出口王仁三郎 文献検索
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| 原著名 | 出版年月 | 表題 | 作者 | その他 |
| 物語33-3-14 | 1922/09 | 海洋万里申 魂の洗濯 | 王仁三郎 | 参照文献検索 |
| キーワード: 物語 |
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あらすじ
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本文 文字数=12920
第一四章 魂の洗濯〔九二九〕
テーリスタンは坂を降りつつカールもどきに歌を唄ひ、足拍子を取りながら下つて行く。一行五人は腹を抱へ、笑ひながら、一歩々々趾の先に力を入れて、覚束なげに杖を力に下り行く。
『テル山峠の頂上は 今を去ること一昔
昔と云つても三十年だ 正鹿山津見神さまが
五月の姫と諸共に ウヅの館にましまして
教を開き民を撫で 三五教の御御を
アルゼンチンの空高く 照し玉ひしウヅ都
後に眺めて三人の 松竹梅の宣伝使
この頂上に登り詰め 名残を惜み蚊々虎の
神の化身と諸共に 歌ひ玉ひし旧跡地
高姫さまが言霊を ウヅの館に差向けて
法界悋気の物凄さ 側に聞いてるテーリスタン
実に情けなくなつた 雀百まで牡鳥を
忘れないとはよく言うた 高姫さまもこれからは
心が和らぎ来たならば 物の憐れも知るであろ
固いばかりが能でない オツトドツコイ危ないぞ
うつかりしてると石車 乗つて転けては堪らない
玉ぢや玉ぢやと喧ましく 騒いでゐたがこの道に
沢山転げた石玉を 持つて御帰り遊ばして
黒姫さまに見せたなら 喜び飛びつきしがみつき
固く喜びなさるだろ ウントコドツコイ ドツコイシヨ
高姫さまよどうなさる 石でもヤツパリ丸ければ
玉によう似て居りまする 国依別が釣り上げた
お前は魚を頂いて 怒つたことがあるさうな
ウントコドツコイ コレワイシヨ グヅグヅしてると転げるぞ
国依別や末子姫 二人のお方も今頃は
スツカリ転んでござるだろ 同じ転ぶにしたとこが
ここで転ぶはたまらない これから少し下つたら
末子の姫が石熊を お助けなさつた滝がある
皆さま寄つて行きませうか 高砂島を去るにつけ
汗をば流し垢を取り 身魂を浄めてスクスクと
大海原を打渡り いよいよ目出たく自凝の
神のまします真秀良場へ 帰ると思へば有難い
ドツコイシヨ、ドツコイシヨ 神が表に現はれて
善と悪とを立別ける 国依別の神さまは
善の酬いが廻り来て 珍の司とならしやつた
私は身魂が悪いので 高姫さまと同じよに
折角出て来たこの島で 一つの玉をもよう取らず
やみやみ帰るか情けない 何の因果でこのやうに
拍子の悪い身魂だろ あゝ惟神々々
御霊幸はひましませよ ウントコドツコイ ドツコイシヨ
皆さま気をつけ危ないぞ それまたそこに石ころだ
辷つて転んで泡吹いて 高姫さまの御厄介
ならないやうにしておくれ テーリスタンが心から
気をつけますぞや皆の人 人は神の子神の宮
とは云ふものの今の人 何れも神の仇となり
悪魔の宮となつてゐる 乾の滝に出で立ちて
心を清め身を浄め ついた曲津を放り出して
誠の神の御子となり 神の宮居となりませう
あゝ惟神々々 神の御前に願ぎまつる』
高姫一行はテル山峠を西へ西へと下りつつ、瀑布の音凄じく聞えたるテル山峠の中腹に下り着いた。これより高姫一行は乾の瀑布をさして、御禊を修すべく、音を尋ねて探り寄つた。相当に幅の広い高い瀑布である。此処はバラモン教の神司石熊が水垢離を取つてゐる際、大蛇に魅せられて九死一生の破目に陥りたる折、末子姫の一行に救はれた有名な瀑布である。近づき見れば大の男がただ一人、一心不乱に滝にかかつてゐる。
高姫は委細構はず、薄衣を脱ぎすて、滝壺目がけてザンブとばかり飛び込みしが、如何はしけむ、高姫の姿はそれ切り、何も見えなくなつてしまつた。竜国別、テー、カー、常彦の四人は慌ただしく、赤裸となつて、滝壺に探り探り這入つて、高姫の肉体のもしや水底に沈み居らざるかと、一生懸命に捜索し始めた。されどどうしても所在が分らぬ。何れも途方に暮れて、一時も早く高姫の肉体の浮き上ることを祈願するのであつた。
一人の男は悠々として水垢離を終り、タオルにて体を拭きながら、鷹依姫の前に来り、
男『随分暑いことでございますな。貴方も一つ滝におかかりになつては如何ですか。随分涼しい滝で、身魂の垢がスツカリと除れたやうな気分が致しますよ』
鷹依姫『ハイ有難うございます。しかしながらただ今私の同行者の一人なる高姫さまと云ふ方が、滝壺へ飛込み、そのままお姿がなくなつてしまひましたので……アレあの通り、四人の男が赤裸になり、水底を探つて居ります。どうでございませうか、この滝壺はそれほど深いのでございませうか』
男『別に大した深い滝壺ではございませぬが、私が最前滝にかかつて居ります際、高姫さまは衣類を脱ぎすて、神様にお願もせず、先頭一に飛び込みました。しかしながら生命に別状はありますまい。神様から御禊の行をさせられて居られるのでせう』
鷹依姫『それぢやと申して、モウ大分にタイムが経ちます。人間の肉体を以てさう永らく水中に生て居られる筈がございませぬ。どうしたら助かりませうかなア』
