出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語33-4-201922/09海洋万里申 昔語王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 昔語〔九三五〕

 桶伏山の東麓に小雲川を眺めた風景よき黒姫の館には、主人側の黒姫を初めとし、高山彦、東助、高姫、秋彦、友彦、テールス姫、夏彦、佐田彦、お玉、鷹依姫、竜国別の面々が親子対面の祝宴に招かれ静に酒汲み交はし、色々の話に耽つて居る。
高姫『黒姫様、長らく筑紫の島へ御苦労でございました。第一の御目的は高山彦様の後を慕つてお出で遊ばしたのだが、何が経綸になるのか分りませぬなア。肝腎の目的物たる高山彦さまは、灯台下は真暗がり、足許の伊勢屋の奥座敷にかくれて居られましたのも御存じなく、御苦労千万にも遥々と波濤を越えてお出で遊ばし、気の毒な事だと思ひましたが、不思議の縁にて、玉治別が貴方のお子様だと云ふ事が分つて参りましたのも、実に不思議の神様のお引合せ、何が御都合になるか分つたものぢやございませぬなア』
黒姫『ハイ、本当に嬉しい事でございます。私の伜がこんな立派な宣伝使になつて居るとは夢にも知りませなんだ。ほんに因縁者の寄り合だと神様がおつしやるのは争はれないお示しでございます……改心致せば御魂だけの御用を指してやる、改心致さねば親子の対面も出来ぬやうになるぞよ……と、お筆に出て居りますが、私は余り身魂の曇りが甚かつたために、今まで吾子に遇ひながら知らずに居りました。こんな嬉しい事はございませぬ。年が寄ると何を云うても子が力でございますからなア。親子は一世と云つて切つても切れぬ深い縁のあるものでございます。それにつけても夫婦二世とはよくいつたもの、親子の関係に比ぶれば夫婦の道は随分水臭いもの、少し気にくはぬ事を云つたとおつしやつて、高山さまのやうに姿をかくし、女房に甚い心配をさせる夫もありますからなア』
高山彦『モウ、その話は中止を願ひます。一家の政治上の治安妨害になりますから……』
黒姫『ホヽヽヽヽ、何とマア都合のよい事をおつしやいますワイ。よい年をして居つて伊勢屋の下女と何とかかとか……真偽は知りませぬが、私の留守中噂を立てられなさつた好男子だから、本当に水臭いハズバンドだ。アヽしかしもう云ひますまい。立派な伜の前だから恥かしうなつて来ます』
高山彦『お前は実の伜に遇うて嬉しうなつたと見えて俄に燥ぎだし、ハズバンドの私に対して非常に冷やかになつて来たぢやないか。私もかうなつて見ると子が欲しくなつて来た。しかしながらお前のやうな婆では到底子を生むと云ふ望みもなし、もう諦めるより仕方がない。玉治別さまはお前の子だ。そしてお前は私の女房だ。さうすれば私も万更他人ではない。玉治別さまのお世話になるより仕方がないなア。しかしながら、お前はいつの間に誰と夫婦になつて玉治別さまを生んだのだ。差支なければ皆さまの居られる中だけれど、一つ話してくれないか』
 黒姫は、
『これも私の罪滅し、恥を曝して罪を神様に取つて貰はねばなりませぬから、懺悔のために申上げます』
と云ひながら一紘琴を引き寄せて歌ひ出したり。

