出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語32-4-221922/08海洋万里未 橋架王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
ウヅの館
あらすじ
未入力
名称
国依別 松若彦
真浦 お勝 大国主命 国彦 紅井姫 言依別 五月姫 末子姫 神素盞嗚大神 捨子姫 高姫 鷹依姫 竜国別 沼河姫 正鹿山津見神 松鷹彦 八千矛の神
出雲の国 ウヅの国 貴族 小雲川 越の国 神霊研究会 総司 大日本修斎会 バラモン教 本守護神 幽界 黄泉比良坂
 
本文    文字数=14834

第二二章 橋架〔九一三〕

 国依別、高姫、鷹依姫、竜国別その他の宣伝使は各休息室を与へられ、夜は其処に眠り、筋骨を休ませて居た。翌朝早々国依別の一室に松若彦は訪ね来り、
『国依別様、御早うございます。就いてはあなたに折入つて御相談がございまして、早くから御邪魔を致しました』
と心ありげに笑を含んでゐる。国依別は、
『これはまた改まつた御言葉、私に対し、御相談とはどんな事でございますか。明智の言依別様が居らせられる以上は、どうぞ命様に御相談下さつたら、如何でせうかなア』
『実の所は夜前神素盞嗚大神様の御召しにより、言依別様及び私と三人三つ巴になつて、御相談あつた結果、私が特命全権公使に選まれて参りましたのでございます。万一この使が、不成功に終るやうな事があれば、この松若彦は海外旅行券を交附された手前、腹を切らねばならないのです』
『そりやマア大変な御使命と見えますが、どうぞ早くおつしやつて下さいませ。私の力の及ぶ事ならば、神様に捧げたこの体、如何なる御用も承はるでございませう』
『実は私の父国彦は、正鹿山津見神様が五月姫様と共に黄泉比良坂の戦ひに御出陣の砌、ウヅの国の人民は申すも更なり、この神館を御預け遊ばし、やがて時来らば、神素盞嗚大神様の瑞の御霊の貴の御子、この国に降り給ふことあるべし。それまで汝は我命を守つて、この国及び神館を預りくれよとの厳命でございました。父は幸か不幸か、最早幽界に参りましたが、後に残つた私が父の後を継ぎ、この館を守つて居ります所へ、正鹿山津見の神様の御仰せの如く、瑞の御霊の大神様の御娘子、末子姫様が御越し遊ばしたので、直ちに御館を姫様に御渡し申し、この国をも御渡しをして、私は御存じの通り総司として仕へて参りました。しかるにこの度、御父君神素盞嗚尊、突然天降り給ひ、大変に御悦び遊ばし、かつ末子姫も最早良い年頃であるから、適当な夫を持たせたいのだが……との御尋ね、招かれた吾々始め言依別命様は、言下に国依別様を御婿様になされましたらどうでせうと申上げし処、大神様は大変に御悦び遊ばされ、実はその事に就て、はるばるとここまで出て来たのだ。どうぞ神徳の強き国依別を末子姫の夫になつてくれるやう、その方は取り持てよ……との御命令取る物も取り敢ず、あなたにおいても御異存はございますまいと思ひまして……ヘヽヽヽ、一寸全権公使の役を拝命し、御伺ひに参つた次第でございます。どうぞ善は急げですから、早く善き御返事を御願ひ申します』
 国依別は案に相違の面持にて首を傾け、双手を組み、太き息をつきながら、ものをも言はず両眼より涙さへ滴らしつつ居る。
『モシ国依別さま、あなたは何それほど御思案なされますか、見れば涙を御垂らしになつてゐるやうですなア。どうしても御気に入らないのですか?』
『イエイエどうしてどうして気に入らぬ所か、余りの事で、勿体なくて、申上げる言葉もございませぬ。私は若い時より道楽の有丈を尽し、沢山の女殺し、御家倒し、家潰しをやつてきた罪の塊でございます。今日は三五教の宣伝使として、女と一切の関係を絶ち、生涯独身生活を続ける覚悟を致して居るのでございます。如何に大神様の思召しなればとて、私のやうな横着者の成れの果て、何程魂が研けたと申しても、白い布に墨が浸んだのと同様に、いくら洗つても元の白い生地にはなりませぬ。つまり霊魂上の疵者でございます。斯様な疵者が水晶身魂の生の処女なる末子姫様の夫になるなぞと云ふ事は、どうしても良心が咎めてなりませぬ。冥加のほどが恐ろしうなつて参りました。どうぞ右様の次第でございますから、悪しからず、大神様に私の素性を素破ぬいた上、よろしく御断り下さいませ』
