出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語33-4-211922/09海洋万里申 峯の雲王仁三郎参照文献検索
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第二一章 峯の雲〔九三六〕

高姫『今承はれば、実に黒姫さまも奇妙な運命を辿られたものですな。随分貴女も若い時は引手数多の花菖蒲、若い男に随分チヤホヤされたでせう。何処ともなしに床しい花の香が未だに備はつて居ますよ。オホヽヽヽ……しかしながらこんなお目出度い事はございませぬ。私も自分の子に会うたやうに嬉しうなつて来ました。……高山彦さま、貴方も若い時に子でも生みつけて置きなされば、今頃はさぞ神様のお蔭で親子の対面が出来御愉快でございませうがな』
黒姫『ハイ、誠に恥かしい事でございます。畏れ多い……神様から頂いた吾子を捨てたり、こんな罰当りの私でも神様はお許し下さいまして、こんな嬉しい親子の対面をさして下さいました。随分彼方此方と気儘の事をして廻り、両親の事は左程にも思はず、夫の事や吾子の事ばかり尋ねて居りました。私の両親も最早この世に居るか居らぬか知りませぬが、私が子に恋ひ焦れるやうに私の両親も嘸や嘸私の事を気にかけて居られるでせう。本当に親の心と云ふものは何処まで慈愛の深いものか分りませぬ。かうなつて来ると両親の身の上も案じられ、また伜の玉治別が折角母親に会うて喜んで居りますが、屹度父親の所在を知りたいと思うて居るに違ひございませぬ。何事も皆私の不心得から、一人の伜までに切ない思ひをさせます。あゝ玉治別、どうぞ許して下さい。屹度私がお前のお父さまを草を分けても探し出し、お会はせしませうから……』
玉治別『勿体ない事を云つて下さいますな。この広い世の中、何時まで探しても分りさうな事はございませぬ。神様が会はして下さらうと思召したら屹度会はして下さいますから……そんな事に心を悩まさず、一心に母子が揃うて神様の御用を勤めさして頂きませうか』
黒姫『左様でございますな。母子手を引き合うて神様の御用を致しませう』
 東助は両手を組み頭を項垂れ、時々太い息を吐き、物をも言はずこの光景を打看守つて居る。
 高山彦は歌ひ出した。

『コーカス山に現はれし  大気津姫の八王と
 仕へまつりし千代彦や  万代姫のその中に
 生れし吾は珍の御子  隙間の風にも当てられず
 蝶よ花よと育まれ  栄耀栄華に育ちしが
 松、竹、梅の宣伝使  石凝姥や高彦や
 その他数多の神司  コーカス山に現はれて
 言霊戦を開きてゆ  老たる父母は大気津姫の
 神の命に従ひて  逃げ行く先はアーメニヤ
 館の奥に隠れまし  ウラルの神の御教を
 朝な夕なに守りつつ  世人を導き給ひけり
 吾には三人の兄弟が  いと健やかに生ひ育ち
 父の家をば嗣ぎまして  暮し玉へど弟と
 生れ出でたる吾こそは  自由自在の身なりとて
 夜な夜な館を抜け出し  若き女と手を曳いて
 都を後にフサの国  逃げ行く折しも両人は
 新井の峠を越ゆる折  谷に架けたる丸木橋
 危くこれを踏み外し  二人は千尋の谷底に
 落ちて果敢なくなりにけり  かかる処へ杣人が
 現はれ来りて吾身をば  種々雑多と介抱し
 吾は危き生命を  助かりたれど吾恋ふる
 女のお里は影見えず  深谷川の激流に
 流されたるは是非もなし  最早この世に永らへて
 一人暮すも詮なしと  柏井川に架け渡す
 橋の袂に来て見れば  夜目には確と分らねど
 お里の顔によく似たり  何れの人の情にて
 危き生命を免れしか  不思議なことと擦り寄つて
 よくよく姿を眺むれば  女はお里に非ずして
 色香勝れし真娘  心の裡の曲者に
 取り挫がれて懊悩の  雲はいつしか晴れ渡り
 再び陽気に立ち帰り  擦れつ縺れつ顔と顔
 眺めて忽ち恋の糸  搦まるままに傍の
 林の中に立ち入りて  ○○○の折柄に
 けたたましくも出で来る  人の足音耳につき
 パツと驚き立ち別れ  雲を霞と逃げ去りぬ
 吾はそれよりフサの国  彼方此方と逍遥ひつ
 若やお里は現世に  生永らへて居はせぬか
 飽まで探し求めむと  雲をば掴む頼りなき
 詮議に月日を送りしが  今黒姫の物語
 聞いて驚く胸の裡  柏井川の橋の上で
 会うたる女は黒姫か  さすれば玉治別神
 全く吾の珍の御子  あゝ惟神々々
 神の恵は山よりも  勝れて高く海よりも
 いやまし深く思はれて  感謝の涙は雨となり
 降り注ぐなる今日の宵  玉治別よ黒姫よ
 高山彦は汝が父ぞ  汝が昔の夫ぞや
 親子の縁かくの如  月日の如く明かに
 なりたる上は今よりは  親子心を協せつつ
 錦の宮の御前に  誠を捧げて朝夕に
 力限りに尽くすべし  昔の罪が廻り来て
 色々雑多と世の中の  憂目を忍び迷ひたる
 夫婦の仲も皇神の  恵の鞭の戒めか
 今は心も打ち解けて  天津御空は殊更に
 弥明けく地の上は  弥清らけくなりにけり
 吹き来る風も今までの  悲哀の音は何処へやら
 千代を祝する歓ぎ声  小雲の流れもサヤサヤと
 吾等親子の行末を  祝ふが如く聞ゆなり
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』

