出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語33-4-251922/09海洋万里申 琉の玉王仁三郎参照文献検索
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第二五章 琉の玉〔九四〇〕

 東助は秋彦と共に生田の森の若彦(今は国玉別)の館に翌日の夜明け頃、一寸立寄つて見た。昔は人は一夜の中に五十里や八十里は平気で跋渉したものである。
東助『国玉別さまは居られますかなア』
と訪ふ声に駒彦はあわてて飛び出し、
駒彦『コレハコレハ総務さまでございますか。……ヤアお前は秋彦、久振りだつたなあ』
秋彦『ウン』
東助『夫婦は居られるかなア』
と重ねて問へば駒彦は、
駒彦『ハイ、今朝のお礼を済ませ、夫婦連れにて軈て東助様が見えるだらうから、それまでに布引の滝へ水垢離を取りに往つて来るから、一寸待つてゐて貰へとの命令でございました。どうぞしばらく御休息下さいませ。やがてお帰りになるでせうから……』
東助『別に用もないのだから、夫婦が帰られたら、東助がフサの国の斎苑の館へ御神務を帯びて行く途中、一寸訪問したと伝へておいてくれ。神様の御用は一刻も猶予は出来ないから………』
と云ひすて、早くもこの場をスタスタと立去りにける。秋彦も兄の駒彦に折角会ひながら、碌々に詞も交し得ざる本意なさに、後ふり返りふり返り名残を惜しみつつ、東助の後に従つて明石の港を指して進み行く。
 後に駒彦は双手を組み、
駒彦『あゝ何としたすげない人だらう。いつも朴訥な東助さまだと聞いて居つたが、コリヤまた余り愛想がなさすぎる。国玉別夫婦も夫婦だ、何故こんな時に布引の滝なんかへ行くのだらう。行きたけりやモ少し早く往つて、早く帰つて来れば良いのに、この頃は玉能姫が膨れたとか、ふくれぬとか、何とか彼とか云つて、小言ばかりおつしやるものだから、女房に甘い国公も、夜分は碌々によう寝ないと見えて、朝寝をするのだ。それだからこんなことが出来て来るのだ。エヽまあまあなんでこれほど遅いのだろ。これから一走り駆け出せば、秋彦に会はれぬ事はないが、また不在にしておいては、おれの役がすまぬなり、困つた事が出来て来た。これだから若夫婦の世話はするものぢやないと人が言ふのだ。東助さまも大方早く淡路島へ立寄つて女房のお百合に会ひ、一分間でもいちやつかうと思うて、倉皇として駆け出したのだらう。ヤツパリ夫婦といふものは互に恋しいものと見えるワイ。おれも早く修行をして結構な女房を持ち、家庭を作つて、……コレ駒彦……イヤ女房……と意茶ついて見たいものだ。あゝ辛気臭い、男同志の兄弟にさへ碌々話も出来ぬやうな詰らぬことがあるものか』
と呟いてゐる。そこへ帰つて来たのは国玉別、玉能姫の両人であつた。
駒彦『コレ国さま、玉さま、何をグヅグヅしてゐるのだ。とうとう東助が愛想をつかして帰つてしまひました。秋彦までが……』
国玉別『東助が帰つたとは、誰の事だ』
駒彦『誰のこともあつたものか。国玉別さま、玉能姫さま、よい加減にしておきなさい。聖地の総務の東助さまがここへ一寸お寄りになり、お前さま等夫婦の不在を見て、何とマア仲の良い夫婦ぢやなア……と思はれたか、思はれぬか、そりや知らぬが、どうぞよろしうと云つて、トツトと帰つて行かれました。秋彦までが、折角兄弟に対面しながら、ロクに私に詞も交さず、明石の港まで行つてしまつたのですよ。まだ半時ばかり前だから、私はこれから追つかけて、弟にモウ一目会うて来ます。どうぞお前さま等夫婦は此処に仲好うしてゐて下さい。何か伝言があるなら申上げますから……』
玉能姫『それはそれは誠に不都合な事でございましたなア……国玉別さまどう致しませうか』
国玉別『後追つかけてでも行かうものなら、東助様の気性としてどんなに怒られるか知れたものぢやない。いつそ駒彦に往つて貰はう。……コレ駒彦、国玉別夫婦が誠にすまぬことでございましたとお詫をしてゐたと、これだけ言つてくれ。その外のことは何にも言はぬがよろしいぞ』
駒彦『ヨシ合点だ!』
といひながら尻ひつからげ、生田の森の中に姿をかくした限り日の暮れ過まで帰つて来なかつた。
 その日の暮頃、高姫は佐田彦と共に慌ただしくやつて来た。
高姫『モシモシ国玉別さま、私は高姫でございます。神様の御命令によつて、生田の森の守護職となり、はるばると出て来ました。お前さまはこの事は疾つくに御存じでせうなア』
と門口から出しぬけに喚いてゐる。玉能姫はこの声を聞くよりあわただしく表に飛び出し、
玉能姫『これはこれは高姫様、ようこそいらせられました。サアお這入り下さいませ。貴女の此所へお越しになることは、二三日以前より、錦の宮から通知がございまして、その用意のためにいろいろ道具の取片付も致し、今日は名残に布引の滝へ禊に行つて参りました。サア今日からは貴女はこの館の主人、どうぞ御遠慮なく奥へお通り下さいませ』
高姫『ハイ有難う』
と云ひながら、何となくそはそはしい様子で、そこらあたりをキヨロキヨロと見まはしつつ、言ひ憎さうに、モヂモヂしながら、
