ
 高山峠をフウフウフウ  這うて居るのぢや無いかいな
 何程恋しいドツコイシヨ  高山彦でもこのやうな
 きつい険しい心では  黒姫さまも困るだらう
 ウントコドツコイ気をつけよ  そこには尖つた石がある
 筑紫の国までやつて来て  ドツコイ怪我しちや堪らない
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  この坂越えねばならぬのか
 黒姫さまのドツコイシヨ  ハアハアフウフウ フウスウスウ
 恋の犠牲に使はれて  踏みも習はぬ山坂を
 登り行く身の馬鹿らしさ  ホンに思へば前の世で
 ウントコドツコイ汗が出る  如何なる事の罪せしか
 因果は廻る小車の  小車ならぬ石車
 沢山転がつてドツコイシヨ  其処ら四辺に待つて居る
 ウントコドツコイ暑い事ぢや  汗と脂を絞り出し
 蝉にはミンミン囀られ  頭はガンガン照されて
 ウントコドツコイ あゝ偉い  こんなつまらぬ事は無い
 あゝ惟神々々  叶はぬ時の神頼み
 国魂神の純世姫  月照彦の神様よ
 どうぞ助けて下さンせ  弱音を吹くぢや無けれども
 こんだけ辛らうては堪らない  どこぞ此処らの木蔭をば
 求めて一服しようぢやないか  ウントコドツコイ黒姫さま
 も一つ無花果出しとくれ  喉がひつつきさうになつて来た
 ハアハアフウフウ フウスウスウ  こンな苦労をするのんも
 元を訊せばドツコイシヨ  みんなお前のためぢやぞえ
 皺苦茶婆さまのドツコイシヨ  分際忘れて高山の
 峠に登らうとする故に  俺まで迷惑するのんだ
 ウントコドツコイ俺のみか  家のお嬶も困つてる
 皇大神の御ために  御用に立つならドツコイシヨ
 どんな苦労も厭やせぬ  思へば思へば馬鹿らしい
 千里二千里三千里  荒波越えてドツコイシヨ
 筑紫の島まで導かれ  ハアハアフウフウ あゝ暑い
 汗が滲んで目が見えぬ  つまらぬ事になつて来た
 ウントコドツコイ黒姫さま  一寸一服しようぢやないか
 何程あせつて見た処が  二日や三日や十日では
 火の国都へ行かれない  叔母が死んでも食休み
 ドツコイシヨードツコイシヨー  暑中休暇の流行る世に
 休なしとは胴欲ぢや  私もどうやら屁古垂れた
 どうぞ一服さしてくれ  それそれ向ふの木の枝に
 甘さうな果実がなつて居る  あれ見てからは堪らない
 もう一歩も行けませぬ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ  オツト危ない石車
 スツテの事で向脛を  傷ひやぶる処だつた
 これも矢張り神様の  深き尊き御守護
 此処で休んで行きませう  御足の達者な御方等は
 どうぞお先へ行つてくれ  欲にも徳にも代へられぬ
 生命あつての物種だ  行きつきバツタリ焼糞だ
 ハアハアフウフウ フウスウスウ  どうやら呼吸がきれかけた
 汗も膏も乾き果て  もう一滴も出ないやうに
 カンピンタンになりかけた  ウントコドツコイ休まうか』
 云ひつつドスンと腰下し  青葉の上に横たはる
 黒姫、房公両人は  渡りに舟と喜んで
 木蔭に立寄り息休め  流るる汗を拭ひける。