『左様な御遠慮はチツとも要りませぬ。神素盞嗚大神様は、あなたがバラモン教の信者であつた事も、女泣かしの御家倒し、家潰しをなさつた事も、大の悪戯者で居らつしやつた事も、松鷹彦様のお宿を知らず識らずに訪ね、お勝殿といろいろのローマンスのあつた事、それから真浦様の弟なる事、一切万事御取調の上の事でございますから、決してそんな御遠慮は要りませぬ。言依別様も口を極めてあなたの美点をあげ、また悪い癖を一つも残らず、大神様に申上げられました。所が大神様は大変な御機嫌で……あゝ其奴は益々面白い男だ、気に入つた、どうぞ早く末子姫の夫にしたいものだ……との思召しでございましたよ……国依別様、あなたは言依別様から承れば、随分からかひの上手な御方ぢやさうですから、私がこんな事をいつて、あなたをからかつてゐると思はれるか知りませぬが、今日は真剣ですから、どうぞ真面目に聞いて下さい』
『から買ひも豆腐買も、厄介も喧嘩買も、法螺貝もドブ貝も心霊研究会も、大日本修斎会も、議会も日本海も皆目ありませぬワイ。正真正銘の偽りなきあなたの御言葉、国依別、実に光栄に存じます。しかしながら貴族と卑族との結婚は提灯に釣鐘、釣合はぬは不縁の元ですから、要らぬ苦労をさせずに、どうぞ体よく断つて下さい』
『エヽ国依別さま、真剣ですよ。また例の癖を出して、正直な私をじらしなさるのですか。あなたの本守護神はキツト契約済の実印を押捺してござるに間違ありませぬよ。また世の諺にも、恋に上下の隔てなしと云ふぢやありませぬか。隔のないのが所謂恋の神聖なる所以です』
『私は一旦婦人との関係を心の底より断念して居ますから、恋なんか心に起した事はありませぬ。鯉が滝上りをし、夕立に乗つて天上するやうな険呑な結婚問題は、どうぞ御頼みですから、早く撤廃して下さい』
『またしても鮒々と埒のあかぬ、あなたの御言葉、末子姫様があの飯鞘、尻目で、お前さまの後姿を睨んで、あの男を鰌なとして、私のオツトセイに持ちたいものだと、明けても暮れても、つばすを呑みこんで、あかえ年だから、鯉の炎をもやしてござるのだから、どうぞ色よいあぢのよい返事をして下さい。あなたも鱒々鯖けた人間だと云つて、鱶はまりしてゐられるのだ。それにお前さまが尾をふり、鰭をピンとはねるやうな事をなさつたら……あゝ私も折角の鯉が叶はねば、一層の事、ちぬ鯛、小鮒な浮世に生鰕したかて、サヨリがないからと云つて淵川へ身を投げてしまはれたら、お前さま何程魚々とうろついて悔んでもあとの祭り、大神様からは、是程事を分けて言ふのに、鯉のやうにはねつけるとは、ギギシイラぬ奴だと御立腹遊ばすかも知れませぬ。私はこれほど白魚もやさして、お前さまはそれでも気が済むの貝な。マア厭でも添うて見なさい。仕舞にやすすきになりますぞや、ヤマメで暮すより鮎らしい奥さまとガザミに手を引いて、山野を時々跋渉なさるのも乙ですよ。これほど私に八カマス鰯ておいて、だまつてゐるとは、余りぢやありませぬか。今日は大神様の思し召だから、瓢箪鯰では通りませぬぞや』
『エエハモ鰈ヤガラ腥い厄介坊主の自堕落上人でございますから、どうぞ今日限りそんな事を言つて下さるな。女のスキ身も刺身もモウ若い時から食ひあいて来ました。夜も昼もレコ貝に蛤だつたものだから、どうぞ、カマスにおいて下さい。この事に付ては、イカナゴとも飯蛸致す訳には参りませぬ。アハヽヽヽ』
 松若彦は国依別の背中を、後へまはつてポンと叩き、
『コレ国依別さま! またしても、あなたは、からかひ病が起りましたね』
『カラカギでも、鯰でもフンゾクラヒでもありませぬよ。小雲川で石の魚を釣つてフンゾクラヒだと云つて、高姫さまに贈つた事があります。随分固い魚でした。その通り私は今は鯉の欲が化石してしまひ、石地蔵のやうな冷酷な人間ですから、到底この縁談は温まりますまい。鯉と云ふ奴は水の中に常住してゐますから、随分体が冷えてゐますからね、アハヽヽヽ』
『コレ国依別さま、大国主の神さまの妻呼びの歌を知つてますだらう、男子たる者はさうなくては到底世に立つことは出来ますまい。情を知らずして、どうして宣伝使が完全に勤まりますか。八千矛の神さまを御覧なさい。はるばると出雲の国から越の国まで、腰弁当でお出でになつたぢやありませぬか。その時のお歌に、