『ペルシヤの国の柏井の  里に名高き人子の司
 烏羽玉彦や烏羽玉姫の  長女と生れ育ちたる
 アバズレ娘の黒姫が  柏井川にかけ渡す
 橋の袂を夕間暮れ  一人トボトボ川風に
 吹かれて空を打ち仰ぎ  天の河原の西東
 棚機姫が御姿を  仰ぐ折しも向ふより
 二八ばかりの優男  粋な浴衣を身に纏ひ
 ホロ酔機嫌でヒヨロヒヨロと  鼻歌謡ひ進み来る
 声の音色は鈴虫か  松虫、蟋蟀、螽斯
 秋の夕べの肌寒き  魔風恋風さつと吹き
 顔と顔とは相生の  実にも気高き男よと
 此方に思へばその人も  摩擦つ縺れつからみあひ
 松と梅との色深く  露の契を人知れず
 四辺の木蔭に忍び入り  暗さは暗し烏羽玉の
 星の影さへ封じたる  森の木蔭の草の上
 白き腕淡雪の  若やる胸を素抱きて
 たたきまながり真玉手玉手  さし捲きもも長に
 寝る折しも恥かしや  忽ち来る人の足音
 吾は驚き身を藻掻き  恋しき男と右左
 あはれや男は何人と  尋ぬる間さへ夏の末
 果敢なき露の契にて  三十五年の昔より
 夢や現と日を送り  今に夫の行方さへ
 知らぬ妾の身のつらさ  その月よりも身は重く
 不思議や妾は懐胎し  厳しき父や母上に
 何と応へもなきままに  暗に紛れて柏井の
 父の館を脱け出し  赤子を抱へさまざまと
 苦労も絶えぬ黒姫が  心は忽ち鬼となり
 哀れや赤子に富士咲と  名をつけ道の四辻に
 捨てて木蔭に立ちながら  如何なる人の御恵に
 吾子は拾い上げらるか  あはれみ給へ天津神
 国津神達国魂の  神よ守らせ玉へかしと
 心に祈る折柄に  カチリカチリと杖の音
 子の泣き声を聞きつけて  いづくの人か知らねども
 かかるいとしき幼児を  此処に捨てしは云ひ知れぬ
 深き仔細のあるならむ  何はともあれ拾ひあげ
 救ひやらむと云ひながら  その旅人は富士咲を
 労り抱き懐に  かかへて橋を渡り行く
 妾は後より伏し拝み  拾ひし人の幸福や
 捨てた吾子はスクスクと  成人なして世の中の
 花と謳はれ暮せよと  涙と共に立ち別れ
 四方を彷徨ふ折柄に  またもや父に廻り合ひ
 再び吾家に立ち帰り  厳しき父母の膝下で
 月日を送る十年振り  捨てた吾子が苦になつて
 朝な夕なに気を焦ち  案じ過ごせど手係りも
 泣きの涙で日を送り  メソポタミヤの顕恩郷に
 鬼雲彦の現はれて  バラモン教を開きますと
 聞くより妾は両親の  眼をぬすみ遥々と
 顕恩郷に参上り  神の教を聞きながら
 吾子を思ひ恋人を  慕ふ心の執着は
 未だ晴れやらぬ苦しさに  高姫さまの立て給ふ
 ウラナイ教に身を寄せて  朝な夕なに海山の
 恩顧を受けて三五の  誠の道に入信し
 黄金の玉の行方をば  尋ね彷徨ひ高山彦の
 夫の後を尋ねつつ  火の国都に来て見れば
 高国別の神司  高山彦と名乗らせて
 住まはせ玉ひし尊さよ  神の恵の幸はひて
 茲に吾子と名乗りを上げ  玉治別に導かれ
 漸く海を乗り越えて  由良の港に来て見れば
 思ひも寄らぬ高姫さまが  高砂島より帰りまし
 互に無事を祝しつつ  思ひがけなき麻邇宝珠の
 珍の神業につかはれて  聖地に帰り来りたる
 この嬉しさは何時の世か  身魂の限り忘れまじ
 玉治別の宣伝使  御魂の曇りし黒姫が
 身を卑下すまずいつまでも  親子の睦びいや深く
 続かせ玉へ惟神  神の御前に平伏して
 真心尽して願ぎまつる  あゝ惟神々々
 御霊幸はへましませよ』  

 玉治別は黒姫の後に続いて歌ひ初めたり。

『思へば昔フサの国  高井ケ岳の山麓に
 その名も高き人子の司  高依彦や高依姫の
 夫婦が情に育まれ  十五の年の春までも
 吾子の如く労はりて  育て玉ひし有難さ
 時しもあれや真夜中頃  覆面頭巾の黒装束
 五人の姿は表戸を  蹴やぶり座敷へ侵入し
 有無を云はせず両親を  高手や小手に縛めて
 凱歌を奏して帰り往く  吾は子供の痩力
 山より高く海よりも  深き恵を蒙りし
 育ての親の危難をば  眺めて居たる苦しさに
 父の秘蔵の守り刀  取るより早く荒男が
 群に向つて斬り込めど  何条もつて耐るべき
 あなたも強者隼の  爪磨澄まし小雀を
 掴みし如く吾体  またもや高手に縛りつけ
 山奥さして親子三人あへなくも  連れ往かれたる悲しさよ
 吾は隙をば窺ひて  高井ケ岳の山寨を
 後に見捨てて逃げ出し  父母二人を救はむと
 心を千々に配る折  二人の義親は木の花の
 姫の命に助けられ  この世に無事に居ますぞと
 聞いたる時の嬉しさよ  高井の村に立ち帰り
 高依彦や母君に  出会ひて無事を祝しつつ
 しばらく此処に居る中に  二人の仲に生れませる
 玉をあざむく男の子  玉春別と命名し
 いよいよ茲に育ての親は  誠の御子を生みしより
 両親様の許し得て  真の父母を探らむと
 フサの国より月の国  漸く越えて自凝の
 島にいつしか漂ひつ  人の情に助けられ
 宇都山村の春助が  子無きを幸ひ養子となり
 土かい草切り稲麦を  作りてその日を暮らす中
 天の真浦や宗彦が  此処に現はれ来りまし
 不思議の縁の廻り合ひ  妹のお勝を吾妻に
 娶りて神の道に入り  玉治別と宣伝使
 清けき御名を授けられ  三五教を遠近に
 開き伝ふる折もあれ  三十五年の時津風
 吹き廻り来て村肝の  心筑紫の火の国で
 真の母に廻り遇ひ  天にも昇る心地して
 今日の生日を祝へども  まだ気にかかる垂乳根の
 父の命は今いづこ  遇はま欲しやと朝夕に
 祈る吾こそ悲しけれ  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましまして  一日も早く吾父に
 遇はせ玉へよ天津神  国治立大御神
 神素盞嗚大神の  御前に畏み願ぎまつる
 あゝ惟神々々  御霊幸倍ましませよ』

と、母に遇うた嬉しさと、父に遇はれぬ苦しさと悲喜交々混はりたる一種異様の声調にて歌ひ了り、悄然として項垂れ居たりける。

(大正一一・九・一九 旧七・二八 加藤明子録)



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