男『私は高島丸の船長をやつて居つた、タルチールと云ふ者でございますが、随分高姫と云ふ人は我慢の強い方ですから、この高砂島を離れるに際し、神様の修祓を受けて居るのでせう。マア御心配なされますな』
と平気な顔にて笑つてゐる。竜国別外三人は滝壺を隈なく捜し、どうしても高姫の姿の見えざるに絶望の声を放ちながら、二人の前に赤裸のまま、集まり来り、
竜国別『お母アさま、どうしても駄目ですワ。仮令肉体が現はれた所で、最早縡切れてしまつてゐるに違ひありませぬ。困つたことが出来ましたなあ』
と思案顔にうなだれる。
タルチール『あなたは三五教の宣伝使竜国別さまでございましたか』
竜国別『ヤア貴方は何処のお方か存じませぬが、余りあわてまして、此処にお居でになるのも気が着かず、失礼致しました。どうでせう、高姫さまはモウ駄目でせうかなあ』
タルチール『マア気を落つけなさい。何事も惟神に任すより仕方がありませぬ。高姫さまは随分我の強い人ですから、こんな事がなくては本当の身魂研きは出来ませぬからなア』
常彦『貴方は高島丸の船長タルチールさまではございませぬか。私は常彦と申す者、久し振りでお目にかかります』
竜国別『常彦さま、この方をどうして知つてゐるのだ』
常彦『高姫さまと春彦と吾々三人が高砂島へ小舟に乗つて出て来る途中、助けて下さつた御方です』
竜国別『珍らしい所でお目にかかりました。何かの御縁でございませう。さうしてまた貴方は斯様な所へお越しになつたのは、何か深い訳があるのではございませぬか』
タルチール『私は高島丸の船中において、言依別命、国依別様より三五教の教理を聞かして頂き、直ちに入信致しまして、船長を伜のテルチルに譲り、私は言依別命様、国依別様に従ひ、ハラの港へ上陸し、言依別様の命令によつて、テルの国の宣伝を言ひ付けられ、この乾の滝に時々身魂研きに参つて居りました。今日は端なくも三五教の宣伝使様にお出会ひ申し、実に愉快な気分に打たれました』
竜国別『それは不思議の御縁でございますなア、しかしながら高姫さまの身の上が案じられて、ゆつくり御話を承はる気も致しませぬ。今一度捜索をやつて見ますから、後でゆるゆる御話を承はりませう』
タルチール『決して御心配なさいますな。この滝壺には横穴があつて、そこから水が或る地点へ流出して居ります。大方その穴へ吸ひ込まれたのでせう。キツト今頃は無事でいらつしやいませう。貴方もお望みならば、滝壺の横穴を潜り、私と一緒に高姫さまの所へ行かうぢやありませぬか』
竜国別『合点の行かぬ事を仰せられます。うつかりして居ると、幽冥界へ往つてしまふのではありますまいかな』
タルチール『別状はございますまい』
と話して居る。傍の木の茂みより、高姫は赤裸のまま、二人の美はしい女に手を引かれ、一行の前に帰つて来た。
竜国別『ヤアこれは高姫さま、ようマア無事で帰つて来て下さいました。吾々四人は貴方のお姿が見えなくなつたので、滝壺へ飛び込み捜してゐた所でございます』
高姫『ハイ有難う、エライ心配をかけました。何とはなしに飛び込むや否や、真赤いけの者がやつて来て、私の足を銜へたと思つたら、ドンドンドンドンと矢の如く深い水の中を流され、パツと明くなつたと思へば、大変な広い底の浅い池へ流されました。その池の中に美しい岩島があり、その上に綺麗な小さい家が建つてゐました。その家の中からこのお二人の方が現はれて、私の手を取り救ひあげ、ここまで連れて来て下さつたのですよ。どうぞ御礼を申して下さいませ』
竜国別『これはどうも御二人様、偉い御世話になりました。竜国別、一同を代表して御礼を申上げます。貴方は何と云ふ御方でございますか、お差支なくば、どうぞお名をお名乗り下さいませ。私は三五教の宣伝使竜国別と申す者でございます』
女の一『貴方が噂に高き竜国別様でございましたか。黄金の玉の詮索に、はるばる高砂島まで、親子共にお越しになつたと云ふ事を、言依別命様より承はつて居りました。その玉はこの島にはございますまいがなア』
竜国別『何と詳しいことを御存じですな、さうして言依別様には何時御会ひになりましたか』
女の一『ハイ、琉球の近海でお目にかかり、高姫さまが後を追うて御いでになることやら、鷹依姫様がそれに先んじて玉詮議にお越しになつたことを一伍一什承はりました』
竜国別『さうして貴女のお名は何と申しますか』
女の一『ハイ、私は永らく比沼の真名井の宝座に仕へて居ました清子姫でございます。一人は私の妹で照子と申します。言依別の神様より、常世の国の宣伝を仰せ付けられましたので、一巡常世の国を渡り、神界の都合によつて、一ケ月ほど以前に此処に参り、身魂を清め、貴方方のここをお通り遊ばすことを知つて、お待受けして居りました。高姫様も結構な水くぐりの御修業が出来ましたから、最早これで大丈夫でございます。妾姉妹も一度この経路を踏んだのでございます』
竜国別『何と不思議な修業場もあるものですな。吾々のやうな身魂の汚れた者は到底無事に通過することは出来ますまい』
清子姫『これ位の水道が通過出来ないやうな事では、到底肝腎の御神業は勤まりませぬよ。皆さま如何です。一度御修行遊ばしましたら……』
竜国別『イヤもう結構でございます』
と気味悪さうに慄うて居る。
清子姫『ホヽヽヽヽ』
（大正一一・八・二八 旧七・六 松村真澄録）
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