出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語33-1-31922/09海洋万里申 言霊停止王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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場面:
ウヅの都
あらすじ
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本文    文字数=6154

第三章 言霊停止〔九一八〕

 言依別命はこの灰まぶれ騒動を一目見て、顔をしかめながら、
『モシ高姫さま、言依別でございます。コリヤまあどうなさいました。カールに春彦、お前さまも灰まぶれぢやないか』
カール『ハイ、さつぱり灰猫婆に灰を吹かれまして、イヤもうこの通り、ハイ北ハイ陣の為体でございます。ハイもうさつぱり、さハイが付きませぬワイ。どうぞ御ハイ慮下さいませぬやうに、ハイ願致します』
春彦『紅塵万丈……でなくて、薩張ハイ塵万丈な目にあひました。ハイ神楽の舞を一つ舞うて見ましたが、何分爺になる役がハイカラですものだから、薩張采ハイをふり損つて、灰猫婆アさまに咬みつかれました』
言依別『何だか知らぬが、大変な喧嘩をしたと見えますな。………高姫さま、コリヤ一体どうしてこんな事が突発したのですか、何か深い事情があるでせう。お差支なくばその理由を拝聴したいものですな』
高姫『あのマア言さまの白々しい事ワイの。甘く両人に言ひ含ませ、この婆アをこんな目にあはしておいて、ヘン、そんな計略は最早駄目ですよ。良い加減にお前も改心をなさいませ。ドハイカラ奴が……』
言依別『コレハ コレハ、思ひがけなき高姫様のお言葉……』
高姫『思ひがけないでせう、それだけ死際の悪い高姫とは、いかなお前でも思ひがけなかつたでせう、ホツホヽヽヽ。憎まれ子世に覇張る……とか申しましてな、折角国依別が甘くドハイカラの言さまに取込み、今晩は男蝶女蝶の花の盃酌かはす段取まで、やうやう漕ぎつけた所、諸行無常の世の中、月に叢雲、花に嵐の高姫婆風が、情なくも吹きすさみ、半開の莟を散らさうとする。その防禦網を……否網所か、妨害を根絶せむと甘く企んだお前達のお手際、実に見上げたものでございますワイ。オツホヽヽヽ。何程琉の玉や球の玉を手に入れたと云つて、琉球相にして居つても、肝腎の身魂が曇り切り、灰泥のやうになつて居つては、玉の効用はサツパリ玉無しですよ』
春彦『コラ灰猫婆ア! 貴様は比喩方のない悪垂婆アだ。改心をしたり、慢心をしたり、モウこれから先は何をするのだ。疑心暗鬼の張本人奴が』
高姫『改心慢心の後は感心だよ。お前達のどこまでも執念深い計略にはこの高姫も実に感心……否寒心せざるを得ませぬワイ。オツホヽヽヽ』
と云つた限り『ウーン』と反り返り、癲癇のやうに口から泡を吹き、手足をピリピリと震はせて、その場にふん伸びてしまつた。
春彦『余り逆理屈ばかりを云ふものだから、神様の神罰が当つて、この通りふん伸びてしまつたのだ。……なあカール、善と悪とを立別ける神は、この世に確に居られますねえ』
言依別『オイお前達、そんな事言つてゐる時ぢやない。早く灰を掃除して、顔を洗ひ、手を清め、高姫さまの御恢復を祈らなならないぢやないか』
春彦『言依別様、こんな婆アは懲戒のために、かうやつて冷たくなる所まで放つといてやつたらどうでせう。実に怪しからぬ奴ですから、また呼び生かしてやらうものなら、それこそ反対に団子理屈を捏ね、殺人未遂犯で告訴するの何のと、命助けて貰うた恩人に向つて、仇を返すのですから、幸ひ、自分が勝手に死んだのですから、こんな厄介者はモウ放つといたらどうでせうなア。カールに対しても、実に私としては助けてやつてくれとは申されませぬワイ』
カール『そんな御気遣ひは要りませぬ。サア早く御病気全快の御祈念を致しませう』
と門先を流れる小川に飛込み、身をきよめ、一生懸命に病気恢復の祈願をこめ始めた。
 言依別命は天の数歌を歌ひ上げ、反魂の神術を修して居る。春彦も止むを得ず、身を清め一生懸命に祈願をこめた。漸くにして高姫は息吹き返し、目をキヨロつかせながら、三人の姿をマンジリともせずに打眺めてゐる。
言依別『高姫様、お気がつきましたか、大変に心配を致しましたよ』
 高姫は耳は聞えるが、まだ言霊の応用を許されてゐなかつた。蚕の蛹か芋虫のやうに面をふくらし、プリンと体を振つて、背中を向けて、……甘い事を言うてくれな。そんな上手追従は喰ひませぬぞ……といふ意思を表示して居る。春彦はまたもや高姫の前にまはり、
春彦『高姫さま、御気分は如何ですかな』
と尋ぬれば、またもプリンと背中を向ける。カールもまた前に寄つて、
カール『高姫さま、良い加減に疑を晴らし、御機嫌を直されては如何ですか、余り執拗過ぎるぢやありませぬか』
と顔を覗けば、またもやプリンと背中を向ける。三人の挨拶を一人々々、弓張はぢきでもするやうに彼方へ向き此方へ向き、恰度、操り人形のやうに同じ所に尻を卸したまま、右に左に回転して居る。
 言依別命は言霊の使用を神様より止められて居る事を悟り、またもや天の数歌を歌つて、言語の自由に発し得るやうと祈願をこめた。されど何故か容易に言霊を発射することが出来なかつた。言依別はカールを従へ、目礼しながら、春彦に介抱を命じ置き館を指して帰り行く。

(大正一一・八・二六 旧七・四 松村真澄録)



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