『あの……東助さまはここへ御立寄りにはなりませなんだかなア』
玉能姫『ハイ、今朝早々お尋ね下さつた相でございますが、折あしく布引の滝へ夫婦の者が水行に参り、不在中だつたものですから、門の閾も跨げずに、秋彦と一緒にお帰りなつたといふことです。大方今頃は淡路島の吾館へでもお立寄りになつて、今晩はゆつくりお休み遊ばし、明日更めてお出でになるでせう』
高姫『ヤアそりや大変だ。どうしてもかうしても東助さまに一目お目にかかり、一言恨みいはねばなりませぬ。イヤ一言御礼をいはねばならないのです。コレ国玉別さま、玉能姫さま、御苦労だが、一ツ舟を急いで出して下さい。そして淡路島まで送り届けて下さい。玉能姫様は舟を操るのが大変お上手だから……』
国玉別『また貴方は俄に東助様をお慕ひ遊ばすのですな。何か深い事情がございますか』
高姫『事情がなうて何としよう。私の恋しい恋しい昔の夫でござんすワイナ。サア早く舟を出して下さいなア。コレ玉能姫さま、一生の願ひぢや、早う出して下さらぬと間に合ひませぬ』
玉能姫『モシ国玉別様、舟を出して送つて上げませうかなア』
国玉別『折角のお頼みだから、送つて上げたいが、昔の恋男だなんて聞く上は、ウツカリ送る訳にも行くまい。東助さまの御心も分らず、ウツカリ送つて行かうものなら、それこそどんなお目玉を頂戴するか分るまいぞや。いつもの東助様ならば、ゆつくりと吾家に休んで行つて下さるのだけれど、閾もまたげずに行かれたとこを思へば、高姫さまが後からお出になるのを知つて、うるさがつて逃げられたのかも分らぬから、此奴ア一つ考へものだ』
高姫『エヽ人情を知らぬ冷酷な動物だなア。そんなことで三五教の宣伝使が出来ますか。チツト粋を利かしたらどうだなア』
 かく話す折しもスタスタと帰つて来たのは駒彦であつた。
国玉別『ヤア駒彦か。東助さまに会うて来たか』
駒彦『ハイ都合よく明石の港で追つ着き、秋彦にも会ひ、それから舟で淡路島のお宅まで送り届け、お百合さまと面会の上酒を汲みかはし、私達兄弟もドツサリと頂きました』
高姫『コレお前は駒彦だつたな。そして東助さまはまだ淡路島にゐられますかな』
駒彦『ヤア高姫様か、お珍らしい所でお目にかかりました。随分貴女も玉の事について、生田の森には面白い経歴が残つて居りますなア。国依別さまの神憑で竹生島へお越しになつたり、随分御苦労をなさいましたですなア。未だに時々思ひ出して、国玉別様と話して居るのですよ。随分玉にかけては、貴女も偉いものですなア』
高姫『コレ駒彦、玉の事はどうでもよろしい、暇な時に聞かして下さい。東助さまはどうして居られますかなア。サア早く云つて下さい。早く早く、気がせけてなりませぬワイナ』
駒彦『東助さまですか、明石海峡で別れました。モウ今頃にやあの勢で行かれたら、高砂の沖へでもかかつてゐられるでせう。私は小舟でたつた一人、ここまで帰つて来ました。そして森の中でいろいろと道草をくつて居りましたから、大分時間がたつて居りますよ。高姫さまは東助さまに何か急用があるのですか』
高姫『エヽもうよろしい。東助の事は思ひますまい』
国玉別『サア高姫様、どうぞここに洗足の湯が沸いて居りますから、これを使つてお上り下さいませ、事務の引継ぎをせなくてはなりませぬから、引継いだ以上は最早此処は貴女のお館ですから、どうぞ御ゆつくりとくつろいで御話を承はりませう』
高姫『ハイ有難う』
と云ひながら、佐田彦に足を洗つて貰ひ、塵を打払ひながら、笠をぬぎ蓑をすて、奥の間へ進み入る。
 その夜は主客共に安く寝につき、翌日国玉別は琉の玉を高姫の前に差出し、
国玉別『これが言依別命様より預りました琉の宝玉でございます。貴女はこの玉を何処までも保護して長くこの森にお止まり下さいませ。私は神命により、玉能姫、駒彦と共に球の玉を持つて、紀の国路へ参り、これを祀らねばなりませぬから、どうぞ、よろしうお願申します』
玉能姫『高姫様、どうぞよろしく』
高姫『ハイ、畏まりました。私のやうな者が、尊い琉の玉を保護さして頂くといふ事は、何とした冥加に余つた事でございませう。キツト大切にお守り致しますから、御安心下さいませ』
国玉別『早速御承知下さつた上は、一刻も猶予がなりませぬ。サアこれより球の玉を捧じ、紀の国へ参りますから、随分御機嫌よくお勤めなさいませ』
玉能姫『駒彦、サア参りませう………高姫様左様ならばしばらくお別れ致します』
高姫『どうぞ御無事に御神業をお勤めあそばすやう祈つて居ります。そんならそこまで私がお送り致しますから、コレ佐田彦、この宝玉の番をしてゐて下さい』
国玉別『イエイエそれには及びませぬ。この玉が館にある以上は、あなたはしばらくの間はこの家をお出ましになつてはいけませぬ』
高姫『左様ならば、是非がございませぬ。ここでお別れ致しませう』
と門口に見送る。国玉別、玉能姫、駒彦は十数人の信徒に送られ、夜を日についで紀の国の若の浦を指して進み行く。

(大正一一・九・一九 旧七・二八 松村真澄録)



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