出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=33&HEN=3&SYOU=17&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語33-3-171922/09海洋万里申 感謝の涙王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=10434

第一七章 感謝の涙〔九三二〕

 高島丸はテルの国、ハラの港より西へ西へと進んで、現今の日本国台湾島へ帰つて来た。
 今日の航路より見れば全然反対の道をとり、かつ非常に迂回して居るのは、三十万年前の地球の傾斜の関係及潮流の関係によつたものである。蒸気の力を以て自由自在に航行する現代に比ぶれば、非常に不便なものであつた。しかしながらその速力は今日の二十浬以上を、風なき時と雖も、航行する事が出来たのである。その故は例へば二百人乗りの船ならば、船の両舷側に百本の艪櫂がついてゐて、二百人の乗客の中百人は、力限りに艪櫂を漕ぎ、稍疲労したる時は、また百人これに代り、交る交る艪櫂を漕いだものである。船頭はただ船の方向を定め、水先を調べ、舵をとるのみであつた。大きな船になると、二階造りになり、下からも、上からも船を漕ぐ仕掛になつて居た。恰度舷を見ると、蜈蚣の足のやうに見ゆる船の造り方であつた。それ故非常な速力で、少々の荒波位には少しも弱らなかつたのである。且また昔の人は総じて剛胆者が多く、臆病者は頭から乗船を許さなかつたのである。故に余り役に立たぬ老人や、子供の船客は皆無と云つても良い位であつた。特別の事情ある者でなければ、船に乗ることを互に戒めて許さなかつたものである。
 高姫一行は漸くにして、月日を重ね自転倒島の由良の港に安着した。秋山彦は錦の宮の玉照彦、玉照姫の命により、高姫一行が由良の港に帰り来ることを前知し、数多の里人を集め、埠頭に一行を迎ふべく、十曜の神旗を海風に翻しながら、今や遅しと待ちつつあつた。
 此処へ竹島丸は波を蹴つて、高姫一行を乗せて帰り来るのであつた。高姫一行は、台湾のキルの港より竹島丸に乗り替へたのである。高姫一行六人外に松彦、鶴公の二人を加へて八人は、秋山彦の迎への人数に送られて、勇ましげに秋山彦館に入り、息を休むる事となつた。その夜は何れも草臥果て、夕餉を喫したるまま、這ふが如くグタリとした体を、与へられた各自の寝間に運び、つぶれたやうに寝てしまつた。
 言依別命より監視役を命ぜられて、従いて来た松彦は、その夜は一睡もせず、秋山彦夫婦と共に、高姫の身の上に関する事、及び麻邇宝珠の御用の件に就て、ひそかに協議を凝らし、夜の明くる頃漸くにして寝に就いた。秋山彦夫婦もまた昨夜の疲労を慰すべく、太陽の高く昇る頃まで白河夜船の夢を貪ることとなつた。
 聖地よりは東助を初め、加米彦その他の面々が高姫一行を迎ふべく、由良川を下つて此処にやつて来たのである。秋山彦館は俄の客にて、下僕共は上を下へと大繁忙を極め、馳走の用意に差かかつて居る。
 秋山彦は高姫、鷹依姫、竜国別の三人を一間に招き、松彦が齎せる神素盞嗚大神及び言依別命の密書の件に就て、三人に対し、意見を聞くこととなつた。
秋山彦『高姫さま、その他のお二方、永らくの間、御遠方の所、御苦労でございました。大神様におかせられても、さぞ御満足の事でございませう。就いては麻邇の宝珠の件でございますが、竜宮島より迎へられた五個の中、その四つまで紛失致しました事は、実に神界経綸上大変な不都合でございます。これに就てあなた方に今一度お世話になつて、四つの玉を発見して頂かねばならないのでございますが、如何でせう、お世話になれるでせうか』
高姫『ハイ、私は金剛不壊の如意宝珠を初め、その他一切の玉に関し、最早何の執着もなくなりましたから、この事ばかりは、最早断念して居ります。この広い世の中、言依別命がどうかされたのでせうから、いくら捜しても駄目です。どうぞ玉の事だけはモウ言はないでおいて下さいませ』