 三人は汗を拭ひながら、油蝉の鳴く木蔭に息を休めて居る。巨大な青蜂等が盛に襲撃する。フツと空を見上ぐれば大きな蜂の巣がぶら下つて居る。三人は『コリヤ大変!』と俄に立ち上り坂道さして逃げ出す。青蜂の群は敵の襲来と見誤つたと見え、両方の羽翼に極力馬力を掛け、ブーンと唸りを立てて三人の頭を目蒐けて襲撃する。三人は幸ひ笠を被つて居たので蜂の剣を免れ、生命辛々二三丁ばかり思はず知らず坂道を駆登つてしまつた。其処には高い山にも似ず美しい清水がチヨロチヨロと流れて居る。
芳公『ハアハアハアフウフウフウ……あゝ有難い。こんな結構な清水が此処に湧いて居るとは心づかなかつた。丸で夢に牡丹餅を貰つたやうなものだ』
と云ひながら清水を両手に掬んで甘さうに何杯も何杯も飲み乾す。房公も次いで水を飲む。
房公『あゝ有難い、助け舟に遭うたやうだ。瑞の御霊の純世姫様、生命の清水を与へて頂きました。これで瑞の御霊の御恩も適切に分らして頂きました。あゝ惟神霊幸倍坐世』
芳公『黒姫さま、貴女も一杯お飲りなさつてはどうですか、随分喉が乾いたでせう』
 黒姫は苦りきつた顔をしながら、
黒姫『お前は本末自他公私の区別を知つて居ますか。天地転倒したお前の行ひ、そんな水は仮令渇しても飲みませぬワイ』
芳公『これはまた妙な事を承はります。何がそれほどお気に入らないのですか』
黒姫『長幼序あり、と云ふ事を忘れましたか。何故長者たる黒姫に先に水を勧めてその後を飲みなさらぬ。若い者が先へ飲んでその後を飲めとはチツと御無礼ではありませぬか』
房公『なアんとむつかしい婆んつだ喃。後から飲んでも前から飲んでも水の味に変りはあるまい。こんな処まで杓子定規をふりまはされて堪つたものぢやない。黒姫さま、お前さまは部下を可愛がると云ふ至仁至愛の心に背いて居ますな。そんな事を仰せられると俺達の方にも随分言ひ分がありますよ。昔シオン山に戦ひのあつた時、言霊別命の部下に国治別と云ふ大将があつた。その時数多の部下が敵軍のために重傷を負ひ喉が乾いて困つて居つた。国治別の大将も同じく重傷を負ひ水を飲みたがつて居たが、手近に水が無いので部下の臣卒がやつとの事で谷川に下り、帽子に水を盛つて国治別の前へ持つて来た。その時に沢山の部下の臣卒はその水を眺めて羨ましさうな顔色をして居た。国治別神はそれを見て自分の飲みたい水も飲まず、部下の臣卒に飲ましてやれといつてその場に討死をなされたと云ふ事だ。人の頭にならうと思へばその位な慈愛の心が無くては部下は育ちませぬよ。お前さまは永らく法螺を吹いて宣伝をして居るが、真味の部下が一人も出来ぬので不思議と思つて居たが、矢張精神上の大欠陥がある。そんな利己主義で宣伝が出来ますか。神は愛だとか、人を救ふのが神だとか、何程立派に口先で喋り立てても事実が伴はねば駄目ですよ。お前さまは有言不実行だからそれで吾々も嫌になつてしまふのだ。水臭いと云ふのはお前さまの事だ。水の一杯位でゴテゴテ云ふのだから堪らないわ』
芳公『オイ房公、もうそんな水臭い話はよしにせい。下らぬ水掛喧嘩になつちや瑞の御霊様に対して申訳がないからな。みず知らずの仲ぢやあるまいし、もうこんな争ひは綺麗薩張と水に流さうぢやないか』
黒姫『ようまあツベコベと揚足をとる男だなあ。妾が不用意の間に口が辷つたと云つて、それほど短兵急に攻めると云ふのはチツとお前さまも量見があまり良くはありますまい。人に叱言を言ふのなら先づ自分の身を省み、行ひを考へてからなさいませや』
と白い歯を出し頤を前にニユウと出し、二ツ三ツしやくつてみせた。
房公『あゝ、まだこれからこの急坂を随分てくらねばなるまいから、喧嘩は此処等できり上げておかうかい。さア御一同発足致しませう』

(大正一一・九・一二 旧七・二一 北村隆光録)
(昭和一〇・六・一〇 王仁校正)



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