 黒姫、玉治別は高山彦の物語に二度吃驚り、……あの時の青年は高山彦様であつたか……吾父であつたか……と双方より取縋り嬉し涙にかき暮れる様、実に割なく見えて居る。
高姫『黒姫さま、目出度い事が重なれば重なるものですな。お前さまも全く今までの罪障がとれたと見えて、神様が親子の対面をさして下さつたのですよ。そして高山彦さまは露の契と云ひながら、若い時の貴方のラバーしたお方、なんとまア夢に牡丹餅を喰つたやうな甘い話でございますなア。それにつけてもこの高姫はまだ神様のお許しがないと見えまして、心の中に大変な悩みを持つて居ます。あゝどうかして一時も早く、この悩みの雲が晴れ、青天白日、今日の空のやうにサラリとなりたいものです。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と涙声になつて両手を合せ祈りゐる。
黒姫『貴女も何時かのお話の序に一寸承はりましたが、妾のやうに捨児をなされたさうですが、貴方のやうな気丈なお方でも矢張り気にかかりますか』
高姫『親子の情といふものは誰しも同じ事です。年が寄れば寄るほど子が恋ひしくなるものです。アーア、黒姫様が元の親子夫婦の対面を遊ばしたに就いて、一入昔の事が思ひ出され、吾子に一度会ひたくなつて堪りませぬ。その時の夫は今は何処にどうして居られますやら……今日となつてはその夫と出会つた処が、夫婦となる訳には行きませぬなれども、せめて……お前はあの時の妻であつたか、夫であつたか、子であつたか……と名乗り合つて見たうございます』
と云ひ放つて泣き沈む。黒姫は確信あるものの如くニツコリと笑ひながら、
『高姫さま、あまり迂濶して居つて貴女のお話を十分に記憶して居りませぬが、何でも貴女のお捨てになつたお子さまには、守刀に真珠で十の字の印を入れ柄元に「東」と「高」との印をお入れになつたぢやございませぬでしたかな』
高姫『ナニ、黒姫さま、そんな詳しい事を私は申上げたやうな記憶はありませぬが、左様の事を申上げた事がございますかな』
黒姫『そのお子さまの名は金太郎とは申しませなんだか、丁度今年で私と同じやうに三十五年になるのぢやございませぬか』
 東助の顔の色がこれを聞くよりサツと変つた。高姫の顔もまた俄に変り、目は円くなり口先が尖つて来出した。
高姫『何とまあ、詳しい事を御存じでございますな。私はそこまでお話した覚えはございませぬが、どうしてまアそんな詳しい事がお分りでございますか。これには何か御様子のある事でせう。どうぞ明らさまにおつしやつて下さいませ』
 黒姫は歌を以てこれに答へける。

『高山彦の後を追ひ  筑紫の島に立ち向ひ
 建日の港を後にして  筑紫ケ岳の大峠
 高山峠を登り行く  その頂上となりし時
 傍に五人の荒男  玉公、虎公面々の
 人の噂を聞きつれば  熊襲の国の神司
 建日別の御息女  建能姫の夫として
 誉も高き建国別の  神の命は何人の
 捨てたる児とも分らずに  三十五才の今年まで
 父母両親の所在をば  尋ね居ますと聞きしより
 遥々館に立ち寄つて  夫婦の神に面会し
 もしや吾子にあらぬかと  昔の来歴物語り
 種々調べ見たりしに  建国別の宣らすやう
 吾は如何なる人の子か  未だに分らぬ悲しさに
 朝な夕なに三五の  神に仕へて父母の
 行方を尋ね求めつつ  その日を送る悲しさよ
 汝の命は遠近と  神の教を伝へつつ
 出でます身なれば父母に  もしもや会はせ給ひなば
 一日も早く吾許に  知らさせ給へ幼名は
 聞くも目出たき金太郎  吾身に添へたる綾錦
 守袋に名を記し  守刀に真珠にて
 十字の印を描き出し  鍔元篤と眺むれば
 「東」と「高」の印あり  人の情に哺まれ
 漸く成人なせしもの  誠の生みの父母が
 この世に居ます事ならば  一目なりとも会ひたやと
 嘆かせ給ふを聞くにつけ  この黒姫も胸迫り
 名乗り上げむかと思へども  いや待てしばし待てしばし
 高姫様に面会し  詳しき事を更めて
 承はらずは軽々に  名乗りもならずと口許へ
 出かけた言葉を呑み込んで  素知らぬ顔を装ひつ
 此処まで帰り来りけり  まさかに汝の生みませし
 御子にはあるまじさりながら  合点の往かぬは三年前
 高姫様の物語  朧気ながら思ひ出し
 半信半疑に包まれて  名乗りも得ざりしもどかしさ
 あゝ惟神々々  神の恵の幸はひて
 高姫さまが愛し子に  目出度会はせ給ふべき
 時こそ来れるなるべしと  何とはなしに勇ましく
 心の空も晴れにけり  高姫さまよ黒姫が
 この物語諾ひて  お心当りのあるならば
 人を遥々遣はして  今一度調め給へかし
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』

玉治別『屹度建国別命は高姫様の御子息に間違ひありますまい。どうも私はそのやうな気が致します。さうであつたならば、実にこの上ない目出たい事でございますがな。私は久し振りで両親に邂逅ひ、こんな嬉しい事はございませぬ。高姫様も、一度遠方なれども私が御案内致しますから、熊襲の国までお調べにお出でになつたらどうでせう』
高姫『ハイ、御親切に有難うございます』
と言つたきり稍少時頭を垂れ吐息を洩らし居る。東助もまた顔色を変へ高姫の顔を穴のあくほど見詰め居たり。

(大正一一・九・一九 旧七・二八 北村隆光録)



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