 八千矛の 神の命は 八洲国 妻求ぎかねて
 遠々し 越の国に 賢し女を ありと聞かして
 麗し女を ありと聞こして さよばひに ありたたし
 結婚にあり通はせ 太刀が緒も 未だ解かずて
 襲ひをも 未だ解かねば 乙女の 鳴すや板戸を
 押そぶらひ 吾が立たせれば 引こずらひ 吾が立たせれば
 青山に 鵺は鳴き 野鳥 雉子は響む
 庭つ鳥 鶏は鳴く 慨たくも 鳴くなる鳥か
 この鳥も 打ち悩めこせね いしたふや 天はせづかひ
 ことの語り言も こをば

と歌はしやつて、越の国の沼河姫様の板の戸を、夜の夜中に押開け這入らうと遊ばす、沼河姫さまは這入られては大変と、男と女が押そぶらひ、引こづらひを永らく遊ばした末、遂に大国主命さまの熱心なる恋に感じ、沼河姫さまは戸の中から、

 八千矛の 神の命 軟え草の 女にしあれば
 吾が心 浦渚の鳥ぞ 今こそは 千鳥にあらめ
 のちわ 和鳥にあらむを いのちは な死せ給ひそ
 いしたふや 天はせづかひ
 ことの語り言も こをば
 青山に 日が隠らば 烏羽玉の 夜は出でなむ
 旭の 笑み栄え来て 栲綱の 白き腕
 沫雪の 弱かやる胸を そ叩き 叩き拱がり
 真玉手 玉手さしまき 股長に 寝はなさむを
 あやに 勿恋聞こし 八千矛の 神の命
 ことの語り言も こをば

と歌つて沼河姫がたうとう降参つてしまひ、実に神聖なローマンスが行はれたぢやありませぬか。それに何ぞや、お前さまは、八千矛の神一名大国主の神さまとは反対で沼河姫様よりズツと綺麗な賢女麗女にラバーされて、それを何とも思はず、すげなくもエツパツパを喰はす考へですか。本当に人の悪い唐変木だなア……オツトドツコイ、余り一心になつて、ツイ言霊が濁りました。どうぞ早く、

 綾垣の ふはやが下に 虫衾 柔やが下に
 栲衾 亮ぐが下に 沫雪の 弱かやる胸を
 栲綱の 白き腕 そ叩き 叩き拱がり
 真玉手 玉手差纏き 股長に 寝をし宿せ
 豊御酒 献らせ

と云ふやうに御返事をして下さい。外の方の御使と違ひ、大神様の思召だから、こればかりは邪が非でも聞いて貰はなくちや、松若彦の男が立ちませぬ』
『大神様を始め末子姫様において、御異存なければ御世話になりませう。その代りに古疵だらけの国依別ですから、何時持病が再発して、御姫様に眉気を逆立てさしたり、牙をむかせたり、死ぬの走るの、ひまをくれのと乱痴気騒ぎをさすかも知れませぬから、それが御承知なら、よろしく御取持願ひます』
『アハヽヽヽ、面白い面白い、私もそれがズンと気に入つた……国依別さま、いよいよ御結婚が整へば、あなたはウヅの国の司、私は御家来でございますから、どうぞ末永くお召使ひ下さいませ。今迄の御無礼な申しやう、只今限り御忘れのほどを願ひます』
『サア忽ちさうなるから、窮屈でたまらぬ。それだから独身生活がしたいのだよ。あんたはん(阿弥陀はん)、ぶつたはん(仏陀はん)、大将さんと皆の連中にピヨコピヨコ頭を下げられ、敬遠主義を取られるやうになつてしまつちや、根つから世の中が無味乾燥で、面白くも何ともなくなつてしまふ。あゝ折角自由の世界へ解放されたと思つたら、またもや窮屈な、お慈悲の獄屋に繋がれねばならぬのかいなア。エヽこんな事なら紅井姫でも伴らつて来て、自分の女房のやうに見せて居つたら、こんな問題は起らなかつただらうに、エヽ有難迷惑とはこの事だ。女が男にお膳を末子姫と来てゐるのだから、さう無下に無愛想に捨子姫する訳にも行こまい、アハヽヽヽ』
『なるべく、お気楽なやうに持ちかけますから、どうぞ取越苦労をなさらずに、決心をして下さいませ』
『ハイ、是非に及びませぬ。大神の御言葉、あなたの御取持、謹んで御受け致します』
とキツパリ答ふれば、松若彦はニコニコしながら軽く一礼し、急ぎ奥殿指して進み入る。

(大正一一・八・二四 旧七・二 松村真澄録)



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