秋山彦『如何なる神界の御用を致すのも、皆神様からの御命令、身魂相応の因縁がなくては出来ないのでございます。就いては、鷹依姫様、竜国別様、モウ一人の黒姫様、この四人の方が、麻邇宝珠の御用をして下さらねばならない因縁でございますが、生憎竜宮島より五色の麻邇宝珠が現はれ玉ふ時機到来して、惟神的に高姫様、黒姫様お二人を竜宮の一つ島へお導きになりましたなれど、あなた方はこの一つ島には最早玉はない、外を捜さうと云つて、お帰りになられました。それ故止むを得ず、神界の思召によつて、梅子姫様は紫の玉の御用、これは身魂の因縁で当然錦の宮へお持帰りにならねばならぬ御役でございました。それから青色の玉は高姫様、赤色の玉は黒姫様、白色の玉は鷹依姫様、黄金の玉は竜国別様が御用遊ばす、昔からの因縁にきまつて居つたのです。しかしながら、四人の方はいろいろと神界の時節を待たずお焦りになつて、何れも方角違ひの方へ往ていらツしやつたものですから、神界のお計らひにて、黄竜姫、蜈蚣姫、友彦、テールス姫の四柱がこの自転倒島まで臨時御用を遊ばしたのでございます。しかしながら身魂の因縁だけの御用を、今度は勤めねばならないのですから、神素盞嗚大神様、言依別命様のお計らひにて、紫の玉を除く外四つの玉は言依別命様が責任を負ひ、ある地点にお隠しになつてゐるのでございます。どうしても因縁だけの事を勤めねばならぬのであります。今度の御用を仕損つたら、モウこの先は末代取返しが出来ませぬから、そんな事があつては、あなた方にお気の毒だと、大慈大悲の大御心より神素盞嗚大神様が吾子の言依別命様に責任を負はせ、罪を着せ、あゝ云ふ具合にお取扱ひになつたのでございますよ。今此処にウヅの国より、松彦の司に事依さし神素盞嗚大神様を初め、言依別命、国依別命より神書が届きました。どうぞこれを御披き下されば、玉の所在もスツカリお分りでせう。どうぞ御苦労ですが、モウ一働き御用を願ひませう』
 高姫は初めて大神の大慈悲心と、言依別命及び国依別命の真心を悟り、感謝の涙に暮れてその場に泣き倒れた。鷹依姫、竜国別も声を放つて、その神恩の深きに号泣して居る。
 かかる所へ筑紫の島より黒姫の所在を尋ね、玉治別、秋彦の両人、黒姫を伴れて帰り来り、茲に四人の身魂は久しぶりに顔を見合す事となつた。
 秋山彦は黒姫に重ねて前述の次第を物語り、神書を開いて読み聞かせた。黒姫、玉治別等の筑紫島における活動の模様は後日に稿を改め、述ぶる事と致します。
 秋山彦は神文を押戴き、静かに開いて、四人の前に読み上げた。その神文、
『この度、国治立命、国武彦命と身を下し玉ひ、また豊国姫命は国大立命となり再び変じて神素盞嗚尊となり、国武彦命は聖地四尾山に隠れ、素盞嗚尊はウブスナ山の斎苑の館に隠れて、神政成就の錦の機を織りなす神界の大準備に着手すべき身魂の因縁である。それに付いて、稚姫君命の御霊の裔なる初稚姫は金剛不壊の如意宝珠を永遠に守護し、国直姫命の御霊の裔なる玉能姫は紫の玉の守護に当り、言依別命は黄金の玉を永遠に守護し、梅子姫命は紫色の麻邇の宝珠の御用に仕へ、高姫は青色の麻邇の宝玉、黒姫は赤色の麻邇の宝玉、鷹依姫は白色の麻邇の宝玉、竜国別は黄色の麻邇の宝玉を守護すべき身魂の因縁なれば、これより四人は麻邇の宝珠を取出し、綾の聖地に向ふべし。控への身魂は何程にてもありとは云へども、成るべくは因縁の身魂にこの御用を命じたく、万劫末代の神業なれば、高姫以下の改心の遅れたるため、神業の遅滞せし罪を言依別命に負はせて、高姫以下に万劫末代の麻邇の神業を命ずるものなり。……神素盞嗚尊』
と記してあつた。四人は感謝の涙にむせびながら、直ちに手を拍ち、神殿に感謝の祝詞を奏上した。秋山彦は黄金の鍵を持ち出でて、高姫に渡し、
秋山彦『いざ四人の方々、吾館の裏門よりひそかに由良の港に出で、沓島に渡り、麻邇宝珠の四個の玉を、各自命ぜられたる如く取出し、秘に聖地へ帰り、尊き神業に参加されたし。この事、聖地その他の神司、信徒の耳に入らば、却て四人の神徳信用に関係する事大なれば、一切秘密を守り、大神の御意志を奉戴し、今迄の罪を贖ひ、天晴れ麻邇宝珠の神司として聖地にあつて奉仕されむ事を希望致します。サア早く早く……』
と急き立てられ、四人は喜び勇んで、裏口より秘に脱け出で沓島に向つて進み行く。
 この事玉治別を初め、加米彦、テー、カー、常彦、その他の神司、聖地の紫姫、黄竜姫、蜈蚣姫、友彦、テールス姫その他の神司も信徒も永遠に知る者がなかつたのである。
 高姫外三人は素盞嗚尊の仁慈無限のお計らひにて、罪穢れを許され、身魂相応因縁の御用を完全に奉仕させられたのである。アヽ惟神霊幸倍坐世。

(大正一一・八・二九 旧七・七 松村真澄録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web